第145話:航空技術者はもどかしさに苛まれる
「――なぜ後部機銃すら排除する意向があるのです?」
「水平尾翼にはトリムタブを取り付けたいからですよ。いわば半全遊動式尾翼としたいからです。なので、どうしても空間的余裕が欲しい。おまけに発動機の出力から逆算すると、これ以上の重量増加は避けたいですし――」
皇暦2601年6月初旬。
ついにジブラルタルが陥落してしまった。
思った以上に早くにジブラルタルは第三帝国の手に落ちた。
これによりあちらは勢いを増し、砂漠へと兵を進ませつつスエズ封鎖のための進軍を開始。
陸軍上層部の話では、第三帝国はさらにオリンポスのクレタ島を占領してそこに陣を築き、大量の航空戦力を動員してでも、皇国海軍の主要補給航路となっている地中海周辺の封じ込め作戦を敢行したい強い意志があるようだ。
対する皇国はようやく数が揃い始めた重突への転換訓練がまだ始まったばかりで、現時点では非常に強力な陸戦兵器を早期に戦線投入することは不可能な状態。
間違いなく敵の進軍が続くであろう砂漠一帯の地域へは、新たに本土より機甲師団を投入する予定はあるが……
残念ながら皇国の追加戦力はM4戦車を主力とし、今や旧式扱いとなった車両群ばかりの構成の機甲師団となっていた。
チハを筆頭に、テケや九四式軽装甲車ことTKといった正直言って戦闘力不足な車両達を大量に持ち込むしかない状況にあるのだ。
しかもM4戦車を除いた皇国国産の戦闘車両達の殆どは、生産終了の余波によって修繕用の予備部品などに限りがあり、長期間の運用には耐えられない状態……
これが戦況に響かなければいいのだが……
一応、戦線への投入も見越して余剰部品はそれなりの数を用意してはあるようだが、状況によっては放棄せねばならず、砂漠の地にて単なる鉄くずと化す呪いがかけられていた。
全ては本命の量産のための致し方ない犠牲ではあるが……それなりのハンディを背負うこととなった。
唯一、チハのみ集と統一民国にてライセンス生産が行われているため、車体修繕用のパーツはきわめて豊富にある状況にあるのが救い……なのだろうか。
M4戦車ことシャーマンは両国にもレンドリースされてはいるが、NUPはライセンス生産を認めないために彼らはチハを生産することで自国の工業技術を研ぎ澄まそうと画策して行動に移していたからであるが……
それが結果的に功を奏したことになる。
必要ならば、彼らから購入または供与を受けることでチハのみM4と並んで大量に確保することすら可能なのだった。
……なぜあの戦車はこうもしぶといのか。
まるで我こそが真の皇国の主力戦車だといわんばかりだ。
残念ながらチハで勝負となるのはⅡ号戦車以下。
対歩兵戦力ならば十二分の強さはあるが、Ⅳ号戦車を主力とするロンメルの戦車部隊に対して力不足なのは否めない。
一応、こういった不安の解消のために機甲師団には増産されているロ号と、さらに完成が間に合うならば急造仕様の双発エンジンタイプのヘリコプター(キ71)も帯同させる予定ではある。
双発機に関しては双発式ロ号の試験データが良好であったため、キ73こと二式輸送型回転翼機を試製二式輸送型回転翼機という形で投入できうる可能性はあった。
残念ながらまだ機体フレーム製造の段階であり、正直言って間に合うとは思っていない。
ただ、二式輸送型回転翼機は多少の不具合も目を瞑って最初から必要数量産することとしており、本年の9月までには5機ほどの製造が間に合う。
正直なところ、戦線に投入するならそこから3ヶ月~4ヶ月は様子を見ながら不具合を解消したいところだが……砂漠で調整しながら戦うという選択肢もなくはなかった。
だからいざとなったら持っていく事になっている。
上層部から予め示された各種要求について特に意見を述べたりはしていない。
一方で試験が続けられていた双発式ロ号は4機ほど存在したが、こちらは上層部並びに機甲師団側の要請に応じて当初より持ち込む事に決めた。
物資運びにおいてこれ以上にない活躍が見込まれ、通常型と合わせて平行運用する。
ロ号自体は通常タイプと合わせてガンシップタイプも15機ほど持ち込むが……
これらの戦力でどうにか半年ほど持ちこたえれば……
しばらくすれば重突が投入されるので、戦力の補充に関してはどうにかなる。
皇国にあわせてアペニンやオリンポスといった国々が投入する戦力とも力を合わせ、なんとしてでも押し留まってもらう他ない。
この世界のティーガーがどんな仕様となっているかは定かではないけれども、ティーガーが出てくる前までなら何とかなるはずなんだ。
仮に本来の未来より早めにティーガーが出てきたとしても、重突の力があれば主力戦車が完成するまでにスエズまで第三帝国の手に落ちるという事はないはず。
ただ、その重突すら新型戦車と共有するパーツ以外の部品は生産体制が縮小化してしまい、駆動部品などを除いた装甲などが破損すると修理もおぼつかない。
まるで負けたわけでもないのに本来の未来の2604年秋以降のような状態を強いられるのも、全ては主力戦車のため。
主力戦車にて活路を見出すために重突すら贄となってもらうのは……西条の覚悟の表れなのだろうか。
となると、なおさらアレを確実にユーグ方面へと送り込めるような体制を2603年春頃まで維持しておかねば大変な状況となりかねない。
いくら完成したところでパナマを通って大西洋から持ち込もうなど、敵の強力な潜水艦によって貨物船ごと落とされて海の藻屑と化すだけなんだ。
そこに関して不安が生じ始めたのは良くない兆候。
原因はこちらの予想を下回るユーグ各国の戦力の踏ん張りの無さ。
チェンバレンの命を燃やした行動によって地中海協定連合が誕生し、ユーグの多くの国々は1つにまとまり、敵を第三帝国&ヤクチアとして立ち向かうこととなったはずなのに……
本来の未来とそう変わらぬほど抵抗力に欠けていた。
これは開戦を約1年ほど遅らせたことで第三帝国の戦力が増強することを許してしまったからなのか?
俺を含めた皇国陸軍の予想では、ジブラルタル陥落は早くとも本年の8月以降と考えていたので砂漠戦の開始は10月以降となり、追加戦力の投入は戦況を注視しつつ10月上旬頃を目処に行う予定だった。
4月に行われたチャーチルやムッソリーニを交えた戦略会議においても、夏までならなんとか持ちこたえられるはずだと主張しており、俺もその話を信じ切ってしまっていた。
最悪の状況でも半年以内……4ヶ月ほどはかかるであろうと。
だとするならば多少ふんばることで重突の投入によって戦況をひっくり返していけると考えていたのだが……
皇国の想像以上にユーグの戦闘力が低かった。
要因はいくつも考えられる。
アペニン、オリンポスの連合軍の抵抗によってアペニンサイドからの圧力は強かった一方、彼らもまた兵器の不足により戦線を押し返すまでには至らず。
陣地防衛を用いたこう着状態にこそ持ち込む事は出来たが、それ以上には至らなかった。
元々あの周辺の地域は山脈が連なっていて防衛に適しており、攻めるより守る方が楽だし有利。
逆に攻めようと思うと戦力を運び込むための陸路が限定されており、相当戦力が整っていない限りすぐに推し戻されてしまう。
無理して兵を進ませて大量の犠牲を出すと今後に影響が出る。
装備類が足りていなかった両国はそう考え、今後も考えて戦力を温存する他なかった。
第三帝国はここに付け込み西へ西へと移動した結果、戦力を集中することが出来たことでジブラルタルまでの電撃戦を許してしまったのだ。
皇国は自身が推定したユーグの抵抗力を鑑みて北側の連合王国周辺とマンネルハイム線付近に戦力のほぼすべてを集中させており、ここに力を入れすぎた結果、他の地域は手薄となってしまっていた。
抵抗を続ける王立国家も戦力の多くを一度本土へと引っ込めた影響も相まって、彼らはあえて北部からの侵攻は無いと見て西に大規模な戦力投入へと踏み切ったわけだが……
見事にこれが成功を収めてしまっている。
皇国や王立国家はキ47やランカスターなどの航空戦力を用いて第三帝国の補給戦線などを妨害し続けたはずだが、彼らは鉄道網などを巧みに利用して補給路を確保していた。
今にして思うに、俺はもしかして戦車をもっと早く作っておかねばならなかったのか?
航空エンジニアが一体何を考えているんだと言いたくなるが……
誰も俺に対してそのような陰口1つたたくことがないのが逆にもどかしい。
あまりの気分の悪さに思い立ってつい先日様子を見に行った参謀本部内においては、重突の配備運用状況等に関する議題など出ることがなく、ひたすらに周辺国家への不満が噴出し、追加戦力の投入に関して昼夜問わず将官らによる激論が交わされているばかりだった。
というのも、皇国は2603年に北進を行う以上、大量の戦力をユーグにばかり差し向けるわけにはいかないのである。
戦地へ投入できる戦力の5割強は北進する対ヤクチアのためのものとし、残り4割強をユーグ各地へ3方面ほどに振り分けて軍事行動を行いたかった。
よって追加戦力の投入は必要だが……
大規模な戦力の投入は北進に大きな影響を与えかねないために極めて慎重な判断を要するため、陸軍省戦争経済研究班の者達や数学者なども招いて激論の裏で日夜綿密なシミュレートも行ってはいた。
恐らくこのシミュレートを行わせているのは西条らであろうが、俺の概算では全く別口からの援軍勢力が必要となってくるような気がする。
"とある件"のために近くウィルソンらと個人的に会談を行う予定があるが……その際に何か方法は無いか伺ってみることとしよう。
陸軍がやや混乱し忙しなく動き回っている一方、海軍は割と冷静なようだった。
参謀本部に様子を見に行った日のこと。
情報収集がてらついでに向かった陸軍省から立川への帰宅途中、霞ヶ関にて偶然にも知り合いの海軍士官と顔を合わせることとなったが……
彼は特に慌てた様子は見せず、軍令部も同様の状況にあるとした。
どうやら予めこうなることも見越して策を練っていたらしい。
聞くところによると海軍はスエズ封鎖だけは何としてでも防ぐ意向を示しており、追加戦力として改装が終了した扶桑型の投入だけでなく……
従来までは樺太周辺の極東海域にて警戒にあたっていた瑞鳳や龍驤といった空母達も新たに地中海へ派遣することを決定した。
第三帝国がクレタ島周辺において戦力を展開できぬよう必要十分な航空戦力と海軍戦力を投入し、何としてでも周辺海域の制海権と制空権を確保しておきたいためである。
これにより皇国周辺を防衛するための戦力としての空母は全ていなくなり、唯一訓練艦である鳳翔のみ残された形となる。
海軍の戦略方針としては本来の未来でも空母となっていた祥鳳を筆頭に千代田や千歳、そして大鯨といった潜水母艦と、商船である橿原丸や出雲丸の空母への改装を決定して行動に移す傍ら……
建造中の大鳳の竣工を急ぎつつ、大和級戦艦を1隻潰した結果建造が許された4万トン級の大型空母……
新たに"天城型"と名づけられ、関東大震災にて被災した空母"天城"の建造資材を溶かして再利用し、建造途中の被災により解体された改装空母よりか大幅に大型化してミッドウェイ級並となった新生"天城"と……
天城型空母二番艦である新生"雲龍"の竣工を遅くとも2603年末までに間に合わせることで、帳尻を合わせる予定であった。
ところで、艦名が本来の未来と異なり両者が逆転している理由は元より新型空母には失意のうちに解体することとなった天城を当初より用いることを決めていたからだという。
海軍としては天城に相当な思い入れがあり、新型艦を建造するにあたっては真っ先に名前が挙がっていたのだ。
そのため解体した元"天城"というべき空母……もとい戦艦の建造資材を再利用してまで建造を行っている。
建造資材の一部はすでに再利用されていたが、すべてが再利用されたわけではなかったらしい。
個人的に天災に巻き込まれた運の無さがどう響くのか気になるが……
そこは海軍なりの考えがあるのだろう。
二番艦が雲龍となっているのは、大鳳建造計画を立ち上げた時点ですでに本来の未来における雲龍型の構想が始まっており、新型空母の名前として内定していたためだとされる。
つまり、海軍内における政治的な配慮と本来の命名規則との双方がぶつかり合った結果、本艦は"天城型"となり、二番艦が雲龍になった様子だ。
本来の未来における雲龍型は"新生天城型"となることで計画は発展的消滅となっている。
今後建造される空母は新生天城型より規模が小さくなる事はない様子だ。
これらの新型空母に加え、先日統合参謀本部を通して西条に彼らが要求したのは2つからなる新たな空母建造計画であった。
1つは改造空母として最上型重巡洋艦四隻を空母化。
本来の未来においてもミッドウェー後に構想が練られた最上、三隈、そして鈴谷と熊野を改装空母としてしまう計画だった。
俺の記憶では改装にかかる期間と必要となる工程の多さから頓挫したはずだが……
空母改装後の最大速力にて高雄型や妙高型を上回り、さらに艦内スペースにも余裕があるから……とのことである。
他方、扶桑型で航空戦艦とはならなかった伊勢と日向については引き続き戦艦のまま運用することとなった。
呉や横須賀におけるキャパシティの不足と、資材不足などが理由である。
これだけ大量に空母へと改装する傍ら、天城型の建造と並行して橿原丸や出雲丸と並んで伊勢と日向の二隻まで改装するほどの余力はさすがの海軍にも残されていなかった。
加えて、これは俺の予想だが……重巡洋艦四隻も空母化してしまうとなると海軍内部からはそれなりに反発もあったはず。
政治的な事情で忖度した結果戦艦が残された可能性が大いにありうる。
やろうとするなら重巡洋艦四隻ではなく、伊勢と日向の二隻のみを空母化するという方法もあったはず。
知り合いの士官は大型艦用ドックに余裕が無いので不可能とも言っていたが……
そういう事にしておこう。
ちなみに新造ではなく改装であるのは、一から建造するよりかははよほど早くにそれなりの性能の新たな空母を増やせるからである。
また予算的にも一から建造するよりかは安く済む利点もある。
が……海軍は一から建造する計画も同時に立ち上げていたのだった。
それがもう1つの空母建造計画である。
この四隻とは別に改鈴谷型として建造が計画されていた"伊吹"と名づけられる予定だった重巡洋艦も当初より空母として建造する腹積もりらしいのだ。
改鈴谷型はすでに建造用の資材なども調達しており、建造開始秒読み段階だったらしい。
ゆえにこちらも計画変更という形で巡洋艦から空母とした上で建造したい旨の希望を統合参謀本部会議にて西条に伝えているらしい。
……これは俺が知らなかった事だが、改鈴谷型は本来の未来よりも早い段階で計画が立案され、海軍はすでに建造のための予算もしれっと獲得していた。
どうやら新生天城型などの際に合わせてぶっこんでいた建造計画……だったのである。
起工に関しては予算が分割支払いとなったことや、建造に関するリソースの振り分けなどの事情により建造用の資材をかき集めつつも来年から開始することとしていたが、戦艦や大型空母だけじゃなくちゃっかり巡洋艦まで……全く。
まあいい。
もはや言うまい。
ともかく、上記五隻で運用可能な艦上航空機の総数は五隻合わせれば瑞鶴と翔鶴よりやや上回る程度となるため、戦力的には埋め合わせる事が可能。
2602年春頃には相次いで空母が誕生していく週刊空母みたいな事が一時的ながら皇国にも発生するようだ。
仮にヤクチアが癇癪を起こして極東方面から攻撃を仕掛けてきた場合においても、来年の春までに改装が終了する空母達がいればどうにかなる……という算段である。
裏を返せば本年6月以降より短期間の間だが皇国周辺の近海は戦力が手薄になってしまうわけだが……そこは何か対応策を練っておく他なさそうだ。
もしかすると俺が知らない所で協定を結んだNUPに対して艦隊派遣を申し込んでいる可能性はある。
NUP海軍が背後から不意打ちする可能性は現時点では低い。
レンドリース法まで施行しておきながら、いまさらヤクチアと組むことはさすがにありえない。
合同演習だとか大義名分掲げてさらなる艦隊の派遣をしてもらって数ヶ月乗り切れば、戦力が補充される。
……その間に地中海で皇国がミッドウェー並のやらかしをしなければ……だが。
そんな不安を若干ながらも感じさせる海軍は冬まで持ちこたえれば"大和を派遣できる"――と考えており、何としてでも大和を大西洋まで持ち込みたい様子。
その大和は副砲が取り外された結果、従来まで存在していた両舷の副砲の位置にカタパルトが設置されており、例の発射もおぼつかないロケット兵器を装備する予定があるらしいのだが……
この武装に関してもさらなる強化を画策しており、宮本司令からは時期をみて開発計画を立ち上げてほしいという話は頂いている。
現状では手が放せないので派遣される大和はそこには何も装備せずに向かうことになりそうだが……
巡航ミサイル等についても今後は考えていかねばならなくなることだろう。
残念ながら今やるべきはミサイル開発ではないが。
◇
「技官。なぜ主翼は音速に達すると抵抗が増加するように設計されたのです?」
「これほど大型だと主翼がフラッターによって折れる可能性がありますからね。一種のエアブレーキですよ。何らかの理由で……例えば乱気流などに巻き込まれて急速降下しても抵抗の増加によってこの機体は次第に安定した状態を取り戻そうとする。抵抗が増加するといっても、乱流が増加するというよりかは翼本体がエアブレーキのように働くよう調節されています」
長島の技術者は不思議がっているが、未来の旅客機などは滑空性能を持つと同時に突然の急降下に対して翼がそのままの状態でエアブレーキのような効力を発揮するようになっている。
機体が急激に降下し始めた状態の機体姿勢を長年のノウハウ構築により逆算できるようになっており、その状態にて翼がスポイラー等を立ち上げなくとも姿勢を取り戻しつつ減速しようと試みるように計算して形作っているのだ。
主翼が一定速度以上で抵抗を増やすのは亜音速機においては必ずしも負の要素とはならない。
それを利用して安定飛行を維持し続けるように作り上げるのもまた安全性を高めることに繋がる。
それこそ、旅客機などは背面飛行するがごとくひっくり返った状態から殆ど何もせずとも元の姿勢に戻るぐらいに作ってこそ名機足りえると言えた。
新たに作り上げる連山においても胴体表面や翼表面の摩擦係数などはかなり下げるよう作り上げている一方で速度増加に対して適切な抵抗数値となるよう各部を煮詰めている。
可能な限り未来の知識を動員していくことで性能を担保するわけだ。
飛行性能とは何も速度や運動性だけではない。
こと大型機においては特に重要なのは飛行安定性である。
深山ですらそれなりに高い飛行安定性を持つ以上、連山ではさらに一歩二歩と先を進んだ次元に到達させたいのだ。
連山はきちんと完成すれば爆撃機なのにも関わらず優秀な滑空能力すら持つが、それぐらいあった方が万が一の際の生存率が上がる。
考え方はB-17と同じだ。
「うーむ。相変わらず見事な設計だ。しかしこれは厳しいですよ。2605年までに間に合いますかね」
「やってみるしかないですね」
「降着装置なども一から設計しないと……」
「一応、長島大臣には万が一のための保険も同時に用意したい旨の話をするつもりです」
「保険……とは?」
「深山のジェット機化……ですよ――」
将官達は理解していたのだ。
本来ならば重戦車すら作れないはずたった皇国に一筋の希望をもたらし、さらに戦車大国に十分に渡り合える超兵器を生み出さんとする男にだって限界はあることに。
だから決して重突の完成が間に合わない件に関して元来は門外漢たる設計者を責めることなどしなかった。
そのようなことが許される空気など参謀本部にあるはずがなかったのだ。