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―皇国戦記260X―:7話:正体掴めぬ風に十字は揺れる(後編)

 砕かれた最大の要因は装備する主兵装たる戦車砲そのものと思われる。

 明らかに大きいのだ……仮設された砲身の口径が。


 皇国陸軍上層部……西条首相を含めた者達が口をそろえるその口径はなんと「10cm超級」だった。

 確認する限りは10cmどころではないように見えるが、10cm以上なのは間違いない。


 巨体の理由は、従来の常識では考えられないような大口径主砲を搭載するためだったらしい。


 恐らく側面の傾斜角が無いのもそれらが影響していると思われるが……この10cm超級という話に我が国の上層部の見解は2つに割れた。


 1つは皇国海軍が開発し、実戦配備もしている九八式十糎高角砲を戦車砲化したものを搭載。

 もう1つは皇国がかつてライセンス生産を目論んで輸入を検討していた15cm sFH 18か、九六式十五糎榴弾砲である。


 わざわざこのために"新型戦車砲"を開発する余力など陸軍にはない。

 それが我が国のブレーン達が密偵部隊から届いた情報などから導き出した結論である。


 他の砲を流用する以外に大量生産が間に合う砲などないというのが総統閣下を含めた認識でまとまっているということだ。


 意見が2つに割れた原因は入手した資料にて主要砲弾に皇国語にて"榴弾"の文字があったため。


 これが皇国陸軍が重用する"徹甲榴弾"なのか、榴弾そのものなのか……はたまた榴弾砲そのものを表しているのか。


 ここについては不明だが……この榴弾の文字やその他の情報などから推測されたのが3つの砲だと認識された理由であった。


 まあ15cmsFH18だとする場合は、わずかに鹵獲入手していた砲をどうやって量産したのだという話なのだが……すでに自走砲でそれをやられているため、榴弾の文字から真っ先に本砲がピックアップされたという。


 一度8.8cm SK C/30を量産されてしまったのだから、1度あることは2度あるということなのだろう。

 一応、そうでなくとも九六式十五糎榴弾砲を搭載している可能性も想定されている。 


 仮に一連の砲を戦車砲として搭載した場合の威力は尋常ではない。

 現在実戦配備している我が国の戦闘車両は全て皇国の戦車の攻撃を1000m以内で防ぐ手立てが無い。


 仮に防げるとしたならば、ポルシェ博士がⅥ号戦車として総統閣下に提案し、すでに車体部分は出来上がっていて走行試験の結果は良好なモーター戦車が砲塔正面装甲を200mmとしているので何とか防げるであろうといったところ。


 これ以外では全ての車両の装甲を増加したとて防げないのだ。

 それでいて機動力はあちらの方が上回るというのだからたまったものではない。


 ちなみにそのポルシェ博士はいち早く皇国の新型戦車について察知しており、新型戦車が走攻守全てにおいて高次元にまとまった存在であることを総統閣下に進言した上でⅥ号戦車の開発にとりかかっていた。


 どうやら試験車両の性能は彼の予想をさらに狂わせるような性能であったようだが……当初より一貫して九八式十糎高角砲だと主張してきた人物であった。


 ただ、一連の砲を搭載するかどうかについては疑義も生じている。

 原因は新型戦車の重量にあった。

 その重量約40tとのこと。


 なぜここまで軽いのか不明なのだ。


 仮に九六式十五糎榴弾砲を搭載した場合では、その反動の強さからマズルブレーキを装備したとて55tほどの重量が必要となる。


 マズルブレーキを装備して40t級で反動を押さえ込むならば砲の口径は10cm程度が限界。

 我が国の技術でも45t程度の重量が必要だと見積もられている。


 九八式十糎高角砲はこの車体重量の軽量さから逆算され、現在の上層部での見解では車体重量と比較しても九八式十糎高角砲が最も有力だと言われている。


 しかし一方で、今度はそうなると装甲の問題が出てくるのだ。

 実は簡略図面にはこのような記述があったのである。


 主砲塔装甲板35mmである。


 それはあまりにも薄すぎた。

 35mmでは回転砲塔を装備した自走砲ではないか。


 とてもではないが戦車とはいえない。

 おまけに装甲35mmでは重量は40tに満たないはずだ。


 重量の軽さと妙な記述。

 それが混乱に拍車をかけている。


 一方で密偵部隊の報告では"12cm砲"だの"装甲厚200mm超級相当"など、様々な情報が飛び交っていた。


 結果、上層部の戦車に対する認識も大きく3つに別れることとなる。


 1つは何らかの反動抑制装置を搭載し、前述の榴弾砲を搭載した上で高機動力を活かしてロングレンジで要塞等の陣地攻撃をしつつ、基本は我が軍のⅢ号戦車やⅡ戦車を掃討することを念頭に入れた高機動型自走砲。


 もう1つが、35mmはブラフであり、100mm超級の装甲を持ってこれまたロングレンジで我が軍の戦車を片っ端から蹂躙していくことを念頭に入れた重巡航戦車で、重量は50tに限りなく近い40t台。

 

 最後が、約1名だけが唱える現時点における到達点たる究極の"主力戦車メインバトルタンク"であるという説だ。


 総統閣下もその1名の根拠も無い話に毎回耳を傾けるのは辛いと周囲に述べていたものの……その話をして総統を煽っているのは、最も早い段階から最も的確に新型戦車の性能を予測して対抗馬となる存在の開発に乗り出していたポルシェ博士なのだった。


 つい先日、総統閣下に向けて認識を改める様子を目撃していたが……根拠はともかくとして、危機感としてそれぐらい凶悪な存在であると認識した方が良いという彼の話に反論を述べる気にはなれなかった。


 ◇


「――何度申し上げればよいのですか! Ⅶ号戦車の開発を本当にこのまま進めていくとおっしゃるならば、装甲は絶対に犠牲に出来ないと! どうしてそんなに装甲を低く見積もるのです。Ⅶ号戦車は回転砲塔を装備した戦車のはず。本車両から装甲を省いてどうするというのです」


 廊下のあたりまで聞こえていそうな声の主はポルシェ博士である。

 ほぼ連日のようにつめかけては、必死に総統閣下を説得しようとしていた。


 彼が述べたⅦ号戦車。

 すでにレーヴェと名づけられた存在こそ、今私達が必死で設計しているVK7001戦車である。

 彼は主砲を既存の戦車より大幅に大口径にした上で機動力を保たせようとするⅦ号戦車計画の装甲厚が70mm前後であることに極めて批判的だった。


 無論、70mmというのは重量60t未満とした現用のプランで完全に達成可能な数値としてこちらから提案しているもの。


 上の人間は装甲厚を増やせと圧力をかけてきてはいる。

 閣下は我々の情報を基に皇国戦車の性能を見定めた上で、相手側の"主力戦車"の完全なる対抗馬となる戦車を生み出そうとのお考えなのであるが……ポルシェ博士はそのプランを認めたくないのだ。


「……そうは言うがな博士。あの重量でどうやって重装甲にするというのだ。私にはわからん。そんなのが可能ならば王立国家だって再現してみせようとするだろう。あの皇国が、一体どう転べば貴方の言う重装甲を持つに至るというのだ。それも40t少々だぞ」

「そんなのは実際に対峙してみないとわかりません。しかし、200mm超級相当という話、私は信じますよ。だってあちらのエンジンは信じられないほど軽量でありながら1000馬力を超えていたんですよ? Cs-1の情報についてはつい先日王立国家から入手したではないですか」

「性能だけ……な。現物はまだ手に入ってはいない。まさか1040馬力もあったとは……」


 Cs-1。

 最近になって話題になりはじめたエンジンだ。

 皇国の現在の技術的躍進の大部分を支えている心臓部。


 当初その馬力は700前後と見積もられていたのだが、稀に戦場で確認されるヘリコプターなどが明らかにそれ以上の出力を有していないとありえないほどの重さのものを吊り下げて飛行していたりしたことなどから、王立国家などへ向けて仕様の是非を確かめるための偵察部隊が送り込まれた。


 その結果整備用の関係資料と思われるものの回収に成功したが、そこに記述された出力は1040馬力なのだった。


 なんて数値だ。

 これほどまでに高性能だったなど、予想もしていなかった。


 聞いた話では皇国がこのエンジンを入手した当初、自国の企業で少数生産しようとしていた頃、皇国陸軍はこのエンジンにまるで理解がなかったらしい。


 技術者側との温度差は激しかったのだとか。

 軽い事には軽いがたかが1000馬力級と、そんな評価なのだったという。


 私からすれば皇国の頭の固い保守的な軍人はそう考えるのだろうなと心の中で嘲笑しつつも、その性能自体は脅威以外のなにものでもないというのが抱いた感想だ。


 そして皇国上層部の頭の固い連中についても、あちら側のエンジニアが本エンジンを利用した新兵器を次々に開発しだしたことで、ようやく認識を改めつつあると聞いている。


 くわえて例の皇国の新型自走砲……戦場に現れ、二式自走砲などと呼ばれているものの実験車両だか訓練車両が敵に回って以降、我々もタービンエンジンについての考えは改めるに至っている。


 それだけの影響はすでに及ぼしていた。

 私の企業では別の設計チームが複数の企業と共に現在Ⅴ号戦車の開発を行っているが、機動力をさらに向上させて装甲の増加を狙うため、現在タービンエンジンを仕込めないかと検討中だ。


 元々Ⅴ号戦車の開発主任には当初よりそのような考えがあり、俗にパンターと呼ばれる戦車においては当初よりそいつを内蔵することを視野にいれた内部構造としていた。


 タービンエンジンの開発チームは約1100馬力を念頭に入れて開発を開始しているが、状況によっては私が設計に関わっているⅦ号戦車のエンジンもそちらにすると言われている。


 1100もあれば……60tをオーバーしてもかなりの速力が期待できる。

 今まで以上に重量的な余裕は生まれるだろう。


 その場合、クラッチ方式とは出来ないが……

 

「私もその情報を聞いて自分の眼を疑いましたよ。例の二式自走砲はその重量と最大速度からタービンエンジンは700~800程度で、これを電力変換して600馬力程度と見積もってました。それが何らかの理由でエンジンの本来の最大出力を得られない状態であったとはね……なぜ同じエンジンでさらに重くなったはずの実験車両の最高速度が向上したのか」

「本気を出していなかった……ということなのか」

「閣下。考えてみなさい。1040を電力変換して、その9割を出力に出来たならば……彼らは900馬力以上のエンジンを保有しているのと同義。重量が50tでも最高時速は50km近くに出来る計算です。実験車両が速いはずだ。極めて余裕がある。そんなエンジンがあればどの国の大将だって有頂天になりますよ」

「神風という奴か」

「信じたくはありませんがねえ、そういうのがあるのだと認識せざるを得ない状況です。むしろ我が軍の状況を考えたら、あそこまで高性能にする必要性なんてあるのかと言いたいぐらいです。開発者はもはや我々なんて見ていないのでは?」

「なに? では何を見ているというのだ」

「残念ながら……存じません。ですが兵器開発者というのは逆算から性能を見積もるものです。その逆算とは未来をも逆算しての数字。例の新型戦車の性能は、ほぼ間違いなく此度の戦から見積もって設計はしてません。技術者としての私の勘ですが確信をもってそう言えます」


 ポルシェ博士の言うとおりだ。

 構造力学と装甲関係の技術者である私も強くそう思う。


 アレを作った人間は、戦中に登場する戦車なんて見えていない。


 もっと先の何かを見据え、今回の大戦とその次の戦を乗り切るために作っている。

 そんな感じがする。


 そもそも、彼らはトランスミッション1つ作ることすら出来なかった。

 通常のクラッチでは駄目だからと、無段階変速機構を考案してみたり、流体継手に挑戦してみたりしていた。


 だが、どれもさしたる成果は得られなかったと聞く。

 そうやって右往左往していたのがわずか2年前。


 そこから2年。

 2年で彼らは大きな跳躍をし、ヤクチアは疎か我々すらも追い越し、そして頂からその砲身をこちらに向けた状態になりかけている。


 まるで"戦車二大大国など所詮は国のトップがそう述べただけの戯言に過ぎない"――と言わんばかり。


 陸戦での最大の脅威は王立国家であるという考えは完全に見直さねばならない所まできている気がする。


 気づいていない軍人が多すぎるが……少なくても技術者サイドはそういう認識だ。


 まさかタービンエンジンとモーターを組み合わせ、さらにモーターの制御を最新鋭の抵抗制御で行おうとするとは……開発者は一体どんな発想力を持っているんだ。


 追い詰められると強い国だとは聞いたが、戦車二大大国が同盟関係であるという圧力がそうさせたのか……逆に最初から勝算があって戦車二大大国に立ち向かうこととしたのか。


 是非皇国側に聞いてみたいものだ。


「噂じゃ新型戦車の設計者は皇国の切り札たる新型戦闘機と同じ人間だそうですね」

「私はその話を聞いてあの若者は間違いなく影武者だという確信をもった。すべての功績をあの大したことがなさそうな若者に押し付けて、裏で様々な皇国人ではない技術者が開発に邁進しているに違いない」

「確かに、手に入る設計図はとても若い人間が描いたものに見えません。例えば図面というのは、若い人間ほど筆圧の強い線で図面内の誤差を誤魔化そうとするものです。自信たっぷりで引いた線は原寸大で描くと実物と寸法が合わないなんてよくあります。そういう意味では極めて繊細かつ老練な人間にしか描けぬ正確無比で迷いがない、非常に美しく、原寸大で描けばそのままの図面になる線を引いています。完全にこの道40年以上は経過している者でないと描けないようなものです」

「リピッシュ博士は実年齢60代と見積もっていた。エンジニアになってから10年程度ではこのような図面は描けないと。ただ、心当たりのあるエンジニアが全くいないとも」

「まあ詳細図面は第三者に任せる事も出来なくも無いのでなんとも言えませんが……私もまるで心当たりがありませんよ。何しろ空力に関してはリピッシュ博士より理解がある方なのでしょう」

「うむ。尾翼付きのデルタ翼は現状では間違いなく不可能というのが彼の結論。ただし、その上でこうも言っておったがね。"もし仮に本当に飛べる翼となっているのだとすれば、それは想像を遥かに超える運動性と機動性を持ちえた航空機となりましょう"――と。高速飛行時における性能の高さは尾翼が無い状態のデルタ翼で十分証明できるものだそうだ」


 例の戦闘機。

 陸軍募集のポスターに描かれ、ゲーリング大将がそのモックアップを見てきたという奴か。

 あんなものがまともに飛べるとは思えんが、門外漢ゆえによくわからんな。

 そう考えれば、同じ技術者が戦闘機と戦車を設計したなど、あるわけがない。


「リピッシュ博士が目指していた到達点の1つたる"音越え"という奴ですか。まあさすがにそこまで高速だという話は聞きませんが」

「私は君が言う"主力戦車"というのも、そういう類のものに感じるのだが?」

「いえ。リモコン装置の設計図から私は無人戦車や遠隔操作戦車でないかと疑っています。内部に人が全く乗り込まないいのであれば、我々でも40t級として作る事は不可能ではありません。ゆえに非現実的とも思っていませんよ」

「そんなもの、まともに攻撃を当てられるわけがない。おまけに有線式ならケーブルが切断されれば動けなくなるし、無線式ならば妨害電磁波という手がある」

「内部に1名ないし2名乗り込んでリモコンで操作するという方法はあります。件の戦車は元々極めて簡易な操作方法で操縦が行えるPCCシステムを主体としていますから、不可能とはおもっていません」


 ポルシェ博士の話については否定できない部分は多々ある。

 皇国の新型戦車開発においては、これまでに無いぐらい電気系統に強い企業が参入しているとのことだ。


 少し前まで敵性国家の企業とみなされていた京芝を筆頭に、これでもかと言わんばかりに優秀な企業が揃っている。


 NUPと戦う可能性が微小となっている現状でその選択肢は正しいのだろう。

 NUP関係企業も一切関係なく取り込んでまで、戦闘力の方を……実利の方を選んだのだ。


「その分の余裕を装甲200mm以上としたと? さすがに非現実的だ」

「閣下を含めた上層部の皆様が信じずとも、私は信じて突き進むまで。せめてⅥ号戦車には期待していただければ」

「今年中には出来上がるのか?」

「こちらも既存の機器を流用したので、試作機は冬に至る前に出来上がります。150台ほど」

「まともに動くのか? まさか地面を履帯で掘り進むような情けないものではないんだろうな」

「皇国のおかげで私も割り切った設計が出来ましたのでね。回転砲塔を捨てて重量配分を見直せましたので、十分な走行性能を確保できています。巡航戦車ほど速くはありませんが」

「Ⅶ号戦車についての計画はどうすべきなのだ」

「まずは設計案の提出を。回転砲塔にこだわり過ぎない様、あちらの企業のエンジニアに伝えることです」

「装甲はどうするというのだ。200mm以上なぞ確保できんぞ。車格に対して重量が過大となりすぎる」

「いえ。200mmは絶対だと進言します。確保した上で重量を算出し何を削れば走行性能に支障が無いのか……それを考えるようにすべきです」

「ううむ……」

「装甲部材と装甲形状そのものの見直しも含めた抜本的な開発手法のやり直しを行うべきです」


 ポルシェ博士め。

 冷静に淡々とありのままに好き勝手な事を言ってくれる。

 自分は最低限の戦車の開発だからいいものを。


 ならば貴方こそが12cm超級戦車砲や15cm超級榴弾砲を装備した戦車を作るべきだ。

 8.8cm長砲身の戦車砲を装備する回転砲塔のない駆逐戦車を開発している身で、よくぞそんなことを。


「それで迷走したらどうする気だ」

「無論、最悪の場合を想定して私も開発はしていますよ。タービンエンジンは我々にだって不可能ではないはず。出力が大幅に上がるならば120mm以上の口径を有する戦車砲くらい装備できるよう改造できます」

「なんだと!?」

「私の戦車を周囲の者はティーゲルと名づけているようですが……さしずめこのプランはヤークトティーゲルとでも述べましょうか。車体をこのように若干延長し、重量10t増加に目をつぶれば……120mm以上の口径の戦車砲は装備可能です」


 遠くからその様子を伺っていた私は、突如として彼が閣下の机の上に広げた設計図を間近で見たくなる衝動に駆られた。


 まさか、Ⅵ号戦車とは別にまた違う戦車のプランを考えていたというのか。

 いや、Ⅵ号戦車の派生戦車というべきなのか。


 あまりに距離が離れていて近づけないが、興味はそそられる。

 閣下の顔もまさに私と同じような気持ちであることを表した表情となっていた。


「むむ……いつの間にこのようなものを」

「敵の新型戦車の映像を見た頃から……ですかね。私も危機感を覚えましたので、出来る限りのことはするつもりですので」

「これはいつごろまでに間に合う?」

「エンジン次第です。生半可なものでは機動力が低く、とても戦えないものとなります。現状ではラフプランに過ぎません。保険の意味合いで考えてください。私のⅥ号戦車とは別に裏で作っているもう1つの戦車ティーガーのように……」

「ポルシェ博士……知っていたのか」


 ……ポルシェ博士は一体どういう人脈を用いたらここまで情報通になれるのだ。


 Ⅵ号戦車ティーゲル。


 ポルシェ博士とは別にもう1台、万が一を考えて砲塔を装備したものが開発されてはいたのだが……表向きはポルシェ博士が開発しているものこそがⅥ号戦車であり、当初競合だったプランは取り下げられたことになっていた。


 その取り下げに異議を唱えたことで我が社の開発も認められたことで、バックアップ計画としてひそかに進められていたのに……


「Ⅶ号戦車のベースとしても考えられなくもありませんので否定はしませんが、あまり広範囲に手を伸ばすとリソースが足らなくなりますよ」

「……あれも既に120台ほどは製造ラインに乗っかってしまっている。今から中止したとて120台は出来上がる計算だ」

「そちらも年内に出来上がるのですか」

「開発は順調だ。本年中には出来上がる。博士のものと合わせて砂漠に送り込み、皇国を大西洋から最終的に追い出すための礎となってほしいと考えている」

「そうですか……では私はやるべきことをやるとしましょう。ともかく、Ⅶ号戦車については――」

「わかった。どうにかしよう。だから連日のように私の下に現れて怒鳴り散らすのはやめてくれないか」

「……計画が変更されればそれも改めましょう」

「仕方があるまいな。数日ほど報告を待て――」


 ◇


 結局、総統閣下はポルシェ博士に押し切られる形で彼の提案を呑み、結果我々はその煽りを食らって無茶な要求ばかりぶつけられている。


 現実的なプランとしてⅦ号戦車を設計することは出来なくなった。


 既に私は技術長にこの1週間で7回もあるブロックの設計案を提出しては、見直しを要求されてつき返され、1から再設計することを強いられている。


 その技術長はそれなりに長身であったのだが、各所からの圧力を受けてか、日に日に猫背がひどくなって背が低く見えるようになった。


 顔色も良くない。

 こんなことでⅦ号戦車の開発など上手く行くはずもない。


 どうやって……どうやって皇国はあんな巨体の戦車をああも軽く出来たんだ!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 百式襲撃機は依然として猛威を振るってますけど、成形炸薬の技術は総統から得ているのだからソ連がIl-2やYak-9Bで何百万発も使いまくったPTABのような小型の対戦車成形炸薬弾は出さな…
[一言] そろそろアメリカと戦おうぜ
[一言] あまりにも未来的すぎて第三帝国どころか各国の戦車開発者が次々に辞表を提出しそうだな・・・(汗) しかしポルシェが一番確信ついてるとは・・・「俺はイカレてるんじゃない。一歩先をいってるだけだ」…
2020/07/20 18:57 退会済み
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