第7話 買い物の途中で
地下の今は使われていない食料貯蔵庫から出てくると、太陽は真上に来ている。
「日が真上にあるから、お昼時というわけか……」
『さぁさぁ、お昼を食べる前にそろえるものをそろえてしまいましょ!』
「それじゃあ、次は武器や防具を買いに行こうか」
ローレンドの町にある石像すべてと契約できた俺たちは、冒険者ギルド近くにある商店街を目指して歩きだした。
武器を扱うお店や防具を扱うお店の大半は、冒険者など様々なギルドに所属するものが多くいる場所で商売をしているため、まとまっている場合が多い。
この町の武器や防具のお店も、中央地区の冒険者ギルド近くに集中していた。
「……このお店に入ってみようか」
『う~ん……あ、ここ初心者用の武器や防具を扱っているわよ!』
リリが指さす先にお店の立て看板があり、そこには『冒険を始めたばかりの方、歓迎!』のうたい文句が。
どうやら、今までの三件のお店では扱っていない初心者用のものがありそうだ。
……そう、俺たちは知らずに初心者お断りのお店に入って追い出されてきたのだ。
「いらっしゃいませ!」
店の中へ入ると、女性の店員さんの声が店内に響く。
どうやら、今の時間お客は俺たちだけのようだ。
店の奥から、さらに女性の人が出てきて俺たちの接客をしてくれる。
「いらっしゃい、何をお探しかね?」
「えっと、俺が使えるショートソードと万能ナイフを二本、あと動きやすい鎧があればいいかな?」
『そうね、いい機会だから靴も新調したら? 今履いてる靴だと森に入れないでしょ』
リリは俺の全身を見て、必要なものを提案してくれる。
「それじゃあ、以上のものをお願いします」
「はいはい、ケニー、ショートソードを何本か出してあげて。あとナイフも。
え~と、動きやすいといったら革鎧が定番だね……」
接客してくれている女性が革鎧を店に並べてある中から何着か選んでいると、カウンターにいた女性が店の奥からショートソードを五本ほど持ってきてカウンターに並べる。
また、ナイフもいっしょに取ってきたようで同じように並べていく。
「お客さんの体格なら、この革鎧がおすすめだね。
お客さんは冒険者だろ?」
『そうよ、召喚士で冒険者なの』
「なら、この革鎧に冒険者のブーツはこいつがおすすめだ。
つま先に鉄板が入っているし、底は厚手にしてあるからケガをすることもないよ」
「じゃあ、それでお願いします」
「はいよ、膝当てはどうする? 肘当てはお客さんの自由だけど膝当てはあった方が良いよ」
『安全策はとっておいて損はないわ、店員さん膝当てもお願い』
「了解、あと細かい物も用意しておくからカウンターで振りやすそうな剣を選んでくれよ」
店員さんに言われるがまま、カウンターに並べられた剣を一本づつ振ってみる。
その中で最も振りやすかった四番目の剣に決めた。
ナイフは、どうやらどれも同じもののようだ。
「武器は決まったようだね、それじゃあ、こっちを試着してくれるかい?」
試着室から出ると、真新しい鎧や剣が初心者丸出しだ。
上から下までを眺められていると、何か恥ずかしい……。
「うん、サイズは直す必要はないね」
『初心者丸出しだけどね~』
「初めはこんなものですよ? 要は、ここからですね」
「そうさ、お客さんがどんな冒険者に、召喚士になっていくかはここからだよ!
気合い入れて、頑張りなよ?」
店員の女性二人が笑顔で俺を見ている。
リリも、笑顔で俺を見ていた。
「はい、頑張ります!」
神崎耕太、四十歳。この世界で頑張って生きていきます!
そしてお金を払い、お店を後にした。
▽ ▽
「全部で銀貨五十枚って、初心者装備だから安いのかな?」
『たぶんそうね……あのお店の店員、結構やり手かもね』
「あんな励まし方されたら、次もあのお店でってなるよね」
『さすがね~』
次に向かうお店は、ポーションなどを扱っている雑貨屋だ。
俺は冒険者の初心者なため、この機会に必要なものをそろえてしまおうとしたのだ。
幸い、俺にはアイテムボックスがある。
嵩張る荷物はすべてこの中へというわけだ。
「さっきの屋台のおじさんは、この雑貨屋が冒険者御用達だって言ってたね」
『ふんふん、この看板にも冒険者御用達って出てるわね』
リリが見ていた立て看板には『冒険者御用達のお店』と書いてある。
しかも、ギルドマスター推薦の文字まで。
「それじゃあ、入ってみようか」
『ええ』
リリと一緒に店の中へ入ると、見知った人たちがいた。
「あ、神崎さん!」
「確か、乾さんでしたね。お久しぶりです」
「ああ、これは自己紹介をしていませんでした」
「改めて、乾です」
「こちらこそ、神崎です」
「どうです神崎さん、冒険者してます?」
「ええ、冒険者はこれからですが召喚士はしてますよ」
そういってリリを掌に載せて乾さんに見せてみる。
「ほう、神崎さんは妖精を召喚したんですね」
「ええ、このサポート妖精には本当に助かってますよ」
「サポート妖精、ですか?」
乾さんは、訝しげな顔をする。
あれ? 何か変なことを言ったかな?
「ええ、このサポート妖精の知識は例の赤い本と連動してましてね?
石像の位置を知らせてくれたり、どんな行動がおすすめかとかを教えてくれたりと便利なんですよ」
「何と、この妖精が……なるほど……」
乾さんは、まじまじとリリを見ている。
そしておもむろに、俺に視線を戻すと…。
「ありがとうございます神崎さん、良いことを教えてもらいました。
さっそくみんなに知らせてあげないと!
……それではまたどこかで!」
乾さんは、挨拶もそこそこに急いでお店を出て行った。
どうやら買い物はすでに済ませていたみたいで、店員さんが『ありがとうございました~』と乾さんが出て行った扉に向かって言っていた。
「……どうしたのかな?」
『どうやら、サポート妖精のこと知らなかったようね』
「そうなの?」
『というより、召喚自体をまだ理解していない感じね』
「大丈夫かな、乾さん……」
『そんなことより、買い物を済ませましょ!』
「そうだな」
今度会う時は、乾さんたちも召喚士として生きているのかな?
そんな心配を心のどこかでしながら、買い物をしていく。
第7話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。




