第95話:航空技術者はブルドーザーを急造することになる
会議が終わった後。
その日は久々に三勇士揃っての会食があった。
俺達未来を知る三人はたまにこうやって情報交換を行う。
皇族側の状況は千佳様しかよくご存知でないし、情報部などの陸軍の機密は西条しか把握していない。
逆に技研に関することは俺しか把握していない。
それぞれがそれぞれの状況を打ち明けて話し合う機会を2月に1度程度は設けていたが、中々集合できないのが現実だ。
それだけ皇国が流動する流れの中にいるという事なのだろう。
ある程度のポストにいたら集まれなくなるのだ。
しかしあれからもう3年か。
長いような短いような……
1つわかるのは90年以上生きた記憶がありながらも、とても濃い3年だったという事だな。
「――ふむぅ、会談でそのような事が……のう?」
「山梨県からの嘆願は何度か受けています。最善の改善策がコンクリート化というのも。しかしコンクリートはとても高価で費用もかかる上、労働力が足りません」
その日は珍しくその日起きた事を話し合う場となった。
やはり俺を含めてこの場にいる二人共、地方病については憂慮している事柄なのだろう。
だがそれだけじゃない。
地震計。
災害対策。
都市区画の整備。
やらねばならない事などいくらでもある。
ただ、今俺が地方病に手を出したい理由の1つは農作物。
関東甲信越において夏・秋野菜と果物系は後にトップクラスの生産量となる山梨は、現時点においては地方病などが大きく足を引っ張り生産量が中々上がらない。
ただ、本来の未来よりも農作物全体の収穫量は大幅に上がっている。
理由は化学肥料である。
別に俺が輸入させたわけではない。
1つ皇国の未来の歴史には大きな誤認がある。
さも化学肥料が戦後導入されたかのような話だ。
それは大きな勘違いだ。
皇国が有機肥料を全面的に輸入して使い出すのは皇暦2595年。
それも皇国政府の指導の下、全国的な転換が試みられた。
そして本来の未来では2597年と2598年に法整備も行い、主要で使う肥料を化学肥料としようとして自国開発しようとした。
これが頓挫した上に主要輸出国がユーグ地域だったことで戦中輸入が滞ったのが、皇国が下肥を使い続けた理由。
皇国が先進国とされながら後進国と同じような真似をしていたのは、一重に輸入が滞ってしまい自国生産も出来なかった分野に多い。
他方、第三帝国と異なり電鉄などの開発が滞らなかったのは、自国で銅がそれなりに採掘できるなど皇国の地理的条件が、一連の技術発展に適していたからだ。
むしろ現状の皇国にて危機感があるのは肥料よりも糞尿そのものだ。
食事中に何を考えているんだかという感じだが、下水道処理施設などの方がよほど遅れているのだ。
東京都市部ですら水洗トイレなどはまださほど多くない。
どこかのタンクに溜め込んでトラックで回収が当たり前。
農家では衛生面の影響から、下肥は化学肥料が台頭してきた皇暦2590年頃から疎まれはじめ、安価で入手できる上に生産力が安定化するだけでなく、衛生面の問題も解決する化学肥料が好まれ始めていた。
その機運に国が乗じたが向ける刃の方向性によって出来なくなったのだ。
2600年代の皇国の農作物生産量は戦後有機肥料に転換された時期とほぼ同じ。
つまり、皇暦2615年頃と全く変わらない。
だがこれは本来の未来の2599年とほぼ変わらない数値。
農作物の収穫量が低下した理由は労働力不足があったとはいえ、肥料という存在も大きなファクターを占めていた。
肥料はユーグ、NUPからの全面輸入が滞っていない。
おかげ様で本来の未来のような渋い量を分け与える配給方式ではなくなった。
もしどちらとも戦う選択肢であった場合、鉄道で糞尿輸送をして配給するという、臭い汚いどころの騒ぎじゃない事になっていた。
現在の皇国では2598年に続いて2599年で明確に下肥の完全使用禁止が明記。
本来の未来と同じく配給制である事は変わらないが、この配給制の意味合いはどちらかというと化学肥料の転換を強制するものであり、厳格な量の制限を意味するものではなかった。
配給するという事は監視が出来る。
農林省が新たに組織した臨時農村対策部では、化学肥料転換委員会まで組織されて急速な転換が試みられているが、流れとしては5年前から始まっていた事。
前倒しでもなんでもなく、ユーグと戦わぬのならそうなっていた未来だ。
子供に生野菜を食べさせられない時代が変わりつつある。
未だに立川の食堂でも生野菜は出ない。
しかし未来の皇国人は生野菜を普通に食べられるようになる。
それが前倒しになるという事だ。
だが問題は生産量が各地で30%~45%も増加しているのに、山梨の生産量が一向に向上しない事。
その原因こそがまさに地方病にあった。
本来の未来の皇暦2615年よりよほど低い水準なのも対策が後手に回っているのだから、当然といえば当然。
しかし皇国が勝つためには活力がいる。
ただ戦闘機があればいいというだけではない。
俺がフリーズドライを作った最大の理由は、兵糧において劇的な食事問題の改善が出来るからであるわけだが、本来の未来の20年後と比較して48%も生産量が低いままとするわけにはいかない。
地方病を解決するだけで、関東甲信越における野菜類の全体の生産量の14%の増加と、果物類における生産量の実に40%以上の増加を考えれば、今手を打つ必要性があるといえる。
決してリターンは少なくない。
その数字を70年後まで保ってくれる。
「――どうした信濃。考え事か」
「先ほどから無言のままじゃが意識を失っておるのか?」
「ああ、いえ……考え事をしていまして」
「地方病か……だがな信濃よ。今解決する予算はどうにかなってもそれを解決する労働力がない」
「西条の言うとおりであろう。万博に五輪。それに加えて、山梨北部全域の治水工事など……」
確かに無茶は承知。
しかし、山梨においても官民共同で日夜戦いを繰り広げている。
方法はある……労働力はまだあるさ……労働力はある。
「……問いかけをすればあるいは労働力は確保可能です」
「どこにそんな労働力があるのだ?」
「皇国には現在、約20万人のユダヤ人がおります。本来の未来では2万7000人ほどだった難民が10倍に。彼らに全てを打ち明けた上で対策を施した上で手伝ってもらう。無論任意です。強制じゃない。それなりに賃金を出し、全ての用水路をコンクリートで固める」
「ふむぅ……」
「首相。たしか1年以内に達成するなら3万5000人、2年ならば1万5000人でしたよね」
「試算ではそのぐらいだ」
西条は両手を合わせながら静かにこちらの話に耳を傾けていた。
いつの間にか二人共食事を終えている。
俺だけが考え事に集中してほぼ何も手をつけられていない状態だった。
「私は未来の山梨県の地方病の原因生物生息分布の領域での、農作物の生産量向上度合いを知っています。県内全体で今より4割以上の作物の収穫量が向上します。なぜなら山梨の作物は笛吹や甲斐といった地域を中心に育てられているからです。彼らの生産を阻むのは肥料の良し悪しではなく、彼らを脅かす病魔なのです」
「信濃。私はどうすればいい。具体的に言ってくれ」
「皇国の代表として地方自治にも目を向け耳を傾けるということもやりましょう。関東の農作物の総生産量を14%向上させるために、今、痛みを伴う打開策を打つ。農林省に指示して急いでコンクリート化を進めましょう。それこそ、統一民国にお手本を見せるがごとく達成するわけです。彼らにとっても皇国の努力は重要な情報になります。大量のゴム手袋やゴム長靴を用意し、徹底した衛生管理の下、川と用水路を全てコンクリートで固めます」
皇国にはコンクリートを作るための砂利などがそれなりにある。
だからこそ鉄が不足した際にコンクリートでなんでもかんでも代用した。
その鉄が不足しないからこそ、資源として溜め込んである、代用しなくていいコンクリート分の原材料がある。
戦時のために溜め込んだコンクリートは五輪用には使われなかった。
それを使う。
3割使って山梨全域、笛吹川などから延びる用水路全てをコンクリートで固める。
しかも今だからこそ出来ることがある。
長島大臣がいるからこそ当時問題になった縦割行政が解消できている部分がある。
用水路は何も農業用地や行政区画だけにあるわけではない。
国鉄にも専用のものがある。
これをコンクリート化が提案された当時は、国鉄がコストがかかることを理由に反対したが……
本来の未来にて長島大臣はやろうとしたがっていて後一歩で実現しそうだったのだ。
その長島大臣は2600年現在も鉄道大臣のまま。
これまでの彼の功績は少なくなく、国鉄側を説得できうる。
今やらねば15年放置される。
15年放置される間に山梨で本来収穫できた量が収穫できなくなる。
そして重要なのがこの治水工事に使うための工業用車両。
今、技研には2つの力がある。
1つは油圧関係にてNUPに負けない技術を持ち、カタパルトを実用化してみせた茅場。
もう1つは、茅場の力も借りることで誕生する戦車。
今実験用に4台、砲塔を装着していない履帯だけの状態の車両がある。
これをブルドーザーに改造してしまおう。
2600年、本来の未来でも国鉄が輸入に成功していたブルドーザーが3台皇国内にある。
桜散りゆく現在、その3台はすでに皇国内にあるのだ。
これを参考に急造車両を4台作る。
油圧シリンダーで動かすドーザーブレードを装着し、大型ブルドーザーとして用いるのだ。
元々ブルドーザーとしての運用は考えてはいた。
丁度キ84のために立川の滑走路を拡張せねばならなかったので、開発中の戦車にドーザーブレードを付けてみようという提案はしていた。
ブルドーザーがあると施工時に必要な人員は20分の1で済む。
本当はNUPから建築系車両は多数輸入しておきたかったが、ブルドーザーの有用性をこれまで示せず足踏みしていたのと、俺自身が自国開発に拘ったことも影響して国鉄が輸入した3台しかない。
油圧シリンダーによるドーザーブレードの制御は、後にそれそのものをサスペンションとしてしまう油圧サスペンションに応用可能。
ただブルドーザーに関しては茅場だけではだめだ。
連続したシリンダーの細かい制御においては、もっと適任のメーカーが1社ある。
油圧サーボにおいて世界トップクラスの品質とシェアを誇るメーカーだ。
あのメーカーのサーボがあって始めて油圧サスペンションは成り立つ。
そのメーカーこそ戦中ブルドーザーを鹵獲して国産化してしまった中松製作所。
これまでカタパルトや戦車開発時にも開発計画参加を打診していたのだが、茅場がいる事や戦車に興味がなく参加を拒否されてしまっていた。
しかしブルドーザーという話ならどうだろう。
彼らは戦中少数量産されるだけの戦車よりも、市場を開拓できうる戦後大量生産が見込める代物を作りたがっていた。
ブルドーザーはソレに当てはまる。
彼らが参加を拒まない可能性が高いのはそれだけじゃない。
そもそも今回俺がやりたい事は農業関係。
彼らは皇暦2592年の段階でNUPから農業用トラクターを輸入。
皇国の未来の農業は機械化にアリとばかりに、自転車操業に近い形で農業用トラクターを開発、国産化に励もうとしていた。
そこに陸軍が目をつけて彼らに資金を提供したのが陸軍と彼らとの関係のはじまり。
彼らは最後まで戦車に興味なかったが、トラクターに興味があった。
集の用地開発などのためにトラクターが欲しかった陸軍は、彼らに開発を依頼し、最終的に200台ほどの小型農業用トラクターG25と、後に大型トラクターG45を開発。
両者共に高い性能を誇りながら皇国陸軍にて活躍。
その最中に鹵獲したブルドーザーを入手。
彼らはブルドーザーに未来を感じ、陸軍も開発を望んだためにブルドーザーに手を出す。
ただしブルドーザーの国産化に成功しない可能性があったため、彼らはロケ車などの野砲などを牽引する牽引車両を同時に開発。
あくまで車両自体に武器を搭載させないのが彼らのスタイルで、一昨年の段階では試作車両ながら水冷ディーゼル130馬力のエンジンを搭載した、九五式牽引車乙の開発に成功している。
まあ性能的には正直そこまで高性能ではなかった。
20kmもでなかったし……
しかし登坂能力は高く活躍した。
彼らには前倒しでブルドーザーの国産化に励んでもらうと同時に、急造ブルドーザーの開発に参画してもらおう。
今度こそ拒否されないはずだ。
開発中の戦車を転用したとはいえ、やることは戦に出ることでもなければ武装も搭載しないしな。
国産化できうる領域はどんどん国産化する。
そうだそうしよう。
「首相。千佳様ッ!――」
思い立った俺は食事が冷めるのも気にせず、思いのたけをぶちまけるがごとく何をするかを伝える。
装甲を外せば17t程度の大型ブルドーザーになりうる、超高性能履帯装備車両が皇国にはあるんだから!
◇
皇暦2600年4月20日
事態は思わぬ方向へと動き始める。
立川に国鉄から借り受けたブルドーザー1台を持ち込み、まずはとばかりに茅場の技術者を呼び込んで協議を始めようとした日。
ラジオ、テレビにて陛下からのお気持ち表明と題して緊急放送が行われることが新聞などで伝えられる。
嫌な予感がした。
そういえば地方病については陛下ご本人がとても憂慮されている事柄。
まさか陛下が国民や難民に呼びかけるのか。
そんなことになったら逆に変に混乱してはしまわないだろうか……
そんな不安は見事に適中。
茅場の者達と共に立川の商店街に出てテレビ放送を見に行くと、皇国議会にて可決したばかりの山梨県における大規模河川事業の正当性を論じた後、国民一丸となった地方病撲滅への協力願いを皇国民と難民に向けて行った。
そこまで力を入れずともいい事案だったのだが、また大きな仕事になってしまったな。
千佳様がその話を陛下にしてしまったか……
前日に治水事業の協力とブルドーザー開発協力の打診を受けていた中松製作所が立川に超特急で訪れたのはその日の夜。
45分に及ぶ陛下の緊急放送では、地方病の正体、地方病の原因、そして解決方法。
それら全てを陛下ご本人の口から細かく説明された上で、痛みを伴う非常に危険な作業への従事に少しでも力を貸して欲しいと訴えたことで、彼らも血相をかえて立川に訪れたのであった。
ようやく皇国の未来を支える最重要企業の1つが姿を現したのである。
ただ、その日は夜だったので翌日に実験車両について説明する事になった。
◇
「速いっ!」
「すごい音だっ、だがなんて馬力だ!」
高音とモーターの低音が交じり合った独特の音をかなでながら、実験用車両は爽快に敷地内を走り回る。
装甲を取り外して12tとなった急造車両は、茅場と話し合って砲塔に使う機構を流用。
制御機器を引っ張ってくるために前後を入れ替えて使う事に決めた。
すなわち、やや高熱の排気ガスをドーザーブレードが受ける事になるが、大規模な改造は不要となる。
ドーザーブレードが影響を受けるほどの高熱ではないため、排気側に取り付けても問題ないことが計算上でもわかっている。
それだけではない。
ドーザーブレードを吸気がある前方に装着すると、土や土煙などを吸い込んでしまう恐れがある。
戦車ゆえにフィルターもあるのでそこまで大きな影響はないが、吸気側を真後ろにしてしまえばフィルター清掃などの手間が減る。
この実験車両の前方には、戦車回収時のために牽引用装置が取り付けられていたが、陸送するために試作したばかりの5000Lのタンク牽引車両を装着し、山梨までの道を鉄道を併用しながら現地まで向かう事にした。
装甲を削ったとはいえ装甲はまだ残ってる状態。
後に中松が作る75式ドーザーの先駆け的な車両かもしれない。
しかしまたこの戦車のファミリーが増えたぞ。
別にそうしたいわけじゃないのにどうして増えるんだか。
操縦システムは前後の配置など簡単に変更できる程度のものであるため、現在ある実験車両全てを2月以内に急造ブルドーザーとする事は可能だった。
茅場と中松による油圧制御システムさえどうにかなればいい。
油圧サーボに関しては現時点でNUPに負けない中松と、油圧シリンダーなら現時点でNUPに負けない茅場。
彼らと共に皇国のインフラ回復力を大幅に増大させる建築用車両を作るのだ。
◇
皇暦2600年4月24日。
未だ新聞などで地方病は賑わいをみせ、病が流行する地域では同情の念が寄せられると同時に、少なくない人間が現地入りしてコンクリート式用水路の建設が始まった。
放送があった翌日に長島大臣がブルドーザーに興味をもって立川に訪れたため、彼に国鉄の状況をうかがうと。
すると長島大臣は"本物の勅命が下ったのだから否定などできまいて"
――などと苦笑い。
いざ説得しようと身構えながら説得のための論理を構築していた所、放送が行われたその日には多くの幹部が詰め掛け、一度はコストの問題で拒否したコンクリート化について、いつから行う計画であるのかと相談を受けたのだという。
その時点で計画立ち上げなどしていなかったが、大臣はその場で"可能なら明日からでも"――と応えてしまい、中央線沿線においても工事が始まったようだ。
彼がブルドーザーを見に来たのも、長島飛行機の新たな産業としてブルドーザー製造を考えていたのに加え、国鉄が保有するブルドーザーが1台だけ東京に運ばれてきているという話を聞き、工事の負担を大幅に軽減できる存在とは一体どういうものなのか気になっての事であった。
無論国鉄は今回の工事にブルドーザーを使う予定だ。
まずは自分達の用水路のために使い、その後は農業用の用水路のために使う。
我々の急造車両は農業用用水路のために当初より使う予定。
こちらの方が重く大型だが、比較的大きな用水路を中心に作業に従事する予定だ。
農業道路関連の問題については問題ない。
戦車で重要なのは鉄道と同じく軸重。
戦車は1点に全ての重量がかかっているわけではない。
急造戦車は軸重だけでいえばチハより軽い。
ゆえに農業用地を走ることも想定されたチハと使い勝手は変わらない。
75式ドーザが17.8tなのも、皇国の田舎事情が18tだからである。
つまりこの手の車両は18t制限みたいなものがあるわけだ。
では、なぜ開発中の装甲兵員輸送車は20t以上あるのか。
主要幹線道路は軸重ベースで30tを許容できるから陸送に問題無いからである。
主要国道は東西が舗装路となっていて許容重量も既に改善されている。
2597年から始めた行動が実を結んだからこそ、40t級戦車すら作れる。
鉄道にも40tまで現時点で乗せられる。
そもそも一連の戦車群がメインで戦う第三帝国は元々50t級戦車が右往左往できる土地。
ヤクチアのいるマンネルハイム線への投入は考えていない。
シベリア鉄道やその周辺のヤクチアの主要道路も普通に通れる。
つまり38.8tの戦車も20tオーバーの装甲兵員輸送車もなんら運用に支障無し。
最高速度も50km出れば十分。
これが60tオーバーすると話は違うが40t未満30t以上というのが1つの答え。
というか、50km以上出る装甲兵員輸送車など第二次大戦期に存在しないのだ。
重装甲としている理由は三号突撃砲と考え方は同じ。
徹底的に敵の攻撃を弾く盾の役割がある。
ゆえに85mm未満の装甲は第三帝国との戦いを考えると採用できない。
少なくとも前面にはな。
王立国家のカンガルー装甲兵員輸送車と考え方は同じだ。
第三帝国と向き合った彼らは答えを出しているが、カンガルー装甲兵員輸送車の殆どは50kmでないんだ。
それでも戦場にて大活躍した。
考え方はそれらと同じ。
何よりもエンジンを死守する必要性がある以上装甲は薄くできない。
M113のようにするのは簡単。
その戦術的優位性が現時点ではないからこそ装甲厚は必要分施す。
そしてあえて装甲を削ったブルドーザーがどれほど活躍できたかによって、今後の皇国の工事用車両の未来も変わりそうだが、俺は念のため中松製作所の技術者にはディーゼルに出来なかったための妥協と伝えてある。
ガスタービン電気駆動など工事用車両に採用してはいけない。
コスト的にも最悪。
車両用コストだけで考えたらざっとその手の同格の工事用特殊車両の4倍。
戦車だから許される構造であってディーゼルの方が安く済む。
今回は陸軍も協力するためなのと、急造ドーザーによって問題点を洗い出す実験の兼ね合いのために使うだけ。
彼らには念を押すように何度も丁寧にそのことは伝えた。
ハイブリッド車両が出るまで時間がかかる。
それまでの間、この方式は主流とはならない。
ただ、もしかしたら開発中の戦車が何かを示す可能性はあるのだが……あまりにも先の話すぎて未知数。
第三帝国が電撃戦をやろうって時に大変なことになってしまったが、機会としては今が最も良かったのかもしれない。