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第18話:航空技術者は双発戦闘機に平然と双胴型を採用する

「信濃技官、話が違うじゃないですか! 百式司令部偵察機を戦闘機化したものをこさえるんじゃなかったのですか!? これじゃ双子飛行機だ!」

「いーや、これはれっきとした百式司令部偵察機の戦闘機化です。三面図の上から見たら主翼形状などに面影があるでしょう」

「前部分に多少面影があるだけで、まるで違う機体です!」

「わかっとらんね。こうしなければ双発機で運動性は確保できんのですよ。言っておくが、速度帯によっては海軍で開発中の新鋭戦闘機より軽快に動ける性能があるんだ」

「確かにそんな感じはしますけど……こんな大型にしちゃってどうするんです? まるで爆撃機じゃないですか」

「無論、爆撃にも使うんですよ。山崎はキ38をベースとした冒険しない機体としているが、あっちもどうやら爆撃機をベースとしているらしいじゃないですか。でも、こっちの方がよほど冒険しない構造になっていると思えません?」


 隣の詳細図面を見た四菱の技術者はようやく落ち着きを取り戻す。


 キ47は双胴型だった。


 まるで二人の大人が小さな子供を挟むように両手を繋いだ形状に四菱の技術者は困惑している。


 そんなに困惑してもらっては困る。


 本来の未来において目の前にいる者達はいずれ海軍からの要求によって似たような見た目の戦闘機を作ろうとするのだ。


 四菱十七試局地戦闘機。

 通称"閃電"だ。


 あいつを双発にして推進式をやめて牽引式にしたら、まさしくこいつだろうに。


 この当時から双胴推進式について理解があったと思ったのだが……1年早かったか?


 だが陸軍すら唸らせる双発機とするにはこれしかない。


 国内にて双胴型をこさえて後一歩まで来た四菱だけがこいつを世に誕生させられると言える。

 それも並行して開発中の零に匹敵する運動性を与えた上でだ。


 我が国が重視する運動性とは、いわば零が見せるような垂直ループである。


 これを双発機で達成する方法はNUPが証明した。

 あんな巨体を持つP-61によってだ。


 時に零や隼を追い掛け回す巨大な爆撃機のような化け物。

 これが双発機のベターな回答なのである。


 P-61において特に優秀な設計は胴体後部にあった。


 通常、双胴型といえども後部には別途水平尾翼を用意し、さらに2つの胴体を繋ぎ合わせるTを横に傾け、TとHを繋ぎ合わせたような形状の水平尾翼を用意したくなる。


 " ┫━┣ " といったような具合だ。


 この方が安定性が増すとばかりに。

 これが不正解。


 却って運動性が落ち、さらに水平尾翼が乱流を発生させて激しい振動を生む。


 つまり運動性を増加させつつも乱流を抑制するには、P-61やP-82と全く同じ単純な双胴式H型尾翼とするのが正解。


 無駄な水平尾翼など外してしまえ。

 後は主翼面積を必要な分だけ確保し、頑丈な翼とする。


 こうすることで最高速は犠牲になるが、運動性はいくらでも確保可能となるわけだ。

 翼を長くしすぎるとロール性能が落ちるので注意が必要ではあるがな。


 10t超えという凄まじい重量なのにも関わらず、皇国製軽戦闘機を追い掛け回した空の魔物。


 ここに全ての模範解答があるのだ。


 現在、陸軍は俺を信用して俺の設計に一切口出しをしない。


 俺の設計に不満を述べるのは大体が利点を理解できぬメーカー技術者が多く、西条の言葉を借りるならば陸軍は"現物の性能でもってお前を評価する"ーーという状態にある。


 そして日に日に形となっていく一式戦に対し、陸軍は100点以上をつけようとしてくれている。


 だから誰一人文句を言う者などおらず、こういう一見すると冒険しているような構造も平然と採用できるのは強み。


 我が皇国陸軍はP-61が果たした双発戦闘機の可能性が欲しいのであって、形状に拘りは無いというわけだ。


 そこは海軍とは違う。

 海軍の技師でなくて本当に助かっている。


 双発機はそのレイアウトが自由自在。

 それが逆に己の首を絞めるというジレンマと戦うことになる代物。


 しかし模範解答を知っている俺は、それまでの皇国製双発機全てを根本から否定して、皇国において完全な攻撃機を実用化しようというわけである。


 まず燃料タンクの配置だが、これについては対爆撃機という要素も兼ねることから主翼前面とすることはしない。


 大半は胴体真下に収め、主翼の主桁の間に防弾タンクとしたモノをこさえる。


 P-38のごとく前面にしようか最後まで迷ったが、あいつらほど防弾タンクを高性能化できるとは思えない。


 ただ、いつでも前面に改修して移動できるようには設計しておいた。


 主翼の主桁にこさえたものはインテグラル防弾タンクとし、主翼の構造をできるだけ頑強なものとする。


 おまけにこれらにはようやく実用化の目処がついた消火装置も搭載。


 ただ、完全とは言えない可能性があるので、技研で試作されたばかりの燃料排出装置を搭載していざという場合に備える。


 対爆撃機用としては十二分な効果を発揮することだろう。


 主翼の主桁は2本。

 非常に頑強かつ真っ直ぐに翼端まで伸びる構造。

 開発中の単発戦闘機で採用したかった構造だ。


 ここにこれまた一直線に伸びる構造部材を配置し、非常に量産、整備性の高いものとした。


 無論外板はキ43に引き続きプレス成型厚板構造を採用。


 構造部材は最小限に留めるわけだが、双発機の場合は主脚をエンジン側に配置してしまえるので、翼を頑強にしやすいのだ。


 このあたりはP-61でなくとも皇国の双発戦闘機がやっている構造だし、百式司令部偵察機も同じ事をやっている。


 違いは厚板構造ぐらいでしかない。

 おかげで翼には片側500kgの積載力を余裕をもって確保。


 陸軍で最も破壊力の高い250kg爆弾を計4発搭載可能だが、長距離飛行用のドロップタンク用としての運用を主として考えている。


 双胴型の胴体部分は一式などと同じくエリアルールをきちんと意識しながら、極めて単純かつ頑強な構造を採用。


 何しろこいつは零に負けない垂直ループすら可能なのだから、後部構造が頑丈でないと話にならない。


 双胴式H型尾翼の効果を最大に発揮できるよう水平尾翼の位置も調節し、垂直尾翼もかなり大型のものを採用している。


 双発機としての運動性はバツグンだ。


 ところで翼の構造を大幅に頑強にできたため、多数の爆弾の積載などが可能となっているが……


 コックピットなどがある胴体中心部の翼の根元付近に関しても片側500kgの計1000kgほどのものを懸架できるようにした。


 離陸重量や最高速度的な理由からフル積載での飛行性能は大幅に落ちるが、航続距離をさらに長距離に伸ばせる可能性があるのと、後述する理由により胴体部分やその近辺が非常に頑丈になったからである。


 ここには装甲を施した上で防弾タンクを装備し、爆弾倉を装備させない分、大幅に小型化したコックピットを据え置いている。


 XP-38の場合は双胴部分に爆弾倉として450kg×2の積載力を得ていたが……


 そうすると機体構造を強化するために、重量が大幅に嵩むのでそんなことはやらない。


 この辺はNUPの技術者が後にA-1スカイレイダーで示すのと同じ手法で機体を軽量化。


 爆弾積載時の速度はある程度落ちるが、ある程度でしかないので問題ないのである。


 どちらかといえば運動性の方が大幅に落ちるわけなので、積載爆弾量は前線の連中が任意で調節できるようにしてある。


 汎用性の高さを生かすも殺すも運用者次第だ。


 機体中心部に据え置かれたコックピット類などの主要胴体部分はとにかく洗練した形状とした。


 百式司令部偵察機三型とほぼ同じ形状としており、一部パーツ互換性すら用意した。


 ここで西条からレーダー管制要員はやはり絶対必要なのと、強行偵察ができるようにしたいと言われたため、胴体設計の余裕があることから後部に360度視界を持つ後部座席を設けた派生機種を予め製造することとした。


 レーダー管制はいらない派の俺はあくまで単座に拘ったため、そちらを標準型として複数の試作機をこさえるという事になった。


 2号機となる派生型は空力性能維持のために事実上のファストバック型となり、パイロットの後方視界は悪化したが、後部座席の者が常時後ろの状況を確認して伝達することによってカバーする。


 派生型は視界こそ360度あるものの、空力を意識した後部座席となっている。


 一方で主軸となる攻撃機としての標準タイプは本来の未来に存在するキ83よりもさらに洗練された風防を採用した。


 すでに胴体のモックアップが作られた単発戦闘機で技術を確立させたため、非常に視界が開けた40年後ぐらいの戦闘機を思わせる意匠となった。


 一般に"バブル型風防"などと呼ばれるものである。


 何しろ2対1組なのだ。


 プレキシガラスの形成方法がここまで確立されていたのに皇国がそんな風防にしなかった原因は、軽量化のためとバードストライクを恐れた事にあるのだが……


 それは大戦後まで続き、戦闘機の視界を悪化させているのがかねてより気になっているので、未来の皇国も見据えてP-51をさらに洗練させたようなものをこさえてみた。


 無論防御力も20mm機銃に耐えられるような防弾鋼板をコックピット周囲に配置した上で正面には防弾ガラスも配置。


 攻撃機として十分な働きを示してくれることだろう。


 ただ、一連の装備を導入したことで思ったより重量が増加したため、当初よりハ43+排気タービンを搭載することとした。


 排気タービンによる出力アップによってハ43は1800馬力級となる可能性が高く、排気タービンによる燃費改善効果が期待できるので、航続距離については俺が当初考えていたハ43×2より良くなるかもしれない。


 一応、燃料容積はそれなりに確保してあるのだが、インテグラル防弾タンク採用によって燃料容積は確保しても翼の構造は脆弱とならない。


 防弾タンクの構造については当初こそ不具合を多発させたが、流体力学をフル動員して改良したメンバーの1人こそ他でもない俺であるため特に問題視していない。


 この日のためにすでに実用化にこぎつけ、近く民間に払い下げ予定で倉庫で埃を被っていたキ19に試してみたところ大成功し、2年前倒しで実用化。


 むしろ一連の新鋭技術を導入して実証化できれば後に続く爆撃機などのありようも変わるのではないだろうか。


 ところで、後部座席については同時に後部機銃の必要性を訴えてきた陸軍の上層部の者がいたのだが採用しないことにしている。


 P-61でもやらかした結果排除された要因で、実はP-61の589kmは後部機銃搭載型の話であって後部機銃を取り外した初期型の最高速度は630kmなのである。


 いかに後部機銃という存在が空力的に邪魔なのかがよくわかる。


 その後もP-61には機銃を廃した機体が一部の部隊で運用されていたのだが、こいつが隼や零を追い掛け回した魔物の正体だ。


 それを知っているからこそ搭載しない。


 ただし、後々エンジンパワーを上げられるというならば搭載も考える。


 ただ、その頃には間違いなくA-1のような存在が皇国にもいることだろう。


 ハ44や本来のハ43という存在が現れれば……の話ではあるが。


 最後に最も注目度が高いのが油圧エルロンと油圧エレベーター。


 油圧エルロンは同じく油圧式の主脚をエンジン部分に格納できる事で実現化できた。

 この部分に広いスペースがあるので油圧システムを搭載するには十分だ。


 これのおかげで垂直ループだけでなくロール性能もかなりのものが手に入る。


 まさに皇国の最新鋭技術を根こそぎ投入した機体となったと言えよう。


 全長12.4m

 全幅15.50m

 乾燥重量5.15t


 P-38よりやや大型でありながら軽いのは爆弾倉がないためだ。

 いかに爆弾倉という存在が無駄なのかがわかる。


 しかも重要なのがもう1つ。

 こいつの製造コストだ。


 シンプルかつ剛健ながらコストの増大は最小限に収まっており、零よりコストが安い。


 アレの製造コストはかかりすぎだ。


 俺にも未知数な部分があるこいつがもし零に勝てるなら……


 ……海軍が動くかもしれないな。

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