好ましからざる者たち
「太田さん、伊達沢は?」
「いや、見つからないな。近くにはいないみたいだ」
日付が変わろうとしていた。
伊達沢はいなくなった。
あの連絡のあと、すぐにジュンは引き返した。しかし、もうそのとき、伊達沢はどこかへいってしまっていた。
砂を使った。
あのときとは、勝手が違う。調べられる範囲は、そこまで広くはない。
「いないよー」
「いないなあ」
砂が、呟いた。
伊達沢は街に、戻ったのか。
「ジュン。多分だけどな、あの子は自分がやったと思ってる」
「自首ってことですか」
「あの子は、もっと弱い」
「死ぬかもしれない」
「そうだろうな。俺も動くが、お前、心当たりとかはないのか、行きそうな場所で」
「心当たりなんて、ないですよ。だってまだ出会ったばっかりなんですよ?」
「彼女だろ?」
「違いますって。本当に出会ったばっかりなんです」
「使えねえな、ジュン。石に聞けよ、それでもわかんないのか」
「ここら辺では見てない、と」
「消えたってのか」
「バスは?」
「通ってないだろ。でも、タクシーってこともあるか」
「え、今度はタクシー? タクシーなら見たけど」
「女の子が乗ってなかった?」
「ここからじゃ見えない」
地面に埋まった大きな石が、そう答えた。
でも、しばらく道は一本だけだ。
ジュンは駅まで走った。
「ねえ、タクシーから、女の子が降りてこなかった?」
「女の子でしょ、見たよ」
「駅に入った?」
「うん」
やっぱり伊達沢は街に戻ったんだ。
街。
日が暮れていた。赤とほとんど黒の景色。
伊達沢は死のうとしているのか?
何の目的で街にきたんだ。
ジュンは人混みを抜けて、デパートの最上階を目指す。ポケットには、一握りの砂があった。
非常階段の横。
砂を動かし、鍵を作る。ジュンは屋上に出た。
砂。ここから動くことはできないが、広い範囲で探すにはこれしかない。
砂、石、岩。とにかく連絡をつないで、情報をここに集める。
「この能力の幅なら、いずれ見つかるのも時間の問題だろう」
声。
「コンビニの裏の公園」
また、声がした。
誰かが、自分のまいた砂に、話しているんだ。
ジュンは、体を乗り出して、街を見下ろした。
公園。
ジュンは額から流れる汗を拭った。肩で息をしている。
それでも、走った。
公園。
視界が揺れている。
人影。
二人いる?
「こんにちはー」
男の声だった。
「あの子は、うちで預かってるから、安心して。あともう探さないでだって」
顔を上げたジュンは、そこに伊達沢がいないとわかった。
男が、二人。知らない顔だった。
「誰だあんたら、伊達沢はどこにいる?」
「名前とか、ないよ」
タクシーの運転手。よくみると、そういう格好をしていた。
「まず、伊達沢に会わせろ」
「しつけえよ、お前」
街灯の、橙色をした光。なにかが動いた。
腕にからみつき、ジュンは引き倒された。
「もう一回言うぞ。あの子は、俺らと生きるから」
「じゃあな」
ジュンは、立ち上がって、二人の背中をただみていた。
ジュンは、追いかけなかった。
伊達沢に、拒絶された。そう、思ったからだ。
数日が経った。
太田さんが、その二人のことを調べているが、いまのところどういう連中なのかは、わからない。伊達沢が無事なのかも、わからない。
一ヶ月。
ジュンはまた、一人になっていた。自分の仕事だけをする。しかし、探していた。
一年。
グングニルと戦う。それ以外にも、やらなければいけないことができた。
五年。
好ましからざる者。ジュンはそう呼ばれるようになっていた。そして、ジュンだけではなく、あの、伊達沢をさらった二人も。
コロンブスの言っていた未来。
少し、違った。あっている部分も確かにある。植物が喋るんじゃない。植物を、喋らせることができるやつがいるんだ。
十年。
グングニルという存在が、徐々に忘れられ始める。グングニル以外に、人の感情は変化することも多くなった。
五十年。
国というものが、歪んだ。力を持つ人間同士が争っている。
僕の子供や、その孫も、戦っている。
二百年。
好ましからざる者たちが、どこかから世界を支え、時に世界を破壊している。
あ、書き忘れた。
「好ましからざる者たち」へ、続く。
200年後にまた会おう。




