第93話:航空技術者は練習機と装甲兵員輸送車を用意せざるを得なくなる2
立川に戻った俺は大急ぎで山崎の技術者を呼ぶ。
現状、小型機製造において余裕があるメーカーは山崎しかいない。
なので彼らに作らせる。
下地はすでにある。
研三でヒィヒィいいながらもCs-1を搭載した機体を作っている。
彼らには現用技術だけで構成された簡単な複座型訓練機を製造してもらうのだ。
基本設計は後回しに、まずはどういうものを作るかだけを伝える事にした。
◇
「信濃技官、ジェット機を我々が先行で作ってもよろしいんですか!?」
集まった山崎の技師は待ってましたとばかりにハイテンションで立川に集まった。
そんなに高揚するほどの話ではないのだが……
ただ、先行して作るというのは事実ではある。
それでやる気が出るというなら是非がんばってもらいたい所。
「訓練機ですけどね。上層部から必要性を訴えられたので作ります。ただ、挑戦的な構造には一切しません。ざっとこんな機体です」
壁に計算式を描きながら簡単なイラストを描く。
その機体は完全に現用技術のみで達成される簡易的なジェット機。
エアインテークすら普通の形状。
そればかりか機首がエアインテークとなっている。
実はエアインテークの位置が最も優れているのは機首。
エンジンまで真っ直ぐにラインを描ける事が多いから最も効率が良くなりやすい。
だからこそ、各国は当初こそインテークを左右に追いやったのに、第二世代頃までに再び機首に回帰するというような事が起こった。
……スペース不足になるので再び消滅するのだが。
俺が機首インテークをキ84に採用しなかったのも諸外国と同じ。
レーダーなどは装備したかったから。
それと下方視界に優れるように。
さらにもう1つ重要なのが、不時着、墜落時にダイバータレス式のコブが破壊されるようにである。
ドッグトゥースより、よほど壊れて欲しい部分。
敵にその技術を知られないようにしたい。
だからあえて下としている。
同じような配置のF-16なんかでは設計的欠陥と言われたが欠陥ではない。
F-16もあの周辺が壊れる事でブレンデッドウィングボディの秘密を漏らさないよう、あえて壊れるよう狙った配置にしている。
技術屋というのは時に機密保持のためにそういう欠陥を用意するものだ。
現場にそれが伝わらずクレームになることはあるが、伝えたら伝えたでそれが敵軍にまで情報が渡り、何かあるに違いないと敵を必死にさせる。
あえて"欠陥品"だとか"この方が性能は下がる"だとか嘘八百並べられた方が都合がいい。
敵を騙すならまずは味方からというようなものだ。
技術者と上層部だけがそれを知っていればいい。
そもそも普通に考えてダイバータレス式と言えども、スペース的な問題を考えるというなら機首左右のほうがいい。
主翼とインテークの高さを同じにする方が高速領域での効率が良くなる。
ヤクチアの戦闘機がそこに妙な拘りがあるのは、インテークと主翼を同じ高さに配置することで揚力確保すら狙った構造とし、超音速時においては主翼の受ける衝撃波をインテークで和らげようと画策したもの。
SR-71なんかでも同じような試みはしていたが機首配置でなければこの配置が理想。
次の段階とするならこれなんだろうな。
だが訓練機は素直に機首配置とする。
どうせ800km未満なのだからそこまで大きく拘った構造とはしない。
最高速度は750~780km程度。
急降下で900km近く出す方式とする。
翼はやや後退角がついた翼。
強度を確保するため、上から見るとF9F-8に似た構造とした。
上反角を付けたくないので遷音速翼型とすることで出来るだけ後退角を弱める。
F9F-8より角度は浅い上でねじり下げ構造にはしない。
翼は厚板の多主桁構造とする。
頑丈さを求めるならこうするしかない。
緊急時を考慮してダイブブレーキなども装備させる。
尾翼なども冒険しない構造。
垂直尾翼は大きめ。
双尾翼としないとどうしても垂直尾翼は大きくなる。
旅客機などがそうであるのと同じだ。
機体は三位一体構造ですらない。
本当に今作れる技術で作ろうってだけの代物。
メタライトなどをふんだんに使い、軽量化と構造的に強いものとする。
開発に時間がかかる構造とはしない。
皇暦2601年には飛べるようにする。
装備重量は2.2t。
全長は9.45m。
全幅は7.74m。
まさにエンジンに翼が付いているだけというようなシンプルな構造だが、水平尾翼の配置などはキ84と同じ。
高い安定性と操縦応答性はきちんと備える。
燃料も最低限しか無く、航続距離は720km。
射撃訓練のために機首にホ5の20mm機関砲を2門装備。
複座型を基本としているが、どちらの操縦席でも操縦できるようにする。
そうしないと危険すぎる。
訓練中に片方が失神したらもう片方は復活させられない限り死ぬしかない。
そんな危険な航空機にはしない。
……うーん。
あくまでこれは訓練機なのだが、まあがんばれば戦闘機と出来なくも無いのか?
とはいえ、実際にはキ84の方がよほど未来の訓練機と仕様が似通っている。
恐らくキ84は超音速機時代になると訓練機に格下げされるはず。
そこを加味すればキ84を訓練機とするなら複座型は必要か。
単座にすることしか考えていなかったが、キ84を複座型にすることも検討しなければいけないか。
本当は最初からキ84で挑みたかったが、製造難易度を大幅にさげたこいつを作っておいてCs-1のターボジェット版であるネ0の状態を見るのも悪くないか。
「信濃技官。これって何機ぐらい作らせていただけるんですか!」
「何機なんでしょうね。組織規模にもよりますが140機ぐらいは最低必要なんじゃないですかね」
「1000機単位ではないんですね……」
「状況によります。最低数ですから」
「なら800機ぐらい作れるかもしれないってことですか。我々としては多ければ多いほどうれしいのですが」
「キ84の生産数の方が圧倒的に多くなりますよ。そちらでは駄目なのですか?」
「やはり1メーカーで全て作れるという称号が欲しいもので……」
照れながらも本音をぶつける山崎の若手技師。
山崎としては他のメーカーより今一歩劣る生産数なのが気に入らないのだろう。
だからジェット機で巻き返したいのだ。
液冷も上手くいかない以上、唯一のジェット機生産メーカーという称号は欲しいのだろう。
「最終的には長島、山崎、立川、四菱にはそれぞれ作ってもらう気はあります。主力機とは別に攻撃機などは必要ですからね。ただ、主力戦闘機は今後も分担式としたい。それぞれ得意分野が異なりますから」
「なんだ、じゃあこの機体はその先駆け的存在ということですか」
「そういう事です。ジェット機は何も小型機だけではありませんしね」
俺の言葉に彼らは理解できていないようだが、山崎はジェット輸送機などを作ってもらいたいのだよなあ。
大型輸送機は彼らの十八番。
小型機ばかりに目を向けず、大型機に目を向けて欲しいものだ。