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第125話:航空技術者は紐で縛られる

 設計室に戻った俺は早速血圧計を分解しはじめる。

 名目上借りた形ではあるが、原型を留めたまま返す事など出来ない。


 最初から謝って血圧計を新たに調達してもらう気満々である。


 重要な部位はこの膨らませて腕の血流を止める構造。

 つまりゴムで作られていると思われるゴム袋部分の構造である。


 血圧計はゴム袋から2本のゴム管が伸びており、片方が空気を吹き込むもので、もう片方が空気を排気するものとなっているはず。


 その全体構造が知りたいのだ。


 俺の記憶が正しければ当時のNUPの耐Gスーツは最大使用可能回数がわずか3回だった。

 急速に膨らませるのにその構造が耐えられず、確実に動作するのは1回。

 以降は上手くいけば最大で3回。


 皇国で例を出すなら使い捨ての紙風船をエアポンプで一気に膨らませようとしてるのと状況が変わらない。

 アレも結局数回で破れてしまう玩具だが、かける圧力が圧力だけにゴムを用いても同じ事になる。


 それ故、最大限にGがかかる際にのみ稼動するようになっているわけだが、それだけでもブラックアウトする可能性を大きく減退させることが可能だったと聞く。


 作動原理はおそらく機械式の錘を利用した割と単純な構造だろうと推測される。

 一定以上の過重がかかって錘が動くとスイッチが入って通電。


 するとエアコンプレッサーが動くのか、もしくは外部から流入している空気の一部を取り入れるエアインテークからヒーターや換気などに使うために配管されている部位からバイパスさせる弁が作動するのかどちらか。


 どちらにせよ強烈な空気が入って一気に膨らませる結果、連続使用は出来ない。


 これこそが、諸外国の一部がしばらくの間、液体式に拘った理由だ。

 液体の場合、例えば小型のアキュムレーターなどを使えば一定量の液体だけを送り込む事が可能。


 普段はポンプでアキュムレーター内に水などを満たして圧力をかけておき、Gがかかったら弁を開いて一気に水を流入させる。


 このような構造ならば必要以上に圧力をかけずに済むのでそれなりの回数にて何度も使用可能。

 ヤクチアは作動回数が多いがゆえ、10年程度の間は液体に拘った。


 トランジスターなどによってエアポンプの作動を精密制御できるようになると、次第にデメリットばかりが目立ち始めて最終的にエア方式に改めるとはいえ、機械式という稚拙な制御においては液体の方が信頼できたというわけだ。


 ヤクチアの恐ろしさはここからである。


 エア式に移行した際、ヤクチアは西側諸外国のようなものとは異なるスーツを作り、それを量産化して運用した。


 それがプレッシャースーツと兼用の耐Gスーツである。

 掃除機のようなホースを全身にまとわり付けたようなアレだ。


 ようは皇国のロボットアニメによく出てくるピッチピチなアレだ。


 皇国は数少ないヤクチアの女性パイロットの写真や映像を見てあらぬ妄想を抱いたようだが、西側と異なりヤクチアのフライトスーツは本当にピチピチで、スタイルがモロに出るのは数少ない資料から本来の未来の者達はお分かりいただけると思う。


 ……それでプレッシャースーツとは何かというと、最新鋭の宇宙服にも通じる極めて未来志向なスーツである。


 高高度を飛行した場合、航空機内においては当然減圧というものが生じる。

 この減圧が起きた際、筋肉組織内部や血管内においては窒素が気泡化。


 この気泡となった窒素ガスは外へ逃げようと働く。

 その際に血管や筋肉組織を破壊して逃げようとする。


 高高度に至れば至るほど、それこそ真空に近くなればなるほど気圧は下がるわけだから、この症状は高度に従って増加する。


 これらへの対応方法として、西側諸国は基本的に空気加圧式を用いていた。

 つまり全身を風船で包んで締め付けることで一連の気泡などの発生を抑えるものだ。


 しかし実はこれ、繊維などを用いて直接腕や足を縛り付ける事によっても解消できるのだ。

 適切に縛り付けることで体内で気泡を発生させず、かつ発生しても外に逃がさないようにすることが出来る。


 いわゆるメカニカル・カウンター・プレッシャー方式である。


 その際には無論、スーツ自体が肌と完全に密着し、もはやスーツの外皮が肌と同じというぐらいにまで締め付けなければならない。


 ヤクチアは2本のゴムパイプを用いる事により、普段はプレッシャースーツとしながら、Gがかかるとさらにもう1本のパイプを用いてスーツ全体を締め付けるようにし、耐Gスーツとする極めて合理的かつ非常に優秀なフライトスーツを開発する事に成功。


 全身を圧迫するが故により耐G能力が向上するため、Gへの耐性が低い人材もパイロットとして採用できたと言われる。


 また、全身を常に加圧することが出来るためにブラックアウトだけでなく、レッドアウトにもある程度対応可能であり、極めて高性能なフライトスーツを保有して運用していた。


 あえて全ての戦闘機にこのスーツを採用することで運用コストを下げており、しかも全身をより満遍なくキツく加圧できる事から、ヤクチアはU-2のパイロットのように酸素室を用いて窒素を体内から抜くという運用の必要性すらなかったという。


 さらにヤクチアはここに極めて濃度の濃い酸素を送り込む酸素マスクを採用することで、それなりに訓練されたパイロットは9Gに対して最大30秒ほど耐えることが出来た。


 冷戦と呼ばれた時代においてそれが可能だったのはヤクチアだけだ。

 奴らは俺達にそのスーツを融通することはしなかったからな。


 そりゃそうだろう。

 西側が同じ事ができるようになるのは俺がやり直す直前。

 加圧酸素マスクと新世代耐Gスーツの併用で初めてその領域に到達。


 30年以上前の段階でソレが可能だったヤクチアが自身以外の国にそんなものを融通するわけがない。


 西側の戦闘機が運用時に確実に耐えられるとされる最大負荷を9G~10Gとしていた所、ヤクチアの戦闘機が12Gで設計されていたのはそのためだ。


 この数字は余裕を持った数字であり、戦闘時の運用を想定した数値であるため各部の最大負荷はもっと上であると思われるが、経年劣化や被弾などを考慮した上での絶対安全領域の話である。


 例えば西側の戦闘機の場合、9G旋回を行ったら即オーバーホール行き。

 機体の状態を見なければならないとされている。


 12G以上の設計となったのはF-35など新型耐Gスーツを運用可能となった戦闘機からで、F-22も12G設計はしてないとされる。


 傑作戦闘機とされるF-15ですらそんな設計とはなっていない。

 むしろ可変後退翼採用のF-14の方が大きくマージンを取った構造だった。


 何しろ設計の分野ではGへの計算なんて本当にややこしくて仕方ないからな。

 そう簡単に○○Gまで対応可能だなんて言えない。


 例えばリベット1本やボルト1本ですら外からかかる負荷をきちんと計算しなければならない。


 この世にはオーバートルクという言葉がある。

 本来想定されたネジやリベットの締め付けよりも上回った状態を言う。

 高G旋回とは言わば常にこれが掛かるのと同義だと考えてもらいたい。


 例えば未来のかつて皇国と呼ばれた地の高速鉄道は、ボルトに規定以上の負荷をかけて締め付けただけで走行時の振動や衝撃でボルト本体が吹き飛んで側面パネルが外れ、ともすると乗客が死亡していた可能性のある重大インシデントを引き起こした。


 外板と構造部材に阻まれ、常に一定以上の負荷が掛かった状態で、さらにそこに別方向のベクトルから強烈な負荷をかけられた場合、ボルトやリベットは状況次第でこのオーバートルクと同じ状況になりうる。


 当然リベットの周囲において金属外皮のクラックが生じるなんて当たり前だが、リベット自体が吹き飛んで弾丸の様にどこか別の部位にダメージを与える可能性だってある。


 そう簡単にGへの耐性を高める構造と出来ないのが現実だ。


 俺がやり直す頃に生まれる第五世代戦闘機は、だからこそ構造部材を減らしてリベットやボルトを減らす一体式の削りだし構造……いわゆるインテグラル構造を採用していた。


 それもこれもパイロット側が再びGに対応できるようになったがために、航空機側でより軽量化しつつGへの耐性を高めようと模索した結果だ。


 ヤクチアは早い段階からパイロットがGへの耐性を獲得していたが故に、インテグラル構造など新鋭技術に頼ることなく航空機のGに対する耐久性が求められる事となったが、Mig-25やMig-29は溶接を多用することで対応していた。


 また、アラスカにおけるMig-25の亡命事件においてはMig-25が枕頭鋲でないことを西側に大笑いされたが、枕頭鋲を用いなかったのもリベットの耐久性を高めるためにそうせざるを得なかっただけだ。


 枕頭鋲は大戦中にヤクチアも用いていたにも関わらず、Mig-25やMig-29などに用いられなかった事について技術力不足と考えた西側はアホだといわざるを得ない。


 あの世界一の冶金技術と流体力学理解を持つヤクチアがあえてそうした理由があると考えておくべきだったのだ。


 そういった誤った認識が最終的に西側を崩壊させていった。


 俺がやり直す直前においてガルフ三国などは相次いでヤクチアの手に落ち、ユーグ各国も崩壊秒読み状態。


 恐らく俺がやり直した後は数年経たぬうちに、俺がやり直す前に最後に目を閉じたあの場所の周辺地域もヤクチアの手に落ちるのだろう。


 それだけの力が奴らにはある。


 これらを鑑みれば、耐Gスーツにおいては絶対に手を抜けないのと同時に、皇国式のフライトスーツもヤクチアと同じくプレッシャースーツと兼用のものに最終的に進化させなければならないと感じる。


 NUP式……もとい西側方式で開発しようとするのは危険だ。

 今になって改めて考えてみて、安易な妥協は出来ないと感じてきた。


 制空戦闘において絶対優位性を保たねば不安が残る。


 未来において"どうしてあの時全力を尽くさなかったのだ!"――などと後の世代を苦しめたくない。



 だからまずは最低限使用可能な耐Gスーツを作り、プレッシャースーツ兼用の新世代フライトスーツの開発もするように促そう。


 といっても構造はわからんが……


 全身に張り巡らされたゴムパイプに加圧した気体を送り込むことで、どうして全身のスーツが完璧に肌に密着して適切に締め付けられるのか……


 恐らく外からはわかりにくい内部構造があるんだ。


 皇国のロボットなんだか生物なんだかよくわからないアニメ作品で、一旦膨らんだ状態で着込んだ後に締め付けるがごとく加圧して密着させる"プラグスーツ"なる存在があった。


 アレと同じようなものが必要なんだ。

 まあ全身ホースだらけになるからあんなにボディペイントのようにはならないはずだが……

 ともかく必要なんだ。


 つまりこれから作る皇国式耐Gスーツは、プレッシャースーツ兼用の構造に近くなければならない。


 西側のようにダブダブフライトスーツに下半身オンリー耐Gスーツで戦っていたら、大戦中にヤクチアを押し切って倒せなかった場合に大事に触る。


 そうならないように最初の段階からある程度の答えを出さねば。


 そのためにもまずは血圧測定器の構造理解からだ。


 ◇


「――ふむ……やはりな」


 分解した血圧計測器はやはりというか当然のように一体化構造。


 ゴム袋と2本のゴムパイプを全て一体化構造としており、ゴムパイプの片方にエアポンプが付けられた構造となっている。


 流石にエアポンプは別体式なのだが、まるでこれは点滴用の袋をゴムで作ったような感じだ。


「ようはこれを……もっと拡大して頑丈にさせて足に巻きつけたか」


 ゴム袋をもっと巨大化し、ゴム自体を10mm程度に分厚くし、ゴムパイプをもっと太くし、エアコンプレッサーなどで強烈に加圧すれば耐Gスーツの基本系は完成する。


 おそらくこれが初期の実用型の耐Gスーツなのだ。

 西側のな。


 しかしこれをこのまま開発強化していても不安しかない。


 2617年には実用的なエア加圧型のプレッシャー兼用耐Gスーツがヤクチアより出てきてしまう。

 2617年にあいつらは最大10Gまで耐えられるスーツを開発して運用を始めてしまう。

 2620年代初頭には液体式を全て廃止してしまうんだ。


 猶予はわずかに16年。

 長いようで極めて短い。


 つまり現段階でただゴム袋で縛り付けてるような安易な構造を採用してたら追いつかれて負ける。


 考えろ……考えるんだ。

 思い出せ。


 一体どういう構造をしていたのかを。

 どういう構造にすればあの掃除機のようなパイプで全身を均等に締め付けることが出来るんだ。


 確か数少ない資料において、耐Gスーツの開発者がこんな言葉を残していた。

 "紐とあやとり"。


 一体何だ。

 紐とあやとりなんて皇国のロボットアニメではバイオコンピューターの塩基配列みたいな解釈をしていたぞ。


 そうじゃないってのか。

 ダメだ。考えていても始まらない。


 やってみるしかない。


 わかるまで挑戦してやる。

 みてろよヤクチアのエンジニア!


 ◇


「――おい信濃! 何遊んでんだ。体調不良で仕事量を減らしているとはきいたが、上官に見られたら怒られるぞ」

「ヤクチアの連中が耐Gスーツの開発においてあやとりを参考にしてるなんて噂があるんだ。だから試してるんだよ。この構造に何かヒントがあるはずなんだ」

「ただ紐が絡まってるだけだろうが! 疲労の蓄積で頭がおかしくなったと言われるぞ」

「俺は正気だし本気だ! 絶対にヒントがあるはずなんだ!」


 翌日からというものの、俺は医者からドクターストップがかかったために仕事量を減らしつつ、日がな一日中あやとりで何かを見つけようと資料を集めていろいろ試行錯誤している。


 何気にあやとりは世界の文化らしく、図書を集めてみたらユーグだのNUPだの様々な国で様々な手法が考案されていた。


 驚く事に皇国の国立図書館には文化人類学の研究者による大量の資料が存在していたのだった。


 しかし一向にヒントが思い浮かばない。

 一体これに何の秘密があるのかわからない。


 もう4日目。

 流石に周囲から"薬で頭がおかしくなったのでは?"――なんて言われ始めた。


 さすがの中山もみかねた様子で注意をしてくる。

 しかしそうは言っても簡単にやめられない。


 どうしてもヤクチア方式に近づけなければならないんだ。

 最大10Gまで耐えられる、9Gに30秒以上耐えられるスーツが将来的に欲しい。


 そこに発展しうるスーツ構造でなければダメだ。

 皇国は1つの構造に拘るからヘタに安易な発想のものを採用したら後々まで尾を引く。

 最初から答えを出さなければならない。


「おい、靴紐がほどけてるぞ。ただでさえ両手がふさがってるのに靴紐をふんづけてコケて頭でも打ったら洒落にならん。お前を今失ったら皇国はどうなる。まだ戦闘機は完成していないんだぞ」

「ああ、くそ……両手がふさがって」

「俺が結んでやる。じっとしてろ」


 一日中歩き回りながらそんなことをしていたせいで、革靴の靴紐がほどけてしまっていた。


 それにすら気づかず熱中しているとは……我ながら情けない。


「簡単に解けないようにキツくしとくからな!」

「うっ!」

「じっとしてろ!」


 中山のあまりの握力に思わずバランスを崩しそうになる。

 思いっきり靴紐を縛りやがった。


 靴に足の甲などの形が浮き出る程きつく結んでいて、信じられないほど痛い。

 その激痛にのけぞりそうになる。


 ……ん?


 待て……俺は今どんな状態だ?


「……中山、動くな。手を止めろ」

「は? まだ結び終わって……」

「今お前はどういう状態だ?」

「どういう状態って……両手で靴紐を持って引っ張っているんだが」

「悪いんだが一旦俺の手の紐を切ってくれないか。両手を自由な状態にしたい。その後でまた両手で靴紐を引っ張ったままで固定してくれ」

「はあ!?」

「いいから早くしろ! 何か思いつきそうなんだ!」

「ああもう……わかったよ」


 一旦手を離した中山は腰にすえた匕首を取り出して俺の手にかかった紐を切り取る。

 両手が自由になった状態で再び靴紐を引っ張らせ、その様子を見る。


 靴紐は1本の紐。


 それがお互いにクロスするように斜めに交差して靴に据えられた穴を通り、紐が両側の革を引っ張り合うことで内部が収縮してキツく足に密着している。


「これだ……これだ!!!!」


 ッ思い出した!


 ヤクチアのスーツ形状を。

 内側にまるで靴紐のように妙に大量の紐が交差した意匠が見受けられた。


 そうか、これだ。


「中山。しばらく俺に付き合え。1時間程度でいい。俺は耐Gスーツにおいてとんでもない構造を思いついたかもしれん」

「なにィ? こんなのからか?」

「いいから付き合え」

「……わかったよ。精々皇国のエースエンジニアにつき合わせてもらいますよ」


 それから1時間。

 俺は大急ぎで不要となった革のかばんを調達。


 それをはさみで分解してほどよいサイズの大きさにし、その上で穴を開けた。

 その穴に靴紐を通し、交差した状態にして内部から圧力が加わると靴紐がキツく引き締まるような構造とする。


 つまりほどよいサイズの革を2枚利用した二重構造である。

 外が引き締まると内部の革がより丸め込まれて肌に密着するのだ。


 上記の状態で太ももに入るぐらいの輪をつくり、その中に血圧計のゴム袋を仕込んだ。


 その輪をある程度最初から肌に密着させた状態に調整した後は、内部のゴム袋を膨らませて状態を見る。


「――アダダダダ!」

「うおっ。めっちゃ締まってんな」

「こ、これならある程度フリーサイズでも紐の縛り加減で様々な体型の人間に合わせられる。もっと内部の肌に密着する部分が上手く丸め込まれて肌に密着するようにして……下半身全てに対応できるようにすれば……」

「……下半身全体を適切に圧迫できるわけか!」

「アツツ……そ……それだけじゃない……これなら……必要なのはある程度膨らむゴム管だけでいいんだ……常に空気を循環させる構造にできる。つまり普段から常に空気を流動させる構造とすることで……」

「水と同じように応答性を高めた上で、ある程度の圧力で常に循環し続ける仕組みなら何度でも使用可能になる……必要な時に圧力を高めて流動させりゃいいだけだもんな! 消防車のホースが膨らむのと同じ考え方か!すげーぞ信濃! とんでもない発見だ!」

「あ、足がしびれて来た……早く空気を抜いてくれ……」

「おっとっとスマンスマン」


 見つけたぜヤクチア。

 お前らがどうやって大量生産できる安価で高性能な耐Gスーツを作ったのか。


 構造はこうだ。


 内部はロール紙を作るがごとくすぼまるゴムやポリマー構造のインナー。

 このロールしてすぼまる構造体を外から締め付けてインナーを肌に密着させる。

 どういう常態かというと、紙でロール紙を作って径を細くするのと同じ構造だ。


 それをゴムやポリマーでやってるだけ。

 つまり最初からある程度インナーはロールしているわけだ。


 これをアウターで包み込む二重構造というわけだ。


 サイズ調整は紐だ。

 靴紐のごとくスーツ全体に斜めに交差させた紐を、ゴム管の拡張によって締め付けるようにするわけだから、紐の状態を緩めたりキツくすることで様々な人間に対応させる。


 動作としては、ゴム管が拡張することで紐を引っ張る。

 紐を引っ張って全体が圧迫されると内部のインナーは窄まるようによりロールして肌に密着。

 こうすることで高い加圧がかかって血流が止まり、ブラックアウトを阻止する。


 しかも、このゴム管を2本にし、1本を常に一定以上で加圧するようにすればプレッシャースーツとなり、さらにもう1本のゴム管が拡張することで血流が止まる程の加圧となれば耐Gスーツとなる。


 与圧服と耐Gスーツが1つになり、めちゃくちゃ軽量化が達成できる上、構造は単純なので非常に安価かつ信頼性が高い構造となる。


 ヤクチアの耐Gスーツの特徴的な紐。

 全身に張り巡らされた紐の正体を掴んだぞ。


 あやとりの意味は、恐らく各部を適切に圧迫するにあたり、まるであやとりのように複雑に絡み合った内部構造を揶揄した言葉に違いない。


 ゴムは急な加圧では破裂してしまう。

 しかし適切な圧力で膨らんだ状態を維持するだけなら破裂などしない。

 一定の圧力でゴム管内部に空気が入ってパンパンに膨らんだままを維持するだけでいい極めて合理的な構造。


 これが10Gを可能としたヤクチアの耐Gスーツの正体だ。

 ゴム管は体の側面に及ぶようにすれば邪魔にならない。


 紐はゴム管とは反対方向に据えられていたのも、紐が適切に引っ張られて全身が引き締まるようになんだ。


「よし……よしよし、よぉし!!! すぐに新しい構造の試作品を作るぞ。複雑に絡み合いながらもゴム管で圧迫されることで全体が適切に圧迫される構造を見出さねば」

「なるほど。それがあやとりの正体なわけか……うーん……しかしこれじゃまるで江戸時代の囚人だな。服の構造になってりゃわからんだろうが……紐の構造はなんというか」

「一部の変態が好んで自らを縛り付け、性的欲求を満たしていると聞くが……それを想像しているのか?」

「まあなんつーかよ……そういう連中が適切な構造を見出しそうだなと……」

「……未来の役に立つというならば、そういう趣向がありそうな者を呼び出して考案させよう。俺達に必要なのは9Gに耐えるための服だ。手段は選ばない」

「そうか……だが一言だけ言っておくぞ。お前はそういう趣味に染まるなよ」

「染まるか!!!」


 何にせよ、新型の耐Gスーツ。

 それもプレッシャースーツ兼用となりうる極めて将来性のあるスーツの原案が浮かんだ。


 水なんて使わない。

 最初から皇国はエアで行く。

 例え変態だと言われてもピチピチなフライトスーツで行く。


 NUPや王立国家がどれだけ笑おうが、俺たちは9Gで30秒を目指していく。

 最大3回しか使えないような粗悪品よりももっと優秀なものを採用する。


 その影響で未来の女性パイロット達から恨まれる事があっても許して欲しい。

 その恥ずかしい格好は負けないために必要だったんだ。


 きっとそういう趣味の根暗なオタクが欲望に塗れた目でエアショーなどに来るのだろうが、ヤクチアではそういう人のために上に着るアウターが存在していて、ブカブカなアウターでピチピチなフライトスーツをごまかす事が出来た。


 この影響でピチピチ状態の写真や映像が少ないんだ。


 きっと皇国も女性が声を挙げるなら、そういうモノを作るのだろう。

 それらは後続のエンジニアに任せるとして、今は恥ずかしい格好を承知で飛んでもらう事にしよう……

旧ソ連のパイロットスーツであるVKK-6は1stガンダムのジオン軍のパイロットスーツの元ネタです。

女性用もありますが資料が少ないのはハレンチだということでアウターが別途存在し、

殆どの女性パイロットはアウターを身に着けていたためです。


コスプレだとブカブカに見えますが、当時の男性パイロットを見る限り、ガンダムよりよほどスタイルが出るようなプラグスーツみたいな状態で、極少ないながら写真や映像もあります。

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― 新着の感想 ―
[一言] あくまでも知的好奇心、探求心の為に旧ソ連女性パイロット画像を探すか…。
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