第92話:航空技術者は皇国の真の切り札に準インテグラル構造を採用する2
俺が拘ったのはエアインテークだけではない。
エンジン配置も非常に合理的なものとした。
エンジン位置は重心の中心点付近。
そこに2発配置。
各種機器によって重心は理想的な位置となるようにする。
ジェット戦闘機においてはエンジンレイアウトをどうするかから始まる。
胴体は飾りのようなもの。
レイアウトの配置にとにかく困り、苦労する。
特に黎明期のジェット機など重心を犠牲にするか、重心を活かすために機体の運動性が犠牲になる位置に配置するかとなっていた。
といっても、運動性が犠牲になるのは翼の影響もあったのだが。
とにかくいろいろ犠牲にするせいで、スピンしたりなんだり怖い機体が数多くある。
ことエンジン配置においては、高性能化するに従い後部に追いやられていったが……重心位置がズレると運動性にモロに影響しはじめる。
変なところにも負担がかかる。
だから運動性を重視した機体ほど重心調整に苦心する。
F-15なんかは中央よりやや後ろよりだが、それでもあのエンジン配置でかなりがんばっている方なのだ。
第四世代だけあって重心配置はそれなり。
これが第一、第二世代あたりだと酷いもので、前だったり後ろだったりでモロに飛行に影響が出ている。
俺はそんな事はしない。
させない。
栄えある皇国1号機から重心設定は拘る。
そのための機体構造の最適解というものを知っている。
その答えとは、A-4スカイホークである。
機体構造全体はA-4と同じ。
簡単に三分割できる。
というか製造時に三分割してメーカーごとに組み上げるのでこの方式以外ありえない。
ブロック工法とした最大理由はこれだ。
A-4。
その存在を知ったとき、これぞジェット機の理想だと確信が持てた全体構成。
その機体には大きく分けて3つの役割を与えられた主桁があった。
それぞれがそれぞれ別の役割を与えられていた。
前方、後方、中央で3つの構造物を支えるもの。
前方は胴体前部を。
中央はエンジンを支え、そして翼本体をも伴っている。
後部は胴体後部を支える。
後にA-4の開発者はこう述べている。
適切に作られた翼の上に全てを乗せ、それ以外不要なものを可能な限りすべて排除する。
そうだ。
これこそジェット戦闘機のあるべき姿。
実はF-35などの最新鋭戦闘機も、これを踏襲した構造だったりする。
三位一体構造はA-4で確立し、第五世代戦闘機になって再び脚光を浴びた。
大型機ですら三位一体を基本とするようになる。
最新鋭機の1つであるF-35は中翼配置だが、アレは純インテグラル構造で骨組みを溶接など使わず完全に削り出すことで、低翼配置ではなく中翼配置としていたりする。
エンジンは一体型のフレームに挿入するがごとく入れる。
そのエンジンの後ろにこれまた一体型フレームの胴体後部を差し込む。
この三位一体構造こそ正しい構造なんだ。
だが2600年の現在においてそんなのは再現できないので、俺はオーソドックスな小型機と同じ方法とする。
すなわち、構造としては高翼か低翼配置のどちらかとなる。
ある程度小型の戦闘機というのは3分割構造が当たり前。
一時期変に冒険したが再びA-4が示した方式に回帰した。
それらのローコスト小型戦闘機は上か下かのどちらか。
では俺はどうするか。
高翼配置とする。
他にも大きな利点があるが、こちらの方が構造上シンプルで無理がないからだ。
何よりも簡単なエンジン整備がしやすい点において低翼に勝る。
つまりエンジンは3本の主桁のうち中央のものから吊り下げるのだ。
これも2600年現在は合理的な方法だ。
各国が無理せずにパイロン方式で翼にエンジンを吊り下げているが、胴体内に格納しているだけで吊り下げ構造なのは同じ。
吊り下げているからすぐ下ろせる。
この構造も出来れば今後も踏襲したい。
俺が作る戦闘機は今後低翼配置とはしない予定だ。
それを他の者達が作る場合でも採用してほしい。
少なくとも三位一体構造は皇国のスタンダードにしたい。
とにかく分解しやすいというのは重要だ。
稼働率を上げられる。
皇国は兵員が少ないからこそ稼働率は上げたい。
信頼性向上のためにもすぐにバラせて修理できるようにする。
壊れた部分を丸々入れ替えるというような事も出来るようにする。
三位一体に拘るのは、何よりもこうしなければならない構造を採用するからだ。
それは翼と胴体の一部に採用する準インテグラル構造だ。
インテグラル構造とは何か。
簡単に言えば溶接やリベット打ちをしない削り出し構造。
最新鋭の戦闘機などはまるで軟骨の無い動物の脊椎と肋骨のような形状となっている。
人間の肺と脊椎から軟骨を消したような一体成型。
それが俺がやり直す頃の基本形となっている。
削り出し構造は皇国が最も得意としながら、なぜか皇国が作った航空機への採用は非常に出遅れた。
航空機においては半世紀を経てもリベット接合は主流のまま。
溶接は接合部の強度が低下するため、その利用箇所は最低限とせねばならず、モノとモノの接合には接着剤を用いている。
しかし接着剤でも接合部分の強度は一体化構造よりかは劣る。
リベットも強度や重量を考慮するならなるべく減らしたい。
だが皇国はなぜか、40年後の未来においても妙な構造に拘った。
それは厚板と多主桁構造を併用したリベット構造。
これはどう考えても零が悪い。
いつまで零を引きずっているのだと言える。
何しろその流れを作ったのは一郎なのだからそうなるのも間違いない。
強度的にはその当時の一体化構造よりかは優れていたと言われるが、保守管理性、防御力などは正直微妙。
各国がこぞって一体化構造を研究し、技術を昇華させていくと、世界一の削り出し部品の精度を出せる国でありながら、大きく遅れて航空機などにそういった構造を採用した。
それも翼にだけな。
翼を世界初の炭素複合繊維式完全一体化構造としたのを自慢していた機体があったのだが、その頃各国では機体フレームの大幅な一体化構造へとシフトしており、正直翼だけで自慢されても困るのだがと当時内心では思っていたよ。
翼も重要っちゃ重要だが、最も重要なのは胴体構造だろうと。
胴体に一体化構造を採用できないと性能的に一歩劣るものとなる。
だから俺はキ84においては翼と胴体構造双方に準インテグラル構造を採用する。
一連の構造はアルミの"最新素材"も含めて設計をし、構造部位の軽量化に努めた上で強靭なものとする。
最新素材については現状の"ある合金"を改良して作ってもらう。
そのための依頼を近く行う事にしよう。
現状のアルミ合金は弱点を抱えているから出来れば採用したくない。
特に三位一体とする構造とするためには胴体部分に非常に頑強な合金を用いて一部インテグラル構造を導入しなければ、現用の技術だと強度を保たせられない。
A-4もその辺りはインテグラル構造だった。
翼においては翼前部において全面的に採用。
理由は翼がデルタ翼だから。
いつもならどこからともなく"信濃技官、なぜこんな翼なのですか!"――なんて質問がきそうだが、今回はそんなものすらない。
まあ直線翼全盛期の時代にデルタ翼なんて採用するわけがないものな。
だが、デルタ翼の航空機ならすでにある。
しかもまともに飛んだやつが。
PA22/2という、共和国がついこの間レースに登場させた機体だ。
皇暦2599年。
突如として登場した機体は、本来の未来ならば第三帝国に没収される存在だった。
二重反転プロペラ装備の無尾翼機である。
だが2600年まで開戦がズレ込んだおかげで、そいつはレースに出てきたんだ。
結果もそれなりのものを残した。
そしてこの機体は実は皇国とも縁がある。
こいつは四菱と共同開発が提案されて流れたPA400の完成形。
つまり皇国自体はデルタ翼に抵抗は無いはずなのだ。
まあ彼の考える機体構造よりよほどまともで特に四菱陣営からの反応はないのだが、実はPA22の開発者こそユーグにおけるデルタ翼繁栄において最も貢献した人物であり、デルタ翼の創始者の一人とされる。
この時点でそれなりに整ったデルタ翼を作ったのは他でもない彼。
正直言えばこの時代にそんなの作ってどうするんだという話だが、本来の未来では第三帝国がそれなりに試験飛行して性能を確かめ、デルタ翼という貴重なデータを残す事になる。
後退翼だけが第三帝国が研究していたものではないわけだ。
実は第三帝国には同時期に同じく無尾翼機の研究をしていた技術者がおり、PA22によってもたらされたデータからさらにデルタ翼を独自発展させた。
しかし彼によって発展した技術は本人ごとNUPに渡ってしまう。
後退翼と一緒にこの時デルタ翼もNUPへ。
NUPのデルタ翼の基礎はこの人物による所が大きいが、ユーグでは第三帝国で発展した後退翼のデータを入手することは出来なかった。
ある意味でそれは幸運だと思うが、二大大国が後退翼を採用した戦闘機を相次いで繰り出すので歯軋りする状態にあった。
そこで何か他に優秀な翼はないのかと模索する。
そんな時に活躍したのがPA22の製作者。
彼は占領下の共和国においても日夜研究を重ね、ユーグに様々な研究成果を残していた。
そして戦後PA49などの機体を開発。
研究成果を形として多くの貴重なデータを共和国に提供。
また、公開できる技術は公開していった。
その結果共和国を中心にデルタ翼がユーグ全域へと広まっていく事になる。
俺がなぜデルタ翼を採用したか。
それは後退翼の最大のウィークポイント2点が気に入らなかったから。
しかもデルタ翼の弱点をカバーする方法も知っているから。
この時代の後退翼といえばとにかく角度がついていて、強度を保たせるのにもかなり無茶が必要だし、おまけに機体の重心が大きく後退して運動性に悪影響を及ぼす。
俺は戦闘機における純粋な後退翼が嫌いだ。
特に第一世代ジェット戦闘機が採用したような構造が大嫌いだ。
主翼の後退角というのは最低限にしたい。
後退角自体を否定する気はないが、純粋な後退翼がとにかく嫌いだ。
技術的にも理論的にも戦闘機において採用すべきものではないと考えているからだ。
旅客機やその他ならまだしも、どうしてアレを戦闘機に採用せねばならないのか。
可変後退翼なんて冗談じゃない。
1枚の翼で全て完結してこそ技術屋の底力の見せ所だ。
そこは妥協しない。
そのための知識が頭の中には眠っている。
確かに未来の中等~高等練習機のような方法を試みて後退角を浅くする事は考えた。
だがそんな事せずとも最新の流体力学を駆使すれば解消できるのだから、あえて後退翼を主翼に採用する必要性などない。
2600年代の、それも皇国の技術で後退翼など再現したところで、まともに曲がらない、極めて不安定でスピンするような危険な機体になるだけ。
後退翼を制御するために尾翼に上反角を付けて安定を保とうとするとか、そういう事はやらない。
やる気がない。
この時代で再現出来て、かつ安定性を極めようとする方法は簡単。
翼型で乗り切る。
第一世代~第二世代の戦闘機はとにかく上反角を付けた翼が多い。
だが速度帯が800kmを越えたあたりから上反角の翼は極めて制御が難しい特性を得る。
元来機体を横滑りから守ろうとする働きは、今度は機体の動きを乱して止められないような不快な動きになる。
機体を戻そうと働く翼と、機体を横滑りさせようという気流の流れ。
双方が対決して機体が大きく揺さぶられるようになるわけだ。
水平飛行の話ではなく空中機動時の話。
多くの上反角を付けた主翼のジェット戦闘機が一定上の動きを示した後にスピンして立て直せないのは、安定化のための構造が高速領域では制御不能となるほど風の壁は分厚いからだ。
一度気流が剥離すると立て直すのは簡単じゃない。
特に後退翼ならなお更の事。
ただ、ある意味で後退翼はそれへの回答の1つではある。
翼を後退させることで上反角と同じ効果を保たせることが出来るからだ。
だがすぐに消えていったのは、主翼にその効力を保たせても尾翼をどうする事も出来なかったから。
だから上反角を与えるのと同じ効果を水平翼で与えられないかと考えるようになる。
その答えなら知ってる。
だから後の世においても生き残るデルタ翼にする。
回答は簡単。
主翼前部をねじり下げ構造とする。
前縁スラットや前縁フラップなど装備しない。
できるほど強度を保たせられない。
ここの構造部材をインテグラル構造とする。
つまり外板を貼り付けるための構造体をインテグラル構造とし、その強度の絶対性を確保する。
現段階の技術で最大14Gの負荷に耐えられるようにするにはそれしかない。
たしかに王立国家の接着剤なら手元にある。
だが、これで接合しても強度的に不安がある。
王立国家の接着剤は構造部材のそれぞれの接着に使い、リベットを減らす。
そのためにわざわざメタライトなどを開発したわけだ。
メタライトも構造部材として一部採用。
そもそもがメタライトこそがインテグラル構造のための布石である。
適材適所に使うことでリベット本数を大幅に減らせるのだ。
メタライトで培った金属接合技術を今回は主要なフレームにも使う。
ミーティアがそうだったように皇国の新たな疾風もそうする。
純デルタ翼にねじり下げ構造を用い、機体の全体の胴体構造も最適化。
垂直尾翼を大きくとり、安定性と運動性を担保。
失速特性改善のためにドッグトゥースも惜しみなく装備。
垂直尾翼、水平尾翼は後退翼を採用。
エンジンは下部に配置される関係で、ノズルのすぐ後ろに水平尾翼が来る。
なんというか極めて優秀な小型練習機達と似たような方法の処理だ。
キ84にて最も苦労するのはインテグラル構造ぐらいだな。
それ以外は現用の技術でどうにかなる。
結局、流体力学の未熟さこそがジェット戦闘機黎明期の状態を作り出しただけで、最初から答えを知っている人間はある程度のモノを作れる。
ただキ84は無敵じゃない。
こいつには最も重要なあるものが存在しない。
アフターバーナーである。
アフターバーナーは割と初期の戦闘機から装備していた存在。
緊急離脱や緊急加速などに使われ、最高速を出すためにも使われる。
Cs-1はアルミ合金。
しかも低温駆動型ガスタービン。
アフターバーナーなんて装備したら溶ける。
エンジンが真っ赤に発色する状態で稼動するアレを装備してみろ。
瞬く間に全てが融解する。
つまり皇国が今作れる機体というのは、未来の皇国の練習機やアペニンのM-346といったような、小型攻撃機と同じようなものでしかない。
だが加速力が悪いかというとそうでもない。
それらはインテークと翼の仕事だし、エンジンも軽いしな。
いわば割と新しめの練習機および小型攻撃機を、2600年代に再現しようというのがキ84のコンセプト。
全長12.50m。
全幅9.82m。
装備重量4.5t
離陸可能最大重量7.2t
反応性、応答性、運動性、すべてにおいて突出したものを持ちえながら、操作性なども良好。
整備性も極めて良好。
ここで皇国の戦闘機の雛形を作ることで、後に続く次世代機のありようを決める。
皇国は1つのスタイルに拘りすぎるきらいがある。
俺が技術屋としてこの世からいなくなった後も1つのスタイルを押し通すなら、最初の時点で全ての答えをそこに用意するしかない。
デルタ翼はクリップドデルタ翼にする方がいいし、尾翼も双尾翼の方がいい。
それは俺が第二世代~第三世代を目指して送り出す。
だが、三位一体構造、インテグラル構造、各種性能、製造コスト。
このあたりは1発目でガチッと決める。
本当はここに高翼配置も入れ込みたい所だ。
A-4は低翼配置だったが、戦闘機の基本は高翼配置だ。
なぜその方がいいのか。
それは翼型による影響だ。
後退翼などの限界点に到達し、スーパークリティカル翼が開発された時代。
その頃になると翼の後部では凄まじい乱流が発生するのが常となっていた。
真新しい翼になればなるほど気流剥離を遅らせているので当然そうなる。
この時に仰角をとったとしよう。
乱れた気流はどこへ向かうか。
それは水平尾翼である。
当然っちゃ当然。
これが洒落にならない負荷をかけてすさまじい失速を発生させるため、非常に高い運動性を誇る戦闘機というのは、主翼よりも尾翼を下に位置するよう配置するのが基本となった。
時速800kmを越える戦闘機は尾翼を主翼より上にしてはいけない。
これは絶対にだ。
流体力学の法則を知る俺としても絶対にそれはやれない。
だから俺は当初よりキ84では尾翼を主翼より下に配置している。
キ63までの従来の戦闘機では構造的にそれが難しかったので採用しなかったが、実はキ63もやるならば本来はそうした方が良かった。
キ63の場合は尾翼側をピーキー翼と同じように乱流翼とすることで、これを最小限に留めるようにとしているが、正直言って処理的にはよろしくない。
急降下時の仰角の取り方に若干の不安がある。
870kmを越えた辺りで仰角を取りすぎるとかなり失速すると思われる。
ただ、今の戦術ではそんな事しないだろうと見切りをつけて目を瞑った。
だがキ84ではそんなこと出来ない。
こいつは急降下で音を超える。
水平飛行ではマッハ0.9なのだから急降下すれば1.2ぐらい平然と出る。
そんな時に仰角をとって尾翼が吹き飛んだらそのまま落下して死ぬ。
だから乱流を受けない位置に尾翼を配置した。
翼型を半世紀後のものと遜色ないものとしたからこそだ。
一連の流体力学を活用した構造は、アフターバーナーを装備できない機体を下支えする。
といっても装備できないのは最初の段階だけで、俺はこいつのエンジンを取り替える事を当初より考えてはいる。
構造的に20年は先走っているので20年は改良だけで使っていける。
つまりエンジンがあればいい。
武装は機首にホ5を6門装備。
ホ155にしたいが無いので出来ない。
重戦闘機では機首砲をやめたのに再び採用したのは翼の構造強度上の問題と、機首にスペースがあるから。
ここにはレーダー類なども装備する。
将来的はミサイル運用も考慮する。
この機体は第二世代まで普通に戦える。
というか生まれた時点で第一世代じゃない。
第二世代と殆ど変わらない。
だが構造を真似ても諸外国では絶対に同じ性能に出来ない。
それだけ、今の時点での流体力学において未知の構造が多々ある。
翼のねじり下げについてはNUPで現時点にて基礎理論が発見されている。
NUPが採用するのはもっと後ではあるのだが……
だがドッグトゥースやダイバータレス方式エアインテークは、猿真似しても却って逆効果になる。
この2つの技術は皇国最重要機密として管理せねばならないだろうな。
まあ計算式を出せば谷先生などは効果の程を理解されるだろうけどな。
特にインテークはその発想は無かったの代表格だしな。
一連の技術の投入により当初より破格なまでに戦闘機らしい見た目となる。
それはシンプルで外見は単純な構造だし、フレームもインテグラル構造部分以外は単純構造。
燃料タンクは胴体内に格納。
航続距離は1300km。
翼が極めて頑丈な影響で増槽も装備可能。
増槽は翼に各1基ずつ。
胴体に1基。
700L程度×3で航続距離は2200kmぐらいまで伸びる。
最大積載量は2600kg。
500kg爆弾を3発増槽装着部分のハードポイントに装備可能。
ハードポイントは翼に各3つ設ける。
後に誕生するであろうミサイルを装備させたいからだ。
2200kmは正直言えば心もとない。
けれども、ジェット機ならば空中給油機という方法が使える。
つまり航続距離の心配はそれほどない。
そんなこの機体を運用する上で必要なのは耐Gスーツ。
空気式の耐Gスーツの構造なら俺も多少は知ってる
ヤクチアと同じ単純構造ならすぐ作れるはずだ。
それは掃除機のホースをツナギに接合したような構造だが、単純構造の耐Gスーツでどの程度効果を発揮するかは未知数。
運用時のデータが無い。
なんとなくだがヤクチアはパイロットを使い捨てにできるのでよろしくない気がする。
正直なところ今は本格的な整備要員を大量に誕生させる事の方がよほど重要。
なので対Gスーツは後回しにする。
プロペラ機とはわけが違う。
組織のソフトウェアも整えてこそのハードウェア。
この機体を作る上では根本的な戦略構想も見直しが必要となる。
そのためにジェットエンジンを航空機関係の将校に見せたのに、彼らはあまりにも突然すぎて900kmをどう運用したらいいかわからなかったようだ。
駄目だな話にならん。
ここは戦車と同じく専門の部隊を組織する。
というか最悪は空軍を創設することも考える。
陸軍からの切り離しはいつかやらなければならないこと。
長島大臣は今だ声を高らかに叫ぶが、彼にはいつか実行してもらいたい。
現時点でそれに類する特殊部隊を組織。
機体の運用から保守まで全てを担う選りすぐりの空のプロを育成する。
既存の指揮官では駄目そうだからな――
◇
「――以上がこれから作るキ84です。早ければ2602年に試験飛行。遅くとも2604年までに投入。この機体は現在の皇国なら十分作れます。ただ量産できるかどうかは別。量産も行わねばならない。そして我々は急降下で音を超えて第三帝国とヤクチアを叩く」
「あの! あのあの! 信濃技官」
「なんでしょう」
何かを言いたそうにしているのは長島の技師。
比較的若手の人間であった。
「これが真打というならば、先週から詳細設計を行っているキ63とは何だったのですか」
当然の質問だろうな。
だが答えはすでに用意している。
「無論、この大戦を戦うために必要な重戦闘機です。アレは2602年には配備が可能な機体。いわばジェット機を出すまで乗り切る切り札の1つ。ですがもう時間がないのですよ……寿命がもうない」
「じゅ、寿命!? もしや信濃技官、体調でも崩されて……」
「レシプロ戦闘機の寿命が……です」
「ああ、びっくりした」
「ジェット機はNUPが今試作中。G.Iが王立国家から受け取ったエンジンでなにやら作っています。恐らくそれは2602年までには飛ぶ。アペニンなんか本年中に飛ばせるものをすでに用意している。ユーグ全域はみんな用意しているわけです……900km出せる戦闘機に、800kmが精々のレシプロ機が勝てると思いますか?」
「それはその……」
実は半分嘘が混じっている。
2602年の頃のジェット機など精々600km台だ。
900kmなんて出せない。
「レシプロ戦闘機の残り寿命は後5年。5年を越えたら活躍の機会はありません。その5年……量産された頃には残り2、3年ですね……あれはその短い期間を戦い抜く機体です。わずか3年。されど3年。我々にとって絶対に負けられない3年を支える陸軍の主力戦闘機。それがキ63です。ジェット機が出るまでどんな敵にも負けない。だがジェット機にはジェット機で対応せねばならない。なぜならレシプロ機が越えられない壁をジェット機は越えるから。キ63を私は決して軽視していません。絶対に必要な機体なんです。キ84が生まれるために皇国を守り抜く影打ちたる剣として」
「長いようで短いですね……」
「キ63は閃光のように駆け抜ける機体ではありますが、現陸軍にとって最強の機体である事には変わりありません。しかもキ84が遅れれば遅れるほどキ63はがんばらねばならなくなる。だから決して手を抜いた設計などにはしていない。彼には攻撃機としての仕事も与えてあるように、制空戦闘機としての寿命は短くとも攻撃機としての活躍の機会はあります。寿命は制空戦闘機として、攻撃機としては20年近くは戦えます」
「そうだったのですか……それで攻撃機との並行開発に拘って……」
そうだ。
俺は決してレシプロ機を軽視してはいない。
制空戦闘に使えないだけで仕事はある。
つまりキ63は攻撃機タイプこそ真の姿。
制空戦闘機はキ84登場までの代打だというだけなんだ……




