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第166話:航空技術者は拘らない(前編)

「――それでなのだがな、お前に2つほど相談事があったのだが、まだ時間は大丈夫か?」

「問題ありません。なんでしょう?」

「今も窓の外から聞こえてくる我々はもう聞きなれた音があるな? これについてだ」


 戦況や国内情勢を含めたしばしの雑談の後、機会だとばかりに西条は相談事を持ちかける。

 丁度バタバタバタといった独特の音を奏でて飛ぶ、固定翼を持たぬ連絡便として活用されている新鋭の航空機が付近を通り過ぎた瞬間を狙ったかのようであった。


 やや焦りの表情を見せつつこちらに持ち込んできた新たな話題は、状況の深刻さと新たな展望を垣間見る内容である。


「ヘリですか………」

「うむ。まずは以前から何度も話題に上がっているヘリコプター要員補充についてだ。多少改善の兆しは見えてきたものの、どうにもならん。やはり従来の飛行特性と異なるという点が厄介だ。これまでの適正検査で見出された飛行士を採用しても必ずしもヘリコプターの操縦の素養があるわけではなく、そう簡単に数は増えない。かといって歩兵から素養を見出されて選抜された者の大半は教養が足りぬ……計器操縦に必要な読解力や計算力等、必要な能力が不足している。即戦力としては採用出来ん。育てあげるのに時間がかかるのだ」

「すでに技研含めて議題に上がったのは5度目でしたっけ? しかし、現状それなりに増えてきたのではないですか。現状の増加推移でも操縦者確保は十二分に達しておられるのでは?」

「少数配備しかしないのなら確かにな。だが我々は降下歩兵連隊を特戦隊に新たに組織する。その上で、大量配備の上でヘリコプター降下も可能とした空挺部隊を新設することとなった」

「はい……? まさかそれって!」

「そうだ。ヘリボーンという奴だ。2597年に信濃、お前が記述した資料に記載されていた現代戦とやらの戦術の1つとして描かれていたモノ……それを20年早い段階で我が軍にも全面的に導入する。すでに機は熟した」


 さすがの衝撃に次の言葉がすぐには出てこない。


 皇国が空挺部隊を検討し始めたのは本来の未来においても昨年からであり、現在の皇国も変わらぬ状況。


 それは1枚の写真から始まった。

 当時NUPが試行錯誤していたパラシュート降下部隊に着目した我が軍は、その有効性を理解するにあたり、自国でも研究を開始する。


 そしてこのパラシュート降下の進化・発展形態の1つともいえるのがヘリボーンに他ならない。

 決してヘリボーンの登場により空挺部隊の存在意義が揺らいだわけではなく、状況次第ではヘリが使えない上にヘリボーンに勝る利点もそれなりに存在するのでその後も併用されて用いられていくわけだが……


 ヘリボーンにはヘリボーンで単純な空挺降下と比較して多くの利点があり、戦略上での優先度は空挺降下よりも一段高い位置にある。


 単純な空挺降下は俺がやり直す直前で実施される例はきわめて限定的となり、降下作戦といえばもっぱらヘリボーンを指すぐらいには主流戦術から遠ざかってしまったほどだ。(特に大規模な空挺降下ほど実施例が減った)


 これは従来のパラシュート降下と異なり降下部隊の装備が限定されないなど、ヘリボーンには単純なパラシュート降下部隊と比較して歩兵戦闘力の低下を軽減させる力などがあったからだ。


 さらに言うと事前準備についても最低限で済む為、作戦計画を練ってから実行に移すまでのタイムラグが生じにくく、準備中に戦況が変わるということが少ないなどの即応性の部分で勝る。


 もちろん、そのためには圧倒的な航空優勢が必要であり(これは空挺降下もそうだが)、付近に殆ど戦闘機などが展開しないような状況にしなければならない。


 しかしそれこそ制空権というものはかならず穴が生じるので、そこにまるで針で糸を通すがごとく歩兵の大部隊を一気に最前線に展開できるという点では、限定的な降下地点となる単純な空挺降下より優れた点は多くあった。


 そもそもが片方だけ運用するなんて事はしなくていい。

 両者を柔軟に織り交ぜて利点を最大限に活かした作戦展開をしていけばいいわけだ。


 西条もあえて「降下歩兵連隊」と呼称し、「ヘリコプター降下も可能とした空挺部隊」と主張している。


 片方を否定しているのではなく、ヘリボーンと空挺降下、双方対応可能な部隊を新たに作ると言っているのだ。


 これまた随分な近代化を……


 ……そうか……思えば本来の未来よりも滑空歩兵連隊の設立が早かったのだ。

 前田氏の協力の下、グライダーをこさえて運用部隊の新設を上層部に求めたことで早まっていた。


 その上で彼らはグライダーを上回る存在としてヘリを見出していたことは報告書を通して以前に確認している。


 おまけに限定的ではあるが、ヘリボーンについてはすでに似たようなことはやっていたんだった。


 いかに保守的で柔軟な思考を有していない将官が多いと言われる陸軍だって、その有効性に気づかぬような愚将ばかりで構成されているわけじゃない。


 しかも、歴史的にそう判断された者を予め報告していたことで西条は彼らを冷静に切り捨てていったため、新陳代謝が生じて現状の皇国陸軍は組織としてあの頃よか遥かに近代的な思想を有している。


 辿り着くのは時間の問題だったのだ。


「西部戦線で何度か試行錯誤をした結果、現状におけるヘリボーンの有効性は十分に証明された。昨年からのおよそ10ヶ月以上の間に試案訓練中の空挺降下と並んで絶大な機動力を歩兵部隊に与えることが出来ることが立証されたのだ……ならば我々がやることは1つ」

「ヘリコプターの大量生産と、その要員の確保……ということですね?」

「それも1000機単位だ。我が軍だけではなく他国とも連携して電撃戦を超える機動戦で相手をねじ伏せる。こいつを見てみろ。すでに王立国家も乗り気だ」


 いつにもなく気迫のこもった声色に、西条を含めた陸軍の本気度が伺える。


 会話と同時に西条が示した資料をすぐさま手にとって確認すると、王立国家がヘリコプターの性能を絶賛するだけでなく、それを利用した歩兵展開速度の違いをグラフなどで示したデータがそこには知るされていた。


 例えば300kmという距離を歩兵が従来までに移動するために必要となった期間は地形にもよるが機械化歩兵部隊ですら1週間~10日ほど。


 物資やらなにやらしこたま積み込んで移動するのでどうしても鈍足にならざるを得ず、いかなトラック等を用いた機械化歩兵部隊ですらそれほどにかかる。


 移動先で何度も仮設キャンプなどを展開することとなるので、展開や撤収で相応に時間がかかるわけだ。


 このため、仮に第三帝国を相手に奇襲または歩兵部隊による側面からの強襲等を行いたいと思った場合、いかに敵に発見されずに突き進むかについては従来では無理難題が生じた。


 どうしたって移動中に捕捉される。

 時間がかかるからだ。


 ゆえに気づくと敵に囲まれていたりして有効な攻撃手段とならなかった。


 これを改善する1つの方法として現時点においてはグライダーというものも存在し、皇国もこれについて少し前まではそれなりに力を入れていた。


 いわゆる皇国陸軍に存在した滑空歩兵連隊というのは本来の未来においてはグライダーを積極的に活用する降下部隊のことであり、彼らはなんとチハに翼をつけてまで前線に運び込もうとしたりしたわけだが……(特三号戦車)


 これについても大部隊を送り込もうとなれば着陸地点は限定的で、あらかじめ着陸しそうな場所はつねに監視されていて見つかるのは時間の問題。


 仮に着陸できない監視対象外の場所を新たに切り開くには事前に部隊を送り込む必要があるという矛盾を抱え、どうにも出来ないジレンマが存在していた。


 だが、西部戦線で皇国と王立国家がヘリコプターを用いた実験運用を行ったところ、ヘリ部隊はわずか丸1日で300km先に2個師団を送り込むことに成功したという。


 持ち込んだのはヘリと重機、そして人員。

 彼らはトラクターなどを活用することで即席の空港をわずか数時間で作り上げ、そこに大量のグライダーなどを降下させて前線基地を即座に立ち上げ、そして第三帝国の無警戒だった補給部隊に強襲をかけて壊滅させることに成功していた。


 しかも攻撃を行った部隊はすぐさま撤収することにも成功し、第三帝国が報告を聞きつけてそれなりの規模の部隊を前線から後方へ押し戻した時には整地された土地を残してもぬけの殻となっていたという。


 いわゆる陽動にも成功していたのである。

 自分たちが潜水艦で海上でやってることを陸上でやられたんだから、第三帝国にとってはたまったものではなかったことだろう。


 だが、少なくても支線塔を中心とした狭い奪還地域を中心に地中海協定連合軍は綿密な作戦を練ることで、彼らに少なくない打撃を与えられることが可能となっていたのだった……ヘリコプターという新兵器によって。


 これは本来の未来においては王立国家が2604年に試験的にやってみた結果と符合する。


 ヘリコプターの最適な運用を考えたのは実はヘリコプターを誕生させたNUPよりも王立国家が先行していた。


 彼らはまず、今の世界のように医療体制を確保して救難機としてヘリを見出したが、その後に見出したのがヘリボーンに近いこういった奇襲作戦。


 すでに2604年の頃は制空権なんて第三帝国側にはあってないようなものなのでまるで手出しができず相次ぐ強襲攻撃に成す術なく叩き潰された。


 4年近く前倒しで同じことができる道具を与えられた王立国家はすぐさま気づいたのだ。

 その有用性と、使い方に。


 そして皇国と共に「ヘリボーン」を見出し、今に至る……そういうことか。


「お前に聞かねばならないことは操縦士だけではない。製造の部分についても意見を伺わねばならないことがある。大量生産にあたっては長島、山崎、四菱も協力の下、胴体製造などを担うことになった。だがこれだけでは不安なので他にも企業を募集してみたところ……規模のさほど大きくない愛知の自動車製造会社が信じられないことに手を挙げたのだ」

「その旨伝えてきたのは喜一郎という男ですか?」

「そうだが……知っているのか?」

「ええ、恐らくそろそろ声をあげてくるだろうと思っていましたから――」


 樋田喜一郎


 本来の未来においては東側最強の自動車メーカーにして、西側を圧倒する世界トップクラスの自動車企業グループの創業者である。


 彼の子孫たる後々の経営関係者達が世界屈指の自動車製造メーカーにまで発展させた頃、すでに世間では喜一郎は「自動車だけを考えて生きてきた男」として語られていた。


 喜一郎は最初から自動車にしか興味が無く、それだけに注力していたと、偽りの歴史が語られていたのだ。


 それは違う。

 彼は航空機にも興味があった。


 正確には「空飛ぶ自動車」という存在に本気で挑んでいた男である。


 時は2596年。

 第三帝国が自らの技術力を誇示するために示した世界初のヘリコプターたるFw61は、後に敵対する国家だけでなく同盟国においても衝撃を与えた。


 喜一郎はこの姿を見て、将来の自動車のあり方というものの1つにヘリコプターを見出すようになっていく。


 モータリゼーション発展の裏に渋滞問題がにわかに騒がれはじめたNUPなどを中心に、インフラ整備だけでは人員輸送の効率化は不可能という結論に、この時点で到達していたのは他でもない喜一郎なのだ。


 ゆえに彼は遅くとも2596年10月には体制を整え、研究という形からヘリコプターの開発を始めるようになる。


 そして本来の未来においては老年ながらも皇国屈指のテストパイロットとして名をはせた男と共に、当時としては熱力学を極めに極めた技術者らを社員として採用する傍ら、各所の大学の研究室からヘッドハンティングした上でチームを作って本格的な開発に乗り出すのだ。


 ここにさらに長島の流体力学系の技術者を引き抜いてきたりなどもしている。


 ちなみに熱力学に秀でた技術者達をヘッドハンティングした理由は、当時の技術理解では空冷式エンジンを高出力かつ軽量な小型のものとするのは不可能と思われていたからだ。


 ゆえに水冷でそれを達成しようと試みた。


 梅原博士など、名だたる熱力学系の研究室所属の工学博士を迎えた研究室は、まず東京の芝浦に小さな研究室を開設してヘリコプター研究を開始。


 後に本格的な研究室を愛知に設けて現在に至る。


 本来の未来において、この研究室内で特に熱心に研究中であった水冷エンジンは後にアツタ製造に大きな寄与をもたらしただけでなく、世界屈指の水冷の四輪用自動車エンジン製造への礎となるわけだ。


 しかも、研究室では独自にガスタービンやロケット研究なども行っており、これらは軍とは1枚か2枚ほどは壁を設けた状態で独自に行っていた。


 実際には各所でノウハウや研究成果が還元されていたのは事実だが、陸軍がヘリコプター開発計画を立ち上げたわけではない。


 彼らは2603年についに試験機とはいえ本格的なヘリコプターそのものを作ることに成功したと言われているほどだが……これも軍から頼まれての事ではなかった。


 それだけヘリコプターに将来性を見出して、新たな産業として成立させようという情熱がそうさせたわけだ。


 彼らは決してそれが兵器などとは一切考えていなかったとされる。


 ……さて、このようなことを誰かに述べたならばきっとこう言われることだろう。


「なぜ茅場だけでなく樋田も巻き込んでロ号を開発しなかったのか」――だ。


 理由は3つ。

 1つは研究者の多くは兵器開発とは別だからこそ積極的に協力していたという当時の実録により、研究者自体が離れて実力を発揮しない可能性があったこと。


 2つ目、最終的に2604年にヘリコプターは完成したとはいうが、これらの部品は同時期に同じく挑戦していた茅場製だったという記録が残っていること。


 当時ヘリコプター開発において樋田は茅場と協力体制があり、技術情報を交換していた。

 しかしながら結局ローターなどの主要部品は独力製造が出来なかったのだ。


 ここについての疑問は2つ。

 主要部品は彼らが設計して茅場に製造を依頼したのか、彼らに茅場が協力してサイクリックピッチなどを担うローター部品をこさえたのか。


 仮に前者だったとするならば彼らはサイクリックピッチ用の構造について理解があるが、それは当時の技術理解の領域を出ない。


 ヘタに横から口出しされてローター構造についてあれやこれや横槍を入れられたら困る。

 そして後者の場合は残念ながら技術力不足で申し訳ないが共同開発に参加させられるだけの実力を有していないといえる。


 どちらだったとしても茅場がソレを達成した以上、彼らの協力を得るのは必然だったが、不安要素や不確定要素が多すぎることから声をかけなかったわけであり、これが3つ目の理由ともなっている。


 開発体制、企業や研究者らの思想、開発研究者そのもの。

 3つが密接に交錯する状態の集団及び組織ゆえにこちらから声はかけづらい。


 そもそもがこういった問題がなかったならば、マーリンだって任せたかったぐらいだ。


 考えてもみてほしい。

 陸軍は彼らの力を借りるために水冷エンジン研究や最終的には量産などを命じたりした。


 しかし、一方でそれなりに着目していたオートジャイロやヘリ開発についてはやっていない。

 この背後にあるのは研究者が人殺しの兵器に直接関与するのをとにかく嫌がり、陸軍もそれを命じ辛い雰囲気があったためだ。


 アツタで関与した海軍ですら実行できていないのだから相当なものである。


 一方でそんな彼らが現状で手を挙げた理由は、ソレが直接人を殺めるための兵器ではなく、多くの場合において人を救うための戦争とは関わるが一線を敷いた状況下で運用される航空機であるためだろう。


 皇国国内においてヘリコプターが注目されはじめたのは、空爆されたロンドンで人命救助をやっていた記事からだからな……


 シコルスキーも「本来の使い方だ」――と述べている。

 そもそもが彼が今まで協力してくれているのも、ロンドンの件があってのこと。


 どうもヘリコプター研究者というのは似たような思想を持つものらしい。


 おかげで喜一郎達からしたら自分達が想像していた空想上の存在が、わずか数年でこの世に登場してさらに陸軍が着目して大規模な生産を行うというのだから、参加したくならないわけがない。


 現段階では完全独力生産は出来ないのは自覚しているはず。

 その上で、今は下請けで力を付けて、未来において開花させるべきだという結論に達したに違いない。


 とくに芝浦の研究室は情報交換のために畳んでいないそうだが、あの周辺は人と物の輸送手段として認知されはじめたヘリコプターが飛び回っている。


 芝浦はCs-1開発・生産拠点の1つでもあり、輸送の傍らエンジンテストなども行われていて耐久試験等を行うためにエンジンをヘリに搭載の上で飛ばしているという情報もある。


 そんなこんなで全国各地を飛び回っているもんだから、今西条と会話しているこの瞬間にも周囲にはローター音が響き渡っているぐらいに定着しつつある新鋭航空機だ。


 新聞じゃ陸海軍の固定翼機よりよっぽどニュースとして取り上げられる機会が多い。

 兵器とやや異なる見方がなされているため、検閲排除されにくい生来の特長が多分に影響していると言える。


 軍としても救難機として大活躍していて戦意高揚に対してプラスに働くことや、ヘリへの国民の理解を深めるために積極的に広報活動を支援していて、少なくない企業がその将来性を察知して研究を開始していることは新聞や雑誌などを通して目にするようになってきた。


 喜一郎からしてみれば、この大きな波に乗り遅れてはならないとばかりに焦りを感じずにはいられないはず。


 むしろ商業化の可能性について確信し、周囲を説得するための材料ともなっているかもしれない。


 だが、ここだけでは……まだ足りない。

 1000機以上生産するならば……


「首相。製造メーカーについてはもう2社追加していただきたく存じます」

「2社? まだそんな素質と実力をもった企業が皇国にはあるのか?」

「ええ。もう1つの技研と、皇国楽器です」

「はぁ!?」


 お前は何を言ってるんだと感じた、その瞬間の感情を切り取ってそのままに言葉に乗せた西条はうろたえている。

 確かに現状ではわからなくもない。


「もう1つの技研については確かに天才技師がいるという話は聞いているし、その男が航空機の夢を持っているという話も長島大臣から聞いたような気がするが……皇国楽器は楽器メーカーだぞ!?」

「現状ではそうですね」

「ピアノと、オルガンと、ラッパを作っている会社がどう転んだら航空機を作るなどと……」

「まごうことなき正論です。しかし、後の未来を知る者としてはそういう企業なもので……その辺については考えても無駄です。出来るか出来ないかの話で申し上げれば、出来ます……恐らく」

「プロペラが作れるから航空機も作れるというならば、一体どれほどの企業が航空機を作れるというのやら。それが出来ないから困るというのに……全くもってわけがわからん」


 確かにその通り。

 皇国楽器に対しての認識は現状の状態だけを知る者達ならばそれで間違っていない。


 だが、彼らは模型メーカーと手を組んだだけで当たり前のように無人の農業用小型ヘリコプターを作ったりなどするわけであり、技術者集団としての素養は確か。


 しかも、模型メーカーと手を組んだといってもその無人ヘリのローターは独力で開発に成功したりなど、将来性は抜群。


 当たり前のように二重反転ローターのヘリコプターを作ってしまったし、さらになにやらドローン開発という、俺がやり直した10年後ぐらいから注目されそうなものに手を出していたからな……挑戦を促す価値はある。


 その上で、ここから発展して将来どの企業が生き残るかについても興味がある。


 それこそ将来においてはどこかで見たようなエンブレムが貼り付けられたヘリがそこらかしこらで飛んでる可能性だってあるんだ。


 可能性も、参画者も、多い方がいい。


「皇国楽器についてはFRPを非常に早い段階で使いこなす集団です。FRP製ローターブレードを作りたいと考えると、彼らの力は無視できません」

「そこまで言うなら任せるが……何というか、お前は本当に実利だけを求めている男なのだな」

「もちろんです。ほしいのは実機ですから、拘りません。固定観念が足を引っ張るならば捨て去るべきであることは1度経験してきました」

「わかった。双方にも声をかけてみよう。長島の力添えがあればどうにかなるかもしれんしな。それで……操縦者問題についてはどうする? 何か解決策はありそうか?」

「そうですね……」


 しばし沈黙して考え込む。

 手段はあるが、それを西条含めた陸軍上層部が認めるかどうかが怪しい。

 だが、現状これ以上の方法は見つからない。


 ヘリコプター操縦士の確保については、今や陸軍所属の人間なら一通り声をかけて選抜している状態だ。


 つまり陸軍の中からこれ以上大量のパイロットが見出される可能性は極めて低い。

 毎年新しく入隊した者から一定数が確保できるに過ぎない。


 現状のままではすでに限界だ。


 だから……もうこうするしかない。


「首相。1つ私に案があります。お気に召さない可能性もございますが……」

「言ってみろ。聞いてから判断する」

「承知しました。では私の案ですが、ヘリコプター操縦者の採用条件を緩和してください」

「緩和? 何を緩和するのだ」

「視力です。 ヘリコプター操縦者の選抜を行うにあたり、視力検査の条件を現状の裸眼1.0から裸眼0.2、視力矯正可に引き下げてください!」

「な、なんだと!?」


 これ以上の方法など無い。

 条件が人を縛り、増員が叶わぬというならば……条件自体を引き下げて裾野を広げる以外無いはずだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば水素気球に兵士が一人ずつぶら下がって侵攻する機動第1旅団という特殊部隊が実際にありましたね。
[良い点] コパイロットと分業させて負荷分散するのかと思いましたが、視力基準の緩和でしたか。 まあ視力0.2ぐらいからならトレーニングと環境次第で1.0まで戻すことも不可能ではないですし、インテリも多…
[一言] 自衛隊の航空学生の募集要項に合わせるお話になりますか。 メガネの形状は考える必要がありそうですし、視野角だとか色覚なんかは基準緩和できないでしょうけど、裸眼視力に拘る理由はあんまりなさそうで…
感想一覧
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