番外編13:戦略の見直しを迫られる帝国(前編)
皇国でいう皇暦2600年10月21日の出来事は、第三帝国だけでなく周辺各国にも大きな衝撃を与えたのは間違いなかった。
皇国が示したのは、いわばそれまで皇国がもっとも注力していたはずの大艦巨砲主義の否定である。
攻撃を敢行したのは元来固定された対艦用武装を持つはずのない空母。
いかな空母による敵艦の撃沈記録が生まれたとしても、その巨体と排水量を活用した体当たり攻撃によって潜水艦や小型艇、輸送船などが辛うじて沈められるかどうかであり……
超弩級戦艦など沈められるはずもないというのがこの日までにおける海戦における常識である。
各国の軍上層部においては航空機の発達により、雷撃や爆撃による撃沈の可能性は警戒されていたものの……
空母からの直接攻撃による超弩戦艦の撃沈などというものは想像の遥か彼方にあるような空想の物語であった。
しかしその空想は現実と化し、各国の海軍は戦略だけでなく運用する兵器そのものの見直しを迫られることになる。
10月を終えようかという10月末日のある日のこと。
この日までに皇国が世界に公開した映像においてはカタパルトから射出された、小さな翼を装着したロケット式誘導弾の姿があり……
その映像は敵国にも容易に入手可能なように手配され、第三帝国やヤクチアの幹部らも何度も目にすることになった。
それはこれまでの常識的な砲弾からさして逸脱しない。
航空機のように飛びはするが、まさしく砲弾の一種と言えた。
なんらかの手法によって誘導する砲弾はわずか40m前後の全長のカタパルトから簡単に射出できるものであり、いわばそれはその程度の射出システムを小型艦が 搭載すれば、超弩級戦艦などたちどころに沈みかねないことを意味する。
小型艦を多く持つ国家には朗報ではあるものの、一方で大型艦は射程100kmを越える水平線の彼方より飛来する槍に怯える事になった。
立場の逆転である。
10月21日を境に戦略上重要な戦力となるのは巡洋艦クラスとなり、戦艦はその存在意義のほとんどを失うこととなった。
特に痛手を負ったのは第三帝国である。
通商破壊作戦によって王立国家を揺さぶる算段であった第三帝国は、潜水艦部隊を主力と位置づけながらも、戦艦級を保有する各国へのけん制のために大型戦艦と空母を必要としていた。
ビスマルクはその要。
ポケット戦艦などと呼ばれるシュペーらとは異なり、性能上は現在における各国の主力戦艦に劣らぬ性能を誇る高速超弩級戦艦であり……
王立国家はそれに警戒して艦隊配置に慎重な姿勢となるなど、まさしく大黒柱となりうる存在であった。
それが就役からわずか2月で撃沈。
アークロイヤルやロイヤルオークといった王立国家の主力艦を沈め、赤城、飛龍、蒼龍を徹底的に痛めつけて大西洋から追い出した海軍は状況をふりだしに戻されるどころか一気に形勢不利な立場となる。
それだけではない。
9月初旬より開始された反抗作戦による連合王国への対応にも手を焼き、今現在において陸においても最悪戦力を完全に分断されかねない危機を招いている。
この日、第三帝国では陸海空全ての最高幹部が集められた会議が行われた。
苛立つ総統閣下はついに業を煮やし、最前線より指揮官達を呼び寄せたのである。
会議の議題はただ1つ。
陸海空全てにおける戦略の見直し。
その前の段階として、なぜこのような状況に陥ったかの総括が今まさに行われようとしていた。
「まずは報告だ。何が起こってどうなっているのか、全てを報告しろ。包み隠さずだ!」
あらかた戦況を理解している総統閣下ではあったが、詳細な状況はいまいち掴みかねていた。
現在において大敗の報告は受けてはいない。
しかし潮目の変わりつつある戦況を各所からの報告から理解しており、改めて総統としての判断を下すために詳細を求めたのである。
「ジークハイル! 報告します。陸軍の状況ですが、現在において連合王国西部を地中海協定連合軍に奪還されました。彼らは連合王国の支線塔に非常に強い執着心を示し、最新鋭の兵器を投入してまで奪還に踏み切っております」
「快進撃を支えているという、例のヘリコプターとやらについての詳細を尋ねたい。我々のものと何が違う。大きなプロペラが1つになっただけでこうも違うのか」
総統のいつもの持病はまだ発病していない。
一旦熱が入ると止まらない彼は必死に自らを制御しようと試みていた。
一度熱が入ると演説が始まってしまう。
そんな無駄な時間などないことぐらい理解できていた。
「閣下。エンジンが既存の常識の範疇のものではありません。諸外国が開発中のタービン式エンジン。アペニンなどがジェットエンジンと呼称するものを皇国のヘリコプターは搭載しております」
「それだけで脅威となると?」
「あれは完成型に近い存在なのです。Fw61はオートジャイロからヘリコプターまでに至る過渡期の存在。各国がレシプロ機関によるヘリコプターを開発しては、重心設計その他に苦労して実用化に至らぬところ……皇国はあえてレシプロ機関を排除して徹底的に洗練されたものを作った。かの機体は皇国の小型乗用車を吊り下げて移動可能な化け物です。出力がまるで違います」
「閣下、私も一言よろしいですか」
陸軍総司令官に次いで発言を試みようとしたのは、第四軍司令官。
西部戦線担当の元帥である。
「言い訳ぐるしい話ならやめてもらおう。まずは話せ」
「例のヘリコプターは運動性や機動性に関しては常識的な固定翼の航空機以下です。ですが上昇力は群を抜いている。少しでも攻撃が当たりそうになるとすぐさま上昇して退避。このような存在を地上から容易に落とせる武器が我々にはありません。敵のヘリコプターは二種類確認されております。王立国家がガンシップと呼称する最も危険なタイプと、機体全体が真っ白に塗られた救護機と称されるタイプです。このガンシップに関して我々が対抗する手立てがありません。水平飛行最高速度160kmと一般的な固定翼の航空機では失速寸前の速度。その上で、かの機体はその状態で驚異的な高度上昇力でもって航空機をかわします。いざ航空機が失速してモタついている間にすぐさま背後をとり、20mm機銃で攻撃を仕掛けてくるのです。また戦車においては戦車の直上に現れた後に火炎瓶などを投擲してくるわけですが、これも回避する手立てがありません。何よりもこの存在に怯えねばならぬのは、煙幕の効果がないことです」
「煙幕の効果がないとはどういうことか」
「プロペラの風流の影響により、直上に飛来するだけでたちどころに吹き飛ばされてしまいます。むしろ煙幕自体が我々がいるということを示す灯火となってしまっている。ただでさえ撃墜する方法がまるで無いのにこれでは……」
「相手が航空機である以上、航空機を使う以外なかろう。ju-87などを用いた急降下爆撃などありとあらゆる手を尽くせ」
「それも容易ではありませんな」
「なにぃ!?」
会話に割って入ったのはゲーリングであった。
しばらく前まで皇国に島流しの刑に処され皇国内においては軟禁に近い状態のままお忍びで京都などを訪れていたこの男は、各国の快進撃にヘリコプター以外の航空機の存在も大きいことを理解していたのである。
「そもそもが件の快進撃の要因の1つは制空権を奪えないからでありますよ閣下。ヤクチアすら手を焼いている百式襲撃機。一体1日どれほどの数が飛んでくるかご存知ですか」
「いくつほどだ」
「100機は軽く越えます。20mm対空機銃を用いてすら、まともに落とせない空飛ぶ戦車がですよ。私は皇国内にて"心優しい"皇国陸軍から教えていただきましたがね、百式襲撃機の1日の生産数ですが、いまや東亜三国だけでなくユーグ地域でも生産が開始されており、1日70~90機が生産されて各所の戦地に配備され続ける状況にあります。北部と西部、それぞれに向けてです。一方で西部戦線における百式襲撃機の1日の撃墜数など10に及ばない。しかも少しでも無事な部位があれば例の救護機がパイロットごと回収していく。パイロットが死ぬことはまずなく、機体が駄目でもパイロットが回収されていく。多くのパイロットが帰還するため、翌日には空を春の羽虫が飛び交うごとく大量に飛来し、我々に手痛い攻撃を加え、そして去っていく。日増しにその数は増えつつあります。あの機体がもっとも恐ろしいのは最高速度がさして悪くない事です。Bf109のE型より少し遅い程度。優秀な設計の翼なのか、フラップを広げると低速でも飛び続けられます。防御力を活用した一撃離脱を繰り出されるとBf109E型までの機体は手も足も出ない。現状まともにダメージを与えられるのはNUPのP-39だけです」
「P-39の大量生産の目処はついている。いずれ対抗できるのではないか」
ゲーリングは対外穏健派である。
しかし穏健派であるがリアリストであり、指揮官としては決して優秀な人材とは言いがたい人物であったものの、少なくとも総統閣下よりは現実が見えていた。
そのあまりにも未来的状況が見えぬ発言に思わず鼻で笑ってしまいそうになるのを堪えたゲーリングは、まるで皇国に寝返ったがごとく自国を嘲笑するかのように総統閣下を幻想から現実へと引き戻そうとするのであった。
「敵方の生産量が現状のままならそうでしょうが、生産量は今後さらに増える見込みです。聞くところによるとある部隊の"急降下爆撃機に転換中の副官"はこう述べたそうですよ、百式襲撃機と同等のものを我々に用意してほしいと。ルーデルなる未熟なパイロットの戯言だそうですが、私は戯言などとは決して考えてはいません」
「なぜ百式襲撃機はああも高性能なのだ。なぜ皇国にできて我々に同じような機体が作れんのか」
「フルモノコック構造を機体の前半分に採用する発想など我々にはありませんでしたからね。同じ発想に至ったヤクチアはIL-2なる機体を開発中。それなりに似たような性能となる様子なのでIL-2を供与してもらう他ないかと」
「ゲーリング、本当にそうか? それはヤクチアと心中するという事だぞ。我々アーリアの民がこの世から根絶されうる可能性すらあるにも関わらず、今後もヤクチアと二人三脚で歩むべきだというか?」
「我々の誇りを見せ付けるため、抗ったことで例え負けたとしても、戦後相手がより譲歩するならば必要な措置だとは思いますが……生憎"私"には特段決定権などございませんので」
周囲の者たちがクスリと笑う中、椅子の背もたれに大きくもたれかかったゲーリングは、人によっては不思議ともはや自らの立場を楽しんでいるようにも見えた。
空軍の戦略方針は殆ど総統閣下が全てを決定している。
いまや名ばかりの司令官でしかない。
軍などもうどうにでもなーれという感情が生まれぬわけがない。
実際にゲーリングにも多少なりともそのような感情はあった。
しかしそれはゲーリングにとってはある意味で好機であったのかもしれない。
ここまで徹底的に立場を奪われると素直に裏工作に従事できるというもの。
総統と今しがた対峙したやや小太りの中年男にとっては、もはや5年先の国の状況の方が重要であり、これからの5年においていかに国家を支える工業とその技術を守るかを常に考えていた。
今もなお、そのために何をすべきかと考えて神経を尖らせているほどだ。
そのための戦力としてIL-2の必要性は感じなくもないが、むしろ快進撃がさらに進んで第三帝国内がヘタに空爆を受けて疲弊する前に終戦する方が、半世紀先を見据えた場合において有利となるとも考えていた。
とても複雑な感情が入り交ざる中で最低限司令官としての立場としての発言はしたものの、できることなら多くのアーリア人の血が流れる前に第三帝国は崩壊すべきであると内に秘めた想いがあるのは間違いなかった。
その渦中の中でゲーリングは冷静でいられた。
完全に総統閣下に見捨てられたことで居直ることが出来ていた。
それらの感情を爆発させることなく、ただ淡々と粛々と言葉を述べ、一見すると退廃思想を持っていそうな雰囲気も隠し通した後は只管に黙る。
すでに言いたいことは全て述べたので黙って状況を見据えることにしたのである。
「IL-2の完成はいつ頃だ。まだ出来んのか」
総統閣下はゲーリングがもはや答える気配がないことを察知し、空軍側の司令官に顔を向けた。
「各調整に手間取り、エンジンの出力不足に悩まされて量産開始は来年の春とのこと。元帥スターリンは受け渡しは5月頃を見込んでいるとのことですが……」
「どうした?」
「百式襲撃機と異なり後部銃座がなく、機体後部は木製です。どうやって排熱を制御しているのか不明ですが、空冷エンジンを搭載している百式襲撃機の方が軽くて出力に余裕があります。これがどれほどの差となるか……」
「後部銃座はつけられんのか!」
「出力が足りません。エンジンの改良が必要です。我々にも百式襲撃機が搭載するハ43なる空冷エンジンと同等性能のものはありますが、こちらも開発途上であり、仮にエンジンを載せ変えようと画策しても本年中に間に合いません」
「なぜここまで差がついたのだ……皇国は一歩劣る技術力だと報告では聞いていたがな」
「我が国の航空技師であるシュミット博士曰く、世界には技術の進歩を刻む時計が"密かに"存在し、それらの時計は人々の日々の努力によって少しずつ針を進ませるものですが、時としてブレイクスルーなどにより大きく前進することがあると申しておりました。皇国においてはこの針を約10年進ませる人間がいたのではないかとの事です。3年前から突如として皇国の技術的躍進が始まり、わずか3年で我々を、世界を追い越さん勢いです。シュミット博士は皇国の技術力は3年前の時点では周囲より6年ほど遅れていたと分析しています」
「10年進んだということは皇国でいう皇暦2604年程度の技術力を保有していると?」
「世界が2604年に到達する領域に現在の皇国は到達しているという意味でお考えなら、そういうことです。しかも皇国はさらに現時点から10年時計の針を進ませようとしています。閣下。こちらをご覧ください」
空軍司令官が手をたたくと会議場に二人の男が丸めた紙を持って入ってくる。
二人の男は丸めた大きな紙を広げると周囲に見せ付けた。
それはポスターであった。
皇国陸軍の兵員募集のポスターである。
「文字が読めん。なんて書いてある?」
「注目すべきは文字よりもポスターに描かれている航空機の方です」
空軍司令官に促された総統閣下は目を凝らしてその存在を見つめた。
そこにはこれまでに見たことがない、これまでの常識ではありえない戦闘機の姿が描かれている。
それらを始めて目にした陸軍や海軍の司令官たちは少しザワつくほどの存在感があった。
まるで弾丸のごとく尖った機首。
コックピットはそのすぐ後方にある。
コックピット自体は皇国が現在主流としている視界の開けたバブル型キャノピーであるが、機体前部の構造はもはや既存の航空機のソレではなかった。
「……ジェット機なのか!?」
「ヘリコプターだけではありません。もはや皇国は我々と対等以上の技術を持っているのは間違いありません。これは決してHe178やアペニンのN.1の情報を得て、それっぽく架空の存在を描いてみたポスターなどではありません。ゲーリング元帥は皇国で陸軍によってモックアップを見せられています。稼動するジェットエンジンも……一連の存在に関する映像撮影すら許可しているほどだ。彼らはもはやその余裕すらあった。映像程度では真似できないという自信があったのです。ポスターに描かれた機体は皇国が戦時決戦兵器と位置づける、現時点で皇国史上最強の戦闘機キ84です」
「なんだと……」
「このポスターは、その戦闘機が異次元の性能を得ているがため、既存の航空機パイロットではどうにもならず専門の特殊部隊を創設せんがため、全国にいる屈強かつ才能あふれる若者を召集しようとこさえたものだそうです」
「……異次元の性能とはどれほどだ」
「最高到達高度1万2000m以上。最高速度900km以上。旋回時のGが激しすぎて、これまでの常識的パイロットでは確実に失神するため、屈強かつ頭脳明晰な若者でなければ乗れないとされる怪鳥です。武装はキ47と同じ20mm機関砲4門。事実上のキ47の後継機だそうです。キ47で可能なことは全て可能。それ以上すら皇国は考えている」
「それ以上……だと?」
「先日我々を痛めつけた誘導弾の装備です。皇国では現在小型誘導弾の開発が進行中で先日のものに関係する存在と思われます。キ84と呼称されて開発中の決戦兵器は、皇国陸軍曰く早ければ3年後、遅くとも4年後には開発が終わる見込みとのこと。決してハッタリなどではありません。何しろ彼らはこれを飛ばすための心臓部をすでに手に入れている。その心臓部を先行して採用したものと我々は対峙しています……」
「まさかそれが例のヘリコプターだというのか……」
さすがの状況に肩の力が抜けてしまう。
もはや技術差は歴然であった。
帝国内においてもジェットエンジンは開発している。
しかし虎の子のエンジンの開発は思った以上に上手く行っているものの、それでも3年後までに間に合うかは未知数であった。
第三帝国内で思案されている戦闘機の最高速度は850km程度。
しかも皇国のものと比較すると明らかに胴体構造が洗練されていないように感じられる。
皇国の戦闘機は明らかに"速く飛べます"といわんばかりの意匠であった。
「件の戦闘機はゲーリング元帥が撮影したモックアップを見る限り、奇妙な翼です。我々は三角翼と呼んでいますが、翼は信じられない事に釣り糸を垂らさない釣竿のごとく、ゆるやかな下反角を翼端までに描いています。これまでの常識では飛行安定性は最悪とされる形状です。失速特性的にも最悪のはずでした。我々は映像から小型模型を作って風洞実験を行いましたがすさまじい不安定さであり、900km領域では模型が吹き飛んだり、枠から外れて反転墜落したように地面に落ちたりしました。しかし皇国が見せた風洞実験では後退角を思いっきりつけた状態か、上反角をかなり付けた状態と同じような安定性を示していました。失速特性もまるで違います。まるで要因がわかりません。おそらくモックアップでは再現されていない設計的特殊構造があるものと思われます。風洞実験の模型では小さすぎてわからないような構造です」
「なんてことだ……」
「無論、我々にも希望はないわけではありません。ジェット戦闘機なら我々も開発しています。排気タービンの入手と開発成功により、より一層の開発促進がはかられました。何とかこの化け物に対抗してみせますよ」
「どうにかなるのだな?」
「リソースを上手く分配すれば可能です。それと部品の共通化や能率化などを行えば……」
「共通化?」
総統閣下にとってそれはどこかで聞いた話である。
誰かがそれを訴えていたが、思い出せない。
おそらく耳障りにやかましく他の件で強く申し開きをしていた人物が立案した計画なのだということはわかった。
「ゲーリング元帥の視察により、皇国は我が国の軍需大臣が進言されている部品などの共通規格化を行うことで、その生産力を大幅に向上させコストダウンに成功している事が判明しています。この手の規格共通化はNUPやヤクチアでも盛んに行われておりますが、我々もやらない手はありません。閣下は軍需大臣のお言葉をあまり耳に入れられておられないようですが、彼の立案した数々の工業的効率化計画は今すぐやるべきです。でないと我々に勝機はありません」
「そっち方面は大臣の好きにやらせていいと言っておけ。ワシが欲しいのは勝利と、勝利を支える兵器群だ。皇国が決戦兵器を生み出すというなら対抗するだけだ」
「はっ! では本日より計画をスタートさせます」
「まてっ! それよりも今後の空軍がどう動くべきかについて問いたい」
「連合王国からは素直に一旦手を引くべきです。ヘリコプターは我方の防空識別圏まで飛来はしません。現在占領下にある地域の対空砲を増加配備することでヘリコプターはある程度抑制できます。連合王国はそれらを配備する前に先手を打たれたがために落とされたに過ぎません。ただ……それは空の話であって陸はどうも違うようですがね……」
先ほどから何か言いたそうにしている陸軍司令官を見た空軍司令官は、一言敬礼すると、そのまま会議の席を途中で立った。
今からでも始めねば間に合わない。
その危機感から無礼な真似とわかっていても行動に出たのである。
総統閣下はその行動を不問としたのだった。




