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第167話:航空技術者は真珠に花を添える(後編)

「――あれか、噂の新型機とやらは」

「大きいですねえ」

「……話には聞いていたが、一体あれのどこがDC-4Eなのだ? 写真とまるで見た目が違うぞ」

「本国のメーカーは政府から相当に苦言を呈されたらしいですよ。開発中のDC-4の設計図を誤って渡したのではないかと追求されておりました」

「確かに、DC-4に似ていなくもない……のか?」


 現地人がポキなどと呼称した刺身による海鮮丼ともいえなくもないような何かを堪能した翌日。

 現地の要人との交流をかねた式典が行われた午前中のことだった。


 やや離れた位置より何やら会話している明らかに軍人と思わしき男性2人のうち1名を見て衝撃が走る。


「これはこれは……最高司令官殿じゃないか」


 思わず独り言が零れる目線の先にいたのは、後一歩で連合国軍最高司令官総司令部の最高司令官という肩書きと共に名を馳せたかもしれぬ男。


 着任直前に、NUP主導による統治に強い不満を持ったヤクチアによって行われた奇襲の爆撃で命を落としているが……あの顔は一度でも見たら忘れやしない。


 巣鴨拘置所で見た時と変わらん。

 なんとも気に入らない顔だ。


 象徴的ともいえるサングラスにタバコをくわえた姿で深山を食い入るように見ているのは間違いなくマッカーサー中将。


 本来の未来ではつい先日復帰したばかりのはずだが……未来が変わって復帰が前倒しになったか?

 本来の未来なら、ここ数日の間に復帰して少将から中将になったばかりのはず。


 だとして、なんでこの男が深山を偵察しにきているんだ。

 まるで状況が読めない。


「翼に対して胴体が非常に細いのは……皇国もよくもこのような発想に至ったものだと感心します」

「どういうことなんだ?」

「大型機に必要なアルミ押出し材について皇国は出遅れておりました。胴体径を既存の航空機から大きく乖離しない程度に収めれば、皇国にある現用の工作機械でも大型機は作れるということです。だからこんなにもチグハグな容姿をしているんです」

「中はとても狭そうだ。我々では入れないのでは?」

「かもしれません。でも、鹵獲されて敵に使えないというのは利点ではないですか」

「それで……マクライン大佐。あの機体は間違いなくここまで無着陸で飛んできたのだな?」

「ええ。硫黄島など皇国の各地に密かに海軍が艦隊を派遣して様子を伺っておりましたが、報告では一度たりとも着陸したことはないとのことです。皇国は硫黄島以外に離着陸できる発着場は無いとのこと。7000km以上の航続距離は間違いないのでしょう」


 どうやら八丈島についての情報は漏れていないらしい。

 そしてNUPは深山を相当に警戒している模様だ。


 ただ、だとして最高司令官殿がどうしてこの場所にいるかはまだわからない。

 ニミッツ提督もそうだが……彼らはどうやら皇国人はまるで王立語がわからないと堂々と軍の機密と思わしき情報をベラベラと話すのだな。


 周辺には他に軍事に鋭い人間もいないと油断している様子だ。


「つまり、ここを取れば奴らは本土を爆撃できる……」

「積載量は800kg爆弾4つ程度を爆弾倉に搭載可能らしいです。本国にはすでに6機近くの機体があるとのこと。ようは最大24発の800kg爆弾を我が国へ向けて爆撃できるということになります」

「……ホワイトハウス周辺を更地にできるな」

「してもらってもいいんじゃないですか? 現体制を続ければいずれ国際求心力を失います。我々は1つの意思でまとまるべきだというのに……自らの内に野望を掲げた人間が好き勝手にそれぞれ行動し、その結果、少なくない国が我が軍に不信感を抱いている。一枚岩ではないだけだということが理解されない」

「よせ大佐。思っていても口にしていいことと、いけないことがある。誰ぞ聞き耳を立てているやもしれんぞ」

「失礼しました」


 そうなんだろうなという感じはしなくもないとはいえ……興味深い内容だ。


「ともかくだ……シンザンとやら。皇国は我々を一歩追い抜かしたと判断した方がよさそうだな?」

「硫黄島からだと司令部まで往復可能な距離ですが……現皇国体制で攻撃を受ける可能性は0といっていいでしょう」

「我々が先に手を出さない限りは、だ。私の監視が行き届いているうちは、こちらからの先制攻撃などさせんよ」

「今こちらが手を出して裏切れば勝てないかもしれませんしね」

「まだあちら側の勝率は3割程度のはず。奇襲からの電撃戦でも行わない限り本土まで兵力を届かせることなど……」

「本土近くまで到達されたら以降はどう運ぶかわかりません。司令官殿も最近我が国が俄然注目している王立国家の研究論文はご覧になられているのでは?」

「例の空挺降下に関する研究論文か」


 空挺降下?

 エアボーンか、ヘリボーンか……もしくはその両者か。


「エアボーンとヘリボーンに関する戦術論……非常に興味深い内容だった。我が軍と皇国を中心に熱心なエアボーンとヘリボーンをあえて使い分けることで、電撃戦を超越した更なる大規模進攻作戦が展開できるという……」

「両者共にユーグで実績を出していて、特に王立国家は要塞や塹壕への対応力の高さからヘリボーンに注力しています。また、あっちでは今エアボーンに用いるための落下傘用の絹が大幅に不足しており、大規模なエアボーンはまだしばらくの間は実施できない見込みです」

「我々ではどちらが優れているかなど評価できんよ。何しろモノがない。わかっているのはエアボーンだけだ」

「どちらが優れているというような論調は王立国家もしていません」

「そうだったな……しかしなんだ。ヘリボーンについては皇国と共同で見出したというが……なんとも不可思議な話だ」

「どうしてそう思われるのですか?」

「彼らは開国以降、列強国の模倣で成長してきた民族だ。大佐は戦術論関係でいきなり新兵器をああも使いこなす運用を見出せると思うか? これまでの歴史からするとあの国にイノベーションを起こすような力は無い」


 くそ、彼らの話はどうしてもムズムズする。

 皇国だってイノベーションを起こせる人材はいるということを声高に叫びたくなる衝動にかられる。


 それをやれば取り返しのつかぬ状態になることはわかっているので自制できているが……随分と煽ってくれる。


「そうは言っても、彼らは開国以前に王立国家と戦闘行動を起こしたりしていますし、昔から侮れない力があります。実際に東亜では独立国としての立場を確固たるものとしているわけですし……そろそろ高度な能力を有した人材が育ってくる頃合です」

「だとしても皇国にその発想力があるとは思っていない。第三帝国の総統閣下も昨今の技術革命の背景には我々や王立国家の新技術を貪欲に吸収し、その裏に国外の血を引く戦術にも精通した卓越した技術者の集団がいると見ている」

「非論理的です。ヘリボーンについてだって、アイディアマンの王立国家と共同ならありえるのでは。救難機としての運用を開始したのは確かに皇国が最初だったらしいですが、細かい運用方法を見出したのは王立国家といいます。上手い具合にいいコンビなんじゃないんですか。皇国がそれとなく見出して、王立国家が答えを出す。結果それらは電撃戦をひっくり返すかもしれない」

「まだ仮定の話に過ぎん。1つや2つ作戦を成功させたところで正攻法として昇華できるわけではない。といっても、私も素直に王道の定石戦術として未来に刻まれるものと理解しているが」

「ならば、尚更試さねばなりませんねえ。……海軍への納入が決まったシコルスキーの新型は我々ではやはり入手できませんか」

「海兵隊すら先んじて手に入る算段をつけたというのに、残念ながらな」

「間違いなく早急に入手せねば取り返しのつかぬ事態になりうると進言します」

「そのための政治活動は私達に与えられた仕事ではない。チョコレートをくばればヘリコプターを譲ってくれるというならば喜んでそうしよう。しかし皇国人はそこまで愚かな民族ではないからな」


 ……彼らの話からすると、どうも王立国家はヘリコプターに関係する情報についてNUPと共有してしまっている部分があるらしい。


 いや、NUPが相当に熱心だということか?

 各種戦術関係の論文は王立国家の今の立場だと隠そうにも隠せないからな。


 言語が異なる皇国では翻訳しないことである程度の抑止となるが、あっちは同じ言語がゆえに駄々漏れ状態。


 いやな兆候だ。

 せっかく王道の新戦術を先んじて手に入れようっていうのに、その流れにこうも簡単に追随されるとは……


 逆を言えば1000機単位でのヘリボーンを実施するために強引ともいえる手法で体制を整えたい西条は、ある程度この状況を理解または予測しているんだ。


 早い方がいい。

 間違いない。


「ともかく、皇国の技術力が我々にとって無視できないほどの成長力を有しているのは間違いありません」

「いずれ刃を交わすことになるのか、それとも技術力だけを競い合うだけの仲となるのか……政治家が決めることだとはいえ緊張状態はしばらく続くだろうな」


 ――結局、彼らが何を目的にハワイにいたのかはわからず仕舞い。

 こちらが妙な行動をしていることはないはずなのだが。


 相手側はなぜか皇国を過度に警戒している様子が見受けられる。

 今NUPと戦いだしたって皇国にとっては利点がない。


 それはヤクチアに隙を与えるだけだ。

 俺達は、ただ真の意味での生存圏がほしいだけだというのに。


 ◇


「おい見ろよ信濃! あれがNUP陸軍が将来のヘリコプターの運用を見越しての訓練に使っている秘密兵器だってよ」

「うん? あいつは……」


 式典がおわってしばらく後。

 皇国とNUPとの技術交流の場でNUPより披露されたのは一見すると摩訶不思議な姿で飛ぶ回転翼機だった。


「一体なんだありゃあ。車で引っ張って……面白いことやってんな」

「あれはローターカイトじゃないか。どこのメーカーが作ったんだ」

「ローターカイト?」


 ローターカイト。

 一番最初にその存在を提唱したのは王立国家だ。


 いわゆる将来の未来において王立面に染まった珍兵器などに分類されたりすることがある代物だが……


 明確にしっかりした流体力学に基づいて作られている。


 これは何かといわれれば、パラシュートに依存せずに陸地に向けて着陸することが出来る回転翼式のグライダーもとい凧というべきだろうか。


 すでに誕生から50年以上経過しているものの、実用的な有人機はここ数年の間に誕生している。


 仕組みはオートジャイロなどとほぼ同じで、正面から受けた風でローターが回転しつつ、そのローターの回転力によって生じた揚力で本来ならば真下に落下していくところ、気流を制御してゆっくりと前方斜め下方向へと降下していくもの。


 オートジャイロは動力があるため水平飛行可能だが、ローターカイトはエンジンなどの動力源となる装備は一切なく、外力で受けた大気の流れを捉えて適切な速度を保ってある程度自由に効果地点を決めて降下することが出来るだけの代物だ。


 一応、何らかの方法で牽引したりすることで自力ではないものの飛行することは可能である。


 また、これは余談だがヘリコプターもピッチ変更等ができればエンジンが停止しても同様の方法にて緊急着陸することが可能。


 ヘリコプターの場合の墜落事故の多くはローターそのものが吹き飛んで発生することが多く、エンジン停止までは緊急事態であるもののまだなんとかなる状況なのである。


 話をローターカイトに戻すと、こいつは動力がないのに加え、垂直降下というのも実際は行わないのでヘリコプターなどと異なりテールローターなどの類は装備されていない。


 多くの場合、まるで魚の尾部のような胴体構造を後方に持ち、進行方向から受けた風を捕らえて姿勢を制御しようとするが……


 第三帝国製のように垂直尾翼や水平尾翼を持つようなタイプもある。


 特にこのローターカイトを有効に運用したのが他でもない第三帝国だった。


 彼らはかねてより生じていた潜水艦の索敵能力の低さに対し、何らかの手法で戦艦の艦橋のような高さほどの空中にて索敵を行えないかと模索し……


 当時ヘリコプター研究に熱心だったフォッケ博士らヘリコプター研究者がその話に対して示した回答こそがFa330である。


 フォッケ博士らフォッケ社の研究社は王立国家の特許文章からローターカイトの存在についてはかねてより熟知していたが……


 彼は本格的なヘリコプターと遜色ないような外観と空力特性、そしてローターピッチ制御構造を持つ完全に無動力なローターカイトを開発。


 これをUボートから曳航することでピッチ制御によってある程度以上に自由自在に姿勢制御を行えるローターカイトを生み出した。


 こいつの飛行能力は相当なもので、ジープなどちょっとした車から牽引するだけでも十分な高度に達することが出来た。


 それこそ最終的にヤクチアが本機をヘリコプター訓練用として発展させたものを採用するほどだ。


 航行速度の遅い潜水艦からの牽引でも高度50m以上もの高さに上がれるよう調節されたこいつは、正面から受けた風を適切にローターが揚力に変換するだけでなく、ある程度の範囲でローターピッチを制御して旋回が行える。


 また、このローターピッチ変更で上昇と降下すらも可能としていた。

 当然だが潜水艦はローターカイトを降下させるために一時停止などしていられない。


 つまりローターカイト自身が気流の流れを適切に逃がして降下できなければ、航行している間はずっと上空を漂ったままとなってしまう。


 Fa330は当然のごとくソレを可能としたローターカイトだったわけだ。


 一方で生みの親である王立国家も何もしなかったわけじゃない。


 もうしばらく後のことになるが、彼らは先ほど最高司令官殿が話していた絹不足によってエアボーンが実施しにくい対策として本来の未来ではローターカイトを見出す。


 それこそが試作されたローターシュートと呼ばれるものなのだが…… 


 実際に爆撃機などから降下したりなどそれなりに成功したものの、かなりの容積を持つローターシュートは爆撃機に多数を積載することが困難で、また一人乗りであることから空挺降下作戦用として大量に運用する上で大量の爆撃機が必要となり非現実的という話へと至って研究段階以上の成果を出すことができなかった。


 ちなみにその結論に対して開発者らは「だったら大人数を載せて降下できりゃいいんだろ! ついでに降りた後にすぐ作戦運用できるようにしちゃるわ!」――といってジープにローターシュートを取り付けた「ローターバギー」なる暗黒面に染まりきったものを開発したりもしてみたものの、本国の軍上層部は冷静に「不採用」としている。


 結果的に事実上実戦運用したのは第三帝国のみとなったが……Fa330はFa330で組み立て式ながら組み立てに20分以上もかかり、索敵を開始するまでにタイムラグが生じることから扱いづらい兵器として潜水艦乗りの間では不評だった。


 それでもそこそこ成果を出しているため、しぶしぶ運用していたというのが実情だったという。


 さて、そんな状況に対して現在はどうかというと、王立国家ではローターカイトの話は微塵も出ていないということだった。


 彼らは本物ヘリコプターを知っているのだから、ローターカイトに拘る必要性が微塵もない。


 むしろ今は「エアボーンが出来ないならヘリボーンをやってしまえばいいじゃない!」――といって、皇国に向けて大量のヘリを供給するよう申し入れている。


 皇国としてはあっちが適切な運用法を見出してくれるのでそれなりに協力的な姿勢でいるが、ローターバギーは残念ながら闇に葬られる様子だ。


 なぜなら現状でジープを吊り下げて戦場に運び込むことが可能なヘリコプターが、当たり前のごとくこの世に存在するからである。


 2601年になって小数生産されたジープは、俺を通した皇国の強い供給への要望にNUPが素直に応えて数台を他国に先んじて供給した。


 当然こいつをヘリコプターの新型機で当たり前のごとく各地へ運ぶ試験ならすでにやった。

 ユーグにまで持ち込んで吊り下げて数百キロ先の場所まで運んだ。


 王立国家がやりたかったことはすでに出来ているので、ローターバギーを作る必要性はもはや微塵もない。


 ローターカイト自体の話がまるで無いのも彼らが注目しているのは現時点では完全に妥協の産物となるローターカイトではなくヘリコプターだからだ。


 ゆえに一体どこのメーカーがこいつをNUP陸軍に提供したのかと思えば……


 間違いない。

 Fa330だぞこいつは。


 こんな特徴的な垂直尾翼と水平尾翼構造は、王立国家式のローターカイトは採用していない。

 もっと魚の尾部のような、オートジャイロ系の構造をしているんだ。


 まだ大量生産が始まったばかりのジープが牽引してるのはFa330だ。

 若干見た目が違うが、大きく相違しない。


 ピッチ変更を操縦桿で行うなど、完成度も高い。


 つまり……NUPは密かにフォッケ社からローターカイトの現物または設計図等を供給してもらったわけだ。


 ヘリコプター関係で危機感を抱き、シコルスキーを除けばヘリコプターを現状で唯一作れるメーカーであるフォッケ社と何らかの交流を行ったに違いない。


 そこで手に入れたのが……ヤクチアでヘリコプター訓練用としても見出された実績のあるローターカイトか……


 うちには本物があるから訓練用でのローターカイト採用についてはその危険性もあって避けていたが……当然本物が手に入らない中で本物を手に入れる前の段階で操縦者を育てていく上でFa330なら十分な能力があるのは間違いない。


 全く持って手段を選ばん。

 これは西条に報告しとかなくてはならないな……


 こっちの情報が漏れたかどうかはわからんが、何らかの交流はあると見た。

 NUPは立場上皇国の出入りは自由。


 新型機の情報など、外部に漏れてほしくない情報を取引して、その対価としてこの手の大きくミリタリーバランスを崩さない新兵器を譲ってもらっているのかもしれない。


 ともすると最高司令官殿がハワイにいたのも深山だけでなくローターカイトを視察するためか?

 やはり今後もしばらくは警戒しないといけないようだな。


「はえーなるほどな。ところで、あれうちでも有効なんじゃないか?」

「よく見てみろ。動力が無い。いざという時に対処できない」

「ああ、なるほど……車の牽引力に頼りきってんのか。よくよく考えると怖えな」

「ヘリコプター飛行士の訓練が間に合わないというならば考えよう。だけど事故は間違いなく多発するぞ」

「そいつぁよろしくない。だが、個人的に乗ってみたくなる衝動に駆られるな。面白そうだ」


 ジープに牽引されて機体の向きを左右へとややフラつきながらも方位を整える姿に、中山は子供がおもちゃにあこがれるような視線で持って眼を輝かせていた。


 結局はこの男も航空機好きなわけだ。

 そうでなければ技研が採用するわけもないか。


 ◇


 技術交流が終わった後、深山はお披露目飛行に飛び立ってロジャース飛行場を離陸した。

 せっかくなのでと少佐からの提案もあり、俺も同乗して世界一平和な爆撃に参加することになった。


 海軍としては万が一の責任を陸軍にも背負ってもらおうという魂胆なのかもしれないが……少佐の表情を見るに純粋に設計者なのだから共に深山初の作戦行動に同行してはどうかといったような気持ちでの提案だったらしく、俺も特に拒否する理由もなかったので同行した。


 深山はしばらくハワイ島周辺を飛び回った後で各地の島々へと遊覧飛行を行う。

 そして各島々への海岸線沿いへと向かうと、それぞれの島にて1回ずつ桜を撒いてハワイの島々に皇国の春を届けた。


 海岸線沿いには明らかに皇国人移民者とみられる人らが集まっており、事前にニュースか何かで伝達されていた様子である。


「――どうせなら中佐もご一緒にどうですか!――」


 それは最後にオワフ島に戻ってきた時のことだった。

 少佐は本来ならば一人で行う爆弾投下用のレバー操作を自身と共に行うことを提案する。


 ホノルルの海岸線沿いにも多くの住民がこちらの様子を見守っているのが機内から見えた。


 なんという神のいたずらだ。


 少佐は本来の未来なんて知らないんだろうが、俺にとってその行動はいろんな意味で此度の世界におけるNUPへ向けての意思表示となる。


 これ以上のことはない。

 ぜひやらせてもらおうと思った。


 現時点でのNUPと皇国との関係性からいえば、この爆撃が答えだ。

 真珠に花を添えよう。


 でも決してこれはあの時のNUP人に対しての鎮魂を意味するわけじゃない。

 謝罪でも反省でもない。


 単純に「今」における皇国の立場による意思表示だ。

 今の皇国は犯していない。


 俺の記憶の中に真実があるのみ。

 その上で、過去の記憶と今のNUPとの関係性にふんぎりをつける。


 よく見ておけよNUP。

 俺がDC-4Eから盛大に形を変貌させた深山は、きちんとモノを皇国から運んできたぞ。

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[一言]  歴史好きとしても、一族が国にご奉公してきた身(私自身も)としても今回の話は、感慨深いものがありました。  戦争に負けたので一族のやってきたことは後ろ指を指される事が多かったですが、架空の話…
[一言] 何かどうでもいい解説ばっかり続きますが大きな動きは何話後ですか?
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