親に捨てられてました
両親のことで最後に覚えているは、優しい笑顔と暖かい抱擁。自分は愛されていたと信じていた。
だから親代わりの父からお前は捨てられたのだと聞かされたときは、信じられなかった。
連装の魔城 クーディア
「と言うわけだ。もう一度繰り返すがお前の親はもういないし、誰からも望まれた子供ではなかった」
15メートルは離れている、正面の大きな玉座に険しいかおで鎮座しているが、クーディアの現城主であり魔王である。
「まじかー、俺明日からどうしよ」
つい先程、お前もそろそろいい歳だからこの城から出ていけと言われた。
はあ、泣きそ。
「あら、お兄様ごきげんよう」
綺麗な金色の長い髪に華奢な体躯、加えて純白な肌。
俺に声をかけてきたのは、クーデル・ファアー・ローギリウス。この城主である魔王の一人娘だ。
これで背中から申し訳程度にくっついているコウモリの羽がなければ魔族とはわからない。
あと俺はこの女に嫌われている。
「これはこれは御丁寧にありがとうございます、お嬢様」
「うわっ…キモっ……」
これである。
「えっ、あ、その…すみません」
「…はあ、まあいいわ。今日は庭にペネラをお散歩しにいくから」
「あれ、聞いてませんか?俺、本日付で城を追い出されるんですが…」因みにペネラとはドラゴン種のクーデルのペットだ。
「えっ、な、なんで?」
「いやあー、先日、城主様に10歳になったと告げられたじゃないですか?それでもう自分もいい歳だから自立しろといわれまして」
「……お父様が言ったの?」
「え、ええ…」
「…そう……」
なんか少し怒ってる?
「あの、どうかさr」
「不快よ!出ていきなさい!やっとあんたの顔を見なくてもよくなったのね、そう今までただの雑用としか機能してなかったから、元々居ても居なくても変わらなかったものね!」
彼女はそう捲し立てた。
髪が乱れて汗も少しかいている、おそらく平常を保てないほど嬉しいのだろう。
まじか、俺居ても居なくても変わらないのか…
…なんだ、これで唯一の心残りが消えた。
「今までお世話になりました。また帰ってきますね」
嫌われてるって思ってはいたけど…ここまでとは。
二度と帰って来ることはないだろうな。
「そ、そう……ほんとに行くんだ…」
クーデルは俯きながら、小さな肩を震わしている。
やっぱり帰ってくる発言がいけなかったようだ。
「では、さようなら」
俺は城を全力で駆けた。
昔は仲良かったんだけどな…
「あ……」
視界の隅に見えたのは、俺に手を伸ばす元妹の姿だった。
凍るように冷たい手足。
吐いた息は白く、心臓が打つ鼓動は不均一。
「ハァ、ハァ…」
凍るように寒いはずなのに、額から流れる汗は止まることをしらない。
「あら、まあ会えたわね」
手持ちの剣200本分くらい先にいる、背の低いピンク髪の少女がニヤニヤと呟いた。
「……っせえよ」
体からの汗は止まらないものの目だった外傷はない。
しかし、纏った衣類や防具の類いは破れており違和感を隠しきれていない。紅い髪からは血が垂れている。
垂れた赤は汗と混じり合い、冷たい石煉瓦に溶けていく。
「もう、引き返せない」
「もう、信じない」
「もう、負けない!」
最後の言葉を言い終わる3秒前ほどに地を強く蹴って爆進した。
右手に捕まれた光を放つ剣のようなものを少女めがけて一直線に突き刺す。
「ふふ、おいで私のワンちゃん」
少女は両手を広げ少年の渾身の一撃を胸で受け止めー
ることはなく、少年の半身は、気付けば吹っ飛ばされていた。
即死だった。
「あらあら、動かなくなっちゃった…大丈夫?まだ動ける?」
非常に残念そうに、焦燥して問うてきた。
が、すでに少年の意識はそこにはなく、返事など帰ってくるはずもなかった。
こうして少年の生涯はまた、幕を閉じたのである。