第92話:航空技術者は皇国の真の切り札に準インテグラル構造を採用する1
長いので分けます。
後半は後ほど。
皇暦2600年4月5日。
桜散る立川の発動機試験場では息を呑んで見守る技術者の姿があった。
第三帝国がいよいよ進軍を開始。
まやかし戦争が終わる日まで残り1月。
各国が既にジェットエンジンを実用化しつつある中、東京は立川の地にてそれは産声をあげる。
Cs-1国産第一号。
皇国における二度目の世界大戦の最終決戦兵器に位置づけられる一連の兵器群に採用予定の、現時点で我々にとって真の切り札たりえる存在。
全て国産だ。
シャフトも、タービンも、各種電気配線も。
全てが全て国産なのである。
我々は1から創造できなかっただけだ。
創造主が未完成とした代物を手に入れて完成させた上で量産しただけだ。
それは我々がとにかく苦労したニッケルを使わぬエンジンだ。
低温駆動ゆえにアルミ合金にて大戦期の遠心式ジェットエンジンと同じ性能を達成できる、二度目の大戦を乗り切るために必要な動力源だ。
アルミ合金については我々皇国が世界をリードする分野。
アルミはずっと研究していた。
ずっと挑んできていた。
だから精度もそれなりに出せる。
Cs-1のベアリングはネ20のようなローラーベアリングでもない。
高回転だがプレーンベアリングで済む。
潤滑油の潤滑の仕組みが未来のタービン機関と同じ方法で無駄がないからだ。
多くの技研所属の技師の目の前でソレは限界までタービンを回転させた。
出力は1040馬力に過ぎない。
確かにそれは非力だ。
だがこれをターボジェットエンジンにすれば推力はおおよそ850kgfとなる。
2発積めば900km/hを目指せる。
ある意味でこれは奇跡だ。
この段階でこれほどのジェットエンジンを手に入れられたというのは。
我々はこのままニッケルを使わないジェットエンジンを目指す。
チタン合金については着々とスポンジチタンの実用化が進んでいる。
2600年にライセンス生産でとはいえ、ジェットエンジンの実用化を果たした意義は大きい。
俺は作る。
二度と皇国が赤く染まらないための切り札を。
一心不乱に戦い抜く真打たる存在を。
そのためにはまず改良。
Cs-1をそのまま使うわけにはいかない。
このエンジンは現状だとターボシャフトエンジンに過ぎない。
構造を一部改めないといけないのだ。
新たなエンジンは2つ作る。
1つはターボジェット型のネ0。
もう1つはターボファン型のネ10。
前者はそんなに難しくない。
Cs-1からシャフト類を取り外し、構造を一部改める。
特に大幅な変更はない。
Cs-1はシャフトがある影響で側面から外気を吸気するのだが、これが実に丁度良い塩梅で気流を整える。
シャフトがあった部分の形状を整え、小さなショックコーンを備える。
これだけで十分だ。
重量は計算では260kgとなる。
さすがアルミ合金製。
これだけでしばらく戦えてしまいそうな気すらする。
だがそこで終わりではない。
必要なのはターボジェットエンジンではなくターボファンエンジン。
それは既に茅場と芝浦タービンには伝えている。
ターボジェットは燃費が悪すぎる。
だからほぼ別物なターボファンエンジンも別途作るのだ。
こちらは時間がかかってもいい。
シャフト部分の構造を改め、側面吸気も改める。
正面のファンで整えた気流をそのまま後部の圧縮機とタービンへと送り込む。
これだけで燃費は大幅に改善する。
ただ大戦期には間に合わないのでまずはターボジェットから。
といってもそんなに難しくないのですでに立川には試作品を持ち込んでいる。
地上試験では特に問題ない。
だが問題となるのは実際に空を飛んでからだ。
地上試験などターボジェットエンジンではあまり意味がない。
空を飛んでみれば幾多にも及ぶ不具合が発生し、それへの対処が必要となる。
だから飛ばす。
皇国の真打たりうる試作機を作って。
この日の稼動試験はさすがに戦乱が始まった事もあって見学しに来た将校は少なかった。
大半が航空部隊の者達。
いつものように全く無関係の者達が訪れるという事はない。
そんな彼らは周囲への俺のプレゼンに青ざめていた。
わずか3年前に400kmを達成し、その後すぐさま600kmを達成。
それから実用化した戦闘機は650kmで飛ぶようになり、敵は675kmと700km台が見えてくる中、第三帝国が700kmの記録を出してはいるものの、皇国では一気に最高速度が恐竜的に進化し、話についていけないのだ。
彼らからすれば少し前まで600km台の話を聞いていた。
それが次に呼ばれれば突然700km台の話となった。
レシプロ機の限界に挑もうとするキ63が700km台に乗っかる重戦闘機。
彼らは先週その話を聞き、皇国の真打たる重戦闘機の開発着手に喜んでいた。
だが俺はそれを真打を呼称したことなど一度もない。
あれはいわば影打だ。
700km台には乗るが無敵ではない。
しかもアレには本来30mmを搭載したかったが、今現在20mmで手一杯なのに30mmの開発など間に合うわけもなく、30mmホ155の搭載も考えて設計はしているが、今のところ20mm×4で行く事になっている。
最終的にはホ155×4とする予定だったりはするのだが、そうしたとしてもどこまで戦えるかは未知数。
それでも詳細設計は順調に進んでいる。
構造もこれまで俺が採用した厚板構造など無茶しないものだったので、エンジンさえ組みあがればどうにかなるが、P-47が現れる頃には先んじて出せるとは考えている。
戦闘機の方も翼が頑丈なので500kgの爆弾を翼に2個搭載可能だったりするが、基本的には増槽のためのものだ。
それを真打と勘違いされては困るのだが、翌週に突如900kmの真打の話を持ち出したことで、彼らは思考が停止してしまっている様子だった。
だがこれから世界各国には相次いでジェット機が出てくる。
皇国も遅れるわけにはいかない。
彼らにそれを伝え、"我々は常に一歩遅れても百歩遅れないように努める"――というと拍手が沸き起こったが、それでも尚現実感を喪失している様子だった。
まあいい。
キ47の時と同じさ。
出来てこそ評価されるジェット機ってことなのさ。
だからこそ今日から作り始める。
すでに基本設計は出来上がっている。
40年暖めてきてとっくに腐っていたと思われるソレを、未来の世界から記憶ごと持ち込んだものがある。
全ての航空機メーカーの技術を結集して作るのだ。
◇
その日、立川に集められたのはこれまで皇国を支えてきた航空機メーカー全て。
彼らには午前中にジェットエンジンを見せた上で、真打たる存在の製造を全てのメーカーの協力の下で量産するのだと主張した。
拒否権などない。
恐らく生産だけ考えれば長島と四菱は単体で互いに作れる。
だが、これは量産が必要だ。
それも性能がきちんと出る機体として。
そのためには全てのメーカーが得意分野を駆使し、ブロックを分担して最後に長島と四菱と立川が組み立てを行う事にした。
それぞれの得意分野については、長島は翼や燃料タンク類。
四菱は胴体後部と尾翼、そして自動操縦機器などの各種装備。
山崎は胴体中心部。
川東が自動フラップなどの翼関連の制御機器。
そして立川が最も重要なエアインテークを担当する。
これら5メーカーを中心に他のメーカーにも細かなパーツ類を担当してもらう。
ここに茅場が航空機メーカーではないがノズル、各種油圧機器を担当。
京芝は電装系全てである。
コードネームは上層部から既に与えられている。
俺が選んだわけではないのだが、コードネームはキ84。
つまり四式戦と同じ。
ただし俺は先行実験機を2602年に飛ばし、正式採用は2603年頃を見込んでいる。
苦戦する部分が少なければ三式になりうる。
だが、苦戦しうる構造にはなっている。
何しろこの構造は研三よりよほど挑戦的かつ意欲的。
しばらくの間、これで戦えるようになってもらわないと困るので、全てにおいて現時点の技術で出来うる性能を突き詰めた構造となっている。
もはや周囲は俺の掲げた青図面に言葉すらない。
見ているだけでは一体なんなのか理解できない。
彼らからすればそれはSF作品の宇宙戦闘機と同じだ。
だが違う。
これは現実の空を飛ぶのだ。
ジェット戦闘機。
それは空力を極限にまで突き詰めた構造としながら、相反する矛盾と戦い続けなければならないことを強いられた存在。
航空機の速度が増加すればするほど抵抗力の増加によって翼の構造が限定される。
そしてその限定された構造となると運動性が大幅に低下したり、失速係数が増大して一度旋回を行うと大きくエネルギーを喪失し、その回復が容易ではなく最終的に的になりかねない。
速度と運動性の両立のためには絶え間ない苦労があり、その先に未来の戦闘機達がいる。
ジェットエンジンなんてものは、吸気の抵抗が0.1%増加すると最高速が0.7%低下するような世界。
そのため、エアインテークで全てが決まるなどと言われることがある。
いわばジェット戦闘機の進化はエアインテークの進化の歴史でもあった。
今彼らの目の前にある皇国の真打は、未来世界でも広く導入されはじめたばかりのエアインテーク構造であった。
外観はヤクチアのYe-8やJ-7MFによく似ている。
まあ構造上Mig-21のようなシンプルなものにする以外手はないだろう。
だが上記2機と異なる点はこいつは双発機であるということ。
これまで皇国にて俺は数々の双発機を設計してきたが、レシプロ機においては別に双発機に拘りなどない。
だがジェット戦闘機は別。
皇国で採用する以上、単発機など二度と作らせなない腹積もりでいる。
練習機ですら認めたくない。
単発機がいかに危険な代物かはヤクチアのデータでよく知っている。
皇国はパイロットを消耗品に出来ないからヤクチアのような事はしない。
よってジェット機は双発機をスタンダードとし、それを栄えある国産初のジェット戦闘機として採用する。
とはいえインテークは1つだけ。
それも機体下部。
正面のエアインテークを避けたのはレーダーその他を装備したかったからに他ならない。
Mig-9のような失敗もしたくないしな。
そこには70年後の未来にようやく実用化したエアインテークを装備させる。
それは発想がなかっただけで後進国が見出した存在。
ダイバータレス式エアインテークだ。
ジェット機の歴史はエアインテークの進化の歴史。
こいつの構造を攻略してこそ水平飛行時に音速を突破し、そしてこいつの構造がエンジンの信頼性を決めるとまで言われた。
進化は大きくわけて四段階だ。
そのうちの一段階目はすでに実用化されている。
谷博士などの流体力学者による研究により、飛行中の機体の表面には極めて粘性があり、かつ運動エネルギーが皆無な気流が存在することがわかった。
層流という存在だ。
これは機体との摩擦によりエネルギーが大きく減退した空気の層であり、気圧も低く正直使い物にならない。
層流翼とはいわばこれを活用したもの。
この空気は胴体や翼においては必ずしも不利に働かない。
この層流は整っており、エネルギーこそないが風の幕のようなものを作り、外部からの気流への抵抗力となる。
ただしそれも何らかの膨らみなどがあると乱流へとすぐ変わるため、層流翼とは、いかに乱流に変わらないかを実現化しようとしたもの。
俺がキ47とキ43に採用したのは、彩雲と同じく翼表面を滑らかに平面にすることで、失速特性を限りなく低くさせながらも翼の尾部にて乱流が発生することを狙ったもの。
P-51との違いはここだ。
あえて平面にすることで失速特性的には劇的な改善が見られる。
丸みを付けないことで層流を極限にまで活用した翼としているのだ。
いわば翼においては活用方法がいくらでもあるものだということだ。
だがこれを冷却などに使おうとすると極めて具合が悪い。
P-51や三式で採用されたエアダクトにおいては、機体表面からやや離れた場所に空気の取り入れ口がある。
実はこの層流は大きくなるとこぶし1個分ぐらいの空気の層となるのだが、これが極めて粘性が強くて流れが悪い。
いわば滞留しやすい空気なわけだ。
これを拾ってしまうと幕の分だけ吸気効率は落ちる。
まるで空気の絨毯を広げたような状態となり、吸気口から最大4割以上の部分が事実上ふさがれたようになる。
しかも吸気口の中で渦が出来るともはや壁になり、冷却できない。
いわばジェットエンジンにおいてはもっと悲惨な事が起きるというわけだ。
この第一段階目のエアインテークはジェット機が出来る前の段階で生まれた。
しかし機体からエアインテークを離しただけではどうにもならない事がわかる。
超音速となると吸気口の壁、つまりエアインテークの内側に層流のように空気がへばりついたりするようになるからだ。
しかも一箇所ではなく点在するような状態となりそれが壁となって乱流を生む。
そこで新たな方法によってこれを攻略しようと考えた。
それこそがショックコーンであり、第二段階の進化と言える。
第一世代~第二世代まで幅広く採用され、ヤクチアの戦闘機なんかが特徴的なアレだな。
ターボジェットエンジンにおいては多用された。
これの発見によって戦闘機は音を越えることが出来たが、これがなかったから音を越えられなかった機体が多数あるほどだ。
原因はジェットエンジンという圧縮行為。
ジェットエンジンというのは圧縮した空気を膨張させて推力とする。
その圧縮はタービンによって均一に行われなければならない。
それこそ俺がやり直す頃になるとタービン自体がスリット吸引してみたり、タービンブレード一枚一枚がピッチ変更を試みたりして調整しているが、そもそもがそんな事せずとも均等に圧縮できる気流がくればいいわけだ。
超音速の世界によって内部で乱流が発生すると、空気の渦がタービン圧縮機より手前で発生してフン詰まりのようになる。
これを防ごうとして誕生したのがショックコーン。
あえて抵抗を発生させて気流を整えることで、ジェットエンジンの性能をフルに活用しようというものだ。
だがこの構造がこれまた気流の速度はある程度落とせても、乱流抑制にまで繋がるほどではなかった。
そしてショックコーンは形状から超音速でないと仕事をしないという、普段はデッドウェイトになるものでもあった。
そこでさらに三段階目の存在として登場したのがダイバーター式エアインテーク。
エアインテーク内部にフラップのごとく整流翼を装備し、邪魔な気流を外に逃がしたりして調節する。
第三世代からポツポツ登場しはじめ、第四世代では多くの機種が装備。
それは初期のF-15のように4段階式の機械制御だったり、コンピューター式の無段階制御方式だったり、エアインテーク内にフラップのごとき翼を用意して調節した。
そればかりかF-15のようにエアインテーク自体が可動したり、Su-57のようにインテーク手前に専用の前縁フラップを装備したりしている。
固定式ショックコーンより効果が大きく、可動式ショックコーンより重量面にて優れていたため、多くの機種に採用。
では俺はこれを採用したのか?
まさか。
そんなもの採用するわけがない。
今目の前にあるキ84にはエアインテーク手前にコブがある。
俺は勝手に咽喉仏だとか呼んでいるが、これこそが最新鋭にして現時点での究極のエアインテーク。
ダイバータレス式エアインテークだ。
最新、最強、最軽量の存在。
音速の2.4倍までなら、このエアインテークで十分。
これはいわば流体力学的には半ば常識化していたが、なかなか実現できなかったもの。
簡単に言えば層流をエアインテーク手前で圧縮。
エアインテーク内部に圧縮された気流が届くという仕組み。
しかもその気流は衝撃波となっていて、空気の圧縮を手助けしやすい。
この発見の契機となったのがSR-71だ。
音速の3倍を目指したSR-71においては可動式のショックコーンを備えていた。
このショックコーンが面白い効果を発揮している事に気づく。
飛行中のSR-71のショックコーンは、他のショックコーン装備の戦闘機より明らかに効率よく気流を整えていた。
SR-71のショックコーンの設計趣旨は気流を整えるためとはやや異なる。
あのショックコーンはマッハ2以上での効果を期待されていた。
どういう事がやりたかったかと言うと、エンジン性能をフル活用するため、このショックコーンで空気を圧縮しようとしていた。
J-58のエンジンは音速の3倍を目指すと、吸気能力不足となることに気づいたNUPは、音速の3倍を達成させるためにあることを思いつく。
それはショックコーンによって空気を圧縮。
圧縮した空気をエンジン内に送り込むことで必要となる空気圧を確保しようというもの。
つまりあのショックコーンは簡易スクラムジェットと言えなくもない。
しかしSR-71の試験飛行の際、技術者は設計意図にない効果を発見してしまうのだ。
それはこのショックコーンによって、低速時でも極めてエンジンの効率が良かったという事。
元来、ショックコーンというのは超音速領域でなければ仕事をしない代物とされていた。
低速ではデッドウェイト。
実際に大半の機体においてはそうであった。
なのでSR-71は低速航行を考慮していないからより大きな物を平然と装備したのだ。
しかしSR-71のショックコーンは低速でも仕事をしていた。
その要因はSR-71の胴体構造にあった。
このショックコーンはもう1つの働きも狙っていたのだ。
実はこのショックコーン、この後ろの胴体部分の効率向上も狙っていた。
ショックコーンのすぐ後ろの胴体部分でも気流を圧縮する構造なのがSR-71なのだ。
ショックコーンとの併用で効果を発揮しようと狙っていた。
一見するとエンジン前部分が細くすぼまっているというのは効率が悪いように見える。
これはショックコーンとの併用で効果を狙ったもの。
それは推力単排気管と考え方は同じ。
手前で圧縮した空気の一部はエンジン内部に向かうが、音速を越えると衝撃波は大きく広がるため胴体側にも及ぶ。
この抵抗を減らすため、ショックコーンで発生した気流を翼や胴体側にも流れるようにし、俺がキ43に採用した推力単排気管と同じ方法で機体を保護した。
俺はマッハ3級の有人航空機の正解はSR-71だと思っている。
そのSR-71が示したのは、その構造が実は低速でも大きな効果を発揮するものであったということ。
胴体手前で圧縮された気流は時速300km台から効果を発揮。
音速の2倍からは抵抗をやや和らげる程度でしかなかったが、層流という存在を吹き飛ばすことで胴体全体で乱流を抑制しようと努めていた。
この発見によってダイバータレス式エアインテークというものが見出される。
……先に見出したのはSR-71の機体構造の詳細データを盗んでいたヤクチアではあったのだが。
スパイを送り込んでいたヤクチアが先に研究を完了させるが、NUPもSR-71で得られたデータから次第に答えに気づき始める。
これこそ第四段階の進化だな。
最新鋭のジェット機がこぞって装備しだしたものだ。
いわば現時点の最終進化なわけだが、ようは胴体側で気流を適切に圧縮できれば、ダイバーターなどと呼ばれる重量物をすべて排除し、おまけにショックコーンまで排除できるのではないかというものだ。
進化型ショックコーンと言ってもいい。
ダイバータレス式エアインテークの方法はこうだ。
まず1つ。
SR-71でショックコーンの役目を果たした存在を、機首にしてしまう。
つまり第一段階の気流制御は機首側で行う。
ダイバータレス式エアインテークにおいて重要なのは機首形状。
ただ鋭く尖らせればいいわけではない。
その後ろの胴体部分の形状も考慮しなければならない。
ここで圧縮された空気はさらにコブのようなものにぶつかる。
ここで空気が圧縮された後、衝撃波のように連続した空気の流れがエンジンへ。
いわば手動式ポンプでシュコシュコ空気を送り込んでいる状態。
このうねりが実にエンジンにとって都合がいい。
この連続した気流の流れによってうねった空気は圧縮機に押し込まれ、圧縮機は最大限の仕事をしてタービンへ送り込まれる。
ちなみにこれが仕事をするのはどうあがいてもマッハ2級、研究資料によるとマッハ2.4まで。
その結果の影響のせいで、研究理論自体は30年後には完成していたが、当時は更なる高速化を目指していた頃のため実用化されなかった。
あの頃はマッハ2.5以上が求められたので、マッハ2.4までが限界という事が採用されなかった最大の理由。
丁度この頃開発が開始されたステルス機とも相性が悪いと勘違いされたしな。
それは"コンピューター設計など無い時代に既に完成していたのだ"。
やるかやらないかで躊躇した結果NUPは出遅れたが、こいつを最初に世に送り出したのは華僑。
それも設計は皇暦2640年代には終わっていた。
設計者はヤクチア。
華僑の戦闘機だから試したいとばかりに試作機にソレを搭載し、感触が良かったので量産機にも採用させた。
以降華僑の機体を中心に広く採用され、NUPは大幅な軽量化が達成される事に気づいて後追いする。
NUPが躊躇した最大の原因は1つ。
自国で開発したダイバーターが最優であり、ダイバータレスは妥協の産物だと思っていたから。
当時のアナログ計算的設計が当たり前の華僑を舐めすぎた。
まさにコンピューターの敗北という奴である。
トライアル&エラーを繰り返して次々に量産機に採用した華僑が勝つのである。
特に超音速時のデータが足りてなかったので、それが本当に有効だと思われていなかった。
それはヤクチアも同じ。
エアインテークを固定式にするのは怖かったのである。
だから華僑の戦闘機にそれを押し付けた。
しかし効果自体は"ある"とされていた代物。
吸気能力が下がるだとかいろいろ言われたが、実装してみるとそんな事はなかった。
割と単純な構造でどうにかなるのだ。
可動式ばかりに目が向いて本当に到達すべき所から逃げていただけだった。
その後、世界各国では制空戦闘機の最高到達速度はマッハ2.4未満でいいとなった事から、第五世代の最新鋭機にこぞって採用し始めるのである。
ダイバータレス式は時速300kmから仕事をしはじめ、音速の2.4倍までこの構造だけでどうにかなる。
ダイバーター方式だの可動式ショックコーンなど不要。
全て固定式構造物だけでどうにかなる。
見ただけでは真似できないというのもデカい。
機首との一体化構造なので、ただコブを作っても同じ事にはならないんだ。
まあ多少はそれらしき効果が出るのはF-8で証明済み。
いわばF-8に正解とするためのヒントがあった。
F-8を突き詰めて研究すればもっと早い段階で気づけたのにな。
まるでカエルが鳴嚢を膨らませたような構造は明らかに異質であったが、これが最強。
見た目は正直言って最悪で美しさの欠片もない。
だが、これが最も軽量に出来て現段階でも効果的なインテーク形状とできる方法。
発想に辿り着かなかったせいでダイバーター方式となっただけで、もっと早く気づいて実用化しろよと言いたい、遅れた最新鋭技術。
どうやら皇国の今後の戦闘機はコブ付きだのアゴ付きだの言われそうだ。
しばらくの間は周囲からダサいとか言われるかもしれない。
改良が続けば上手く隠せるので将来的にはそうするつもりだ。
F-35方式にして上手い事隠してしまう。
他国に真似されたくない。
10年後ぐらいには実用化できるはずだ。
それまで皇国があれば……の話だが。
まずはアゴ付きにするさ……正直ダサいので俺もやりたくないんだが、致し方ない。
……もしかしたらダサいので、知ってはいたけどその技術を採用しなかった技術者もいるかもしれない。
しかし900kmを確実に達成し、戦闘機として完成させるために俺は採用する。
超音速機でないので2600年代の技術でどうにかなる。
そもそもがアナログ的設計で生まれたもの故に今の時代に作れるのが大きい。
ダイバーター式の方が明らかに難しいんだ。
計算式も割と単純なので知ってる。
ダイバータレス方式は単純すぎるからこそ採用が見送られたことでも有名だしな。
超音速の世界では70年後の未来においても計算外の効果が多く、単純計算で構成されたものを実際に飛ばすと計算外の効果となる事は多い。
だから単純構造ほど採用が倦厭される。
しかしF-8、SR-71の30年後の段階でその効果はある程度証明され、そして40年後には量産機に実用化されて第五世代以降のあり方を決定付けるのだ。
ちなみに一部でステルス性を確保するために、運動性などを犠牲にしているというが大嘘。
全てにおいて勝るからこそ研究が続けられていた分野。
機首形状が限定されるからなかなか作るのが難しいだけだ。
俺がやり直す頃にはダイバーター式の方が今後は確実に淘汰されると言われていた。
実際、各国が提唱する新型はダイバータレス式ばかり。
ダイバーター方式は第五世代を最後に滅びる。
それをあえて第一世代にぶち込む。
黎明期のはずが理想的なエアインテークを装備する。
おかげで機首には大きなスペースが出来るのだ。




