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第134話:航空技術者は翼を折り曲げる(前編)

「――では、そろそろ我々も会議に本格的に参加させていただいてもかまわないか?」


 俺が遠心分離法について説明してからしばらく、チャーチルと西条による押し問答が続いた。


 チャーチルはどこで製造し、どこで開発し、どこの地域にて誕生した悪魔の兵器を用いるのか再三にわたって西条に確認をとるが……


 西条は濃縮は皇国と王立国家双方で可能なのだから、核燃料製造までは行い、その後の兵器開発をどうするかはまず燃料の製造法が確立されてからにすべきだと主張。


 一方で燃料製造にかかるコストなどは事前に計算済みであり、両国どちらの経済力でもG.Iの生産力ありきながらウラン濃縮を2年以内に実用化して2604年までに数発分のウランを確保するのは可能であると力説した。


 やはり自国で使う勇気がないチャーチルは王立国家におけるウラン濃縮に若干の難色を示すも……

 一連の協議の結果、双方の見解においてNUPを巻き込む必要性があることでは一致する。


 NUPとの交渉においてはNUPとの結びつきが強いバルボ将軍らの協力も得る形としつつ、アペニンは核兵器に関して当面の間は直接的な開発は行わないと主張し、一旦その議題は終了した。


 その後において口を開いたのはムッソリーニである。


「ここに集まる皆も理解しているとは思うが……我々が将来において使用禁止条約が誕生しそうな大量破壊兵器に頼ろうとするのは、偏に戦力が足りないからだ…………参入する兵力の絶対数が足りていない。ヤクチアに対しては彼らのお粗末な軍隊のおかげで現状どうにかなっている。しかし今後ヤクチアが新兵器を相次いで投入してくれば状況はさらに悪化する。できればこの辺りで戦力補充のための"妥協案"を両国に提示したいのだが……」


 そう言ってムッソリーニが俺を含めた会議参加者に手渡してきた資料は……


 皇国と王立国家が自治している一部地域の民族についてアペニンが独自に収集したレポートと、併せて彼らに自治権を与える代わりに戦力として参戦してもらおうという提案が書き込まれたメモであった。


 王立国家はインドラ、皇国は台湾。


 双方の地域の民族に対し、「ヤクチアに滅ぼされるか」、「自治権を手に入れる代わりに民衆の戦いに加わるか」――を選択させ、戦力増加を画策しようというのだ。


 前者は150万人以上、後者は45万人以上の追加戦力を捻出できる計算。


 ただし前者は問題が山積み。


 偉大なる魂を持つ男は王立国家が自治領とすることを認めたとて、その首を横に振るのは目に見えている。


 本来の未来においても彼はそれを良しとしなかった。


 自治領ではなくそれが独立であったならば話は別かもしれないが……

 そうであったとしても"偉大なる魂を持つ者"が暴力による解決を許すとは思えない。


 彼の一連の行動とインドラ内における出来事は後の未来において結果的に意味があったかどうかはわからない。


 1つ言えることは、彼らは最終的に核兵器を持つことでヤクチアに完全に飲み込まれる前に独立国家としての立場を確固たるものとしたこと。


 その行動方針は完全に偉大なる魂を持つ者が掲げたものとは正反対ではあったが……


 彼が掲げた民族による意思の統一は国家としての基盤を作ることには成功し、彼らはヤクチアとの蜜月関係を構築することで国家として共産主義に完全に飲み込まれず生き残ることには一応成功していた。


 華僑が共産主義を選択しつつヤクチアに表向きなびくようにして生き残りをかけたのとは異なり、彼らは共産主義は選択せずにヤクチアと良好な関係を結ぶことで生き残ろうとしたのである。


 その結末がどうなるかは不明だ。

 その後の未来において俺は生きていないからな。

 知ることが出来るなら是非知りたいものだ。


 結局飲み込まれるなら意味がなかったと言えるし、ヤクチアが攻め切れず蜜月関係を続けるならある意味では勝利者とは言える……完全な勝利ではないが。


 まあ砂漠地帯周辺の状況を見てもヤクチアが全てを飲み込めるわけではないわけだから、俺の予想ではエベレストなどの山々が彼らを今後もヤクチアから守り続けてくれるのではないかと思ってはいるが……


 それはいいとして、後者は不可能ではないが西条がその選択を選ぶかどうかは不明だ。


 西条は知っている。


 皇国は結果的に南は沖縄、北は北海道。


 対馬などの島などを除くとヤクチアの自治領としての皇国は限られたものとなっており、今現在ほどの領土は得ないばかりか2597年頃と比較すると国土は非常に狭くなっていることを。


 台湾は生き残りを模索した蒋懐石らが占領したものの、即座に共産主義の手に落ちて華僑の地域の一部となった。


 元々民族的にも皇国とは異なっているのでヤクチアも皇国側の地域として認めることはなかった。


 その台湾においては本来の未来と多少状況が変わっている点がある。

 台湾地方自治聯盟は解散していない。


 現在、東亜一帯では共産主義の一掃を掲げて各地で活動が展開されているが、それは現地住民の力を借りてのことである。


 皇国は自国とヤクチアに手一杯な状況なため、本来ならば4年前には解散しているはずの台湾地方自治聯盟は活動を続け、戦力を伸ばしていた。


 そして彼らの活動に乗じた地元の有識者ならびに有権者達……いわば資産家達はその流れに乗じた左側勢力を排除した上での台湾議会設置運動を再び展開。


 新聞や雑誌においては第二次台湾議会設置活動などとして紹介されているが、2595年頃まで続いた第一次活動は主に左側勢力が過激化したことで保守派や穏健派が離脱して衰退した所……


 彼らは台湾地方自治聯盟に合流することで過激派を総督府と協力して排除することにより総督府から一定の信頼をえる形で合法的な民主主義的政治活動でもって自治領の設置を訴え……


 現在に至っている。


 アペニンは当然それを見逃さなかった。

 自治領としての立場を与える。


 それだけでともすれば大幅な戦力を増加できうることを良く知っている。


 例えば彼らにNUPからレンドリースした銃と戦車を与えれば相当な戦闘力になるのではないか。

 その考えはあながち間違ってはいないと言えた。


 インドラにおいても皇国軍人などの教えによって十分に戦えるような戦力を手にしたことを考えると、双方を抱きこんで少しでも戦力を向上させようという考えは正論ではある。


 ただし、両国がそれを受け入れるかどうかは別。

 特に王立国家はそれを受け入れたとしてもインドラの民が戦ってくれない可能性が高い。


 恐らくムッソリーニとしては最初から皇国側の動きに期待しての提案であると思われる。

 よほどこちらの方が何とかできそうだからな。


 そしてその台湾における動きをみたインドラが皇国を仲介者として味方に加わるという方向性を見出そうとしているのではないかと推測する。


 あくまでこれは俺の推測に過ぎないが、可能性は0ではない。


 東亜のために戦わねばならない……この考えまで偉大なる魂を持つ者は完全否定できなかった部分があり、歴史研究家は東亜において華僑の事変が早期に片付いていたならばまた異なる反応も示した可能性があることを予測していた。


 ムッソリーニサイドもそこを見出した可能性はある。


「――提案として現実味がないわけではないが……即答はしかねるものだ。特に王立国家においては我々より状況が厳しかろう」


 様々な思いが脳内で錯綜して顔が紅潮するチャーチルに目を向けながらの西条は、未来の情報を知る者としての余裕はあったものの、同時にそれが立場上容易でないことを言葉で表した。


 農地としても工業地としても優秀なこの場所は、沖縄より経済的に発展させられるかもしれない地域。


 皇国は南の工業地帯として九州と並んで活性化させたいのだ。

 そう簡単に手放すなどと言えるわけがない。


 自治領として一時的に手元に置けたとしても、後の未来の動きを考えると独立運動がさらに盛んになって最終的に手放すのは目に見えている。


 集においては飛び地の扱いに近い経済特区などを設置することで何とか議会を納得させることが出来たが、皇国は今の状況に持ち込むまでにかなりの妥協を行っており、石油資源が見つからねば西条は暗殺されていた可能性だってある。


 そこに台湾か……やるとしても、もはや西条がやりたいとは言えぬな。

 陛下がその選択を選んで議会に有無を言わさぬ以外はありえない。


 陛下には台湾が今後どうなるかは伝えていない。

 これは今後の議会における検討を踏まえつつ、俺が陛下に未来についてまたお伝えせねばならぬかもしれん……


 ◇


 ――結局、ムッソリーニの提案は即座に了承とはならないものなので、双方保留のまま会議は次の議題へ。


 次にムッソリーニが議題としたのが砂漠地帯の問題であった。

 アペニンやオリンポスといった地域の力によって南から圧力を加えたことで進軍を西に限定された第三帝国は一部の部隊がすでにユーグの西端まで到達。


 彼らはジブラルタルと砂漠地帯の北側を占領することで皇国などからの援軍を阻止しようと画策していたのである。


 第三帝国の猛攻を後押ししているのがロンメル。


 本来の未来においてはアペニンを通して占領するはずの砂漠地帯の北側がアペニンが敵になったことで占領できなかったため、ロンメルは西方電撃戦において西へ西へと向かうことでジブラルタルを落としてそこからジワジワと地中海に手を伸ばそうと考えていたのである。


 ジブラルタル陥落は時間の問題。

 頼みの綱たる王立国家からの援軍は期待できず。


 このまま行くと北の砂漠地帯は半年以内に彼らの手に落ちることが確定的であった。

 そこでムッソリーニが求めたのは東亜からの援軍である。


 皇国はロンメル戦車部隊に対抗できうる戦車の開発が順調。

 この皇国陸軍戦力を中心に東亜の力を借りて砂漠の虎を倒したいわけである。


 地中海側においてはアペニンの航空戦力を投入することで一定の抵抗力となるが、こと陸上戦力に乏しいアペニンにとってレンドリース法によってシャーマンを得たとて、Ⅳ号戦車を中心とするロンメルの軍勢と戦うには厳しいものがあった。


 あっちの主戦力は75mm砲を装備するⅣ号戦車。

 こっちはシャーマン以外はマチルダとクルセイダー、そしてバレンタインなどの王立国家の戦車を除くとチハぐらいしかないのである。


 中でもクルセイダーが曲者。

 とにかく砂漠地帯では役に立たず、一説では16km進軍するごとに1台のクルセイダーが故障して放置されたと語られる。


 あの戦場で活躍したのはマチルダであるが、それでもロンメルによる猛攻をしのぎきることは出来なかった。


 だが最終的に王立国家はクルセイダーによって建て直す。


 かの有名なクルセイダー作戦は、戦場で放置された100台近くの戦車を回収、修理しての戦場への再投入を行いつつの反抗作戦であったが、その反抗作戦の立役者がクルセイダーだったのである。


 なんたって修理されて再投入された約70台がクルセイダーだったというのだ。

 どれだけ壊れやすいのかよくわかる。


 ちなみにこの時ロンメルは敵側の戦車も大量に鹵獲しつつ、全くもって補給が滞って補充が出来ない戦力の低下を押さえ込もうとしていたが、故障が頻発するクルセイダーはほとんど無視してそのまま放置したことで王立国家の戦力回復を許してしまった。


 双方が一時"使い物にならねえ"――といって捨てた戦車にもう一度向き合ったことが、戦局の決め手となったのである。


 つまるところ、砂漠地帯というのは未来のかつて皇国と呼ばれた地で放送された人気アニメ作品から台詞を引用するならば"クルセイダーを直した方が勝つわ"――ということなのだろう。


 だとしても終始ロンメルに押されっぱなしであった戦場においてアペニンは当初より王立国家の支援を期待していなかった。


 いや……してはいけないことを認識していた。

 現状において王立国家がこれ以上戦力を南に差し出すと北側が総崩れになりかねない。


 ヤクチアを完全に押さえ込んでいる以上、王立国家からの援軍は最小限としながらロンメルを叩く。


 となると……主戦力はシャーマンを軸に、もう1つ彼らの主戦力をなぎ払えるだけの戦車がほしいというわけである。


 砂漠地帯には後に虎の異名を持つ戦車も投入される。

 現状において唯一虎に十二分に対抗できる戦車を作れそうなのは、数年前まで戦車後進国で周辺国から嘲笑われた皇国。


 本年中に80台、2602年春までに180台が完成見込みの皇国の重戦車は"二式重突撃砲"として正式採用予定。


 当初この戦車は"二式重駆逐戦車"と呼称される予定であったところ、回転砲塔装備の……数年後の未来において"三式主力戦車"と呼ばれる存在の開発が順調ゆえ、戦車という名前を剥奪された。


 ようはチハの後継車は三式主力戦車であるので、勘違いされないように戦車と名づけることを辞めたというのだ。


 ここには皇国がまともな戦車を作れるようになったという技術的な自信が関係している。


 実質的に突撃砲で間違っていなくもない重戦車を駆逐戦車と名づけた場合、相手国はチハの後継戦車をこちらと考えるだろう。


 だが陸軍は一気に時代や世代をすっ飛ばしたものをチハの後継とすることが、いかに敵側に与えられるインパクトの大きいのかを逆算した結果……戦車という名前を取り下げた。


 すでに現時点で"重突"または"重凸"などと呼ばれ始めた皇国初の重戦闘車両は、砂漠戦闘をも考慮した遠心分離式フィルターの開発も行われている。


 これは未来のヘリコプター技術を応用したものだ。


 未来のヘリコプターにおいては砂漠地帯などにおける使用を考慮し、砂埃を遠心分離してしまうジェットエンジンが存在する。


 業界用語ではこの機構を"パーティクルセパレータ"などと呼ぶわけだが、信頼性の高いターボシャフト式ヘリコプターには必要不可欠な装置である。


 こいつを搭載してなかった軍用ヘリコプターを運用したことで砂漠地帯でまるで役に立たず、とある紛争においては戦局を左右するに至ってしまったことがあるぐらい重要な存在だ。


 具体的な分離方法としてはメーカーによっていくつかの機構が考案されているのだが、例えば1つ例を出すならば正面のファンを遠心式にし、専用のブロワーと組み合わせて埃や水滴などを分離した上で外に放出。


 比重の軽い大気はタービンの内側からエンジン内部へと入り込んで後ろのタービンへと向かい、異常燃焼などを防ごうというもの。


 遠心分離を担うファンは大気が内側に向かうよう、まるで独楽のごとき形状の不思議なものとなっているが、こいつを搭載していたヘリコプターは凄まじい信頼性を獲得していた。


 後の未来においての救助ヘリの中には危険地帯での運用を想定した機体ほど搭載しているわけだが、たとえ火山灰が降り積もる火山噴火直後の現場で低空ホバリングなどを続けてもエンジンの稼動に支障が出ないほどであり、国やメーカーによって様々な分離法が考案されて販売されるヘリコプターに搭載されている。


 この機構、基礎的な分離のための仕組みさえわかっていれば割と単純な構造にできうるので、CS-1のエンジン手前に専用の遠心分離ファンとブロワーを搭載して強力な防塵フィルターとすることは容易だった。


 元々低圧低温タービンであるCs-1は多少の砂や砂利程度では動作に支障が出ない。

 高温のタービンほど砂利や砂が融解してタービンにへばりついたりなんだりして悪影響を与えるが、それらは融解する温度に到達せずに殆どそのまま外に排出されてしまう。


 だが大量の砂となると話は別。

 さすがにサージングなどを起こしかねない。


 そこで三式主力戦車の信頼性を向上させんがため、三式主力戦車に最初からフィルターとして搭載するために開発を開始したものであるが……当然新たに開発中の双発型ヘリコプターの信頼性を大幅に向上させたいがために作っているものでもある。


 二式重突に搭載してみようと画策したのはスペースが若干余っていて搭載可能なことが判明し、まずは効果を二式重突で確かめてから……という話になったためであった。


 これが上手くいけば砂漠でもそれなりに戦えるはず。

 特にモーター戦車は気温が大きく下がる夜に強い。


 あえて昼間の戦闘を避けて戦えばあるいは……といったところだ。


 全くもって油断はできない。

 虎は簡単に倒せる相手じゃない。


 相手はロンメル。

 戦術論も戦略論も一枚も二枚も上手の名将率いる砂漠の軍団。

 上手いことヘリも投入して補給経路も確保しつつ立ち回ってどうにか倒す以外ない。


 しかも相手の虎が俺の知ってる虎であるとは限らない。


 いきなり王様の方が出てくる可能性だってある……


 あっち側から流れてくる断片的な情報では、ポルシェ博士が何やらこちらの情報を得てかなり洗練されたモーター戦車を開発中との話もある。


 エレファントより優秀なものをぶつけられてくると正直言って厳しい。

 だがこちらだって何も考えていないわけじゃない。


 三式主力戦車における主砲のマズルブレーキ。

 これは他の戦車にも応用できる魔法のマズルブレーキといっていい代物である。


 現在は海軍が120mm戦車砲の開発を大きく補佐してくれているが、例えば重量的には120mm砲を37t程度の車重の車両に搭載することは不可能ではない。


 ただ、シャーマンに搭載するにはさすがに大きすぎる……後座長60cmが確保できない。


 だが例えば、M10に100mm級の主砲を装備させること……これは可能だ。


 現在皇国が提供を受けているシャーマンを魔改造してM10仕様に近づけて長10cm砲を装備させた急造駆逐戦車を作る……これも不可能ではない。


 皇国陸軍は120mm戦車砲の完成が遅れた場合を想定して長10cm砲を戦車砲としたものを保険という意味合いで海軍に開発依頼しているが、この長10cm砲は命中率増加のためにただでさえ短い砲身寿命がさらに短くなることも厭わず新型マズルブレーキを装備させたものとしている。


 理由は砲身寿命が尽きる前には完成しているだろう……という考えによるもの。

 だが120mm戦車砲の開発は順調で、どうにか間に合いそうなのである。


 このまま行くと2602年夏頃には長10cm砲を戦車砲化させたものが400基ほど余る。


 よってこれをM10っぽくなってしまいかねない魔改造シャーマンに搭載させようという提案はすでに俺ではなく陸軍内の戦車部隊に関わる将校らから提案されていたのだった。


 陸軍は万が一を考えてその提案を保留していたが、あえて120mm砲は完成すると信じて虎を狩る皇国仕様のガンモーターキャリッジを作る手はあった。


 虎がキングでなければ……800m以内で何とか抜ける。

 砂漠地帯は滑走路が皆無で航空機による航空支援が殆どない。


 ゆえにオープントップでもどうにかなるはずだ。


「――ジブラルタル解放などを目的とした派兵に関しては了承した。陸軍で送り込む戦力を検討し、近いうちにそれなりの数をロンメルに対して差し向けよう。ただ新型の突撃砲に関しては完成にまでまだ時間がかかる。ジブラルタル陥落までに戦力を投入することは難しいかもしれん」

「ならば撤退戦で構わないので相手の進軍を遅らせる戦力の投入を頼みたい。このままの勢いではスエズまで即座に手を伸ばされかねん」

「わかった。我々も航路確保の大義名分がある。ユーグ西端を決して見捨てはしない」


 アペニンは北側への圧力に全精力を注いでいる関係で、スエズや地中海側を通して陸上戦力を送り込まれると非常に厳しいものがあった。


 ムッソリーニにはそれなりの危機感があったものの、まだ焦ってはいない様子。


 本会議にはガルボルディ司令官も同席していたが、ロンメル討伐部隊のアペニン側の指揮官は彼であり、後ほど彼より具体的な戦略方針などが伝えられた。


 それと同時に彼よりP40の存在も口にされる。


 現在誠意開発中のP40はレンドリース法をフル活用した結果、シャーマンM4A2と同じ6046直列12気筒ディーゼルエンジンを選択したことで開発が加速化。


 本来の未来ではこれが揉めた影響で開発が大きく遅延したが、まともなディーゼルエンジンが手に入ったことで2601年の秋以降に量産可能となっていた。


 しかも車体構造には溶接鋼板と溶接技術を王立国家とNUPからそれぞれ手にした結果、全溶接構造となっている。


 主砲こそ本来のP40と同じく75mm L/34となっており攻撃力にはいささか不安があるものの、防御力と速力に関してはそれなり。


 車体はエンジンに合わせてやや全長や全幅などが拡充され大型化したものの、重量は30t未満に収まっているらしく装甲厚をほどほどに速力を重視しており、整地速度50kmほど出る巡航戦車といえなくも無いものに仕上がっていた。


 もしかするとクルセイダーよりもこちらの方が優秀かもしれない。


 変に自国独自構造とかそういうものに拘らずに自国の技術と他国の技術を融合させて無難で保守的なものを作り上げている。


 今日の最大の収穫はアペニンの技術者達が決してこの戦において腰を落ち着かせて静観しているわけではない姿勢が見られたことだ。


 やはり彼らは周囲からのサポートさえあれば自分達の力で立ち向かっていけるだけの地力はあるのだ。


 俺が知る未来において彼らはあれもないこれもないで足掻くことすら許されなかったが、足掻こうとしなかったわけではない。


 それがやり直した今の状況に繋がっている。

 砂漠の狐はP40と二式重突が相手だ。


 こちらを侮るなよロンメル。

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