第12話 この世界の召喚士
ローレンドの町を東に向かって出発して二時間ほどが経過した。
町から東に向けて街道に沿って進むと、二日ほどで次の町バウクラドに着く。
しかし、それは馬車に乗って二日ということで歩いてだとその倍以上はかかるだろう。
では、なぜコータたちは歩いて次の町を目指すのか?
それは石像探しと契約を目的にしているからだ。
現に、街道から外れた林の奥の川の側に石像を見つけた。
「こんなところに、石像があるんだな……」
『みたいねぇ~』
『……この石像の土台の下に薬草が生えてますよ』
「契約ついでに、薬草の採取もしておくか……」
リリが石像の周りを飛んで、その姿を確認してくる。
『これって、子供の石像よね?』
「そう見えるよね、でも、ただの子供じゃないと思うんだよね……」
エルが、ジッと石像を見つめているとあることに気が付いた。
『マスター、この子供、羽が生えてますよ』
『「えっ?!」』
俺とリリがすぐに石像の後ろに回り確認。
エルは『ほら、ここに』と羽が生えているであろう場所を指さす。
「ほんとだ、これ確かに羽だな……」
『え? ちょっと待って、この子、天使なの?』
「いや、リリ、落ち着けって。まだ天使って決まったわけじゃないだろ?」
リリが驚きのあまり、騒ぐところを俺がなだめて落ち着かせる。
また、町を出る前に送還したカグヤを再び召喚。
【飛行ウサギ召喚】
俺の前に飛行ウサギのカグヤが召喚されると、リリが飛び付き癒される。
『キュ~』
『あ~、混乱した時はカグヤよね~。これは癒されるわ……』
その二人を見ていたエルは、持っていた剣を鞘にしまい開いた両手でカグヤを触りたそうにしている。
「……とりあえず、この石像と契約してみるか。そうすれば正体もはっきりするだろうからな……」
俺は石像に手を置き契約する。
『天使の石像と契約しました。スキル「治癒魔法(初級)」を習得しました』
「おお、やっぱり天使で間違いないようだ」
『そうなの?それで、天使で習得できるスキルって何?』
「治癒魔法(初級)だ」
『マスター、やりましたね! これでちょっとした傷ならすぐに治療できますよ』
『キュ~~』
『おめでとう~』
カグヤを抱いているエルと、カグヤに抱き着いているリリ、そしてカグヤをいれた三人に褒められるとうれしくなるな……。
四人で和気あいあいとしていると、槍を持った騎士と魔法使いのような姿をした女性と遭遇する。
「あら、話し声が聞こえると思ってきてみれば……」
『マスター、こいつらは敵かい?』
さらにその二人の後ろから体の大きな筋肉質な戦士が現れる。
『どうした、こんな所で止まって……』
『グレン、こいつら敵なら俺に任せてほしいんだけど?』
グレンと槍の騎士から呼ばれた戦士は、俺たちを訝しげな眼で見ると女性の側に近寄る。
『どうしますか? マスター』
「そうねぇ~……」
そう言って考える女性。
槍を構える騎士、盾を構えて女性の前に出る戦士、連携がとれているよな……。
こちらも、剣を鞘から抜かずに構えるエル。
カグヤはエルの後ろで威嚇しているし、リリもエルの後ろで三人を観察している。
一触即発の空気が漂う中、俺は皆の前に出る。
「初めまして、召喚士のコータと言います」
「あら、自己紹介してくれるなら返さないとね?」
そう言って、騎士と戦士の前に出て自己紹介をしてくれた。
「初めまして、ディアナ・リルベルドよ。
あなた、コータさんだったわね。コータさんはこんなところで何をしていたの?」
「俺は、この石像と契約をしていたんです。
まだ召喚士になりたてなので、契約できる石像探しをしています」
ディアナさんは俺を上から下から観察すると、納得いったのか騎士と戦士に警戒態勢を解かせた。
それを見た俺も、エルたちの警戒態勢を解除させる。
「ゴメンなさいね? ここのところ碌な召喚士に会わなかったものだから」
「碌な召喚士ですか?」
「ええ、この前の町では複数でナンパなんてしてきたバカたちがいたわね……」
ディアナさんはため息を吐いて、ウンザリしているようだ。
でも、それだけ美人なら仕方ないと思いますけどね……。
「ここの石像は子供の石像なのね……。でもこんな子供の石像は、初めて見たわ」
『マスター、以前見つけた子供の石像はお姫様でしたな…』
『そうそう、あんな召喚獣がいるのかとマスターが怒っていたっけ?』
どうやら、子供の石像って他にも種類があるようだ。
でも『お姫様』って召喚獣としてどうなんだろう……。
「コータさん、この石像と契約はしたの?」
「ええ、先ほど済ませましたよ」
「それなら、悪いんだけど教えてくれる? 何の子供の石像だったか」
「ええ、いいですよ。 その石像は天使の石像でした」
「『『!!』』」
ディアナさんをはじめ、騎士と戦士も同じように驚いていた。
そして、俺の言葉が信じられないのか驚いたのかディアナさんは俺の肩をつかむと詰め寄ってきた。
「本当にこの石像が天使なの? 嘘偽りない? ちゃんと契約をしたのよね? 呼び出して確かめてみた?」
信じられないという顔をしてディアナさんが迫ってきたので、俺はカグヤをディアナさんに押し付けるとカグヤを抱きしめた。
「あ……この子は、癒されるわね……」
『キュ~』
カグヤを撫でて落ち着きを取り戻したのか、穏やかな表情でカグヤを返してくれた。
「ありがとう、落ち着いたわ。……魔物の召喚獣にこんな癒しがあるなんてね……」
「いえ、落ち着かれてよかったです。カグヤもありがとうな……」
『キュ~』
気にするなと、右手を上げて挨拶する姿に頬が緩む俺。
やっぱりカグヤは可愛いな……。
第12話を読んでくれてありがとう。
次回もよろしくお願いします。