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第175話:航空技術者は親友の言葉を受けて蘇らせる(後編)

長いので改稿にあたり分けました。

 重量280g

 全長230mm


 これが俺が設計したリフレックスサプレッサーである。

 現時点でも20年は先に進んだ代物。


 全体構造はプレス式スチールであり、バッフルは5つ。

 E4Aなどとは異なり5段目のバッフル自体が銃口先端部分にもなっており、サプレッサー自体の先端を内側から覆う蓋ともなっている。


 バッフルは1段目と5段目のみ溶接。

 それ以外に密着するがごとく隣接するバッフルは内壁に接着及び接合してある。


 サプレッサー本体はE4Aの二重構造に類似しているが、ビス止めでもネジ止めでもなくこちらも溶接。


 内側の内壁を兼ねるバレルをも覆った部位と、外側の内壁とサプレッサーそのものを成すカバーともいうべき構造体は別体である。


 なお、外側の内壁とサプレッサーそのものを成すカバー側にバッフルは溶接あるいは接合あるいは接着してある構造だ。


 まあ……とても一般的な、よくあるリフレックスサプレッサーである。

 鉄板の厚さは負荷を受け止めるために一部厚い部分もあるが、サプレッサー本体部分は概ね1mm程度かそれ未満。


 E4Aが2.5mm~部位によっては3mmもあって、一部は二重構造としていたのとは対照的。

 圧力を逃がすことが出来るだけでこうも薄くできるのだ。


 いかに圧力というものが凄まじい数値の構造強度を要求してくるかがわかる。


 正直、地面に落としたら変形などして即交換が必要なぐらいの強度しか無い。


 そんなものは想定してないし、サプレッサーは鈍器じゃないので関係ない。

 未来におけるユーグもそこは割り切っているし、俺もそうする。


 もちろんこれは未来の流体力学をフル動員したものであり、全長は当初からサプレッサー装着を意識したものなので変化無し。


 サプレッサーの大半がバレルを内包するため、サプレッサーによる銃の全長の変化は50mm程度。

 取り回しを大きく悪化させる事は無い。


 E4Aが15cm以上も全長を伸ばしていたのと比較すると別次元といって差し支えない。


 強いていうなら、もし仮に一般的なマズルブレーキを装備していた場合との全長比較では45mmの差となる。


 重心位置が重要なJARにおいて全長を伸ばすなんて出来ない。

 ゆえにトカチョフと共に開発したJARの時点で、このサプレッサー自体の開発まで漕ぎつけていた。


 ちょっと基礎理論を見れば、流体力学と相応の熱力学に精通する人間ならば造作もない事。


 JAR開発時点でリフレックスサプレッサーはすでに30年以上前の枯れた技術ですらあったからな……


 よって通常装備においては、このリフレックスサプレッサーか、反動を大きく軽減させるフラッシュハイダー機能もあるマズルブレーキを装備する。


 ……といっても、反射式減圧室の反射によって生じる慣性運動によってサプレッサーでも相当に反動は軽減できたりするんだがな……


 リフレックスサプレッサーの最大の恐ろしさは、反射によってその反動を大きく軽減できる所にある。


 気流の動きを見てもらうとわかりやすいが、反動軽減機構に類似した慣性力を生じさせるためだ。

 通常のサプレッサーでも相応の反動軽減は可能だが、ガス圧の中でも尋常でない圧力のものを反射させるため、その運動エネルギーをより効率的に回収できるためである。


 数ある方式の中でもことさらユーグがリフレックス方式を特に気に入ってる理由は、単純なサプレッサーと比較して優れた反動軽減が期待できるためだ。


 それでいてサプレッサー装着によって一般的に生じるとされる銃身内圧の上昇は最低限とできる。

 というか、基本的には最低限というか装着しない状態と同等とするように設計するのが基本であるし、それが可能な性能すらある。


 まさに本機関小銃に最も向いた構造と言える。


 もちろん、俺が設計したサプレッサーの減圧室の構造も適切化されており、通常時と比較して銃身内圧をフラッシュハイダー機能付きのマズルブレーキと同等に設定してあるため射撃時における変化は無い。


 そちらもマズルブレーキ側を調整して完全に同等となるよう設計してある。


 計算上ではこれで2500J状態の.300サベージ弾ならば90db未満となり、目標は達成できる。

 仮に通常装薬状態でも100db未満程度。

 70mほどの距離があれば相応の効果を発揮する。


 将校らへ向けてはまだ説明してないが……本機関小銃は通常装薬での射撃も可能にしてあるのだ。


「――問題は今の皇国でそれを作れるかです。現在の皇国の工作精度だと、消音器にとって最も危険なバッフルストライクと呼ばれる、バッフルに弾丸が命中して消音器が破裂や破損などを起こしたりするような出来になるかもしれません」

「うむ……我々は消音機器においてはその効力に懐疑的で、これまで本腰を入れた本格的な開発には着手していなかったからな……」


 まさに西条の言う通り。


 消音器の存在は早い段階で認知していた皇国陸軍だが、これまで想定してきた戦場は開けた場所ばかりでその効果に懐疑的だったのだ。


 ここは完全に我が軍における大戦時の重大な見落としである。


 一応、暗殺用途としてのサプレッサーには積極的で、本来の未来ではモ式拳銃用や1911A1用、そして十四年式拳銃用の消音器は独自に開発して採用していた。


 一連の装備の製造元は、南武大型自動拳銃などで有名な中央工業。


 現在もモ式のライセンス生産などを行っている会社で、陸軍が企画した事により万年筆型やシャープペンシル型の消音器付小型暗殺拳銃も別途開発していたりはした。


 これらは屋内を想定した装備であって、屋外の実戦については目を向けていなかったのである。


 だが、今回はそういうわけにはいかない。

 必ず消音器は装備させる。


 それだけの力がサプレッサーにはある。


「――なので、反射式消音器の技術開放を対価に、本家本元であるNUPのメーカーに製造を依頼しようと考えております。異論はございませんか?」

「拳銃用のものを中央工業が作っているではないか。中央工業では駄目なのか?」

「評価試験の結果が芳しくありません。一般的に小銃弾と拳銃弾では弾丸が生じさせるガスの圧力は段違いです。拳銃弾でも相応の性能を発揮出来ないともなると……」

「そういえばそうだったな……」


 立ち上がって中央工業の名を出したある将校は、どうやら評価試験の件についても相応に認知していたのか、思い出したように肩を落として着席しながらうなだれた。


 中央工業は拳銃開発には秀でていたが、残念ながら消音拳銃の開発に消極的だったりサプレッサー関係にまで積極的ではなかったのだ。


 ここに作らせても、求めた結果は得られないであろう。


「技官、他に国内にどこかアテなどないのか? 君の方が国内企業の得意とする技術分野には詳しいだろう。何か応用できるはずだ」

「無くは無いかもしれませんが……」


 アテがあるかないかといえば……なくは無い。


 本来の未来においては今頃皇国航空の航空機関士を目指している人間……彼なら可能性はある。

 恐らく、確認はしていないものの俺の予想では現在の彼は海軍から陸軍に鞍替えしてヘリコプターパイロットを目指しているか、海軍側でヘリコプターパイロットを目指しているかどちらか。


 飛行士になれなくて航空機関士を目指していただけに、機会が与えられたら間違いなく挑戦するはず。


 その者は飛行士を目指してはいたが……一方でエンジニアとしても極めて優秀だった。


 本来の未来においては世界に先駆けて"二輪用の高性能な集合排気管"を生み出したエンジニアなのだが……彼なら……


 いや、駄目だな。


 彼はサイレンサー関係における技術力まで保有していたかどうかについては不明だ。

 エキパイを中心とした排気管構造などに精通していた人物。


 どちらかといえば未来に目を向ければ恐ろしい事をやっているのは宗一郎の所のもう1つの技研など。


 ただ、現時点ではそれをなし得る技術者はこの世に生まれてきていない。


 そもそも一連の人物は兵器そのものに関与しようと積極的なタイプじゃないから誘いにくい。

 国内でそれが出来るならばいいのだが……


 ……思い出した!


 そういえば、現在の技術を相応に応用して本来の未来で排気管を試作して陸軍に提供していたメーカーがあったじゃないか。


 またあそこかと言われるかもしれないが……後にグループ企業の中に二輪用とはいえマフラーだけでなくサイレンサーも自作している所がある。


 そこに関係するエンジニアはすでに戦中で軍需系で相応に活動をしていたはず。


 "ラッパなどの金管楽器と作り方は同じ"――といって、排気管を作ろうとしていたメーカーが浜松にあるじゃないか。


「強いて述べるならば、"皇国楽器"でしょうか。消音器の構造と製造方法は金管楽器と類似しています。彼らはレシプロ式の発動機の排気管製造を行いたいと軍に試供品も提供などしてきておりましたが……流体力学を相応に理解しつつ、音に関連する製品を現時点でも製造していて、かつ消音器にも通ずる金属製品を加工製造できる企業といったら、国内だとそこぐらいしか……」

「また皇国楽器か!」


 ある将校のツッコミに、場内にも笑いが漏れる。

 わずか数年前まで、こういった重要会議の場ではほぼ間違いなく名前の出なかった企業であるし、そもそも社名が社名であるので仕方ないといえばそうではあるのだが……


「最近は新聞社でも取り上げられるようになったりはしたがねえ。楽器メーカーが最新鋭航空機製造に関与するという話は注目に値するから。それでも特異な立ち位置にいるなとは思う……そういえば、君が見出した所でもあったのを今思い出したよ」


 稲垣大将の言葉になにか反応を示そうと思ったが、とりあえず「いえ……」と一言だけ述べておいた。


 下手になにか言おうものなら、さらに周囲がわいてまとまらなくなると思ったからだ。


「ともかく、二輪や回転翼機よりは、よほど理にかなった話ではないですか?」

「確かにそうではある……」


 俺の一言に、周囲は再び冷静になる。

 少なくても一社は可能性があるということで、ある程度納得してもらえた様子だ。


「必要なのは現物だ。幻想にすがって不良品を生み出し、消音器自体の有効性が十分に証明出来ないようでは困る」

「西条君のいう通りだ。敵方の新小銃の存在からいって、手段を選んではいられるような状況じゃないのではないか?」

「ええ。ですので、挑戦はしてもらいますが併行しての開発を行います。中央工業と皇国楽器にはそれぞれ国産品の試験品を提供の上、性能がNUPのものと並ぶのならば国産を中心に考えますが……皇国楽器の生産能力は高いとは言えないので仮に本格製造に着手したとなってもNUPでの生産は必要と考えております。量産体制を敷けるかどうかも未知数ですから」

「あっちの国でも、評価試験用の試供品ぐらい作ってもらって害は無いだろう。そもそも、NUPはまだその有効性をハッキリと認知していない。我々が先行したとて大きな影響を及ぼすまでに時間はかかるだろうさ」

「……では異論はなさそうだな?」


 西条の言葉に対し、表情自体は曇っていた者も少数ほどいたが、誰一人として異論を申す人間はいなかった。


 恐らく彼らの中では消音器の戦術的優位性への懐疑心と最新鋭技術をあっさりと明け渡してしまうという不安の双方が渦巻いていて即座に否定出来なかったのであろう。


 他方で、国産という道も残されたのだから、完全否定できるものでもない。


 これがすべて国外生産に頼るというなら異論の1つや2つは出ただろうが……


 確かに俺だってNUPにそれを渡すのはどうかとは思わなくもない。

 同じくそういうものが作れるユーグ諸国でいいのではないかと思う。


 だが、ユーグ諸国で作ろうものなら、ひとたび第三帝国に占領されれば第三帝国にその技術が渡ってしまう。


 それが一番危険なんだ。

 NUPよりも一番やってはいけないことだ。


 本来の未来においてリフレックスサプレッサーの改良はシュビーツなどを中心にして行われたが、ここだっていつまでもその立場を堅持していられるかは怪しい。


 絶対に占領されない保証があるなら真っ先に頼りたい国及び企業があるのだが……そうじゃない。


 ゆえに、生産力も鑑みてNUPを頼るしかない。

 他に頼れる国は王立国家ぐらいしかない。


 その王立国家にも技術は渡すつもりはあるが、生産力では大きく劣る。

 ……度重なる空爆で工業力が大きく落ちているから……


「さて、消音器についての話が終わりましたので……次は付属装備についてもご説明しようかと」

「む? まだあるのか? 銃自体の説明は終わったように見受けられたのだが……」


 稲垣大将はもう十分とばかりに反応を示すが、これで終わりではない。

 まだ本銃には隠し玉があるのだ。


「本銃には多くの付属装備を予定しています。その中には攻撃武装もございます」

「攻撃武装?」


 聞き慣れない言葉に戸惑う将校が続出する。

 一応は我が国にも類似した武装はあるのだが……これは弾丸の一種として認知されているから付属装備とは違うしな。


 彼らの想像の範疇に無い武装であって間違いない。


「はい……こちらをご覧ください」

「な、なんだ!?」

「なんなのだ、この筒は? まさか! 擲弾器か!?」


 黒板に張り出したブループリントに西条を除いた他の将校らは釘付けとなった。

 その概略図面には、ハンドガードの真下に大きな筒状の機構が描かれている。


「ある程度の方はご想像できているかとは思いますが……これは擲弾発射器です。新型サプレッサーの仕組みを応用し、八九式重擲弾筒の八九式弾筒をベースに大幅な改良を施した榴弾を投射する発射機を付属装備として採用します」


 会議の場においては一度も"ライフルグレネード"についての話が出なかったが、皇国陸軍は現在、擲弾器と称されるライフルグレネードには積極的な姿勢を示している。


 これには"とある事情"が相応に絡んでいるが、陸軍が歩兵戦争において相当に研究を積み重ねている証左であり、現在においてもすでに誕生している百式擲弾器などとは同じ系列の武装。 


 ゆえに「そういう装備は無いのか」――などといった話が出てもおかしくはないのだが……


 恐らく、技研がそこまで考えてはいないのだろうとでも思われていたに違いない。


 最初からそこまで視野に入れて開発していた事に改めて驚かされた様子が、こちらから見た場内の雰囲気から見て取れる。


 そしてそれだけじゃない。


 ハンドガード真下に取り付けられた発射機の大きさが半端なものでは無かった事も、彼らが目をまん丸くして注目するに値する理由となっていた。


「馬鹿な! こんな口径の大きいものでは反動が強すぎて発射など……」

「出来ます。それを今からご説明します」

「面白い。実に面白い」


 将来に目を向ければ、それは絶対に必要なことだった。

 だから、こいつも譲れない装備……


 一部の将校はニヤリとしているあたり、事情を相応に把握していた様子だ。


 そう。

 こいつは、敵となった国が最後に送ってきた塩……いや、金の卵だ。

 それを最大限利用している。


 多くの将校が驚愕し、一部では期待の眼差しを向けられる中、間髪を容れずに俺は説明をはじめる――

参考サプレッサー

リフレックス式では著名なBR tuoteシリーズ


7.62mmのAKでの試射動画

https://www.youtube.com/watch?v=SyaoANb6WnI

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― 新着の感想 ―
[良い点] ざっくり計算してみたのですが、AKの命中精度は(ものによりますが)セミオートで、だいたい2.5~8MOA。 AEK-971の段階で、AKの2.5倍の命中精度だから、1~3.2MOA。 JA…
[良い点] 重量280gで、全長230mm。銃身先端は5センチ長くなるだけなのに、信濃さんのリフレックスサプレッサーって音も小さくなるし 反動も少なくなるなんて凄いですね。 40年くらい前のサイレンサ…
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