第174話:航空技術者は消音器に拘る
「なんだこれは……弾倉が……2つ?」
「内部構造をよく見て下さい。筒型弾倉ではないです」
設計図を見て困惑する西条に対し、指で示す。
どうやら外観は完全に彼の予想外な状態になっているようだ。
確かにわからなくもない。
未来の自動小銃を見ても、このような形状のものは目にしたことが無い。
時代を先取りしすぎていたのか、奇っ怪な姿なのか……果たしてどちらなのか。
「ああ、なるほど。九六軽機や九九軽機とは機構が上下が反転しているわけか……しかしこれが小銃だと!? これではまるで――」
「携帯式機関銃だ――と、そうおっしゃられたいんですか?」
「少なくとも私のような将官の立場にいる者が思い描く自動小銃とはかけ離れたものと言っていい」
皇歴2601年8月中旬のある日。
ある程度の設計を終えた段階で設計図を見せに行った俺は、新型のバトルライフルについて妙な反応を示す西条に困惑していた。
陸軍が求めた性能を満たすものは提案できたはずだ。
西条は一体何に喉の詰まりのようなものを感じているんだ。
「いや……うむ。だがこれは――間違いなく我が陸軍が創設以来、長年思い描いてきた歩兵武装の理想形のようではある」
「……あくまで小銃ではないと」
「信濃。お前は所属期間が短いので知らぬかもしれぬのだが……我々はな、大昔から全自動精密射撃を夢描いていた。恐らくその戦術方針については本銃を見る限りお前も十分に理解しているものと思われる。しかし、我々がこれまで検討していた歩兵用の自動小銃というのはな、交戦距離400m~500mを想定し、機関銃の届かぬ遥か遠くの距離にいる敵兵を射抜く自動狙撃銃ともいうべきもの。全自動射撃を想定したものではないのだ。いわば、通常においては半自動小銃として狙撃に用い、敵兵の突撃を面制圧力でいなすための全自動射撃……いわば、連射能力というのは副次的なものでしかない。もちろん、必要な性能として求められていたことは事実だ」
そうだったのか……
つまり皇国陸軍が考える自動小銃とは、マークスマンライフルそのもの。
交戦距離をより遠距離とし、狙撃銃をセミオートで連射しつつ敵を次々に制圧していく存在……
いざという時のためのフルオートこそ求められるが、必須ではなかったと。
思想的にはM14などに類似する武器だったわけだ。
……あれが傑作小銃だとは思わないが、考え方としてはそっち方面。
「思えば、最初に自分に設計依頼をかけた時に"軽機関銃"と述べていましたね」
「つまり何1つ間違ったものを提案してきたわけではない。我々が欲しいのはまさにこの設計図に描かれたものだ。交戦距離300mほどで全自動射撃を敢行しつつも敵へ向けて高い命中率でもって兵士単独での制圧射撃が可能なことだ。だから我々は四半世紀前より他国と異なり機関銃部隊を独立させてきた。後々にこのような武器が生まれるのではないかと考え、当初より機関銃部隊と小銃部隊とを分けていたのだ。他国では小銃部隊と機関銃部隊は1つの分隊だが、我々は違う。小銃と機関銃への戦術思想が彼らとは異なるものだからだ。それが間違った思想だとは未だに思わんぞ。お前から渡された資料を見た今においても」
「……なぜ自動小銃がまともに完成しなかったのか、その理由の片鱗を垣間見た気がします」
「思想が足を引っ張ったと言いたいわけか……確かにそうなのかもしれん。恐らく間違っていたのは小銃への考え方なのだろう。だが、軽機への考えは間違っているとは思わん。100年先を見据えても、我々の戦術思想は回答の1つであるということは譲らんぞ」
「そう思うからこそ、自分もバトルライフルという形式に拘って本銃を設計したわけです」
自身が秘める陸軍としての歩兵戦術への思想については譲らなくていい。
否定する気なんてない。
間違っているかどうかなんて本来の未来においてですら証明できていない事。
むしろ俺がやり直す直前においては5.56mmという小口径小銃弾を無理やり採用したNUPのほうが間違っているという答えが出つつあった。
7.62×51mm弾が正解だったというわけでもない。
あれに対してフルオート制御可能だからと採用した5.56mmが間違っていたわけだ。
にも関わらず西側で後戻りできぬほどに普及させたわけだから、ヤクチアはほくそ笑んでいたに違いない。
奴らは7.62×39mm弾を完全に捨てたわけではなかった。
敵味方入り乱れて「世界の戦争が全てその弾丸によって行われる事」――に恐怖したことで無かった事にしようとしとしただけだ。
それだけ優秀な弾丸だったという事に自ら恐怖したのだ。
だから本当は国内から抹消する目的ではなく、武装集団などから取り上げたかったがゆえに5.45mmを普及させようとしていた。
5.56mmを大々的に採用したことで、新たな弾薬を選定しようにも過去の強引なやり方から周囲がついていけず、5.56mmを簡単に捨てされない西側とは立場が違う。
そしてその5.56mmも7.62×51mm弾もこの世に存在しない今だからこそ、皇国は独自の道を模索していけるという意味では恵まれている。
未来において30口径に固執する事は無かったとしても、本銃を実用化できれば5.56mmの呪いにかかる事は無いのだ。
発展する歩兵装備を前に我が国、我が軍が持つ理念が正しかったかは証明しておきたい。
だとして……今の"陸軍"はどう判断を下すのか。
「首相。上層部の皆様方が本銃を機関銃だと述べるならそれで構いません。私が提案できる銃はこれのみ。携帯可能な機関銃を他の自動小銃を押しのけて採用するかどうかについてのご判断はお任せします。ただ、後々に第三帝国が突撃銃と名付けて世界の歩兵小銃と認められる存在はこれに近いものであるということも念頭に入れていただければ」
「奇っ怪なものを提示すれば尻込みしたかもしれないが、今の所は特に不満点は無い。だが、私にはどうしても腑に落ちないことが1つある」
「……なんでしょう?」
西条の表情と口調からなんとなく察した。
これは銃に対する不満ではない。
俺に対する不満に思う。
答えは読めている。
どうしてもっと早く提案しなかったか――だろう。
「九六機関銃のさらなる発展型たる九九機関銃開発を行う合間、本銃を提案することは出来なくもなかったはず。確かにまだあの頃の戦況から本銃の……特に弾丸の選定に政治的な問題が生じていた可能性はある。しかし、.300サベージ弾を模倣して採用するという事は不可能ではなかったはずだ。なぜこれまで提案して来なかったのだ?」
「それはですね――」
理由としては、その頃において新型航空機の開発を含めた所々の新兵器に手一杯であったという事もある。
だが何よりも機運及び地盤が形成されていなかったのだ。
相応に納得してもらえる答えは用意せずとも、かねてより俺の中に存在していた。
ゆえに俺はこれまでの状況を述べながら1つずつ西条へと説明していく。
1つ、2597年~2599年に至るまでの間は敵味方の関係性が不明瞭で、第三帝国とは互いに技術交換などを行っていた。
この時点で何よりも防ぎたかったのは後に同盟を結ぶヤクチアに第三帝国経由で反動軽減機構含めた一連の技術が伝わり、あろうことかAKではなくAEKもといAOのようなものが誕生してこちらに牙を向くこと。
JARは元がAK。
AKから逸脱したAKではあるものの、原案はAEKであり、AOから続くAK最大の問題を解消しようとして結局採用されなかったAKベースの試作銃達の系譜の中にある。
ボルト形状などは完全にAKから抜けきれていない。
その構造を見て「AKにも採用できそうだ」――などと、カラシニコフが素直に考えてしまった場合のリスクは尋常なものではない。
また、.300サベージ弾を採用するということがNUPに知れ渡ってNUPが警戒網を敷き、レンドリース法制定前において技術公開を控えたり各種工作機械が輸入不能になるような事態も防ぎたかった。
本銃は立場が立場だからこそ、明確な敵と味方の線引が定められる事に細心の注意を払わねばならなかったのだ。
2つ、俺はStG44やAKの登場は本来の未来と状況は変わらずと考えており、2599年までにおける皇国の補給手段ではガーランドですら満足に運用できるかどうかも怪しかった状況から、歩兵一人一人が携帯して運用するフルオート射撃可能な小銃……
もとい機関銃については否定的な立場であり、現時点においてそれを満足に扱うにあたって力を発揮するヘリコプターや二輪車などに関しては、当時まだ大量生産に至るほどの結論に至っていなかった。
StG44の生産数は45万~50万挺ほど。
驚異ではあるが数としてはそう多くはない。
それだけでなく、よほどの事が無い限り継戦能力に劣る第三帝国は、仮に敵となってもStG44を満足に扱える環境が整えられる可能性は低かった。
よって皇国人の体格には少々不釣り合いではあるが、M1921と合わせてガーランドがあれば十分だと思ったのだ。
逆を言えば、今だからこそバトルライフルは本格的な運用が開始できるというもの。
果たして本当に第三帝国やヤクチアが双方の画期的なアサルトライフルを運用できるかは今でも疑念がある。
だが、早期に誕生するという事は何が起こるかわからない。
ゆえに状況が整ったと判断して前向きになったのである。
つい先日まで、俺は双方の突撃銃に関する開発に関し、やり直す前と同じ状況で事が進むものと判断して再来年以降でも十分と判断していた。
裏を返せばそういう認識だったがゆえに控えていたというわけである。
3つ目、そもそも本銃は完成に至ってない。
現状でも設計的に甘い部分が多々ある。
原因は全てやり直す前の自分がJARという存在に目を背けたからに他ならない。
樹脂を多数用い、軽量かつ頑丈で安定した動作をするショートストロークの小銃が西側に広がっていく中……
対ヤクチアを見据えれば絶対にロングストロークは譲れなかったのだが、結局一部の国しか理解を示す事はなかった。
おまけに自由主義連合は全自動射撃だけを考えた場合は欠陥品と言い切れる7.62×51と5.56×45mm弾を標準弾として採用。
正確には5.56×45mmのみが西側唯一のアサルトライフル用の標準弾と言って過言ではなく、本来の未来における零と同じようなジレンマを抱える改良の余地がまるで残されていない小口径小銃弾を、前線で強い不満を抱かれながらも捨てきれないような環境下において、ただでさえM14などの影響で不評極まる7.62×51を中途半端な形で採用してしまったがために、各所から協力を得ようにも中々得られるものではなく……
あちら側から言わせれば「完成品をもってこい。それが採用に足るものなら7.62×51ごと再評価してやる」――という重圧の中で完成させられるほどモチベーションを保てなかったのである。
そもそも弾丸は別に7.62×51mmである必要性なんて無かった。
7.62×41あるいは42mmで良かった。
しかし、6.5mmだの6.8mmだのNUPを含めて各国が小銃弾そのものを改めようとする中で、「7.62×42mm弾を採用!」――などと、既得権益と政治思想渦巻く国家と軍の中に入り込んで提案できるわけもなく……
彼らを振り向かせるには7.62×51を再評価し、特に政治家連中が気にする"コスト"という面において優れたパフォーマンスを発揮できるようでなければならなかったのだ。(例えば通常装薬を減装薬に改めるなどということはそう難しいものではなく、そういう面でコスト的な判断としては優れていた)
そもそも、このコストという部分が5.56mmの採用を続けなければならない根本的原因ですらあった。
提案された6.8mm弾すら従来の5.56mmより多少威力が上がった程度でしかないと収拾がつかない状態。
この中に割って入るなど不可能に近い。
そういった様子に何を目指したいのかという目標が薄れ、目を背けて逃げてしまった結果、本銃は完全な状態となっていない。
未来の技術者による最後の仕上げを終わらせずに7割程度の完成で終わってしまっている。
この未知数な銃をそのまま採用するにあたって、実は反動軽減機構は全方向から総合的に勘案すると欠陥品であり、例のごとく皇国固執病を発症して大混乱に陥るというのもやりたくなかった。
だからやるなら完成させた状態で……とも思っていたのである。
反動軽減機構を搭載するという方向性が間違っているとは思っていない。
しかし、この拡張性の無さとバリエーション展開の難しい発展性の無さは致命的だ。
1つの銃として完成させて運用にするにあたっては生産性も高く汎用性も高いが、1つの銃だけで完結させるならもっと煮詰めなければならない点が多数ある。
特に、サプレッサーの着脱についてはどうしても拘りたかった。
「――消音器……か。 現段階の戦闘においてそれほど重要だとも思わないのだが。ただ、王立国家やNUPはやたらと注力していることは認識している」
西条はすべての話に真剣に耳を傾けつつも、消音器に関しては無問題であるとばかりに話を進めようとする。
しかしどうしてもここは譲れない点なので、今一度説明することとした。
「王立国家よりもNUPの認識のほうが凄いんです。NUPは此度の戦において消音器において非常に貴重な歩兵戦闘に関する非常に重要な戦訓を得ることになります。そしてその後において消音器の開発には極めて積極的になる。それが我が軍の戦術にも大きく関与するものなんです」
消音器。
サプレッサーまたはサイレンサーなどと呼ぶ。
これを最初に開発したのは他でもないNUPであり、マシンガンの生みの親の息子。
彼は熱力学と流体力学に極めて優れた知見を有した人物であったのだが、その知識を有効利用し、年々装薬量が増えてやかましくなっていく銃の発射音の消音化を達成することで、訓練時などに有効利用できると考えて最終的に消音器を発明する。
2度目の大戦へと至った時、この優れた補助装置を実戦においても有効活用できるのではないかと考えたのは王立国家とNUP。
双方ともにサプレッサーを積極的に投入し、戦場でデータをかき集めた。
それだけではない。
王立国家はウェルロッドと呼ばれる諜報機関向けの消音銃などを開発。
市街地戦や敵国に侵入しての暗殺などに活用しようとした。
このウェルロッドだが、実は少数ながらNUPも貸与を受けて利用している。
そしてNUPはこの特殊消音銃と自国で用いていたM1カービンやM1928用の消音器においてとてつもない発見をするのだ。
それは、戦場の真っ只中においては初速の低い弾丸を用いた、俗に言う亜音速弾……一般的にはサブソニック弾などと呼ばれるものを用いた非常に小さな音の弾丸を射撃するよりも、極普通のありふれた音速を誇る小銃弾のほうが、万が一最初の一撃を回避されたあるいは外してしまった場合においてこちらの位置を捕捉されにくいという……後の戦術に多大なる影響を及ぼすものである。
一般的に消音器というのは音を鎮め、敵に気づかれないようにするために装着する。
ゆえに「亜音速弾」を用いたほうが当然にして弾頭が音速を越えないために飛翔時の音が小さくなり、音速を超えたものと比較して敵に気づかれにくいと言われる。
この定説、実は半分正解であり半分間違いなのである。
未来の銃の状況を考えてみよう。
MP5などの市街地や施設内戦闘を考慮した短機関銃などは、消音銃としてバレル側の構造を調節してサブソニック弾としたモデルがラインナップされている。
他方で、カービン銃など同様に施設内戦闘も行うような突撃銃には全くといっていいほどそういったラインナップが無いことに疑問が生じないだろうか。
これに疑問を持つ者は多くはないと考えられるのだが、きちんとした理由がある。
実は音速を突破した弾頭というのは、射出時の音を90~100db程度にまで静音化した場合、敵兵の側面を仮に通り過ぎた時、その弾頭が発生させた衝撃波によって敵兵は射撃位置を誤認するのだ。
多くの場合、敵兵はなんと射撃方向とは直交した90度違う方向へ向けて射撃手がいると感知するのである。
弾頭は音速を超えた場合、弾丸の回転する中心軸から衝撃波が発生していくわけだが、その際に生じた衝撃波に伴い、音は弾丸の通過後しばらくした後に発生して人間の耳に届く事になる。
この時、人間の視覚を除いた四感とも言うべき感覚機能は音と衝撃波のズレの影響及び到達した衝撃波そのものの影響なのか正しく射撃方向を検知できないのだ。
特にこの効果は音速状態を維持したまま弾丸が障害物にぶつかるとより顕著となる。
ゆえに、あえて適当な付近の一次目標物に命中させて敵の意識を狂わせ、位置を探ろうと動きを止めた所で仕留めるといったような戦法も戦中の時点で試みられた。
この感覚機能の麻痺というのは意外にも知られていない。
なので、俺がやり直す頃などにおけるシミュレーションゲームでは実際にNPCが同様の反応を示す例は少なかった。
ある意味、この反応でもってそのゲームがリアルかそうでないかを見定めることができた指標の1つではあったと思われる。
人間の神経系の感受性能がいかに適当であるかと言わざるを得ない驚愕する事実だが、サブソニック弾では通り過ぎた弾丸の通過音とその際の大気の揺れなどから敵のいる位置をすぐさま検知して反撃できる一方、飛翔音がより大きく常識的に感知しやすいと思われる音速飛翔する通常弾の方が高確率で敵があらぬ方向へと反撃するという戦場での結果をNUPは体験することとなったのである。
なんたる矛盾か。
音を鎮めようとするならより有利なはずの状態よりも、音を軽減するにあたって不利となる状態の方が優れているなどと、後の銃器関係の技術者が苦労した姿が目に浮かぶ。
つまり、サブソニック弾というのは初弾を確実に外さない場合は有効だが、万が一外した場合は敵に捕捉されるリスクが一般的なサプレッサーを装着しただけの小銃やその他と比較して圧倒的に高いのである。
サブソニック弾、あるいは通常弾をバレルやサプレッサー構造等でサブソニック状態とした銃が意外にもそう多くない最大の理由はここにある。
サブソニック弾が有効なのは極めて限定的で、絶対に初弾を外さないあるいは敵兵が気づく前に最初の攻撃で完全に仕留めきれる環境下でないといけない。
そうでなければなんだかんだ射撃手の位置は捕捉される。
しかしサプレッサー装着しただけの小銃をフルオート射撃した時や制圧射撃で今まさに射撃している最中においても、その弾丸が音速を超えている場合には敵兵が大混乱に陥って時に同士討ちすら発生することがあるというのをNUPは戦場にて理解することとなった。
また、敵を包囲しようと囲い込んだ時に射撃を行わずに側方から挟撃しようと待ちわびていた味方集団が敵兵の誤認によって攻撃開始前に攻撃を受けるというケースすら実戦において確認されていたのだ。
当然にしてNUPは戦後この貴重なデータを活用し、以降の戦争において有効利用すべく各所で試験を行ってデータ収集を開始することとなる。
特殊部隊においてはウェルロッドなどを用いて得た経験からハンドガンとしてMk.22などを開発した一方、サブソニック弾となるようなアサルトライフル等の開発には極めて消極的。
あえて音速状態を維持したままいかに音を静めるかに注力したサプレッサーの開発に積極的な姿勢を示すようになるのだ。
そしてNUPはこれを西側に共有。
結果、西側の多くの国もMP5など、極めて限定的な用途の銃でのみサブソニック弾となるような状態するモデルを開発あるいは採用。
通常戦闘時においては単純なサプレッサーを活用していく事となる。
もちろんこれは弾丸はより早い方が命中率は高いからという理由もあるものの、無理した構造として採用してもその効果は限定的であり、むしろ敵側が大混乱に陥ったほうが戦いやすいので戦略的優位性から考えても採用の価値無しと判断されての事であった。
サブソニック弾を駆使する銃を採用するのが特殊部隊ばかりなのも、高い命中率を維持する部隊員ならば使いこなせるであろうといった、練度の高さによる所が大きい。
他方で、誤認させられる事で減らせる人的被害というのも相当なもの。
NUPは密林の戦争などで何度もサプレッサーに助けられ……西側諸国も標準装備として装備可能なよう意識を改める事になるのだ。
「――なるほど。よくわかった。こちらの位置を見誤るというのは確かに戦術として大きな優位性を得るのは言うまでもない。してどうする? 本銃は簡単に付け替え出来ぬような状態なのだろう?」
「今一度時間を下さい。本日参謀本部を訪れたのは現時点での方向性が間違っていないかを確かめるためです。まだ完成していません」
「そう多くの時間は割けないぞ。可能ならば総力戦研究所の報告会の場で披露の上、開発を進めたいと思っている」
「何とかやってみます」
「いいか、気負いすぎるな。最悪は現状の状態のまま採用する。私にはこれが欠陥品とは思えん。少なくともこの間の評価試験に出てきた自動小銃と比較して間違いない」
「はい……ッ!」
残り2週間程度……か。
もう自分の可能性を信じるしか無い。
これまで血反吐吐いて磨いてきた己の技術知識にすがる他ない。
今一度資料に目を通し、設計案をまとめなければ。
「――待て、行く前に最後に1つ聞きたい。このフラットトップ構造とピカティニーレールと呼ばれるモノ……必要なのか? アルミ合金板をそのまま接合すれば良いのではないのか?」
設計図を畳んで部屋を出ようとした最中、先走りすぎたとばかりに西条に引き止められる。
どうやら眺めていて気になった部分らしい。
「下部には様々な副次武装を装着できるように考慮して設けています。銃剣、二脚、他にもいくつか。上部は主として重心調整用です。例えば光学照準器はマガジンとトリガーの間あたりにある銃身の中心点の真上に装着することが理想ですが、体格の問題が生じた場合はズラさねばならないやもしれません。そういった場合に緊急時に使う前後2つのアイアンサイトで調節したりなどします。アイアンサイト以外でのバラストもこういった部位に装着して重心を調整します。上部の構造が平坦なのは照準時において意識を集中させやすいという副次効果があるためでもあります」
「そういう事か。未来ではこういう機構では当たり前になるのやもしれんが……ちと早すぎた採用にも思えるな。必要不可欠というならばそれでいい。そのまま続けてくれ」
「はッ!」
西条がこういった機構に妙に拘りが無い男で助かった。
どうせ我が国の事だ。
こういうのは早いほうがいい。
迷うぐらいなら最初の段階で導入する。
それは航空機でもやっていたこと。
だから俺が設計する上ではそうする。
デファクトスタンダードとなるものは最初の段階で盛り込めるだけ盛り込んでおく方がいい。