第13話 これからどうするか
カグヤを撫でて落ち着きを取り戻したディアナさんは、子供の石像をじっくりと観察し始める。
「う~ん、これが天使の石像なのね……」
『確かにこの石像の背中に、羽が彫られているな……』
大ベテランっぽいディアナさんが、天使の石像を前に唸っている。
ということは、この石像はよっぽどレアってことなんだろうか?
「あの、天使の石像って他にはないんですか?」
今まで石像を観察していたディアナさんが、質問した俺を確認する。
「そうね~、私が知る限り他の『天使の石像』は王都にある教会に一つあるらしいわね」
「あるらしいって、確認したわけじゃないんですか?」
「ええ、というより確認したくても確認できないのよ……」
「それはどういう……」
「そうね、コータさんはこれから王都方面に向かうんでしょ?
なら知っておいた方が良い話だと思うから教えてあげるけど……。
王都には三つの教会が存在するわ。
まず『創世教会』
ここは昔からあるまともな教会よ。弱者救済や人々に安らぎをといった教義のもとまともに活動している教会。
もし頼ることがあれば、この教会を訪ねると助けてくれるわ」
昔からある教会なら、大丈夫か。
そういえば、ローレンドにあった教会はどの教会だったのかな?
「次に『豊穣教会』
ここは豊穣の女神アニュースを祀る教会ね。主に農民が中心に信仰のある教会よ。
だから、作物を育てている町や村には必ず存在しているわ。
ここは、普通の人は用のない教会だから無害ね」
なるほど、農作物を育てている人たちの信仰する教会か……。
てことは、手助けもしているのかな?
どうすれば豊作になるのかとか、この害虫にはこう対処した方が良いとか……。
「問題は三番目の『清浄教会』なのよ……。
この教会主神ハーネリア様を信仰する教会でね、主な信者は貴族連中が大半よ。
中には大金持ちの商会や実力ある冒険者を信者にしていることもあるわね。
教義内容は私も知らないわ、知りたくもないし!
でも一言でいい表すなら、人族主上主義、これがぴったりくるわね」
貴族に多い人族主上主義か……。
ということは…。
「天使の石像がある教会っていうのは……」
「そう、清浄教会の建物の中にあるらしいのよ。
清浄教会の建物には、原則は入れない決まりらしいからいくらお願いしても入れてくれないわ。
ただ、かなりのお布施を払うといれてくれるって噂だけどそこまでする価値がある石像かというとね……」
「考えさせられる、というわけですか……」
ディアナさんは、静かに頷いた。
確かに、教会内にある石像が何か分からなければ怖くて入ろうとも思わない。
価値ある石像かそれとも……。
しかし、うまい商売を思いついたものだ。
石像がある限り召喚士は必ず訪れる。そこでどんな石像かは話さず、お布施をたんまりもらってから石像とご対面。
どんな石像であれ契約しないわけにはいかないよな、お布施代がもったいないから。
で、契約してハイさよならか。
「考えれば考えるほど、えげつない教会ですね……」
「でも、天使の石像がここにあったということは、清浄教会の宣伝していることは嘘ということになりそうね……」
そう言って、ディアナさんは天使の石像と契約をした。
「……確かに、天使の石像だったわ。
治癒魔法を習得できたし、当面の目的は達したわね」
「ディアナさんは、これからどうします? 何か新しい目的でも見つけるんですか?」
「そうね……」
そう言ってエルが抱えて撫でているカグヤに視線がいく。
どうやら、カグヤが気に入ったようだ。
「その魔物、召喚獣よね? どこでその魔物の石像と契約したの?」
「この先のローレンドの町ですよ。
衛兵の詰所の側にこの石像がありましたから、すぐ契約できるはずですよ」
「この先の町ね、ありがとう。
それじゃコータ君、またどこかで会いましょう」
「はい、こちらこそ」
俺とディアナさんは握手をして別れた。
この世界の召喚士の実力を知ったな……。俺なんて本当にまだまだって再確認したよ。
ああいう人がゴロゴロこの世界にはいるんだろうな……。
『私たちも、まだまだなんですねマスター』
『そうね、実力の違いってやつをまざまざと見せつけられたわ』
『キュ~』
エルやリリは、ディアナさんが召喚していた戦士たちに圧倒されていたみたいだな。
カグヤも、エルの腕の中で少し震えていたようだし……。
「俺たちの実力不足なんて今さらだろ?
これからどんどん契約していって、鍛えて行こうぜ!」
『はい、マスター!』
『キュ!』
『……コータに励まされるなんて、何か複雑ね』
「ひどいよリリ……」
俺たちは笑いながら次の石像を目指した。
実力不足はわかっていたことだ。これから、いろんな石像と契約していきレベルを上げて世界を旅していく。
今はまだ将来どうすればいいのか分からないけど、いずれ神に出会って聞いてみるさ。
俺たちに何をさせたいのかってな……。
第13話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。