第173話:航空技術者は友に託されて自らの内に眠る獅子を呼び起こす(後編2)
「また設計を見直す?」
「すまない。だがどうしても消音機を着脱できるようにしなければならないんだ。タダキヨ、これが上手く行けばJARは正規部隊に採用されることになる。我々の努力が実を結ぶことになるんだ」
「トカチョフ。もうこれ以上重量配分を調節したままレシーバーを調節することは出来ない。一体どうすればいいというんだい?」
「私にもわからない……しかし、クライアントは消音器が使えなければトライアルの参加は認めないと申してきている。最低限それだけでもどうにかしなければいけないんだ」
「わかった……もう一度やりなおそう」
皇歴2645年2月。
ようやく形になってきたJARは再び白紙化した。
原因はサプレッサーの装着。
いよいよ形になってきたJARについては、ユーグのとある国が次世代自動小銃としてトライアルに参加させたい意向を示したのだ。
だがそのトライアルに参加する上で絶対条件として唯一提示されたのがサプレッサーの着脱が出来ること。
それも任務時において何度も付替できるよう施せというのである。
ここに来てようやく気付かされたことがある。
JARの致命的な弱点は2つある。
1つは何か不具合が生じた場合の改修が容易ではない。
どこかを見直す場合、重心点が狂うと全部1から設計し直しになる。
付け焼き刃的な場当たり的対処ではどうにもならないんだ。
まるでガラスのような繊細さだ。
最新鋭ジェット戦闘機でもここまで酷くはないが……だがマッハ2級ジェット戦闘機を想起させるものがある。
あれもちょっとした部分で大問題が発生した場合の設計変更は容易ではない。
開発費並びに製造費を高騰化させる原因の1つだ。
JARの場合は開発費はパトロンが出してくれている分、製造費で還元する必要性がないので単純な製造費に影響はしないのだが……
だとしても1つの小銃として見た場合、もし正規軍が本銃を開発していたならばとっくに打ち切られておかしくない程の時間と金をかけている。
ちょっとした機能1つ付与するだけで全部やり直し。
新しく銃を開発する気分でもってやり直さねばならない。
あまりにも繊細すぎる……
このとてもデリケートな銃のもう1つの重大な弱点は拡張性。
サプレッサー1つ簡単に導入出来ない。
重心設定に気を使わねばならないJARにとっては300g~時には500g以上もの重量増加が生ずるのが当たり前のサプレッサーを仕込むだけでも重心が狂ってしまい、それを調節しようとして1から設計をやり直さねばならない。
ピカティニーレールはただの飾り。
拡張できるようで実際は拡張性なんて微塵もない。
バラストを仕込もうにもそれでは銃自体がどんどん重くなってしまう。
本末転倒。
しかもこれ以上の軽量化は不可能ときている。
もはや割り切る時期に来ていた。
「トカチョフ。もう3.85kgまでに抑え込むのはやめよう……無理だ。サプレッサー装着時にはバラストを入れて4.2kg程度とするようにしよう。そういう諦めも時には大切だ」
「そうだなタダキヨ。技術が発達すればいつかは解決するかもしれないが、今の我々には不可能な領域だ。トライアルはそれで参加できるかどうか打診してみよう。ただ、このままでは駄目なのは変わらない」
「まだ何か必要なのか?」
「彼らはピカティニーレールをSTANAG 2324にすることと、7.62mmを現在検討中の5.56mmと類似した形状のSTANAGマガジン形式にしろとも言ってきている」
「なんだって!?」
「独自のマガジンでは汎用性が無いと……」
「そんな……」
それは開発者のエゴだったのか。
JARのマガジンは7.62×51mmではあったが、マガジン形状はAKを模倣していた。
これは砂漠地帯や近東地域で用いられる7.62×51mm仕様の自動狙撃銃やバトルライフルを踏襲していたのだが、ユーグなど西側にとって採用する気など微塵もない仕様だったのである。
JARは必ずしも精度が完璧に出せないような地域でも製造できるよう、射撃時のマガジン脱落やマガジンが適切にはめ込まれず給弾不良を起こさないようAK方式としていたことが裏目に出たのである。
マガジン形状が変われば当然レシーバー構造は大きく見直さなければならない。
ピカティニーレールも合わせればさらに設計の大幅な見直しは必須。
目指したコンセプトがボヤける。
ユーグ側が求めている銃は明らかに特殊部隊用ではないのか。
我々は一体誰のための銃を作っているのか。
西側にとってJARは独りよがりな仕様だったのか……
◇
皇歴2644年6月
我々は開発拠点を引っ越す事になった。
どうもユーグ側のトライアル参加によってヤクチアが感づいたらしい。
ユーグ側の情報がダダ漏れだった模様だ。
拠点周囲に明らかにコミンテルンの関係者と思われる人物が複数人確認できた。
恐らくトライアルに提出した資料から、それがAEK-971と強い結びつきのある銃だと判断されたらしい。
勘のいい奴らがいただけでなく、ユーグの内部深くまでヤクチアの手が及んでいる事に衝撃が走る。
結局、トライアルへの参加は先方がサプレッサー装着に伴う重量の大幅増加を嫌って白紙になり。
我々はただヤクチアに目をつけられるだけの不利益を蒙っただけになってしまった。
この頃である。
トカチョフが身の上話を私によくするようになったのは。
どうやら彼は自身の未来を見据えていたようだ。
話してわかったのは、彼は民主主義の脆さから一時期は社会主義をそれなりに信仰していたが、ヤクチア式の社会主義は常に外に牙を向けねば成立しないことに気づき、さらにヤクチアの本質たる人を人と思わぬ行動をとにかく嫌っていて……
理想の世界の1つとしては、資本を制御するのは国民だが政治を制御するのは王(または独裁者)であるというような、社会主義自由経済ともいうべきものを理想だと考えていた。
私は「それも結局は世界のすべてを1つの国にたとえて好き放題やるだけだ」――と切り捨てようとしたが、彼は上に登る者次第であるといって性善説を信じようとしていた。
そして皇国こそそれが実現できる唯一無二の国家だったのではないかと長年考えていたのである。
陛下に一定以上の権限を保たせたまま国民も一定程度は政治に関与できる。
それが理想だというのだ。
私はその考えに賛同できなかった。
陛下はたしかに相応に意見をお持ちではあったが、最後まで国民を信じていた。
裏切ったのは陛下ではない。
……我々陸軍を中心とした様々な人間が裏切ったのだ。
皇国民は立場が立場なのにも関わらず責任をとらずに逃げ回るきらいがある。
そういう意味では死の最後まで責任を果たそうと陛下の代わりに命を落とした西条はまだ首相としての資質を最低限は備えていたが……
彼の周辺にいた者までそうではなかったのだ。
本当に彼の理想が皇国で実現できるというなら、そもそも負けてなどいない。
だから私は彼の話に納得はしなかった。
しかしトカチョフは「皇国なら再び立ち上がれるかもしれない」――といって、不思議なことに私以上にかつて皇国と呼ばれた地に思いを寄せていたのである。
その理由の1つが、私だとも言うのだ。
最後まで希望を捨てない人間がいる限り、アイデンティティというのは絶対に取り戻せるものなのだと。
トカチョフはそう話していた。
◇
皇歴2646年1月。
再び拠点を移動。
この頃になると一向に完成しないJARにパトロンは失望し、支援が縮小化してくる。
ユーグから出向してきていた銃器技師も一人、また一人と離脱していった。
トカチョフは外に出なくなった。
私も少しでも遠出するとヤクチアの諜報員と見られる者に尾けられるようになり、尾行を撒くのに苦労するようになる。
命までは狙われていないのが不思議である。
ヤクチアは私に対して利用価値があると思っているのだろうか。
◇
皇歴2646年5月。
諜報員の圧力があまりにも高まってしまったため、しばらく潜伏して状況を整える事になった。
どうやら彼らの狙いはトカチョフのようだ。
彼を拘束して本国に連れ戻したいらしい。
そのような状況の中、トカチョフはある決断する。
「タダキヨ、これを預かってくれ」
彼が差し出したのは反動軽減機構やその他、JARにまつわる技術情報が詰まったファイルと、未完成の状態のままとりあえずは形となった試作品のJAR本体だった。
まるで拡張性が無いままながらも、JARは一先ず形だけは出来上がっていたのである。
トカチョフはそれら全てを私に託し、可能であれば他国の技師と協力してほしいと頼み込んできたのである。
しかし私は――
「これは貴方が完成させるべきものだ。私がもっていてもどうしようもない。結局、航空技術の殆どは役に立たなかった……私には完成させられない。ユーグの技術者も恐らく興味を示さないだろう」
この銃をとてもではないが完成させられないと思った私は、彼のほうがどうにかなると思って渡そうとしたものを突き返そうとする。
しかし彼は頑として譲らなかった。
「タダキヨ、君は真面目で誠実でお手本のような皇国民だ。そんな君のような男にこそJARは必要なんだ。この銃はカタナを失ってしまった皇国民の刀の代わりの新たな武器となる。だから、世界に散らばった皇国民と共に完成させるべきだ……」
「何のために必要なんだトカチョフ! テロリズムでは国は取り戻せないのに!」
「違う。そうじゃない。再び皇国民が皇国民として立ち上がる時、立ちはだかるAKに対して唯一対抗可能な武器だ。皇国民が無謀かもしれない独立を宣言した時、この武器は必要となる。多くの選択肢を選んでいられない中でどの状況も1つの銃だけで乗り越えられるかもしれない可能性をJARは秘めているんだ! 西側の武器に頼っているようでは駄目だ。それではいつまでも弱い立場から抜け出せない」
「JARは違うと?」
「君がこれをAKの派生型だと思うなら、もっと改良するべきなんだ。それが出来るのは君を含めた皇国民だけだ。私は最初からこの銃をそのために作っている。西側は結局、本当に正しい視点で世界を見ていない。常に利益専従……頼れば対価を支払うことになる。歴史が証明している。皇国が皇国を取り戻すためには、たとえ無謀であったとしても自力でどうにかすべきだ」
「それが出来るならとっくにやっているはずなんだ」
「JARと同じだタダキヨ。今を見ただけでは解決法が無いのと同じ。しかし未来を見れば変わるはず……タダキヨ、君はJARに多くの改良案を施した。その発想は私には無い。いや、ヤクチアにすら殆ど無い。もっと遠くに……JARを真のバトルライフルとするアイディアがどこかにある。探すんだ。見つけ出すんだ」
「トカチョフ……」
トカチョフとの数年間は実に充実していた。
彼の技術へのひたむきな姿勢や決して諦めない心は強いシンパシーを感じていた。
彼も同じような思いをしていたらしい。
だからこそ彼は門外漢な技術者の私にソレを託そうとしたのかもしれない。
だとしても私は1つだけ納得できなかったので、彼にこれだけは約束しようとした。
「タダキヨ。君だけだ、君だけがJARを見捨てずに最後まで付き合ってくれた男だ。そして君はまだ諦めていない。ならば――」
「わかった。これは預かろう……だが、改良するには貴方も必要だトカチョフ。もう一度会うと約束してくれ。そして一緒に完成させるんだ。皇国には貴方のような人間が必要なんだ。貴方がいなければ完成しない」
「私はそうは思わないが……」
「頼むトカチョフ」
「わかった約束しよう」
それがトカチョフと交した最後の会話だった。
彼がヤクチアに拘束されたことを知ったのは2年後のこと。
ある男からの手紙によってであった。
ある男とは、他でもないカラシニコフである。
どうやって私の居場所を突き止めたのかは不明だったが、彼によってトカチョフが拘束されたことと、当局がJARの情報を吐き出させようとして壮絶な日々を過ごしていることが知らされた。
彼は一切口を割ろうとせず、また事後処理にも成功していた影響でヤクチアにJARの情報が全く渡っていなかったのだ。
彼は私の居場所すらも秘匿することに成功していた。
それだけではなかった。
カラシニコフは自身の持つ人脈を利用していたらしく、私を関係者ではないと当局に伝えていたのである。
潜伏しても周囲にまるでヤクチアの気配が無いと思っていたら、どうやらカラシニコフに助けられていたらしい。
どうして彼がそのような行動に出たのかについても手紙に記されていた。
――技術者というのは本来、祖国のためという正義を掲げて行動し続ける者を言う。資産や私生活の充実のために技術開発を行う者は技術者とは言えない。そういう意味では貴方は生粋の技術者であり、かつ正真正銘の皇国人である。だからこそ言えるのは、トカチョフの思いを無駄にしないようバトルライフルを完成させることと、同時に国家でもなんでも無い思想活動家にそれが渡らないよう計らうこと。私の願いは本銃がM16と並び、軍と兵士だけが手に取る世界でありつづけることを望む。貴方のような高潔な人物が自らの手を汚す事はない。私のような過ちをどうか犯さないように。その銃は、志を同じくする国の戦力たる人だけが持つべきなのだ。小銃もその完成度次第では抑止力になる。平和を乱す兵器としての小銃を生んだのは技術者ではなく勘違いした政治家だ。政治家は時に技術を、技術者を否定して正しい発展を阻害する。道を正すことが出来るのは特別な力を持つ技術者のみ。トカチョフは貴方にその力があると述べていた。私もそう思う。だからこそ、彼の思いを無駄にしないように。彼は「すまない」といって約束を果たせないことを悔やんでいる。ならば貴方がやるべきことはわかっているはずだ――
トカチョフはきっとこうなることを理解していたのだろう。
だから俺に全てを託そうとした。
そして元来は敵であるはずのヤクチアを介して立場を相違するカラシニコフは、技術者としての同志として私を見ていたようだった。
自らの限られた力をもってしてまで私を匿ったのだ。
彼は決して裕福ではなかったし、恵まれた生活が送れたわけではない。
だが技術を通して手にした人脈によってちょっとやそっとの規模ではない力をヤクチア内で発揮できるようだ。
それは恵まれた人生だったといわれるストーナーと比較して幸せだったかどうかは定かではない。
だが、国のために生きる男としては充実した人生だったのかもしれない。
残り時間がそう多くない私に何ができるかわからないが……やるだけの事はやってみようとは思ったのは間違いなかった――
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「うっ……しまった。寝てたか」
気づくと夕日が窓から差し込んでいた。
そして自らの夢の中での語り口に乾いた笑いが巻き起こる。
何がやるだけの事はやってみようだ。
たった3年ほど行動して、ヤクチアが再び動き出したら萎縮して動けなかったくせに。
随分と格好つけたもんだ。
結局、あのトライアルに参加できなかったことは尾を引いてユーグ側はまるで興味を示さなくなっていた。
時代はショートストローク。
JARの要素の中で生き残ったのはピカティニーレールとフリーフローティングバレルぐらい。
本当だったらそれを目指すべきなのかもしれない。
だが、対ヤクチアを考えたら絶対にショートストロークは危険だから……
だから、情報収集は続けていた。
開発というほどまでには至っていなかったが、最新技術はきちんと把握している。
今一度思考を研ぎ澄まして組み直す。
まず、使用弾丸だが7.62×51なんて現時点で存在しない。
かといって他の弾薬を使うというのも無謀だ。
時間がないだけじゃなく、現時点の限られた環境下において複雑な計算は出来ない。
その上で供給の点を考えると国産の弾丸なんて論外。
使うなら同じような口径、弾道特性が必要。
となるとこの世においてはたった1つしかない。
.300サベージ弾。
後にT65として進化し、7.62×51となった7.62×47mm弾がNUPにある。
こいつの弾道特性は7.62×51の減装薬弾とほぼ同じ。
火薬を減らす量を7%にすればいいだけ。
実はこれ、非常に優秀な弾丸ゆえに結構前からフルオートに向いているとNUP内で試験が繰り返されている弾丸だ。
2590年頃より試みられ、最終的に4mm延長して正式採用されることになる。
現時点でもNUPはそのポテンシャルの高さに気づいているわけだ。
残念ながら実戦投入されなかったが……皇国が先手でそのポテンシャルを示す時だ。
量産関係については華僑にも力を借りればいいが、大量供給を可能としながら7.62×51に限りなく近い弾薬は他に存在しない。
そもそも30口径に拘る必要性があるのかという話もあるが……俺は30口径は必要だと思う。
俺がやり直す頃の直前、すでに5.56mmは2710年までに廃止することが決まっていた。
理由は攻撃力不足。
やり直す頃にはちょっとしたヘルメットでも7.62mmが直撃しても軽傷となるような事例が相次ぐほど進化しており、交戦距離も従来の200m以内から300m程度にまで変化。
その状況では5.56mmは完全に時代遅れ。
それだけではなく危険な状況で身を晒して射撃を続ける軽機関銃自体も見直しがなされていて、こちらもバトルライフルに統合していこうという機運が生じていた。
つまり、JARの方向性は完全に間違ってない。
100年先を見据えているという点では、全く間違っていない。
だが、NUPなどの西側では6.5mmないし6.8mm弾の採用を検討していた。
理由は7.62mmの反動が強すぎるのでフルオート射撃でも命中が期待できる口径を模索した結果だという。
この6.5mmないし6.8mmの試作ライフルのデータはやり直す直前の時点で手に入れている。
JARの方が上だ。
つまり、この双方に拘る必要性があるとしたら携行可能弾数を増やしたいかどうか。
5.56mmはおよそ6割は持てる弾丸が増やせる。
6.5mm弾なら7.62mmと比較して3割ほど所持弾数が増やせる。
逆算すれば3割減だ。
この3割は基本的に重量の問題だったりするわけなので……他で重量を削減すれことなどできればどうにかなるんじゃないのか?
もしくは、所持重量を増大させられる装備でも開発するとか……パワーアシストスーツのような。
ともかく、3割なら十分無視できる範囲のはずだ。
それにこれは7.62mm×51での比較。
7.62mm×41ないし42mmあたりのものを新たに作ることができればその差はさらに縮まる。
どう考えてもその方がいい。
弾頭を共通化して生産性を上げるんだ。
薬莢も工作機械を一定程度共通化できるため生産価格の低下などメリットは少なくない。
だからまずは7.62×47mmこと.300サベージで行く。
弾頭などの形状はほぼ一緒なので設計的には大幅な改変はない。
マガジン形状はAKと同じく爪で引っ掛ける方式で行く。
AKで特徴的なマガジンの爪は、銃身側に爪を付けてこれをレシーバー内部に引っ掛けつつねじ込むように挿入するタイプだ。
仕組み上、射撃中に脱落する可能性が極めて低く、確実に装着されるが……マガジンリリースボタンあるいはレバーを押しただけではマガジンが落ちてくることはないので慣れないと戸惑う。
一般的な方式なら慣れなど必要なく、感覚だけでやっていける利点があるがちゃんと固定できてなかったり不意の衝撃で脱落したりなどすることがある。
意外と精度が必要となってくる部分なんだ。
この手のマガジンを押さえつけておくマガジンキャッチ部分というのは。
よって現時点の皇国の今の工作精度では確実な動作を保証する場合にSTANAGマガジンでは無理だ。
そもそも本銃が完成して暴れまわった場合、AK方式が一般化する可能性すらあるんじゃないのか。
STANAGマガジン形状にあえて寄せる必要性なんて無い。
他がこちらを真似すればいいんだ。
その上で本来の未来においては採用していなかった銃床を採用する。
ワイヤー式ストックである。
これは3つの利点によって採用する。
1つ、軽量化。
2つ、様々な人間の体格へ適合させる冗長性確保
3つ、皇国人の平均的な体格ならこの方が運用時の全長をより短くできる
採用予定のワイヤー式ストックは並列に並んだ2本の棒によるもの。
これはグリースガンなどのような適当にこさえたものじゃない。
航空用アルミ合金製のパイプを使う。
内部は二重構造。
重りを仕込んであり、これがストックの動きと逆方向に可動する反動軽減機構を応用したものとなっていて伸縮によって重心点の変化は生じない。
これをレシーバーのマガジン部分より先にあたる部位に取付部を設け、ここから長いワイヤーが伸びて調節可能なようにする。
ストック側は樹脂またはFRPまたはエポキシ樹脂で成型。
軽量だが頑丈。
滑り止めのゴムを接着する余裕すらある。
これによって全体重量は400gも削減できる。
その分を他に振り分けるわけだ。
何に振り分けるかというと、まずは光学照準器。
皇国では軽機関銃に光学照準器を標準搭載しているが、これは昔からの思想で軽機関銃も狙撃に使うため。
新たなバトルライフルでも標準装備とする。
倍率は当時の皇国が標準としていた1.5倍と2.5倍と3.5倍。
いずれを採用するかはさておき、どちらも重量は同じように調節する。
なお、このスコープの配置は重心位置次第で変わる。
緊急時に備えてピープサイトも装備するが、これは平時ではバラストとなる。
フロントサイトも同じくだ。
さらにセレクターについても最新式を採用。
AEKやJARではAK方式から大きく逸脱しなかった状況から使い勝手はよろしくなく左利きでは操作に難があった。
当時はそれでも問題ないだろうとされたから拘らなかったんだ。
だが、やり直す直前の状況を知っている俺からすると不十分。
ゆえにM16を踏襲する90度変更によるセレクターを採用する。
M16では親指で押し出すように90度ずつ変化させることで、セーフティ、セミオート、フルオートを切り替えることが出来る。
つまり180度の範囲でセーフティとは別にセミ・フルを切替可能なセレクターということである。
新たなライフルもそうする。
JARでは連射速度の関係から三点バーストも出来たのだが、複雑な機構ゆえ今の時代は再現できない。
ゆえに皇国人の手先の器用さを信じて普段は指切りによる二点あるいは三点バーストを徹底してもらうことにする。
当然セレクターは左右両用であり、左利きでも操作可能。
これは仮に右利きでもマガジン装填時などにおいて反対側のセレクターに親指の位置があり操作出来たほうが素早く反応できるからなのと、人によっては右利きでも指の長さや癖の影響で左側のセレクターを操作するほうが都合が良い場合があるからだ。
合わせてマガジンリリースレバーも同様に左右両用可能なように配置する。
90度である理由は操作ミスを減らす角度として最も優秀なのがその角度であるため。
45度という角度にして独自性を打ち出しているパターンも西側のアサルトライフルにはあったが、俺の予想じゃ確実な動作からいずれ絶対に90度で統一してくるのは目に見えている。
セレクター構造にあまり注力していないヤクチアですら俺がやり直して以降の時代においては左右両用の90度変更セレクターにしているはずだ。
実際に使ったことがあるが、45度だといざという時にフルオートにしたりなどしてしまう事が多々あった。
西側のメーカーの人間もM16の方式は非常に優秀だと評価していたがゆえ、こちらを採用する以外に一切の検討の余地はないと見ている。
この辺りは最初から世界のデファクトスタンダードとなる形式を取り込んでいく。
だがこれだけでは足りない……どうする。
まだ何か知恵が足りないようだ。
一先ずこれだけでも形にはなる。
西条に見せて、その上でさらに改良案を出すしか……ないか。