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第96話:航空技術者は月を目指しうる宇宙(ソラ)を飛べる無人航空機に手を出す

 皇暦2600年4月30日。


 第三帝国がいよいよ機動戦のために各地へ兵力を整える中、皇国は夏の五輪を返上しないまま4ヵ月後に開催する予定でありながら、山梨県全域の大規模治水工事を行う判断をとった。


 この工事の参加者には破格の報酬が支払われ、現地の農民も多くが参加。


 少なくない難民が志願し、地方病に感染することを覚悟の上で参加してくれている。


 彼らには一人1つ以上のゴム手袋や長靴などが配られ、どういった事が危険で感染リスクがあるのかを簡単に漫画形式にて説明した冊子も配られた。


 そこにはどの地域が最も危険で何をやってはいけないのかも記されていた。

 わずか1週間たらずで状況が整うのも勅命がゆえ。


 俺は元より危険地帯だからと甲府や甲斐に向かうことは許されていなかった。


 山梨方面へ向かう場合は常に道志を経由して迂回していたのもその影響だ。

 今回も残念ながら山梨へ向かうことは出来ない。


 その代わりに俺の魂が少しでも宿っているであろう急造ブルドーザーを送り込む。


 そのような最中、皇国には久々にG.IのCEOウィルソンが訪れ、俺と会いたいとの連絡を受けたので俺は一旦仕事を切り上げて立川から芝浦へ。


 京芝本社へと向かった俺はウィルソンと対談をする事になった。

 G.Iとの関係はどうしても切れない。


 京芝の超技術の母体は基本G.Iだ。


 G.Iが伝えた技術を基本技術とし京芝が再現、改良することで皇国の超未来的新鋭技術は成り立っている。


 半導体などの分野など全てである。


 そして京芝はG.Iが量産化に失敗した存在の量産化に成功するなど、決してG.Iに負けない技術力を保有していた。


 VT信管、改良型レーダー用マグネトロン、赤外線シーカー。


 これらは独力開発する技術がまだ京芝内で確立されていない上、俺には専門外すぎて開発を促すことができない。


 只々待つしかないんだ。

 G.Iとの関係を結んだまま、ひたすら待って耐えるしかない。


 ウィルソンにはこちらの情報を与えられるだけ与えていた。


 NUP内にいるヤクチアのスパイ情報なども伝え、陸軍がヤクチアと裏取引を行っている事なども伝えてはいた。


 彼らがNUPで何をやっているかはわからない。

 ただ中立法改正など、かなりの部分で働いてくれた事は知っている。


 M1ガーランドを使う皇国陸軍があるのも彼らの尽力による所が大きい。


 無線機器関係を仕入れられたのも大きい。


 皇国陸軍には現在、先行試作品のSCR-536が届いているが、おかげで歩兵部隊はようやく第三帝国に負けない機動戦が行えるようになった。


 テレビのために大量に電波塔を設置してくれたおかげで、現在の皇国の防衛能力は当時とは比較にならない。


 一連の無線機器はNUPとのライセンス交渉中だが、残念ながら彼らは売却はしてもライセンスについては渋っている。


 まあいい。

 大量に販売してくれるとの事だから無線はどうにかなった。


 無線は現在北部戦線を中心に供与されているのだが、投入されはじめたキ47百式攻撃機二型と連携する事により、その防衛力は大幅に向上した。


 現在のヤクチアの歩兵はT-34をまともに扱えていない。


 マンネルハイム線では日に日に鹵獲されるT-34を皇国陸軍も使うようになったが、百式襲撃機の恐ろしさだけはヤクチアの歩兵にも伝わっているらしく、襲撃機が飛来すると即座に車両を捨てて逃げるようになった。


 彼らはなぜそこに襲撃機が当たり前に来るようになったのかわかっていないようだ。

 襲撃機には元より送信機はないが受信器を装備させている。


 キ47二型から絶えず届く指示通りに動くことで、ピンポイント攻撃が可能となった。


 そこにT-34が現れればものの数分もしない間に襲撃機が現れる。


 彼らは夜戦による襲撃も何度も試みていたが、王立国家による照明弾によって夜戦襲撃も失敗が相次ぎ、そのうちしなくなった。


 そもそも文字の読み書きもまともに出来ず、指揮系統もまともに整っていない現在のヤクチアにおいて、IL-2すらない状況でマンネルハイム線の突破など無理だ。


 しかもシェレンコフ大将の話では開発中のIL-2は襲撃機と同じ複座型に拘り、その影響で開発遅延が発生しているという。


 出力が足りていないのだ。

 無理せず単座にすればいいものを。


 まあ単座なら百式襲撃機で簡単に落とせることがわかっているから、彼らとしても絶対に複座型としたいのであろう。


 ただ気になるのはP-39が北部戦線で確認されたことだ。

 対百式襲撃機用にヤクチアが用いたことで、ヤクチアとNUPの関係があることは完全にわかった。


 NUPとは敵対したくないのに、NUPの新鋭兵器と戦う事になるとは……


 現時点でNUPにIL-2に相当する機体が無いのは助かった。

 アレが一番脅威なんだ。


 百式襲撃機が現時点で猛威を振るっているようにな。


 さて、ウィルソン氏は一体どういう話をはじめるのだろう。


 応接間へと向かった俺は、いつもの通り握手を済ませて彼に統合参謀本部や皇国政府が許可した機密情報を渡す。


 その中にはNUPがヤクチアと関与している証拠である、P-39などの一連の航空機関連の情報も含まれていた。


「Mr.ウィルソン。残念ながら我々はどうもNUPと戦ってしまっているようです。NUP陸軍の航空機が東亜地域と北部戦線に見られるようになりました。どうやって彼らはそれらを運び込み、戦力を蓄えているのやら……」


 封筒の中からP-38、P-39、P-43などの写真を取り出した俺は彼に見せる。


 その写真に"Oh……"と反応を示したウィルソンは静かに背中を丸めて口を開いた。


「Mr.シナノ……アラスカですよ。アラスカ・シベリア間の海上で瀬取りを行い、必要な物資を送っている。何を送っているかはわからないままでしたが、やはり重量的に優位な航空機を中心に行っているようだ」


 どんなに調べても見つからない理由は極地での受け渡しがされていたからか。


 NUPお得意の補給路線だ。

 あえて「こんな場所で補給しないだろう」――というようなルートを選択する。


 華僑の事変においてのエベレスト越え空輸と同じ。


 極東をデタラメに刺激しないためと、環境が環境だけにアラスカ周辺への皇国海軍の投入は見送られていた。


 そもそもあの場所は海も荒れやすいし補給も難しいだろうと思われていた。


 あえて難しいからこそ見つからないを地でいくか。

 潜水艦部隊投入を参謀本部を通して打診したほうがいいかもしれんな。


「――恐らく分解した航空機を貨物船にて輸送。それをあっちで組み立てる。ヤクチアとしては性能確認のために東亜で使わせているのでしょう」

「ふむ」

「P-43などは生産数がそんなに数が多くないですからね」

「……なぜ陸軍のものだけなのか……理由はご存知であったりします?」


 わからなくはないんだ。


 陸軍に共産党シンパが多いこと、陸軍ばかりにヤクチアのスパイが潜む事。

 だから必然的にそうなる。


 だが、いくらスパイがいたってここまで巧妙に出来るものなのか。


 このままP-47やP-51がヤクチアに渡るのは勘弁してほしいところなのだが。


 いくらキ63が間に合いそうだからといってもこの二機の性能は脅威だ。

 冗談じゃない。


「海軍は元より親皇国の者たちが多く、大統領近辺の怪しい取引に乗じる気はないからです。といっても、F2AやF3Fの性能が低いのでヤクチアが興味を示さなかったらしいですが」

「F4Fは大丈夫そうですか?」

「気になるのですか?」


 当たり前だ。

 F4Fは俺が開発した百式戦ことキ43の開発に大きな影響を及ぼしている。


 防弾タンク、防弾鋼板、防弾ガラス、それらを備えたF4Fは粘り強い。

 ここにダイブ性能と航続距離まである。


 俺がキ43に取り入れたのはF4Fに足りていなかった運動性。


 ウィルソンCEOはもしかしたらキ43があるからF4Fは大したことがない戦闘機だと思っているなら大きな勘違いだ。


 F4FはP-38よりよほど撃たれ強い。

 東亜や北部戦線で使われるとキルレシオが悪化する。


 同じような特性の機体だからこそF4Fは脅威なのだ。


「海軍はF4Fを譲る気は一切ないみたいですし大丈夫でしょう。ただ、F4Fは東亜に投入されますよ。皇国海周辺の艦隊の空母に搭載される予定なので」

「そうですか……それならばまあ……」

「Mr.シナノ。それよりも今日貴方をお呼びしたのは別の件について伝えたい事があるからです」

「なんでしょう?」


 新型の排気タービンかなにかだろうか。

 そろそろ開発が始まっているはず。


 排気タービンは今のところ量産はできても改良はできていない。

 正直とても欲しい。


「大統領選です。我々は現在ウィルキー氏を応援しておりますが、できれば彼に大統領になっていただきたい。そのための活動を続けております」

「彼は元民主党で、かつ陸軍出身者ですが大丈夫ですか?」

「大丈夫です。身の回りを調べましたがヤクチアの手は及んでおりません。現時点で最優の共和党議員です」


 ウィルキーか……


 彼は対皇国講和を公約に掲げ、王立国家を大規模に支援する政策を行うよう訴えた人物。


 皇国敗北の理由の1つがウィルキーが大統領にならなかったからとも言われる。


 ただ、歴史上彼の性格はよくわかっていない。

 どこまで本気なのかどうか。


 少なくともこの者が忌まわしいハル・ノートと敵対関係にある事は知っている。


 共和党はユダヤ人出身者が多い。

 だから対第三帝国、親皇国路線を掲げてはいた。


 現時点で民主党自体に問題があると考えたほうがいいだろうか。

 ハル・ノートらが消える方向性は確かにNUPにとって必要だ。


 すでに王立国家の新たな首相となることがほぼ確定の見込みのチャーチルも、ウィルキーの方が関係を構築しやすいのだろうか。


 いや、それだけではないか。

 共和党にはアペニン系のNUP人が多くいる。


 バルボを応援しているのは共和党だ。

 ウィルソンらの考えは間違ってない。


 現時点で民主党政権になるよりよほどマシではあるか……


 共和党政権になったらアペニンはバルボを橋渡し役にするはずだし。


 ムッソリーニはどうしてこの男を暗殺しなかったのかわからないが、現在、彼の右腕たるバルボはNUPとの交渉も行いながら空軍を引っ張るファシスト党の幹部。


 首都ローマに戻った彼はユーグ各地を飛び回って、空軍大臣なのに外交官のような事をやっているという、説明できないような仕事をこなす傑物としてその行動力が世界からも注目されている。


 彼のカリスマ性はアペニン系の人間に深い感銘を与え、各国に移住したアペニン系の人間は支援を惜しまない姿勢。


 しかしその支援に民主党は殆ど関わっていない。


 うん、これが現在の最適解で間違いないはずだ。


「Mr.ウィルソン。私もすこし頭の中で情報をめぐらせてみましたが、貴方のおっしゃる話は正しいです。私も個人的な立場とはいえウィルキー氏を応援しますよ。皇国からだとできることは限られますが……」

「そんなことはありませんよ。皇国がくださる情報をもって政府を揺さぶれているのです。貴方方が我々に与えた影響は少なくない。私どもG.Iは皇国が今の皇国である限り、最後まで皇国の味方です。まあ、結局は商売ありきの関係ではありますがね。はっはっはっ」


 商売か……本当にそうかな。

 それだけでここまでの事をするとは思えない。


 彼も皇国の何かを愛する人物なのだろう。


「さて、大統領に関する話はこれぐらいにして……航空機に関する質問をしてもよろしいですか? Mr.シナノ」

「なんでしょう?」


 なんだろう。

 G.Iが今開発している航空機関連技術は多くて予想がつかない。


「これは大した質問ではないのですが、ジェットエンジンはやはり軸流の方がよいのですか?」

「えっ……」


 このまま話が終わるかと思われた矢先、突然それまでの会話を切り上げて妙な話をしはじめるウィルソンに思わずビクンと反応してしまった。


 そうか……P-59か……

 開発は本来であれば来年から。


 だが、G.I自体はもっと早い段階からジェットエンジンは模索している。

 これは怖いな。


 P-59は陸軍機。


 こいつの完成度が大幅に上がって東亜に来られると困るんだが。

 だが嘘もつきたくない。


「……軸流式です。陸軍から打診を受けた新鋭機に搭載するエンジンの話ですか?」

「ええ。我々は結局Cs-1を手に入れられず仕舞い。断片的な技術情報は京芝を通して手に入りますが再現できません。王立国家は遠心式の技術をライセンスすると打診してきたのですが、問題はどうも王立国家は遠心式の開発をやめてしまったようで……」


 そうだ。

 本来の未来で開発していた遠心式はすでにやめてしまった。


 ホイットルはすでに閑職へ追いやられ、ユーグにおいて軸流式ジェットエンジン開発に深く関わる人物が王立国家で主導権を握っている。


 そのCs-1の開発者だ。

 王立国家はやはりNUPに真打など譲らないか。


 俺が同じ立場でもそうする。


 P-59が高性能化して襲い掛かってきたら手がつけられない。

 絶対にそれは防がねばならない。


 だから一応すでに完成していた遠心式を譲ると言っているのだろう。

 それで外貨も稼げるなら一石二鳥ときたもんだ。


「Mr.ウィルソン。私は嘘はつきません。軸流式こそ間違いなくベターな選択です。出力限界がまるで違います。G.Iの技術者もそうおっしゃっているのでは?」

「そうですね。今の質問は改めて皇国の航空技術にお詳しい貴方に問いかけてみたかったことなのです。社内の技術者を信じていないわけではありませんが、より多くの者達から意見を伺うべき存在であると思いますので」


 慎重だな。

 新鋭技術なのと同時に搭載される機体が影響しているのだろうか。


「Mr.ウィルソン。大変申し訳なく恐縮ですが、陸軍の新鋭ジェット機開発には殆ど力はお貸しできません。あまり詳しい事を質問されてもお答えできないかもしれません。答えられる範囲で答えますが、P-39やP-40のように東亜や北部戦線に現れるとなると……」

「Mr.シナノ。安心してください。それは承知しております。我々も自分達が作ったエンジンによる航空機が、同胞であるべき者達を傷つけることは避けたい。だからこそ貴方に意見を伺いたかったのです。正直な回答に感謝します。やはり貴方も生粋の皇国人だ。ならば我々はあえて遠心式を採択すればいいわけですね。軸流式にして変に高性能化しないほうが良い。黎明期だからという事で話が済むように片付けられるよう努力しましょう」

「実は近く、また新たなエンジンを芝浦タービンと共に開発する予定ですがねタービン式エンジンはジェットだけではないですよ」

「ええっ!?」


 彼にとっても初耳だろう。

 何しろつい先日それを決めたのだから、周囲に話すのもこれが初めてだ。


 戦争のために貯蓄した資材を山梨に多く投入することで、本来よりも皇国の防衛力を高めなければならなくなった。


 そのために俺は作る。

 攻め込むことが恐怖と感じる戦略兵器を。


「今ご説明できうるのはターボポンプ式エンジンとだけ。ジェット機燃料と酸化剤を併用し、想像を遥かに超える高出力を生み出せるエンジンです」

「も、もしやロケットですか!?」


 おっとさすがにこれだけ話せば予測できてしまうのか。

 そう、ロケットだ。


「ええ、第三帝国が開発中のVロケットに負けない存在です。G.Iでも開発されてます?」

「多少はといった程度でまだあまり手をつけていない分野ですね……」

「ガスタービンだけがタービンエンジンではないので、開発をしてもいいかと思います。このまま待っているだけでも、皇国内で何か示せるとは思いますよ」

「そうですか。とても有用な情報です」

「陸軍には黙って置いてください」

「ははは。確かに」


 まあバズーカという存在があるから固体燃料式では携帯兵器として量産するんだが……まだ先の話だ。


 だが俺がやりたいのは液体燃料式。

 流体力学はこちらの方が活用できる。


 本来はあまり考えていなかったが、だんだんと状況的に造らざるを得なくなってきたのだ。


 ウィルソンにあえてその話をしたのは、G.Iもまたロケット関係に手を出すから。


 今のうちに興味を抱かせて何か技術開発が進み、そのフィードバックが芝浦タービンに及ばないかと考えたため。


 軍が興味を抱いてもG.Iは割と秘密主義で軍に情報を伝えないので大丈夫だろう。

 ウィルソン自体が軍と国家を信用していないしな。


 貴重な情報交換が出来た俺は2時間ほど会談を行った後、再び立川に戻って新型機やブルドーザーの開発と平行し、ウィルソンに伝えた新鋭兵器を作るため、技研の設計室に引きこもって新たな兵器の形作る――


 ◇


 液体燃料ロケット。

 航空技術者の俺が本来ならばさほど関与しないジャンルだ。


 だが、こいつほど流体力学を活用した代物もないだろう。


 この時代に完成されたロケットエンジンはヴァルター機関。


 現在の第三帝国ですでに実用化。

 着実に発展していく状況にある。


 未来のロケットの基礎技術は基本的にこの時の第三帝国が構築したもの。

 基本コンポーネントは第三帝国が作り終えた。


 我々皇国はそこから派生して生まれたロケット戦闘機の原案を利用し、秋水という存在を作るのだが結局上手く行っていない。


 実証実験レベルのエンジン稼動には成功してはいるのだが……


 ただ俺は当然ヴァルター機関なんて採用しない。


 あんな複雑かつ信頼性の低いシステムなど皇国で採用するわけにはいかない。

 最初から模範的解答を示す。


 やるなら本当はLNGロケットを目指したかった。


 固体燃料ロケットと液体燃料ロケットの中間的出力になるコレは、コストが安いだけじゃなく熱量制御が極めて簡便。


 冷却機構の大幅な簡略化が出来る上に危険な物質が殆どなく爆発のリスクも低い。


 だが、未来において実用化できてない。

 未来的すぎる。


 皇国で大量生産できる安価な物質で大量のロケットを作りうる存在ではあるが、LNGエンジンで一番進む未来の皇国が結局実用化にこぎつけていない代物だ。


 原因は燃焼特性が既存のロケットと違いすぎること。

 LNGは高圧燃焼をさせるのが極めて難しい。


 システムはそれまで構築されたものを応用できるが、問題は高圧燃焼システムの開発。

 推力が想定した通りに出ないのだ。


 この原因が最新の流体力学でもよくわかっていない以上、採用したくとも採用できない。


 だが、仕組み上ニッケルを大幅に削減できるなど、皇国が是が非でも実用化したいだけの魅力はあるんだ。


 それが出来ない以上、安牌で構成することになる。

 燃料はケロシン、酸化剤は液体酸素。


 どちらも皇国で十分手に入る。

 ヴァルター機関のように複雑かつ大量の劇物は不要。


 どちらかといえば厳しいのはノズルやターボポンプの性能だ。


 その燃焼温度3000度。

 冷却方法は簡単じゃない。


 俺はロケット技術者じゃないからどこまで突き詰められるかわからないが、現段階の技術でまともなロケットを作るならば、再生冷却を用いたカチッとしたオーソドックスなロケットエンジンにする必要性がある。


 ただ、再生冷却といってもノズルはチャンネルウォール式以外ないな。

 重量増大よりも量産性重視だ。


 ノズルやターボポンプ周辺のパイプ等は皇国で後に安価なタイプとして考案された、炭素鋼にニッケル電解メッキを施したタイプとする。


 現在の皇国の立場上、ニッケル使用率は下げなければならない。

 となるとすでに技術的に確立されたニッケル電解メッキだな。


 こいつはジェットエンジンには使い物にならない程度の寿命だが、使い捨てのロケットエンジンには有用なもの。


 ロケットエンジンのノズルにおいては30分程度しか保たないが、最大10分程度しか稼動しないからこれでいいのだ。


 ジェットエンジンは30分どころの稼動ではないので採用できないけどな。

 ターボポンプ類はさすがにニッケルを用いた耐熱合金とせざるを得ない。


 なんだか初期の頃のヤクチアのロケットエンジンみたいだ。

 結局合理性、コスト、量産性などを加味するとヤクチア風になる。


 ヤクチアお得意の二段燃焼サイクルなんて採用できないけどな。

 当然ガス発生器サイクルだ。


 あっちの方がターボポンプで生み出す圧力を大幅に低く出来る。

 二段燃焼サイクルなど現用技術で作れるわけがない。


 燃焼室をいくつにするかとかは今後の開発によって決まる事になるだろうが、おおよそやることといえばヤクチアの模倣。


 赤く染まった皇国はヤクチア系のロケット技術がさほど入ってきていない。

 ヤクチアは皇国を脅威と見て多くの技術を秘匿して渡さなかった。


 皇国はリバースエンジニアリングと独力開発で多くの技術を確立したが、俺がやるのは奴らが後の時代にヤクチアが公開した技術を基に、可能な限り合理的で現時点で可能なモノを仕上げる。


 俺がなぜ急にこれを作ろうと考えたのか。


 元々ロケットはおいおい作ろうとは考えていた。

 ロケットというかミサイルだが。


 ただ、それは固体燃料式。

 液体燃料ではない。


 なぜ大型化を目指せうる液体燃料式を作ろうと思ったのか。

 それは山梨が影響している。


 多くの戦争用に貯蓄した物資を地方病のために使う関係上、皇国本土の防衛力において、こと継続戦闘力において心配が生じた。


 それだけじゃない。

 本来の未来を前倒しし、皇国本土を絶対に守らねばならない新鋭技術を現在国内に多く抱えている。


 キ84などが安心して作れるようにするために、ハッタリでいいから大陸間弾道ミサイルを作る。


 ある程度攻略法は知っている。

 ただ、割と専門外に近い分野。


 燃料タンク周辺などは任せろと言いたいところだが心臓部たるエンジンに不安が残る。


 そこを芝浦タービンと茅場などと共に乗り切るしかない。


 後にロケットにも関わる彼らと共に作るぞ。

 成層圏まで飛ぶ無人飛行機を。

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