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第16話:航空技術者はキ43の開発を加速させる

 桜がツボミをつけはじめた頃、設計の詳細がまとまってキ43と名づけられた新たな一式の試製機が作られはじめた。


 世間では第三帝国がエーストライヒを併合したことが話題となり、王立国家はいよいよ危機感を募らせている。


 一方、この行動は国際社会からお咎め無しのような扱いを受ける。


 西条にも派手に動くなとは言ってあるのだが、皇国を含めた各国は元より静観する姿勢であった。


 この理由としては、エーストライヒが直近まで行っていた政策を第三帝国にやられただけであることと……


 第三帝国の総統が主張する"言語が同じなのだから同じ国家で何が悪い"という、割と正論に聞こえた論理に誰も反論できなかった部分が大きい。


 そもそもが先の大戦にて統一を計ろうとしていた地域だっただけに、軍力にモノを言わせた行動に対して"敗戦国なのだから自重しろ"などと言えば、第三帝国はその怨嗟から牙を剥いて襲いかかるのは必至。


 そればかりか併合された地域の国民自体がこれを認め、さらに周辺地域についても総統の政治力から併合に期待を寄せるようになってしまう。


 小国でありながら非常に高い工業力を持つ工業国家チェスコを併合されるとその軍力の拡大は想像もつかないほどとなるのはわかっていても、無茶苦茶な要求をしたことに負い目のようなものを感じていたのである。


 最終的に周辺各国とは同盟を組むようなパターンも駆使しその国力を肥大させていった。


 第三帝国の総統は戦争二元論を掲げていた。


 先の大戦以降受けた屈辱を100倍返しにしたいがために戦争に導きたいが、まずは交渉の場を設けて相手に要求を飲ませるというものである。


 戦争のために交渉はするが、交渉を飲むならば戦争はしない。


 まさにそれは政争と戦争の二元論という他なかった。


 その要求が周囲のブレーンによって絶妙の塩梅に調整されていたために、戦争化しなかったものの、本人は自身の国を傷つけた国家に痛みを与えたくて仕方なかった。


 その結果、最終的にヤクチアと第三帝国を出し抜こうとしてた国から手始めに攻撃を開始する事になって2度目の大戦が始まる。


 ここまでは俺の予言通り。


 西条も"いよいよか"と大戦が始まる機運に気を引き締めているようだ。


 一方の立川はまだ平和そのもの。


 開発は順調で、このペースでいけば本年の年末までに初飛行が可能だ。


 ハ33の採用によって開発ペースが大幅に速まったような機運すらある。


 後は細かい仕様別に試作機をこさえよう。


 キ43については当初より西条に提案し、複数パターンの機種を用意することとした。


 1号機は標準型。

 2門の12.7mmを機首砲とした機体。

 恐らくこれが採用されるのが濃厚と見ている。


 2号機は準標準型。

 12.7mm機関砲をなんと翼内に片側1門ずつの2門とした機体。


 これには理由がある。


 エンジンカウル部分の構造をより洗練し、空力特性を上昇させることを狙ったものだ。


 ただし恐らくテストパイロットからの評判は悪いと見ている。


 基本的に航空機銃というのは機首砲が最も命中させやすい。


 我が皇国が共和国よりモーターカノンを輸入してまで試したのは、これに起因する。


 本来の一式戦は機首砲だからこそ狙撃手と言われ恐れられたのだ。


 これは射撃時にコックピットからの曳光弾の射線が見やすく、距離感が掴みやすいからである。


 翼内だと状況によっては射線が見えないのだ。

 だが、空力的に機首砲などマイナス面しかない。

 冷却面においても難が生まれる。


 実は当時これらのジレンマは諸外国にもあった。


 そこで考案されたものこそモーターカノンであるのだが、こいつは星型エンジンには搭載できない。


 基本的にモーターカノンは液冷エンジンが基本であり、陸軍はモーターカノンのために2年前にちょっとした試作機すら長島と協力して作った事もある。


 これが陸軍が三式戦闘機を最後まで諦められなかった理由の1つだったりするのだ。


 共和国からわざわざ技師を呼び、国内でこさえた試作機であるキ12は液冷エンジンの可能性などを示し、陸軍は可能性を諦めないとばかりに山崎や長島、そして四菱に問いかける。


 しかし現状を見るとどうにもなっておらず、最終的に三式としてどうにか形にはするものの……結局諦めることになるわけだ。



 西条から"お前の流体力学で液冷エンジンをどうにかできないか"と頼まれているが、実はちょっとした提案をしており陸軍上層部では現在検討が開始されている。


 上手く行けば面白いことになるかもしれない。


 どうなるか見ものだが、もしかしたら……いや、それよりも今は一式戦の方が重要だな。


 さて、2号機の準標準型については実はハ43の搭載も考慮した上での試作機だったりする。


 ハ43の場合、より冷却に気を使うので機首砲の搭載は当初は見送りたいというのを西条に伝えている。


 外気の流入方法に自信がないわけではないのだが、完成したハ43がどういうエンジンになるか今だわからないため、あらかじめ保険を打っておく。


 その場合を考慮した戦闘機も作ってある。


 3号機は翼内に12.7mmを片側2門とした計4門の重装備化をしたものとした。


 元よりハ43を搭載することを念頭に入れた設計であり、パイロットの評判が悪くとも性能でゴリ押すことを考えているが……


 ハ33が強化されてハ112-Ⅱになればこの武装でもまるで問題が無い。


 というか、1500馬力あれば機首砲との6門も考慮できる。

 3号機はまさにそれを目的とした機体なのだ。


 4号機は機首砲と翼内に2門を装備させた標準発展型。


 冷却問題さえどうにかなるなら、間違いなくこのタイプが将来的な一式戦となることだろう。


 これで対戦機としては十分だ。


 俺の予想ではこの状態でハ43を搭載した場合は635kmといった所だろうか。


 現時点でも600kmは楽に超えるな。

 ハ33を強化した場合では620km程度を発揮できる。


 陸軍上層部は"誰が4門にしろなどと言った"などと明るく笑いながらいい意味での批判をしたものの、当然俺も一式戦は2門で十分だと思ってはいる。


 それだけホ103とは優秀な機関砲であるのだが、俺は20mmへの変更ももちろん考慮している。


 その上で実は西条にはいまのうちにしか出来ないからと、共和国よりヒスパノType404ことHS.404を輸入とライセンス締結をしてくるようお願いしていたりする。


 20mm砲に関しては我が陸軍にてホ5を開発した。


 これはなんだかんだで海軍の九九式の2号機銃よりも高性能だったが、それでも信頼性が低かったりなど諸所の問題があった。


 この原因には統一されてなかった設計図など現場の混乱の影響があり、実はその混乱が起きるのが来年だったりするのだが……


 西条には最小限度の混乱で留めつつ、前倒しでホ5を開発できるよう整えてほしいとは言っている。


 ホ5は技研のメンバーが設計した非常に優秀な機銃。

 海軍の20mmよりよほど信頼性が高かった。


 その上でヒスパノも輸入してきた要因としては、ホ5を信頼していないわけではないが保険としての意味合いが大きい。


 俺が西条に伝えたのは2つの未来である。

 1つはNUPとの開戦が回避され、王立国家との同盟関係を再構築。


 結果様々な兵器類の輸入を可能とするが、そうした場合に弾薬を輸入しようと思った時に20mmだとこのヒスパノの20mm弾丸が主となってしまうからだ。


 そのため、あらかじめ我が軍でもベルト給弾型への改良を試し、いつでも対応できるようにしておきたかったのである。


 もう1つの未来は王立国家とは敵対する方向性。


 そうなった場合は敵がこれを使ってくる。

 予め弾道などの研究用に1挺ぐらい保持して敵の強さを確認しておかねば怖い。


 NUPと王立国家は最終的にこの機関銃を基本としてくるため、敵となっても味方となっても本機関銃について認知しておかねばならないし、ホ5の方が個人的に優秀だとは思っているが、ホ5の完成度が上がる可能性もあるので現在ライセンス交渉中だ。


 実銃自体はすでに輸入してきており、5号機にはこちらを搭載してみようと考えている。


 機首と翼内に4門。


 ドラムマガジンのせいで60発しか撃てない代物ではあるが、翼内への搭載は位置を調整したおかげでなんとか果たした。


 軍上層部はハ43を搭載すれば"これでもう重戦闘機でいいんじゃないかな"――だとか思考停止している者もいるがそんな事はしない。


 むしろ西条からはせっかくのモーターカノンなので、キ12以来の試作機をこさえてみるかと提案されており、俺も前向きである。


 一連の機銃は、本来の未来とは違う照準器を搭載したキ43によって攻撃試験も行う予定だ。


 本来とは違う照準器とは何かと言うと、普通に九十八式射爆照準器を調達してきたのである。


 陸軍は本来ならば第三帝国のメーカーからなにやら調達してきた謎の照準機をデッドコピーして、当初は百式射爆照準機として採用する。


 光像式照準器がほしくて調達してきたものなのだが、第三帝国では未採用になった代物だ。


 こいつが曲者で、ありとあらゆる点で九十八式射爆照準機に劣る上に開発が遅れ……


 百式。つまり九十八式より2年遅れの完成となってしまい、一式戦が当初搭載した照準器は光学式で、二型になるまで光像式とならないのだ。


 こうなった最大の原因はメーカー選定の失敗。


 陸軍は当初、東京工学に照準器のデッドコピーを依頼するのだがこれが難航。


 後に零を見て素直に海軍からどこに依頼したのかと聞き、大急ぎで本来のメーカーに製造を頼むようになる。


 九十八式は後にカメラメーカーとして名を馳せる会社が解析した上でそこからさらに改良設計し、製造を豊岡光学に依頼したものなのだが……


 豊岡光学こそ最も照準器の製造に秀でていたメーカーだったわけだ。


 当時の資料では豊岡光学の技術力の高さを褒める記録が何度も出てくる。


 しかし、ここから盛り返すのが陸軍。

 実は我が技研には凄まじく先進的な照準器を作れる男が1名いるのだ。


 その男は先進国に先駆けて自動照準器メ101……通称三式射撃照準器を実用化し、さらに量産する。


 自動照準器とは当然ジャイロ式照準器のこと。


 これを技研の一体誰が実用化したのかさっぱりで、実は俺も記憶に無い。


 いつの間にか豊岡光学に量産を依頼し、三式戦以降の標準装備となっていた。


 海軍がまともな照準器を作れない一方で陸軍は技研がそれを可能としてしまったのだ。


 布石はある。


 我が陸軍にはこれよりBf109といった第三帝国製の航空機を多数購入してくる。

 その計画については本来の未来と同じく遂行する予定だ。


 買えるなら王立国家のものも欲しいとまで言ってるが、今のところ交渉は上手く行ってない。


 皇暦2601年までに調達できる国家は第三帝国と共和国、そしてNUPのみ。


 王立国家は当初よりこちらと敵対姿勢であるわけだ。


 そんな中で最も親切になんでも売ってくれるのが第三帝国であり、それが後の三国同盟へと繋がるわけなのだが……


 これらの機体に搭載された一連の照準器は全て最新鋭のものであり、モンキーモデルなどではないのだ。


 技研の記録にもバラして解析したといった話が残っている。


 ここからたった3年でジャイロ照準器を思いついて実用化し、さらに量産まで漕ぎ着ける化け物が立川にいるのだ。


 西条には一体誰なのかわからないと説明した上で、とにかく早い段階でジャイロ照準器を実用化したいがために九十八式射爆照準器を手に入れてきてほしいと頼み、コッソリと量産していた豊岡光学に適当な理由を述べて調達してきてもらった。


 海軍はこの行動に特に文句は言わなかった。


 というのも、元来の未来でも零と隼で戦わせた際に海軍はその事が気になり、陸軍に対して速い段階で光像式の照準器を導入しろと言うわけだが……その際にメーカーを紹介して九十八式の導入すら促すからだ。


 我ら陸軍は自らのプライドを傷つけられたのか反故にし、一旦は百式の開発に拘るが、結局百式が大した性能ではなく東京工学とは縁を切る事になる。


 どちらにせよ、九十八式の基となった照準器自体は今年の段階で第三帝国機を輸入してくるので手に入るといえば手に入るが、すでに量産段階に入っているものを調達しない理由はない。


 西条を含めて陸軍上層部などは照準器で先行していると思っていたのだが、九十八式の実物を見た技研の者たちも含めて唖然としていた。


 これが起爆剤となって三式照準器の開発が早まるといいのだが、メ101の構造については大体知っているので、それっぽい資料を開発部に渡して照準器の改良を促してはいる。


 この謎の天才……


 まるで名前が出てこない事から歴史の闇に消えていったか、戦後光学メーカーに入って活躍した者なのだろうとは思うのだが……


 いかんせん門外漢な上に技研内にも記録が残ってないせいで名前がわからないのは悔しいな。


 俺でも全て把握しているわけではない……


 それでも西条は2年前倒しになったのだから、ジャイロ式だって2年前倒しになって皇暦2601年には実用化できるのではないかと主張してたが……果たしてどうなるやら。


 戦闘機ばかりに目が向くが、D51のC61化改造も順調。


 こちらはボイラーやエギゾーストなどの一連の設計がすでに終了しており、後は組み立てていくだけ。


 このペースだとお盆までには完成し、秋までには走行試験が行える。


 軸重が軽くなったために動輪が滑る可能性を考慮して砂箱などが新たに装着されるが、C61はC62ほどそういう現象に悩まされなかったので問題はないと思われる。


 むしろC59が流れてC62は別の姿となるか誕生しないのではないだろうか。


 D51の大改造と一式戦の状況が落ち着いてきた俺はついに双発機に注力することになった。


 ハ43が到着する前にハ33による双発戦闘機をこさえてみせる。


 何気に二式の開発より険しい道のりだが、四菱と共にキ83とは異なる存在を1機作ってみようじゃないか。

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