第175話:航空技術者は親友の言葉を受けて蘇らせる(前編)
参謀本部から戻ってきた俺は再び資料に目を通す。
だが解決方法はそう多くない。
結局は重量を無視すればいいだけだ。
4.5kgとかになってもいいなら話は簡単だ。
バラストをしこたま仕込んで付け替えて使えばいいだけ。
でもそれは理想のバトルライフルなどでは決して無い。
重心位置については本当にいいところまで来ているんだ。
ちょっとやそっとでは命中率に影響しないよう、反動はまっすぐ一直線に銃自体が後退するようにやってくるよう設計できている。
ようはこれがフロントヘビー、リアヘビーとなると駄目なのだ。
リアヘビーは特に反動そのものの方向性が変わってしまい、トップヘビーは使用中の照準に苦労して疲労が蓄積しやすくなる。
どちらかといえばフロントヘビーのがまだマシ。
多少の重量増大では問題ない程度に全体設計は整えられてはいた。
だがそれでも想定範囲は200g程度。
サプレッサーは約300g。
通常使用時でこれほど重量感が変わると別の銃だ。
それじゃ駄目なんだ。
あれこれ悩んでいると時間だけが過ぎていく。
いつの間にか設計室には夕日が差し込んでおり、カラスの鳴き声が聞こえてくるようになっていた。
疲れ果てた俺は改めて机の上に広げられた資料を手にとって眺める。
そしてある一言がふと目に入ってきた。
――調和しろ――
ヤクチア語でそう書かれたメモは、やり直す前に最後にトカチョフがこちらに向けて発したアドバイスだった。
何を意味するかがわからない。
カラシニコフの手紙においても「トカチョフは全てを調和しろと言っている。そこに答えがあるはずだ」――と、綴られていた。
調和とは一体……
一体何を調和するというんだ。
現状でも物理学の面では大気と十分調和していないか。
これ以上、調和するものがあるのか。
教えてくれトカチョフ。
俺は一体どうすればいい?
30口径もある2500Jものエネルギーを保有する小銃弾を毎分900発でもって連射する武器の、最後の仕上げとしてどうしてもサプレッサーの脱着が必要なんだ。
ただ付けられるだけでは駄目なんだよ――
◇
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「タダキヨ、苦労しているな」
「トカチョフ? ……ここは一体……」
気づくと真っ白な広い空間の中に自分がいる。
そして目の前にはゆったりと椅子に腰掛けてくつろぐトカチョフの姿があった。
「あの世か……あるいは夢の中か。どちらでもいい。苦労しているみたいだなタダキヨ」
「JARはやはりバトルライフルとして正しくないんじゃないのか。また難題にぶつかってしまった。サプレッサー問題が片付けられない。あれをどうにかしないと10年以内に陳腐化してしまう」
「確かに、今のままならそうかもしれない」
「答えに辿り着けない。やはりショートストロークダイレクト・インピンジメントが正解なのか……ロングストロークではどうしようもないのか……」
「私はそうは思わない。タダキヨ、ブルパップを覚えているか? 一時期は未来の銃の形として試行錯誤された存在だ。私はあれには十分な可能性があると考えている」
ブルパップ……
通常単なるデッドスペースおよびデッドウェイトと化している銃床にレシーバー構造を仕込み、銃全体の全長を短くしつつコンパクト化しようと検討されたものだ。
王立国家などが熱心だった割には主流には至っておらず、むしろ今後はさらに正式小銃として採用例が減っていく見込みすらあった構造。
見た目はスッキリしていて無駄がないようだが、これも結局は重心問題などに悩まされた。
「貴方は知らないかもしれないが、おそらく駄目だと思う。記憶を辿る限りは……」
「違うなタダキヨ。その認識は間違っている。ブルパップが主流足りえなかったのは、ただ単に圧倒的性能を誇る名銃が誕生しなかっただけ。やりようはあったはずで、21世紀に至っても完全に消滅しないのは可能性が残されているからに他ならない」
「……各国は、まだ名銃として語り継がれる可能性がある存在の誕生を少なからず予見しているから、世界からブルパップが消滅しないと?」
「そうだ。メリットがあり、工業製品として完成して相応に結果を残せた以上、可能性がある。そういう意味では表に出てくることが出来なかった反動軽減機構についても、祖国は最後まで排除しなかったという点では……可能性がある」
「そのための最後の一手を知りたい」
「……それは私よりも君のほうが得意なはずだ。君はよく言うじゃないか。ある性能を達するために他の何かを削る。時には大胆な方法でもって目標を達成する。よりシンプルで単純な構造、機構、仕様へ……割り切って割り切って割り切るのだと、熱弁していたじゃないか」
「確かにそうだが……」
「だから調和するんだ。調和しろタダキヨ。すべてを割り切って、すべてを調和させるんだ。そして皇国民に授けてやれ。いいか、忘れるな……JARのJには君の祖国の頭文字であると同時に……Juncture……転換点という意味もある。常識を転換させろ。認識を改めさせろ。西側に妥協を許すな。圧倒的性能でもって抑止力とするんだ。その銃は東側であると同時に西側の銃でもある。ジャンクチャーを忘れるな――」
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「ジャンクチャー……」
すっかり忘れていた。
JARの意味を。
ジャンクチャー・オートマチック・ライフル。
ロングストロークピストン形式において転換点となると同時に、西と東の技術が接合された自動小銃であることを意味する。
バトルライフルとしなかったのは、バトルライフルというジャンルが曖昧だったのと同時に、トカチョフはこれがM14などと同列のものとは思いたくなかったからだ。
だからJABRではないのだ。
しかし妙な夢を見た。
流体力学という形で物理学を専攻する人間が、よもやあの世との交信などと……
いや、それは自己否定か。
記憶だけかもしれないとはいえ、あっちの世界から情報を持ってきているわけだし。
……割り切る……か。
いつも自分に言い聞かせておきながら、なかなか実践できないのは……やはり門外漢な分野だからだろうか。
……割り切る。
……割り切る?
……………何を割り切る?
………何を残して、何を捨てる?
脳を休ませた影響なのか、次第に思考が研ぎ澄まされて冷静になっていく。
ふと気づく。
サプレッサーによる重量増大に関しては、俺が考えたサプレッサー構造だと280g。
現在の銃の重量は3.85kg
つまりこれを足すと4.1kg少々。
ここから何かを削ればまだ3kg台に戻すことは不可能ではない。
「そうか……そういう事か!」
自分の愚かさにようやく気づかされる。
馬鹿だ俺は。
なぜ通常の状態の銃身を中心にして物を考えているんだ?
逆転の発想だろ、こういうのは。
割り切ればいいんだよ。
こいつに搭載するマズルフラッシュ側を全く同じ重量及び重心点にしてしまえばいい!
どっちも280gでいいじゃないか。
その上で他で重量軽減措置を講じればいいんだ!
大型のマズルフラッシュにするなら、より反動を軽減できる機構を設けられるじゃないか。
銃全体の大型化を嫌ってそういうのを避けようと努力するなんて意味がない事だ。
本当に必要なモノを搭載するために犠牲にするのはマズルフラッシュ側だ!
そうか……そういうことかトカチョフ。
調和させるっていう意味!
合わせればいいんだろう。
必要な拡張部品に合わせて、本来だったら不必要な重量増大をさせる必要性の無い部品を同じ重量にまで!
その分は他で削ればいいんだ!
削れる部分ならある。
まずマガジン。
こいつはプレスされたスチール構造の箱型弾倉だ。
耐久性と生産性を考慮して俺はこれをスチール構造としていた。
これをやめる。
ベークライトに変更するんだ。
ベークライト樹脂は吸水性がある。
これによって吸水すると膨張するため、生産性やコスト、そして弾倉として必要な耐熱性などは保有する一方で採用しにくかった。
膨張しすぎるとタイトなサイズで製造されていた場合はリロード時に引っかかって上手くハマり込めなかったりするためだ。
だがこいつを例えば耐水性のあるエポキシ樹脂塗料でコーティングしてしまい、耐久性を底上げしながら吸水性の弱点を緩和してしまえばいいんだ。
単純なベークライト弾倉より若干コストは上がるが、微々たるもんだ。
どちらかと言えば耐久性が低くて状況次第で使い捨てになるのが嫌で不採用としようとしていたが……
こういうのこそ割り切るべきだろ。
欲しい性能を達成するのに、今更何を言っている。
そんな余裕なんて無い。
戦場で落として破損したら捨てればいい。
基本はタクティカルリロードを徹底して回収。
運用方針を改めればいいだけだ。
いちいち乱雑に扱うことも想定していられるか。
もうそんな余裕なんて無いんだ!
だから捨てる。
弾丸を押し出して給弾を支えるバネ側に重りを仕込み、重心点の変化を生じさせないようにする方式はこれまで通り踏襲する。
それでいい。
スチールからベークライトにしたって内部構造が大きく変わるわけじゃない。
軽量化ならM16などで採用されたアルミ合金製という方法もあるが、製造コストや現在の皇国の工作精度の低さからとてもじゃないが採用できない。
アレはプレスしたアルミ合金を焼き入れしたものだが、複雑な構造を均一に焼き入れすることが出来る技術力があるなら苦労しない。
さらに落としたら破損するリスクはベークライトとそう変わない。
ならばAKMと同じくベークライトを使えばいい。
これだけで100g軽量化できる。
だがこれじゃまだ足りない。
これじゃ4kgを切っただけだ。
まだどこかを削る必要性がある。
どこを削る。
標準仕様で邪魔な何かを削りたい。
アイアンサイトを軽量化する?
いや、ここは割と重要だから軽量化しない。
一応重心点変化の影響で当初はサプレッサー装着を考慮して重さの比重を大きく保とうとしていたフロントサイトは大幅に軽量化するが、リアサイトはそのままにしてバランスを保つ必要性はあるが……それ以上の事は出来ない。
……スコープだ。
スコープを軽量化してやる。
現在の標準的なスコープは削り出しあるいはプレスされたスチール板にレンズを取り付けたもの。
こいつが意外と重い。
これをアルミ合金製にし、さらにようやく実用化されたばかりの梨地黒アルマイト処理でもって処理した専用品とする。
後の未来での光学用途製品では一般的になる表面にサンドブラスト処理を施した梨地の黒アルマイト処理については、国内メーカーがアルマイト染色の特許を出願した11年前から約5年が経過した6年前の2595年にはすでに実用化しており、数は多くないものの製品としてこの世に出てきている。
そもそもアルマイト処理は王立国家と並んで皇国が先行していた技術だが、こいつを併用することでより反射せずに敵から視認性を落としたスコープを製造する事はすでに可能となっていた。
本来の未来では昨年の段階で一式や二式単座戦闘機の光学照準器として試供品が提供されたほどだ。
この着色については本当は我が国が後の未来において発明する二次電解着色の方がより塗装の安定度が増して長年に渡り着色状態を維持できるのだが……
残念ながらそれを達成するための機器が無い上に20年後の技術だ。
さすがに無理を押し通して採用は出来ない。
残念ながら関係する工作機器の詳細についても知らない。
それでも、一式向けとして提供された光学照準器は従来品と比較して3割の軽量化を達成していた。
こいつを採用しない手は無い。
俺の記憶が間違っていなければ百式戦闘機や襲撃機においても光学照準器の採用予定がないにも関わらずメーカーが試供品を提供してきていたはずだ。
2595年には実用化できているんだから作れないわけがないし、特段何らかのアクションも起こしてはいないが開発や製造が止まるような行動もしていない。
ゆえに特に問題もなく採用できるだろう。
……通常のスコープより3割増しのコスト増加となるが、背に腹は代えられない。
俺はこれまで、陸軍用の汎用品を流用できることがコストなども考慮して正しい事だと考えていた。
いわゆるライフルスコープの装着は重心の中心点の真上なので、汎用品を使おうがよほどの事が無い限りは重心のズレが生じにくく、その汎用性を維持できると思ったからだ。
だが、標準仕様においてあえて既存の製品を流用する必要性は無いとの結論に至る。
戦場において紛失した際など"緊急時"に使うという前提での汎用性を確保し、標準仕様の軽量化に努めたほうが使い勝手は増す。
今必要なのは軽量化だ。
本体重量の削減が難しいならば、他でもって達成するしか無い。
計算では360gある一般的な皇国陸軍の4倍固定スコープは、280gほどにまで軽量化される。
これで80gの軽量化。
ついに3kg台への回帰を果たす。
まだ重いな……しかしここからさらに削るのは難しい。
残念ながら重量は3.91~3.92kgほどになってしまうだろう。
もっと樹脂パーツを増やせればいいんだが、これ以上増やす所もないしな。
重い原因は機関部とバレルの耐久性を加味して最大限の安全係数を確保したため。
残念ながら耐久性はほしいので、この後にできる事といえば重量配分の徹底的な調整。
ミリ単位で各種パーツの配置を調整して重量配分を適正化し、標準仕様の重心位置を整える。
後はオプション関係だが、これも考えねばな。
まだまだやることが一杯ある。
だがやるぞ。
時間の許す限り徹底的に煮詰めるさ。
◇
「……な……んだこれは」
「小銃? これが小銃なのか?」
「機関銃のように思えるが、一体」
「皆の者、静粛に!」
ザワつく場内。
多くの将校らが集まった総力戦研究所の研究成果の報告会のすぐ後に設けられた場において、会場の者達は手元にある資料とプレゼン用にと置かれた机の上にある銃の形状をした謎の模型に困惑を隠せないでいた。
題して"――新型機関小銃の開発とそれに関わる反動軽減機構について――"とした航空技術研究所主催の発表会の場においては、歩兵戦闘に深く関与する将校らを中心に名だたる面々に集まっていただいていたが、西条の一声があるまで発表などできぬほどのザワめきが会場内を反響して包み込んでいたのである。
「……静まったな。よし、はじめてくれ」
「ありがとうございます西条閣下。それでは始めさせていただきます。今、私の目の前にあります模型は鉄材と木材と粘土やベークライトなどを利用した2つの模型……いわゆるモックアップではありますが、1つは等身大の実銃を模型としたもので、もう1つは反動軽減機構の動作説明を行う為のものとなっております」
この日のために大急ぎで用意する必要性があったため、正直稚拙極まりない模型ではあったものの、マガジン以外は真っ黒に着色されたソレの雰囲気は相応にあった。
「さて、まずは銃の諸元となりますが使用弾丸は7.62✕47mm弾……またの名を.300サベージ弾を使用します。これは資料の通りNUP製の小銃弾となりますが、本弾丸を採用した理由は生産性と弾道などの射撃性能の両立を検討した結果、現時点にて最も適しているとの結論が出たためです。また、反動軽減機構に必要となるガス圧を考慮しつつも全自動射撃を考慮して携行弾数を確保するにあたっても、より全長の短い小銃弾が良いとの事から、他の弾薬を採用することは考えておりません」
「技官、その30口径小銃弾は国産化は可能な弾丸か?」
「可能です。華僑での製造も視野に入れます。お手元の資料には弾道特性に関わる詳細な試験結果が記されておりますが、2500Jに相当するエネルギー総量を誇る弾頭は減装薬状態で250mまで一直線に飛び、有効射程は400mほど。この有効射程もあくまで弾頭の落下軌道に伴う有効射程であり、9gもある重い弾頭は初速をある程度維持したまま500m先でも十分な殺傷力を誇る運動力を保持し続けます」
「.300サベージ弾の採用については私が許可した。既存の小銃弾の全長は長過ぎる。装薬量から考えれば無駄極まりない。本銃においては第三帝国が採用予定の7.92✕33mm弾やヤクチアが開発中の7.62✕39mm弾同様、もっと全長の短い弾丸でもいいぐらいなのだが……工作機器などの所々の問題を考慮すると既存のものをそのまま採用せざるを得ない。新小銃弾を開発する体力は残念ながら我が国にも.300サベージ弾を開発したNUPにも無い」
所々西条が内容の補足を行って将校らに理由を説明する。
本計画についてはトカチョフとの約束から計画名をJAR計画としていたが、採用名としてはバトルライフルを"機関小銃"と名付け、正式採用時においては皇国内名称○○式機関小銃とする予定だ。
フルオート使用を前提とした小銃として、既存の小銃とは差別化したいというのは俺の意向も反映している。
当初西条はこれを携帯式機関銃とか携行式機関銃とか、汎用小型軽機関銃などとしたかったようだが……俺はどうしても小銃と名付けたかった。
そして西条としてもStG44が突撃銃などと名付けられていた事や、未来の情報をある程度把握しているがゆえに皇国独自の道をゆくバトルライフルについて、国外では「マシンガン」と名付けられることを相応に憂慮していた。
国外での認識におけるマシンガンと、皇国における機関銃への考え方が違うというのは十分に理解できていたのだ。
そこで彼はひとしきり頭をひねった後に"機関小銃"という単語を見出したのである。
つまり機関小銃と書いてバトルライフルと訳すわけだ。
例えば2604年正式採用ならば、このまま行けば本銃は「四式機関小銃」となる。
この機関小銃については他の案よりも語感が悪くないので賛成の意向を示した。
西条は機関小銃を見出した後に「確かに、機関銃と差別化した方が良いかもしれんな。我ながら良い名前を思いついた」――などと述べていたが、無駄に長ったらしい名前にするぐらいならばこの方がいいと素直に思う。
「――銃の全長は私の目の前にある模型と同じくワイヤー式の銃床を閉じた状態で740mmです。最大全長は――この通り980mmとなります」
机の上に置かれたワイヤー式のストックを伸ばした時、なぜか「おぉっ」――といった声が漏れた。
ワイヤー式ストック自体はすでに相応に存在していて珍しくもなんとも無いのだが……伸縮式というのは皇国にとっては珍しかったかもしれない。
「信濃君。ずいぶんとゴツい見た目をしているように見受けられるが……水冷式ではないのだね? 重量については……5kgは切ってほしいところだが。私もかつてヤクチアとの実戦において当時の軽機の重さには苦労してね」
「4kgを切っています」
「なんだって?」
「3.92kgです。4kgを切っています」
「それは照準器を除いてという話をされているのか?」
「いえ、標準仕様において3.92kgです。つまりは照準器、消音器の装着状態においても3.92kgです」
「……大したものだな君は。君が関与する装備はいつも想定の上をゆく」
「ありがとうございます」
稲垣大将は自らが機関銃部隊を率いた経験もあり、将来に渡って機関銃の軽量化を訴えていた将校の一人であったが、彼の目指す重量は5kg未満だった。
しかし新型機関小銃は4kg無いのだ。
結局あれからさらなる軽量化は出来なかったものの、一方で重心点は完全に正しい位置へと修正し直している。
3.85kg未満への軽量化は未来に託す事にした。
機関部のスチール板を1.5mmから1.0mmにすることで3.87kgまで落とせたが、耐久性を優先した結果だ。
専門家でない以上、これ以上の改良は出来ない。
4kg未満という数値で妥協したのである。
その4kg未満という数値ですら、稲垣大将ら実戦経験者をして冷や汗が浮かぶほどの重量である。
「ようは30口径で毎分900発の弾丸を掃射可能な全自動射撃の小銃を航空技術研究所は提案しているということなんだね。ははは……完成すれば歩兵戦闘がどうなってしまうのか想像するだけで恐怖を覚えるな。私はここ数年でこの国に生まれて本当に良かったと思うようになった。あれほど戦地で対応に苦慮した機関銃をあろう事か携帯するばかりかその状態で歩兵突撃すら敢行できうるとは」
「大将が先程述べられていた部分は被筒です。銃身全体を囲い込んでいるのは均一な冷却が命中率を増加させるためです。水冷式機関銃ですでに十分な検証結果が出てはおりますが、空冷式でも採用すべきものがあるとして採用しました」
「ふふ。頼もしいな。続けてくれ」
大将が落ち着いた頃ともなると、会場内は静まり返って皆がこちらの話に耳を傾けて集中するのが手にとるようにわかる。
少しずつだが、機関小銃についての実感が生まれてきているのかもしれない。
「弾倉については25発の箱型弾倉を採用。本当は30発にしたかったのですが、取り回しと重量面を優先しました。これとは別に75発装填可能な筒型弾倉も別途用意します」
このドラムマガジンはAKMなどで採用されたものとほぼ同じ機構のものだ。
プレス式のスチール板構造で、中にゼンマイを仕込んでゼンマイの動力で給弾する。
ちなみに装填作業時において指を切断したと言われる初期のAKのドラムマガジンとは方式が違う。
あちらはゼンマイを巻いてから弾を装弾する必要性があったが、AKMと同じく装弾してからゼンマイを巻く方式である。(装弾中の作業においてゼンマイの留め具が外れてゼンマイで指を切断するわけである)
この装備は当初より本来の未来におけるJARでも存在した。
こちらも重りでもって重心位置の変化を最低限とするようにしている。
このドラムマガジンを採用することで軽機関銃に近い使い方もできるようになり、分隊支援火器としての特性をも得る事になる。
どちらのマガジンもAK同様引っ掛けて使う方式は踏襲。
この"引っ掛ける"という方式、実は九九式も一部引っ掛けるようにして装填するため、特段発表会の場において意見が述べられる事はなかった。
そう、皇国にとって違和感のある装填方式ではないんだ。
「銃身の交換はそこまで素早くできるわけではないようだな」
機関銃部隊の現役将校は九九式機関銃と比較したのか、本銃において不足しているバレル交換能力について指摘してきた。
言わんとしていることはわかるが……フリーフローティングバレルである本銃では採用しづらいんだよな……
重量面においては銃身の中心点に近い機関部の側にハンドルを装着すればいいのでそこまで苦慮しないのだが……
「残念ながら。ただ、M1918自動小銃とは異なり交換可能ではあります。元より連射して使っていくことを考慮していますので。2分ほどお時間をいただければ交換可能です」
「銃全体を区画分け(ユニット化)して整備性を向上させる発想は素晴らしいとはいえる。可能であれば素早く交換可能とする専用の銃身の開発もしてはいただけないか」
「かしこまりました」
射撃精度よりも根本的な軽機関銃としての面制圧力を重視したタイプがほしいということか。
やるだけはやるしかないようだな。
ここで揉めても仕方ない。
反応だけ示して話を進めよう。
「さて、各種装備類ですが光学照準器は例によって我が軍の機関銃部隊が標準仕様としている点を踏襲し、固定式の専用品を採用します。また、標準仕様ではありませんが通常使用する消炎器から消音器への切り替えも可能です」
「あー、信濃くん。消音器について一言いいかな?」
「稲垣大将。なんでしょうか」
「消炎器が大きいのは消音器と重量を等価とするためと資料には記述されているが……その消音器自体が随分と小さいように見受けられる。これは一体……」
「軽量化のため、消音器については私が考案したこれまでに無い全く新しい消音器を採用します」
「全く新しい消音器……?」
「皇国語で述べるならば反射式消音器……王立語で言えばリフレックスサプレッサーというものです。では、これより新型消音器についての構造の詳細について説明します――」