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第142話:航空技術者は情報を得る

「――非現実的だ。仮に一都市をたった一撃で完全に焦土と化す爆弾がこの世に存在できうるとしても、モスクワを落としただけではヤクチアに勝てるわけではない。ヤクチアへの勝利を確実とするために絶大なる攻撃力を誇る存在を用いて奇襲を仕掛けるのだとしても、クイビシェフやレニングラードといった四大都市を一度に……それも2日か3日以内に同時に攻撃を慣行せねばならない。あそこは貴国のように東京に政府機関が集約された国ではないのだ――」


 皇暦2601年5月30日。

 この日、東亜三国の首脳陣が集まっての会議が開かれた。


 会議の議題の中心となったのは予定されていた2603年のヤクチア進軍……すなわち北伐の開始について改めて三国が共同で行うという確認と……そして決戦兵器に関する情報共有であった。


 正直言って東亜にこの情報を漏らすのはリスクばかりが生じる。


 秘密裏に王立国家などと手を組んで組み上げた上でいざ使う算段となってから情報を公開した方が戦略的なリスクの軽減となる可能性は高い。


 対策を講じられないだけでなく、ヤクチアによるスパイ活動が積極的となる可能性が低くなるからだ。


 だが……それでも尚、西条は情報共有に拘った。


 最大の理由は彼らが現時点では全く作る事が出来ない点。

 あえてこの兵器をあらかじめ公開してしまうことで……統一民国へのけん制を狙っているのだ。


 表向きは東亜三国の同盟関係を強めるための情報公開であり、無論皇国は二国に使う予定など一切無い。


 しかし寝首をかこうとする勢力がこの会議に耳を澄ませているならば……自国がわずか数発の爆弾で三国志時代へと回帰せねばならなくなる事実を突きつけられることとなり……


 自らの野望が統一民国の土台を根底から崩して今後半世紀以上も馬に乗って小銃を構えながら突撃していくような野蛮な戦しか出来ぬような国へと変貌させる恐怖を味わうこととなるだろう。


 僅かながら額に汗を浮かべる蒋懐石も、口調こそはいつも通りだが自分達が置かれた状況を理解しつつあるようだった。


 彼にとっては多少なりとも胃が痛い話であろう。


 表向きは四井らと共に内乱などによって荒れた華僑の地の復興及び開拓を行ってはいるが、本当に究極的な最終手段として皇国を裏切る手札は残されていると今日の日まで考えていたはずだ。


 また、数的有利を理由に皇国の優位に立つことで政治的な発言力も高められるとも考えていたはず。


 裏で手引きして皇国の領土にちょっかいを出して領海や領土を広げようといった考えもあったはず。


 それらはほぼ総崩れになったに違いない。

 将来においては"この槍、使い難し"――な武器にしかならない核兵器は、現時点ではその拘束力がどこまで及ぶのかわからぬ代物。


 それこそ皇国側は最終判断は陛下にあり、陛下の許可無く使えない――という風に表向きでは装っているが、それはあくまで"正規の手続き"に基づく使用方法。


 軍はいくらでも暴走しうる。

 相手側が理不尽極まりない暴挙に出たならば手が滑って……という事はありうる。


 西条ですらそれを止められるほど、陸軍は一枚岩ではない。


 現段階で西条がまとめられているのは、これまでの功績と此度の大戦において皇国が敗戦する可能性が以前よりかは格段に低くなっているからに過ぎない。


 真の意味で生存圏の確保を目指し、勝利ではなく将来を求める皇国にとって華僑は重要地域。

 ここがレッドチーム入りされると将来にわたって不安しか残らない。


 ならば滅ぼしてしまえ……などという考えがないわけがない。

 だからこそ、あんな不毛な事変を起こして本来の未来ならば5年も続けてしまったのだ。


 現段階においては陸軍を刀に例えると西条が刀の柄を掴んで必死で鞘から抜けないよう努めているだけ。


 陛下は西条に抜くなと命じているに過ぎないのである。

 おそらく情報共有はそういった派閥からの注文もあっての事なのだろう。


 陸軍としては統一民国は集と共に運命共同体になれ――と。

 そういうことだ。


「わかってはいる。ただ、この"新兵器"が脅しの道具として終わるのかどうかについては戦況次第といったところだ」


 蒋懐石によるもっともな意見に対し、西条は核兵器の使用について含みを持たせた。

 基本的に使わないことを会議の場でも公言しているが、状況次第では使う可能性は否定しない。


 これはあくまで俺の予想でしかないが……俺の知らぬところで陛下と西条は何らかの協議を行ったのかもしれない。


 その上で対ヤクチアに関しては考えを改める可能性について言及されたのではないか。


 そうでもなければこうもはっきりと含みを持たせた言い方をするわけがない。

 それか、含みを持たせたように装うことで蒋懐石を揺さぶったのか?


 この件に関しては特に俺にはなにも情報が来ていないが、西条なりの考えがありそうだ。


「……首相。貴殿は一度の戦いで決着をつけるおつもりか……? あの国は一度の戦いで倒しきるのは無理だ……倒すならば2度……いや3度ほど必要だ。あちらは戦場に非常に多くの若者を投入しているという。……ならば将来の芽を摘んで少しずつ首を絞めていく他あるまい。何しろ数の桁が違う。NUPによるレンドリースの力を借りたとて……我々が開放できるのはシベリア地区やルーシの地域といった限定されたところのみであろう……」


 珍しく饒舌だったのは張総務大臣。

 彼は自らの卓越した戦略眼でもってヤクチアの攻略法を見出していた。


 ヤクチアを完全に倒しきるというなら彼の言うとおり。

 一度では不可能だ。


 それこそ大量の核兵器を落とすなどという非現実的すぎる方法なら可能かもしれないが……


 それは後の未来に遺恨を残し、ともすれば落とした側がその後も百年単位に渡って恨まれ続けて最終的に滅ばされる未来しか見えてこない。


 彼らを倒す方法はチェンバレンなどが見出した根元から腐らせて行く方法しかない。


 すなわち、ルーシなどの穀倉地帯をこちら側に引き込むといった方向性……いうなれば天下統一を成し遂げた武将よろしく兵糧攻めとする事である。


 そうやって気づかせる事だ。

 自らの思想が決して正しくないのだと言う事に。


 理想は内側と外側からの最終崩壊。

 地理的な条件も合わさり、外側から叩くのは容易ではない。


 シベリア鉄道を手に入れて軍を西へと進ませていくといっても限界がある。


「――だとしても、モスクワ周辺の鉄道網については破壊しておく必要性がある。いや、だとするならば……と言った方がよろしいか」

「空爆の必要性は感じる。補給が満足に行かぬよう手を打たねば数で押し切られる可能性はある」


 蒋懐石の言うとおり。

 シベリア周辺の鉄道網などに打撃を与えないと、かなりの兵力を間髪入れずに送り込まれる可能性がある。


 実際、本来の未来において第三帝国はシベリアから鉄道を介して持ち込まれた戦力によってモスクワで大敗した。


 いくらこちらに最新鋭の兵器が揃っているといっても、過信や油断は禁物。

 完全に押し切るためにはユーグ側からの主に鉄道を標的とした戦略爆撃は必要不可欠となる。


 それを可能とする爆撃機は現時点でこの世に二機種ほど存在していて……ひとつは我が国が製造までこぎつけた存在。


 もう一種はレンドリースで手に入れられる。

 どちらもこちら側の兵器だ。


 あちら側にやり返す方法は無い。


「幸いにヤクチアは高高度を飛べる戦闘機が無い。1万m以上まで飛べる爆撃機であれば十分安全な空域からの爆撃が可能だ。初年度においては徹底的にシベリア地区開放を目指して行動する。陸戦でも劣らぬ兵器を準備中だ」

「西条首相。無論、冬は無茶な行動などせぬのだな?」

「可能な限りの圧力を加えつつも無茶な行動は抑制する。我々側の補給は常に絶やさないよう勤めた上で」


 地理的なことを言えば華僑の一部はシベリアよりも冬の気温が低くなる場所も無くは無い。

 しかし、だから彼らと同等に戦えるというわけではない。


 歩兵部隊の無茶な進軍を冬に行えば大きな損害を出す。


 損害を軽微にしつつ相手側の戦闘力が復活しないようバランスを保つ……

 なかなか難しい事だが、達成しなければ逆に包囲されかねない。


 そのために技術者として打てる手は打たねばならないだろうな――


 ◇


 その後も会議は続いたが、俺にとってはさして重要な内容ではなかったので途中退席した。

 疲労感を感じたので一旦退出して休憩する。


 今日は西条からこの後いくつか相談と共に受け取る書類があると言いつけられているのでまだ立川には帰れない。


 なので、明日以降のためにも今は少しでも体力回復に努める。


 北伐においては三国が間違いなく行うという確約めいたものを得られた瞬間を見れたのでもう十分。


 それにしても……こちらから戦争をふっかけた以上、統一民国も今更ウラジミールとコサックダンスを踊るなんてのはやはりありえないか。


 興味深いのは会議中の蒋懐石の一言だ。

 ウラジミールは去年末までは蒋懐石を懐柔しようと何度もアプローチをかけたそうだが、本年に入るとパッタリと止んだのだという。


 その理由は不明だが、蒋懐石曰く「――ウラジミールのことだから、一党独裁などといった方法による共産主義化を最終目標にしていたのだろうが、本年に入ると国内における公共事業に伴う大規模建設事業が加速化して各地では資本主義というものが国民に十分に根付くぐらいに活気づいていた……よってもはや達成は不可能なのと同時に我が国が敵であるということを認識するに至ったのであろう」――と述べていた。


 統一民国内にて相次いで生まれている成金はほぼ確実に多くの国民に対してインセンティブを与えたに違いない。


 自らも同じ壇上に上がり、貴族でなくとも貴族のような生活に。


 新聞等を見る限り、人民服などを身に着けて貧しい生活を強いられるぐらいならば、積極的な投資や労働活動によって毎日の食卓に豚肉が並んでお腹一杯になる方がマシというような気風は立っている様子だった。


 そういった国民の声にも後押しされ、彼はとりあえずヤクチアと戦う事にしているのだろう。

 ただ皇国ほど強い意思を持っているかどうかは不明だ。


 皇国の場合、俺やシェレンコフ大将などのようにあっち側にさまざまな意味での"思い入れ"がある者が多く、また過去の経緯から"ヤクチア滅ぶべし 慈悲は無い"――などと考えている者も多数いる。


 たとえばシェレンコフ大将はルーシの地域の開放について何としてでも成し遂げると意気込みをみせているが、それはスター転輪を手に入れるためにかの地域の者たちからも多くの協力を得ていただけでなく、あの地域の現状を鑑みての事。


 国家として独立を果たそうとしたにも関わらず蹂躙されただけではない。

 その上でホロコーストと並ぶ虐殺と強奪と陵辱を味わっているかの国について、シェレンコフ大将は何としてでも独立を達成させたいと願っていた。


 その考えには俺も同意はするが、実現できるかは不透明。

 しかし大将は「――我々が正義を掲げて乗り込んでいってヤクチアの者たちを退けるならば、彼らは間違いなく銃をとって我々の後ろについてくるだろう」――とは主張していた。



 ――それが例え歩くこともままらならないような茨の道であったとしても達成してみせる――


 これほどの気迫は現状の統一民国からは感じられない。

 これに関して西条は彼らが本腰を入れるかは戦況次第。

 今は勝負になるかどうかに不安があって及び腰になっているだけ……と言っていた。


 彼らは知らない。

 こちらにはヘリだけじゃなく、真の意味で"主力戦車"と呼べるに相応しいものが出来上がりつつあるということを……


 その主力戦車のために車両関係の陸戦兵器に割ける全てのリソースを投入し、もはや国の命運すら背負わせていることを。


 持てる全てで製造・開発を行う。

 西条はアレの開発当初、確かにそう言った。


 初年度生産数800両。

 そして以降も年1000両以上を調達するためには、全てが必要だった。


 西条は本年9月の段階で規格の異なる野砲などの類の製造を全て終了する予定だ。

 今後、高射砲といったものも含めて全て三式戦車砲と同じ120mm砲で規格を統一してしまう。


 戦場に必要な迫撃砲などの武器類は現時点で所有する物を使いきり、後はレンドリースに頼るという方向性で考えている。


 そうしなければ大量生産並びに運用において支障をきたすからである。


 我々が主力で使っていくのは120mm砲の派生型まで。

 120mm砲自体はコア部分をそのままに派生型を同時に開発する。


 こいつは元々高射砲として開発されたわけだが、例えば砲身長を大きく伸ばしてカノン砲とすることなども検討する。


 実は俺が技研にて戦車を開発している裏で四菱は主力戦車開発に協力する傍ら歩兵戦車や巡航戦車の開発をしていたが、これらも全て中止。


 元々巡航戦車に関しては王立国家でもいまいち上手く行っておらず、速度面に関しては後に三式主力戦車と呼ばれる存在がそれらに匹敵する快速性を有するため、同様の使い方が可能で不必要と判断された事による。


 例えばユニット式の装甲を一部取り外すことで車体重量を軽くして最高速度を引き上げることは不可能ではないが……西条は説得の際にそういう事も視野に入れた戦術を練っているとは主張していた。


 そのような正論で異を唱える者たちを丸め込んで行ったのである。


 歩兵戦車に関してもM4で十分にも関わらずあえて国産とする理由は見つからない。

 L3/38を手に入れて新たに開発中だった豆戦車すら開発を中止。


 性能がL3/38を大きく上回るものとならないとの事から、アペニンからL3/38の供与を受けることにした。


 大量生産しているので十分に可能との意見をすでにあちら側からもらっている。


 さらにすでに国内での製造が打ち切られたチハと並んでテケこと九七式軽装甲車ですらも製造が終了する。


 その分のリソースすら惜しいという判断からである。

 テケを製造する技師達すら主力となる戦車に回すということだ。


 正直言って失敗作だったならば洒落にならないほどの世紀の大博打である。


 他の陸軍上層部の者達からも異論が相次いだものの、西条は最優の兵器を量産する以外に戦車大国への対抗は不可能といって押し切った。


 実際問題、今後出てくる大国の戦車を考えたら対抗可能な戦車はアイツしかいないのだ。


 西条は「代わりがあるというなら腹案を出してみてほしい。アレと同じ事が出来る陸戦兵器があるというのか!」――と、珍しく感情を露わにして自身の大博打を他の選択肢が無いがゆえの行動であると自らの正当性を主張したが、誰もまともに反論できなかったという。


 野砲などの類も規格統一してしまうのは砲弾の大量生産を見越しての事。

 そして戦場において融通が利くようにするため。


 砲弾はあるが戦車に使える規格ではない……といった稀によくある戦場でのジレンマすら、選択と集中で乗り切るつもりでいた。


 そうでもなければ大量生産に成功しても今度は運用面で支障が出る可能性があるためだ。

 陸軍ではよくある事柄すら主力となる戦車においては許してはいけない。


 そこまで徹底したのである。


 今回の情報共有でですら機密情報として隠し通したのは、核兵器なんぞよりもよっぽどヤクチアに警戒されたくない存在だからであった。


 西条の言葉が確かなら……戦車を目にすれば彼らの意識もより前向きになるのだろうか……


 ◇


 会議が終わったのは日没後。

 俺はその間、休憩室にて仮眠を取っていたが、連絡役の士官に丁寧に起こされたために議事堂内にある西条のいる個室へと向かったのだった――


「お前に渡したかったのはいくつかあるが……まずはこれだ。例の四井とNUPとの交渉に関する中間報告になる。見てみるといい……驚くぞ」

「うわっ!?」


 1枚目からしてその内容の変貌ぶりに驚かされる。

 皇国随一の交渉人が一体どんな綱渡りを演じたのかは不明だが……


 相当な領域まで請求内容を押し戻していた。


 1.四井は皇国政府が保有する南集鉄道の株、すなわち全体総数の約1/3の金銭譲渡をNUP企業が受けられるよう取り計らう事(また、その際に四井が持つ鉄道総裁の任命権に対する拒否権などを認める特約を南集鉄道に結ばせるよう取り計らうこと)


 2.上記に併せシベリア鉄道に関し、仮に今後の情勢変化等に応じて四井が企業として経営に参画することとなった場合においてもほぼ同様の扱いとした上で、四井が直接的に獲得を許される株数は全体総数の1/2までとする事。


 3.集における電力事業に関する株式の1/3をNUP企業への金銭移譲


 4.集における四井が持つ炭鉱事業の移譲


 5.四井が直接運営する大連港の施設並びに運営権の移譲


 6.上記の条件を四井が飲む場合、ニューヨーク関連銀行からの融資に併せ、ユニヴァーサルオイル各社からの支援による四井の皇国国内における石油事業展開を大規模に助力することを確約する。

  (皇国国内の全ての石油関連企業の買収に伴う事業支援と、石油関連事業に対する経営指南を約束する)

 ・その他etc……


 NUPにとって大連は絶対。

 ここは譲れない。


 炭鉱事業についても軍港として新たに活用したい大連のために必要な鉱物資源をかき集めるために必要。


 よってここも譲れない。


 それ以外の部分については大幅に譲歩しており、さらに本件について四井が正しく全てを履行する場合は莫大な金額の融資と引き換えに石油関係事業を四井が展開することを許すといった項目が追加されていた。


 とくに石油事業に関してはユニヴァーサルオイル各社が保有する油田のうち、特定の油田の採掘権の5%ほどを譲渡するといった内容も織り込まれている。


 国内企業を全て買収してまずは元売から始めるという事業計画を以前俺にも話していた向井氏の計画は、いつの間にか元売ではなくセブンシスターズなどと同様の石油メジャーにいつの間にか変貌を遂げている。


 一体何が起こった。


「……どうしたらこんな事になるんです?」

「さあな……向井に聞いてくれ。恐らくその書面に書いていない裏取引も相当数あるのだ。向井は政府との密約的な取引はしないと主張しているし、我々とは一線を引いて行動はしているが……もはやあの男が率いる企業自体が1つの政府機関のようなものだからな」

「怖いですね」

「資本主義とはそういうものなのだろう。まあ我々の掲げる目標が崩れぬならば問題ない。そこについては強く言いつけてある。支援企業が反共主義者達を筆頭に据え置く者達しかいない所からして言いつけは守っているようだ」


 ……だとしても怖すぎる。


 会議後でやや疲れた表情を浮かべる西条ですら、説明しながらその顔が引きつっていた。


 今理解した。

 あの男は敵にしたら手がつけられないタイプだ。


 皇国政府としてはそうならないよう、最低限の介入の必要性はあるのかもしれない。

 今後の言動には留意しておこう。


「向井の件は以上だ。他にお前に渡したいものはこちらだ」


 差し出されたのは何かをまとめたノートが7冊ほど。

 大きさはそう大きくなく手帳よりやや大きいサイズであった。


「これは?」

「陸軍が求める爆撃機に関する要求性能がまとめられたものが複数。それと、海軍が求める爆撃機に関する要求性能をとりまとめたものを2冊」

「爆撃機……」

「深山で満足はしていられない。会議についても耳を傾けていたお前なら理解できるな?」

「対ヤクチアを考慮した爆撃機……ということですか?」

「第三帝国に対してもだ。いくつか案を練ってほしい」

「わかりました。やりましょう」


 絶妙なタイミングだ。

 俺もそろそろ……本格的に爆撃機について考える頃合だと感じていた。


 やはり両軍の上層部も同じことを考えていたんだ。


 重要なのはいつ投入できるか……だな。

 複数の機種を同時に開発することも視野に入れて……行動開始だ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 高射砲や戦車砲、対戦車砲もカノン砲の一種では?榴弾砲など砲身長の短い砲に対し、砲身長の長い砲の総称的なものがカノン砲だったかと。
[一言] アペニンの陸上輸送手段は皇国に伝わってないだけでL3/38から更新されてる可能性はあると思われる L6/40軽戦車は完成時には時代遅れな戦車になってた事もあって史実では少数生産で終ったけど…
[気になる点] そういえば今後の統一民国の戦車はどうなるんだろう? 史実ではソ連のT-54をライセンス生産してそこから中国の主力戦車は派生していったけど、この世界の統一民国はヤクチアと敵対してしライセ…
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