第140話:航空技術者はマルチスタガ方式プロペラを採用する
「――なにい……つまるところ、これで例の銚子における電鉄を動かせるもしれない……と?」
「ええまあ。0%ではなくなり、実現可能性がある程度あるものが誕生できるかもしれない…………ということです」
何時にも増して大きなブループリントを机に広げられた西条は、将来の多くの技術者が見ても奇怪と言い切れる本来の未来においては"時代に飲まれて消滅してしまった最新鋭技術"の前に戸惑いを隠せなかった。
つい先日、俺は現段階で20m級を大きく越えるような大型風車による風力発電は現代の技術では不可能と言い切ったばかり。
あれからそう月日がたたないうちに、25m級の大型構造物を伴った巨大風力発電機を提案するというのは、俺と西条の関係性でなければ暴挙以外のなにものでもない。
陸軍においては一発拳でもってビンタされてもおかしくない事案であった。
無論、俺もそれを十分に理解していたので西条が怒る可能性もあって緊張感を保ちつつ、必死で言葉を選びながら話を進めている。
「――以前話したとき、お前は現段階の技術では不可能に近いと言っていたはず。何が変わったというのだ」
「私も存じ上げぬ未知の技術を提示されたんですよ……例の発明家によって。正直言ってこの体系システムは未来のスタンダードではありません。実力は完全に未知数です。本来の未来においては……どこの国も真似せず、実現もせずに消えていったものです」
「だが、現代の技術でもってお前だけが知る20m級の大型風力発電風車と対等なる性能をもった、極めて秀逸な風力発電機が作れるということで間違いはないのだな?」
「コスト的にはダムの建造も伴う水力発電よりかは安価に素早く発電所を設けられるのは間違いありませんが、将来的には重機の発展などにより逆転するかもしれない……といったところです」
「ならばやろう。試してみる価値はある。共産主義者共が見限った発電機器が非合理で効率的でないなどと誰が決めたことか。やれば見えてくるものもあるはずだ」
「承知致しました。さっそく流体力学研究所による事業として状況を開始します。各種コストその他は提出させていただいた書類に記述されておりますので、目を通していただければ……」
「予算は通しておく。存分にやれ」
「ハッ!」
俺が西条に提示したのは新たに未来の流体力学ならびに構造力学でもってその構造を強化した集合風車である。
全体構造はハニカム構造をさらに突き詰め、集合風車自体が大きな正六角形を描いている。
この大きな六角形は外側のフレームであるが、内部の小型風車と共に支えあう構造。
構造上単体では支柱を含めた自らを支えるが、小型風車が合わさってさらにその構造を頑強なものとし、小型風車による重量増大を小型風車ユニットと共に支えあう構造としている。
例えばいくつかの小型風車ユニットが修理や整備のために取り外されたとしても、他の小型風車ユニットによって全体が支えられているのでバランスを崩すと言うことは無いようになっている。
集合風車の場合、大型単一風車と異なっていくつかが破損しても発電能力が0になることなく低下するだけで済むが、保守整備には数が多い分それなりに苦労することになる。
ゆえに簡単にユニットが取り外せ、さらに外した状態でも集合風車としての稼動を停止しないよう配慮した構造でなければ非効率。
よってそれらも考慮した構造としている。
小型風車自体にもアルミ合金を利用した六角形の外殻を成すフレームが搭載されているが、これと集合風車側のフレームをボルト接続する仕組みだ。
内部においてはフレームが及ばない広大な空間が及ぶが、そちらにおいては小型風車同士がボルト接続することで互いが互いを支えあう構造としている。
小型風車側も集合風車側もフレームは程よく肉抜きされた構造。
よって重量は思ったほど重くない。
それでも重量比においては後の未来において一般的となる大型風力発電機より1.3倍~1.4倍となるので重量面においては顕著な短所が見られる。
ただ、大型風力発電機は軽すぎるがゆえにバラストを搭載するため、バラストの量を調節することで15%程度の差となる見込みだ。
さすがに重心点が高くなるためにバラスト自体は無くせないが……本当によく考えられている。
これも山田青年によるアイディアだ。
双方とも皇国で発明され、皇国のアルミ関係の技術を根底から支えるアルマイト処理を施す予定。
プロペラ効率は地域によって研ぎ澄ますような未来における山田風車のようなことはせず、ある程度の効率(94%~95%)で妥協した上で木製固定ピッチプロペラとする一方、未来の流体力学を活用することで起動風速2mとしながら、最大風速25mでも発電可能とすることで発電力を確保する。
これを可能としているのが俺も興味本位で参加することになった皇国から亡命した技術者達によるユーグの小型風車市場に投入可能な新世代風車開発計画事業にて得たノウハウである。
小型風車。
こいつのネックはなんと言っても風の影響をとにかく受けやすいことだ。
小型風車の場合、すさまじい勢いでもって絶えず変化し、時には乱流の組み合わせが強風となって襲い掛かってくる大気の流れに食らいつかねば安定した発電を実現することは難しい。
よって未来における小型風車においては2点の性能がとにかく重要視されていた。
1つは風向きに対して機敏に反応して自身の向きを即座に切り替えられること。
もう1つは瞬間的な強風をも発電力とするため、フリクションレスかつ、得た運動エネルギーを適切に電力へと変換するシステムである。
2点目についてはより即応性が高く応答性の良いモーターとインバーターを組み合わせ、さらにローターがしばらく無風状態が続く状況においても玩具の風車のごとく回転し続けるベアリングやシャフト構造でもってこれを達成している。
さらに瞬間的な強風と無風が一定の間隔で周期的に訪れることへの対応のため、無風状態が1分以上続く場合は発電した電力の一部を使ってプロペラを駆動させ、回転力を失わずに調節する機構も新たに発明されていた。
これは0から一気に強風を受ける場合よりも、ある程度回転している状況から強風を受けた方が回収できる運動エネルギー……すなわち発電効率が高いためだ。
ここについては確かに考えてみれば当然だ。
揚力型風車の翼は基礎を航空機と同じくするため、プロペラ自身の持つ回転エネルギーを揚力に変換して推進力を得る航空機と真逆に考えれば良い。
プロペラが回転によって速度エネルギーを持っていれば、風によって発生する揚力との合成ベクトルによってより大きな回転エネルギーを得られ、その速度によってより大きな揚力を得られると……そういうことである。
こういった俺も開発に携わった機構の多くは20年後30年後……ヘタをすると40年後ぐらいにならないと実現しない技術も多く、全てが再現できるわけではない。
しかし、いくつかの機構は十分に再現できるので山田風車に更なる改良を施すことにした。
まずプロペラは俺を含めた皇国の亡命技術者達が生み出したマルチスタガ方式を採用する。
マルチスタガ方式とは何かというと、山田風車とは真逆の考え方でもって作られているブレードを用いたプロペラである。
山田式風車においてはその地域の風の特性ごとに合わせた最適解をプロペラに適用し、その地域でもっとも吹く風に最も効率良く照準を合わせた構造である。
基本は低速を重視し、2m~6m程度の範囲でその地域に合った最適効率のプロペラをいくつも試案しては、現地で何度も計測を行ったりなどして1つ1つ手作りしていた。
これが30年先の未来の小型風車にも匹敵する発電効率を達成できる秘訣であった。
しかしこれでは工業製品とは言えない。
一方マルチスタガ方式というのは、半世紀先の技術でもって"どのような環境においても"山田式風車に匹敵する効率を獲得させてみせようと、工業製品という形態を崩さずにこれを達成しているものだ。
仕組みとしては根元では弱い風でもっとも効率を発揮できる翼構造を、そこから先端に行くにしたがって強い風を最大効率として受け止めていく構造とするもの。
こうすることにより全方位の風に対して極めて優秀な発電効率を発揮させながら、従来までの山田式風車では発電限界とされていた風速10m~13mを大きく凌駕する風速25mでも発電可能な風車とすることが出来る。
しかも風車の起動速度は約2mのままで……だ。
山田青年は未だに完全な可変ピッチアップ構造を考案できておらず、集合風車においても簡易可変ピッチアップに留まっていた。
しかし、未来における小型風車においてはピッチアップ構造というのはすなわち発電効率の低下を意味しており、強風に対してもどんどん発電していける構造とするのが当たり前。
それを可能とするプロペラローターの発明と、最低限のフリーヨー方式こそが俺が知る……そして俺も多少なりとも関わった新世代型風力発電システムそのものであり、これを現在において再現する。
つまり高性能なプロペラが、山田青年が20年先の時代において考案する可変ピッチ構造ほどのものを必要としなくなり……
20年前の段階にて考案できていた簡易可変ピッチ構造……すなわち発電業界がフリーヨーと呼称する機構だけで済むようになったのだ。
現段階においてはピッチ角度は最大10度~15度の範囲とし、殆どピッチアップせずに最大風速50mでも破損しない構造を達成することが出来る。
よって簡易可変ピッチ機構については大幅に弄ることなどせず、俺が大きく手を加えたのはプロペラ周辺に留まった。
プロペラは当然スーパークリティカル翼などに類似する逆キャンバーを下側後縁に描いたもの。
逆キャンバーについてはもはや亜音速領域の翼では当たり前すぎる構造ゆえ、技研では俺の代名詞ともなりつつある一方で他の構造を採用する気はなかった。
そもそもこの逆キャンバーというのは谷先生が結構前の段階から見出しかけていた構造かつ、俺を含めた未来の皇国の流体力学技術者達が好んで用いる形状だ。
本来の未来における皇国の小型風力発電機開発においても当初より逆キャンバーを採用することとなっていたが、この理由は強い風であればあるほど根元へとプロペラに沿って大気が流れていき、回転力とさせることが出来る優れた形状であるから。
未来の風力発電機器の多くは逆キャンバーとしていない事も多いが、小型風力発電機のプロペラ構造において最大効率を発揮したい場合は、強風を受け止める根元付近へと風を圧縮するかのように流し込む構造にするのが最適解……
少なくともその時点ではスーパーコンピューターを併用した計算などによってそう答えを出すことが出来た。
プロペラブレードについては俺もその開発に大きく関与しているが、この時の経験が今の皇国の航空機に最大限活かされていると言える。
それを再び風力発電へとフィードバックすることになろうとは……人生とは本当によくわからないものだ。
さて、これらだけでは効率はある程度までしか上がらない。
最も重要なのは風の吹く方角に対して即座に本体が反応できる応答性である。
ここにも最先端の技術を導入する。
山田青年が"まるで航空機の垂直尾翼だ!?"――と驚きを隠せなかった構造だ。
俺はこの言葉を聞いて彼が野生の超人であることが確定的だなと結論付けたのだが、新たな構造変更点としてはまるで航空機の垂直尾翼そのものといっていいようなヨー方向に自由駆動するフィンが取り付けられている。
これは風向きに対して柔軟に動いて本体を即座に風向きにあわせることが出来ると同時に、その風が乱流状態であった場合でも、本体がまるで飛行中にラダーを連続して操作したかのような左右に揺さぶられるような不快な動きを見せることなく、風の流れに追従することが出来るようになるのだ。
さらにフィンの上端には構造体を設けており、風の流れをよりフィンに向けて流すよう上端が縁ゴムでも取り付けたかのごとく膨らんだ構造となっている。
フィン自体は雄の軍鶏のごとく本体より垂れ下がった構造となっているが、正面から受けた風はフィンにおいては斜め下方へと向かい流れていく事になる。
この大気の流れもまた本体を安定化させる機構の1つ。
基本的にプロペラはピッチアップ機構を設けると多少の風でもピッチアップ機構が反応してプロペラ効率を低下させうるが……
このフィンでもって本体を押さえつけてプロペラがピッチ方向にフゴイド運動のような不快な動きをしないよう整えるのである。
それに加えて垂直尾翼と同等の効果も発揮する。
流体力学においては当然の話だが……整った風などこの世には全く無いのだから、ただ正面から風を受ければいいというわけではないのだ。
このフィンを設けた上で本体はヨー方向に転回できるような構造に改めている。
集合風車自体が風を受けて回転するようにはなっているが、それでは応答速度に優れず、小型風車の効率が低下するためだ。
正直言えば、半世紀先の未来においては妙な構造……俺の知る未来では集合風車は存在しなかったが、風レンズによるローター式が三つ~四つ組み合わせたような風車が存在していて――
こういったものをあえて作るよりも、単純にこの小型風車を一定の場所に大量配置……すなわち単純に"集合配置"させた方が大型風車よりも高効率なのではないか?
――といった小型風車活用の話があり、集合風車についてもやや疑念がないわけではないのだが……
それだとスペース効率が必ずしも良いわけでもないし、比較検討する余地もあることから、今回は集合風車も1つこさえてみる事にする。
また、一連の小型風車に関する技術はなにも集合風車だけのものではない。
当然にして家庭向け小型風車も上記技術によって……というか、外側のフレームを外したようなものを新たな山田式新世代風車として採用。
計算上では風速20mで4kW発電可能ため、発電機を5kWまで許容したものとしつつ量産化することにする。
この影響で本来なら価格が落ちる所だが、やや高価な発電機を採用したため結果的に1基における価格は180円~190円とほぼ横ばいとなる見込み。
プロペラ径は起動風速2mを確保するために若干延長された2m15cmへ。
これは本来の未来において開発した新世代小型風車は起動風速2.5mとしながらプロペラ径1m80cmとしたものを開発していたが、より弱い風速でも起動できるよう35cmほど延長した結果、従来の山田式風車よりも15cmほど延びたことによるもの。
プロペラのブレード形状はもはや本当にブレードだけ見ると剣と表現できる何かとなっているが……この形状でも宗一郎の発明したプロペラ自動削り機で作れるというのでやってみる事にする。
本当はもっと軽量化したいのでメタライトを使ったものとしてみたりなど、いろいろ考えてはみたのだが……
現時点で大量生産可能な点からあえて冒険しないこととした。
集合風車は小型風車を100基とし、発電能力は小型風車1基につき風速10mで1kW、風速20mで4kW。
北海道の地では平均5m程度なので実際の発電力は平均500W程度と思われる。
なので50kWを基本としつつも、台風の時期なんかには400kW発電できる可能性を残した。
これを俺が知る未来情報でもって適切な地域に設置することで、銚子においては2000kWほどの発電力を発揮できるよう計画し、北海道においては5万kW前後を目指して計画を推進。
一般家庭においては本来の未来において北海道で実際に行われていた設置料金の2/3を補助した上で、平均風速が3m以上の沿岸地域……
山陰など日本海側などを中心に漁村などに設置を推進する。
鳥取や島根あたりは風力発電に向いた地域がいくつもあるが、こういった沿岸地域では風車が今後地域の特色となるのかもしれない。
特に山岳地帯では風速20m以上の風が吹く地域がいくつもあるが、そういった地域ではこの新型山田式風車を利用すれば24時間駆動可能な暖房器具すら用意できることになる。
なので軍事用として陸軍に納入することも検討できる。
前線基地でこれといった電源施設が無くとも、ちょっとした風車1台で無線機器などを24時間稼動できる状態を維持できるようになるというのは大きい。
限られた地域だけでしか使えないが……
だとしても燃料いらずは補給の手間が減り効率的だ。
まるで21世紀の話をしているみたいだが……発想というのも時代に合わせて先へ先へと向かって行くというのがよくわかる。
技術が遅れていても未来の発想があれば、近づけるということなのか……
ともかく、これで皇国においても風力発電という市場が開拓するかもしれないんだ。
航空機開発がメインとはいえ……今後皇国に必要になりうる技術開発においては、出来ることはやっておかねば!
◇
新型山田式風車と集合風車の開発計画がスタートしたのとほぼ同時期、王立国家より出来たてのスピットファイアMK.Ⅴが届いた。
が……しかし届いたのはなぜかコア部分だけ。
これではMk.ⅠなのかMk.Ⅴなのかわからない。
俺は確かMk.Ⅴを注文したはずなのに……
どうやら原因は王立国家内の製造工場が軍からの注文でパンク寸前であり、こちらに完成機を回す余裕がなかったかららしい。
王立国家式のMk.Ⅶの開発に邁進する王立国家のエンジニアチームも注文した部品などが全く届く様子がなく、彼らが嫌がらせをしたわけではないことがわかる。
むしろこちらの状況を見た彼らは恐縮な態度でもって支援の申し出を行うほどであった。
せめてエンジンぐらいはよこしてくれればいいのに……仕方ない。
ここは彼らを呼び出すしかなそうだ。
俺は皇国式Mk.Ⅶ……後に本当にMk.Ⅶとなって量産される機体については各種部品もあっちで作ってもらう予定だったのだが、本年夏までに機体を飛ばすために皇国の航空機メーカーを頼る事に決めた。
この計画が始まって以降、度々技研に顔を出してスピットファイアについてあれやこれや確認していた、社長の立場にある"とある大臣"のメーカーである。
そこで山田青年と風車についてある程度計画をまとめた翌日、俺は群馬は太田の地へと向かうことにしたのだった。
◇
「――これがあちらのメーカーの技術者から頂いた最新鋭の二段二速式スーパーチャージャーを搭載したマーリン61の設計図です」
設計室兼会議室となっている場所に集められたのは長島の液冷エンジン部門の技術者。
4年前に俺がマーリンの調達並びに油冷マーリンの提案を行ったチームである。
彼らはその後、試験モデルとして油冷マーリンの開発にも成功し、その上でマーリンⅡ自体のライセンス製造にも成功していた。
残念ながら油冷システムについては現在のエンジンオイルの性能がよろしくなく、すぐオイルが劣化して熱ダレを起こしてしまい、思ったほどの成果は出せなかったのだが……
一方で一連の技術開発で得たノウハウによって彼らはついに1000馬力級液冷エンジンを完全に生産できる領域にまで到達しており、2601年の段階で1030馬力の液冷エンジンをやろうと思えば量産できる所まで漕ぎ着けている。
世が世でハ43なんか誕生していなかったら間違いなくこちらのエンジンに目が向けられた事だろう。
四式戦が液冷エンジンとなり、零が大幅に魔改造される……そんな未来もありえたかもしれない。
俺はそんな彼らの力を借りて一基エンジンをこさえてもらい、状況によっては長島でエンジンを量産して王立国家に輸出する――といったことも考えている。
長島は本来であればハ25でそれなりに収益を積み重ねるが、現在においては四菱に全てもってかれているので経営的にはあの頃より収益が少ない状況にある。
そこがそれとなく気になっていたので、機会があれば利益が増えるような話を提案したかったのだ。
ハ44が完成してもハ43より大量生産される見込みがあるかといえば怪しい。
長島のエンジン技術も枯らしたくないので、何か収益に繋がる一手があればとは常日頃考えていたが、恐らく俺と同じ事を考えていた長島大臣もスピットファイアの様子を気にかけていた様子だった。
恐らく長島大臣と俺の考えは一致していると思われるので提案しても拒否や否定されることはないだろう。
むしろ彼なら"皇国でMk.Ⅶを量産しよう。長島飛行機で"――などと言ってくるかもしれない。
そういう男である。
そこで俺は"まずは一機"――ということで長島大臣に話を伝えた上で今日に至っているのだが、技術者達は特段興奮する様子などなく冷静であった。
これは俺の推測だが、彼らは自分たちの技術としてモノにした段階でそういった時期は過ぎ去ったのだろう。
今は"やれることをやるだけ"といった様子であった。
マーリンⅡが現場に届いた時のような熱は消え去っていた。
「――基本構造から大きく変わった部分は殆どこのスーパーチャージャー部分周辺だけなのですね。でしたら、今回のようにブロワー式などに各部構造を改めてしまう場合はどうとでもなるような気がします……」
「率直に伺います。私は長島は皇国の他のメーカーに先駆けてマーリンのライセンス製造に成功したしたとは聞いていますが……性能的にはどうなんです?」
「我々が作ったのはマーリンⅡですからね……型式は少し古いタイプですよ。ただ馬力は軍用での利用を無視してのチューニングで1500馬力普通に出ましたんでね。本家では速度試験用にチューニングされたマーリンⅡが2160馬力出したって言いますし、2000馬力近辺までなら出せるという自負と自信があります。伊達にケストレルを1080馬力までチューンした我々ではありませんよ」
胸を張って饒舌に応える姿に迷いはなく、その自信に偽りはなさそうであった。
彼らはかなりの領域にまで達している……そう信じざるを得ない。
「大変心強いお言葉です。ならばやはり、皇国のMk.Ⅶについては全面的に長島のお力を借りさせていただければ……」
「それはいいのですが、Mk.Ⅶについては山崎も協力したいと社長に話されてるようですよ」
「えっ!?」
――突然の話であった。
山崎がマーリンにすら手間取っているという話は聞いていた。
モリブデンの話を長島から聞いてマーリンに施したが、それでもオイル漏れなどが解消できず手を焼いていて、皇国に訪れた本家エンジニアに何が問題なのかを聞いてどうにかしようと奮闘しているという話も聞いた。
しかしMk.Ⅶにまで関与したいというのは……
まさかとは思うが三式戦闘機……諦めていないのか。
なんだかいやな予感がしてきたぞ。
「……その件に付随して山崎から何か話を伺っていたりしません? 例えばマーリンを搭載した新型戦闘機を作ろうとしている……とか」
「試験機の開発ならやっているとか聞きましたよ。スピットファイアの翼の主桁など様々な部分における技術について伺っている様子でしたし」
「"スピットファイア"をライセンス生産したいわけではなさそうですか」
「技官は山崎がそういうメーカーだと思います?」
「いえ……」
「それが答えではないですかね」
やや呆れ顔の技術者は全てを語らなかったが……ともすると実物を見たのではないだろうか。
リソースが限られる皇国においてはあれやこれやと開発をする余裕はない。
仮に本当に三式に手を出し始めているなら止めさせないと。
彼らは訓練機の開発だってしているんだぞ!