第167話:航空技術者は真珠に花を添える(前編)
狭い、寒い、怖い。
今この状況をどう説明すべきか率直に表すならば、この3つの単語が並ぶ。
またか……などと絶対に言ってはいけない。
前回とは違う。
前回は海軍の旧式も甚だしい艦爆に乗せられての長距離飛行だった。
だが今回は違うのだ。
技術者として、決して不満を述べてはならない機体だ。
この機体の設計者……もとい再設計者は他ならぬ自分なのだから……
皇暦2601年7月26日 午前8時30分。
現在太平洋を南下中。
よりにもよって今回の長旅で乗船することとなったのは……
自分自身が性能を極限にまで突き詰めた結果、動線などを一切無視して作戦行動にも支障が出かねないほど搭乗スペースを削った、皇国国産にして現時点で国内最大級の大型戦略爆撃機なのであった。
一体全体どうしてこうなったのか。
それは2日前に遡る。
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「――うっ!? 今日もすごいな」
まだギリギリ日の出かどうかの早朝の時間帯。
いつものように宿舎から立川の基地へと移動しようとした俺の前に現れたのは、大量の人の列だった。
「ええ。自分も思いもしませんでしたよ。ここまで視力の足らぬ皇国民が多かったとは」
守衛として基地の門の前に立つ若い陸軍人は、その様子にすでに慣れたとばかりにこちらに敬礼する。
大量の号外とラジオ、テレビを含めたニュースは皇国中に響き渡った。
その結果を今目の当たりにしているわけだが……
事前に身体検査等を行う場所の指定を行わなかったことで、各地の陸軍基地……特に飛行場を有するような場所に大量の人間が押し寄せてしまったのである。
そしてその人の列は……実に興味深いものであった。
身なりに一定の法則性があるのだ。
「なんというか、この国の闇と裏を垣間見た気がするよ」
「そうですね。詩人、文学者、哲学者、大道芸人、タイピスト…………自分はてっきり浮浪者や出稼ぎ労働者がつめかけるものとばかり思っておりましたが、謎めいた職業の人間が極めて多い」
「彼らは何を待っているんだ?」
「トラックです。手配したトラックに乗せて所定の場所まで運びます。バスを待っているようなもんです」
「そうなのか……」
まるで花見にでも訪れたように明るく談笑に花を咲かせる集団もいれば、ボソボソを何かをつぶやきながら航空関係の雑誌を読みふける者もいる。
何を考えているのか化粧を整えつつ、一方で注意でもされたのか静かに時を待つ芸人達の姿も確認できる。
思うに、彼らは生きるのに必死だったのだ。
必死がゆえに食いつなぐ方法を模索し、その結果その職に就いて今日まで忍んできたのだ。
その裏では……空への夢を抱いていたのだろう。
中には衣食住に困らないからと志願した者もいるだろうが、俺にはわかる。
彼らの空への憧れは本物だ。
心に宿る空への想いははっきりと伝わる。
ずっと内に秘めて今日まで必死に生きてきたのだ。
そんな状況の中で陸軍が発表した規制緩和は、彼らにとって無二の機会。
全てを投げ捨てでも挑戦するだけの価値がある。
水や食料を分け与える様子が散見されるのも、同じ道を志す者同士、強いシンパシーを感じるのだろう。
二輪好きが旅行と称して遠くへ出かけたときなどに、誰もいないような小道を走る際に他のバイカーを出会うと挨拶をしたくなるのと同じようなものなのだ。
上も下も、学歴も職歴も年齢も関係ない。
彼らは自らの意思でもってこの場所まで来た。
異を唱える者もこの姿を見れば多少は考え直すだろう。
視力が1.0に届かぬというだけで排除すべきではなかった人材が国中にあふれかえっていたという事実がそこにある。
◇
基地に踏み込まずにしばし見入っていると、おにぎりなどの軽食と思われるものを配布しに訪れた者がいるのを見かけた。
国家総動員法が施行されている状況で、他者に配るほどの食料をどこで手に入れたのかは知らないが……
前に進もうと思う者へ背中を押そうとする人間もまた、空への憧れがあるように見受けられる。
50代は過ぎていると思われる男性は残念ながら年齢制限を越えている。
だからこそ何かを託すために、この場所に来て自らが進めなかった道を進もうとする者達のもとへ訪れたように見える。
満足そうな様子から自身が思い描いた人材が集まってくれているようだ。
「おとといは餓死寸前の状態でここに訪れる者もいました。それをみかねてなのか、ああいう人が来るようになったんです。多くの者が消耗してやってきますからね……ここに来る者は皆、山梨などを通過してこちらまで歩いてきたりしているようなのです。柳沢峠や大菩薩峠周辺でこちらへ向かおうとする集団が確認されているとのこと」
「靴を見ればなんとなくわかるよ」
「自分にはよくわかりませんが、焦がれるものがそうさせるのでしょう。汽車も満員状態でまともに乗れないとなると、最後は自らの足で」
「その強い意思がこの国の明日を導くんだ。ともすると妙な人間も混じっているかもしれないが、そういう輩は排除すればいい」
「まあ多少はいるのでしょうね。見極めねばならないことでしょう」
「ああ、――ん?」
「知り合いの方でもいらっしゃいましたか?」
会話に興じていると見慣れた顔の男性をみかける。
「あそこにいるのは……皇宝の……」
「ああ、昨日も来ていらっしゃいましたよ? 迷った末に一度帰られたみたいですが。どうやら今日は本気のようです」
「そういえばあの人もか……」
その男はトリック撮影と呼ばれた技術に「特撮」と名づけ、陸軍用の教材映画撮影の際に、かつて航空学校で飛行を学んだと称して軍人の目の前でアクロバット飛行すら見せた男。
そればかりか一人で飛行しながら撮影すら行って周囲を唸らせるほどの腕前すら持っていた。
しかしながら実はこの時点で視力が1.0未満であり……さらに運命のいたずらによって青年時代に飛行学校が廃止となった影響で、残念ながら飛行士としての道はとっくの昔に断たれたはずの人物。
俺は彼に新型航空機の整備用の映像教材の製作を依頼し、それらの撮影も終わってヘリコプター等の映像で見る整備マニュアルのようなものをこさえてもらったのだが……
思えば実際に飛ぶアレに熱い視線を向けていたのを思い出した。
漫画方式ともいえる誰でも読めば理解できるかもしれないマニュアルだけでは説明不足と思い、陸軍の推薦も受けて彼に一連のジェットエンジン及びジェット機の整備関係の映像教材も作ってもらったが、その最中に規制緩和されたことでいてもたってもいられなかったのだろう。
昨日諦めたのは映画と飛行士の両立ができるかどうかで悩んだからだろうか。
相談いただければ今後も両立した立場で撮影に携わってもらうよう手配できるのだが……
まあ、まずは実際に飛行士になっていただいてから考えるべきことか。
……すでに辞表など出していないか不安だが、ともかくこういう人間も呼び込むだけの力がヘリコプターにあることがわかった。
仮に飛行士となれたら将来の映画界に影響などあるかもしれないが、悪い方向にはならないだろう……多分。
特撮系の全ての怪獣が空を飛ぶことが当たり前となる程度だ。
……大丈夫だ。主人公も飛べれば問題ない。
本来の未来では亡命してNUPにてスタジオを作って映画監督となって怪獣シリーズを作り、B級映画などで名をはせた人物だが……それは表向きに監督活動をしていた彼の姿。
その裏では世界各国で大ヒットしたSF作品である宇宙戦記シリーズでも特撮担当で活躍もし、NUPの映画史においてその名が刻まれるそれなりに有名な演出家でもある。
このまま皇国が存続できれば、あっちと平行してこっちでもこの国に根付くヒーローなどを描いてくれるかもしれない。
きっと主人公は空を飛び、ともすると怪獣と戦うような作品になるんじゃないか。
スーパーマンすら超えるようなヒーローが誕生するならそれはそれでよし。
今は静かに見守るとしよう。
しばし様子を見た後で守衛に軽く挨拶を交わし、俺はそのまま基地へと入る。
その日は心なしかいつもより体が軽くなったような状態が一日中続いた。
だが浮ついた感情となることはない。
このすぐ後にこちらの意識を引き締める出来事がやってくるのである。
◇
「――よし、来たな」
「緊急事態発生ですか? まさか迎えのヘリまで出されるとは」
早朝の朝礼と午前のメーカーとの会議が終わった後、俺は立川に迎えに来たヘリによって参謀本部へと向かうこととなった。
大至急とのことだったので身なりも整えずそのまま向かうと西条の執務室へと案内される。
西条は深刻そうな表情はしていない。
かといって祝い事のためにこのような呼び出しを行うような者でもない。
俺は西条の落ち着いた様子と、ヘリによっての呼び出されたという現実の双方が矛盾となって襲い掛かり、何か不気味な悪寒を感じ取っていた。
「そう強張るな。大した話じゃない。いいか、今すぐ荷物をまとめて指定の時間までに木更津に行け」
「はい!?」
「荷物の中身は数週間の長旅に耐えうるものだ。ドレスコードにも気を使えよ」
「どういった意味合いの命令ですか」
「お前がもっとも手にしたいとしていたものが、手に入るかもしれない算段がついた。私は以前にもいつでも国外に出られるようにしておけと指示しておいたな? その機会が訪れたということだ」
「それはつまり……陛下が……」
西条の口調に特に怒りの感情やらなにやらといったものはない。
淡々と必要な事項を述べていくのみ。
そして伝えられた内容から察するに……俺は近日中にNUPに向かうこととなったのを察した。
「そういうことだ。この機会を絶対に逃すなよ。同行する他の技術者にもそう伝えておけ」
「は、はっ!」
「うむ」
「……あの、ところでなぜ木更津なのですか? 羽田や調布ではないのですか?」
「急遽決まったことだからな。旅客機の席など空いてなどおらん。せっかくの機会だ。以前に述べていただろう。"せめて今度は自分が設計した航空機で長旅がしたい"――と。だから可能な限りの状況を模索して手配した。木更津でお前の旅を支える船が待ちわびているぞ」
そこで俺はようやく理解した。
自身が墓穴を掘っていたことに。
俺はModel307に乗れなかったユーグへの旅路で、九九式艦爆を皮肉って「どうせなら今度は自分の航空機で――」――といったことを西条へ述べた記憶が確かにある。
しかしそれは対象を艦爆とした上での比較であり、“普通に307に乗せてくれ”といった意味での皮肉だった。
だが西条はその言葉を額面どおりに受け取ったらしい。
NUPまでの旅路のために用意されたのは――現時点で皇国史上最大級の爆撃機「深山」だった。
◇
「――すみませんね……ただでさえ狭いというのに搭乗者を増やしてしまって」
「いえいえ。この深山、少しばかり搭乗者が増えた程度で飛行に支障が出るほどヤワな機体ではありません。今回は重たい爆弾も積んでませんしね」
身長168cmの男性が、操縦席近辺にある爆撃手が飛行中に待機するためなどを目的に設置された簡易座席に着席し、その状態で手を天井に向けるだけで天井に届くほど狭い室内。
それこそ、深山がB-29に匹敵する性能を得た代償として受けた絶望的なまでに削られた搭乗員区画であった。
これまで一度も搭乗したことがなかった深山だが、改めて自分がやりすぎたことを実感させられる。
コックピットの2名以外、俺を除いて現在15名の搭乗者が深山に乗り込んでいるが……正直何か起きたら脱出もままならないほどの寿司詰めである。
この日のために後部機銃は取り外され、その部分すら搭乗区画となった。
俺は今コックピット側にいるが、おそらく後方ブロックの状況はまだマシのはず。
慣れない技術者達を大勢乗り込ませるために同行する軍人は一番狭い場所に押し込まれる形となり、後方のトイレやベッドなどが備えられたそれなりの居住区間は民間人に譲っているわけだ。
この最大航続距離7000km少々の大型機……どれほど信用していいのかわからないというのが怖い。
これが落ちたら皇国の航空技術の中枢を担う人材が一気に消失する。
そう思うと信頼性を重視して設計したはずの機体がとてつもなく信用できなくなり……常に不安に苛まれた。
いくら設計がよくても整備や製造でミスを犯せば落ちるものだからな……航空機というのは。
深山は他の機体と違って海軍機なので零と同様、海軍の感情を逆撫でしないよう機体チェックは最小限にしていた。
この後に続く深山改、連山などとは立場が異なる。
あちらは陸軍でも採用するために積極的に介入……というよりかはもはや陸軍が開発しているといっていい具合だが、こちらは海軍を尊重してあちら側の技術者に多くを任せていた。
もちろんそれで完成度が落ちたわけではない。
設計通りに作られていて、妙な構造変更等一切行われていないことぐらいは確認している。
そしてすでに深山は長距離飛行試験もやって特に問題ないとも言われているのだが……外洋に出たのはこれが初。
普段とは異なる気象条件の中を果たして問題なく飛べるかどうかについてまでの飛行データは揃っていなかった。
一応は安定した飛行を見せてくれる一方、俺はそれが原因で己が生まれ変わらせた最新鋭大型爆撃機を心の底から信じてやれずにいた。
ちなみに深山に乗ることとなった理由は、海軍がキ77の長距離飛行と同時にNUPへの派遣を決めていたからである。
名目はキ77の護衛やその他とされていたが航路は明らかにキ77と異なっており、護衛とは名ばかりの平和的軍事作戦に他ならない。
いわゆる国内向けプロパガンダ兼、軍事力の誇示をNUPへ示すことで圧力をかけたかった様子だ。
深山の航続力はキ77に劣るため、今現在向かっているのはハワイ島である。
ようは「ハワイを取ればNUP本土への爆撃ができる」ということを海軍はアピールしたいわけである。
よくNUP側もそれを受け入れたな……俺と同じで彼らもきちんと到達できると思っていないのか?
ともかく、直接向かうキ77は明日皇国を発つが、その前の段階で深山は皇国を出発しているわけだ。
そちらで2泊した後にNUP本土へと移動する計画となっていた。
まさか本来の未来じゃ数ヵ月後に爆撃を敢行した場所に中継と称して観光に行くことになるとは。
それも爆撃機に乗って……どんな運命のいたずらなんだ。
「中佐。改めて乗ってみてどうですか?」
「揺れや振動は既存の機体より静かだとは思います。むしろ皆さんはどう思われているんです?」
「すばらしい機体だと思いますよ。確かに不満が無いわけではないですが、大きさに対して運動性も十分だし離着陸性能も極めて高い。不快な振動もないですしね。高高度飛行をしなければそれなりに快適なもんです。旧式の旅客機より、よほど具合がいい」
自信をもって答える様子から、それが本心であることはわかる。
現在進行形で操縦している人間が述べるなら間違いないのだろう。
確かに振動、揺れ、その他はレシプロ機としてはそれなりに押さえ込まれたほうだ。
生来から設計時に注意を心がけている飛行安定性についても十分。
現状の高度は3000m程度だが……これは万が一に備えてあえての低空飛行でもあり、すし詰めによる影響を受けてのこと。
深山は与圧されていない。
ゆえに高高度飛行には酸素マスクが必要なのだが……酸素ボンベは20名近くが搭乗する状況を想定しての容量を確保していなかった。
ゆえに本来の性能を発揮することはできないのである。
人間側が保たないのだ。
「しかしよく海軍も深山をNUPへ持ち込もうなどと思いましたね。一応は最新鋭の中の最新鋭機に分類される機体なのですが。性能の露呈について不安など生じなかったのですか?」
「確かに、現状で深山は我が国最高峰の性能を誇る大型機です。ですが、現用の深山ですらもエンジン載せ変えが検討されておりますし、何よりも大規模な改良計画が出来上がっているらしいじゃないですか。なので問題ないと判断されました。本機の性能が露見してもさらに性能を向上させられる保証がありますからね」
「ああ、なるほど……」
つまり海軍はハ44への載せ変えも計画しているし深山改や連山が本命なのだから、深山そのものを公にしても問題ないだろうと考えたのか。
たしかに深山改が完成すれば与圧室等完備されて一段上の領域に到達するものな……
ならば性能を誇張していないことを示すために深山を持ち込んだ方が政治戦略としては優れていると判断したのか。
あえて見せ付けずに運用するのとどちらが正解かわからないが……批判する理由も見当たらない。
ならば海軍側の判断を尊重するとしよう。
ところで、俺はさきほどから操縦席から見える太陽の方角から気になっていることがあった。
機体の進路がハワイ島へ向かう方角とは若干異なるのだ。
それを先ほどから会話に興じている作戦責任者と思われる佐官に問いかけることとした。
「すみません。ところで、どうして完全な南進を行われているんですか? 向かっている方角が違うような……」
「ああ、そういえば中佐にはお伝えしておりませんでしたね。当機は万全を期すために一度八丈島に着陸して機体状況を見つつ、燃料補給も行います。そのまま再び離陸した後はマリアナ諸島から進路を東へ切り替えてウェーク島またはミッドウェー島近辺を目印に通りつつ、目的地まで向かう予定です。航続距離的に直接ハワイへ向かうことは可能ですが、万が一が起きては問題ですから」
「八丈島? 飛行場を拡張されたのですか」
現状の八丈島の滑走路は1200×200の新飛行場と、村役場近辺にある300×500の旧飛行場、それとは別にV字形状で形成された2本の1500mほどの滑走路を持つ第二飛行場と、同じく1500mほどの滑走路であったとされる第三飛行場の3つが存在する。
3つ全て原則海軍管轄ではあるが、そのうち旧と新は陸軍と共用することも視野に入れての建設であり、海軍側が戦中主要飛行場とした第二と第三飛行場のみ管轄が完全な海軍下に置かれている。
こういった離島の飛行場というのは主に無人島ではない地域から選抜され、集落の近辺に「便利になるから」といって建設がなされ、村人総出で建設に借り出された記録が残されている。
ゆえに八丈島なんかを含め、村役場の目の前が飛行場などということが多々あった。
まだトラクターなどを活用してなどの空港整備が難しかった時代ゆえであるが……もちろんきちんと労働対価としての給与も支払われており、むしろ多くの村人からするとこういう建設話は好意的に捉えられていたとされる。
飛行場設置後の雑草処理などを含めた整備維持等も村人が有償あるいは他からの対価を得ての無償管理によって行われていた。
佐官の青年がどの飛行場を示唆しているのかはわからないが、どの飛行場でも距離が足りない。
深山運用のためには1800~2000mほどの滑走路が必要になるのだ。
ゆえに俺は、いずれの飛行場を拡張したのだと指摘した。
「本件にあわせて急遽新飛行場を拡張しました。NUPからレンドリースしたトラクターのおかげです。深山に合わせて2100m程にまで拡張しました」
「それはまた思い切ったことを行いましたね」
「軍令部では賛否両論ではありましたよ。同じような性能の大型機をNUPが開発しているというのに、離着陸できる施設を作って果たして大丈夫なのかと……宮本司令らは今後のレンドリース等の状況や、NUP側と共運用することも考えた上で敵対することは考えていないと言って押し切りましたが」
不安は理解できる。
本来の未来ならB-29を八丈島飛行場に離着陸させることが可能ならば、北海道は疎か樺太まで爆撃可能範囲になるわけだから、大変な失態である。
一方でB-17をレンドリースして使うなどといった場合、八丈島で一旦着陸できると皇国本州のほとんどの地域までカバーできるから運用効率は上がる。
新型ジェット戦闘機のフェリー時の中継地点とすることもできるだろう。
また、軍用ばかり考えずとも滑走距離が2000m近く必要なModel307などの中型以上の旅客機の中継地点とすることもできる。
ようは負けなければ、占領されなければ良いだけの話だ。
民間運用を考えたら2000m程あったほうがいい。
おそらく八丈島の村民の協力を得るために新飛行場を拡張したのだろう。
元々、官民共用も視野にいれた場所で協力を得やすい。
南西の第二、南東の第三は恩恵が少ないんだ。
南東は一応集落はあるものの規模は小さく、どちらも完全な軍用だしな。
しかしだとしても疑問が残るな。
「ふむ。宮本司令のお考えはそれとなく理解できますね。しかしながら、硫黄島の千歳飛行場は1800mあります。わざわざ拡張せずともあちらを使えば良かったのでは?」
「硫黄島近辺はNUP海軍の艦隊がうろうろしています。仮に着陸した姿を見られたとあっては実際の航続距離が4000km程度しかないのではないのかとあらぬ疑いをかけられかねません。万が一故障や不具合など生じたら緊急着陸場所として指定されておりますが、最大航続距離が6000km以上あるということに疑いの余地がないことを訴えたいわけです」
「大変納得できる話です」
「本当は無着陸でいければ良かったのですが、墜落したとあっては我が軍ひいては我が国に泥を塗ることになりますからね……かといって性能が誇張でもなんでもないことは示したいので」
「ご迷惑をかけて申し訳ないです」
「いえ、最初からその計画でした」
まあ八丈島で着陸してもマリアナ諸島あたりで進路を変更するなら6000kmほど飛行することに違いないわけだ。
万が一がおきても周辺の島々に近い場所を飛行すれば生存率も上がると考えた上での計画なのだろう。
やはり海軍側も深山を心の底から信用してはないようだ。
エンジン出力からいって3発状態でも飛行可能だが、2発となると怪しくなってくる。
もっと高出力なエンジンを搭載すれば状況も変わってくるだろう。
今はハ43を信じるだけ。
頼むぞ深山のハ43……お前がトチると皇国の航空技術が死ぬ。
止まるんじゃないぞ。
後に飛行資格を取得した映画監督並びに特殊技術担当により皇国には2つの名作が誕生した。
1つは3分間しか戦えぬスーパーヒーロー、もう1つは彼が特撮演出家としての手腕を発揮した怪獣王である。
双方は誕生から半世紀を経ても新作が製作され続ける名シリーズとなるが、どちらの作品においても人命救助に精を出す救難ヘリの姿は色濃く描写されていくことになるのだった。