─第1話─
舞台は新元号・安旭12年。世界は革新する──
2015年─正価27年─の平和安全法制の施行。
今世紀は東日本大震災や米国タカ派大統領の誕生、半島北のミサイル発射に始まり、この国にとって、ただでさえ激動の21世紀の幕開けとなるはずであった。
そう、ただでさえ激動の21世紀に──
2025年─安旭7年─
自衛隊の異世界転移は世界の革新を促した。人類は新たな選択肢を迫られたのだ。
一党独裁国家の軍閥と結託した『デューゴス』勢力は異世界への侵略を企てたが、自衛隊の活躍により撃破された。
国際情勢はめまぐるしく変わる。
紡がれる物語…………
────新日本神話:急────
2030年─安旭12年─
季節は春。
NKH(日本公共放送)のアナウンサーが解説をつらつらと読み上げる。
代議士らをバックに映る白文字。
【 国 会 中 継 】
【 衆議院予算委員会 ~第1委員会室より中継~ 】
『予算委員会の模様をお伝えしています』
男性アナウンサーの声がテレビに響く。
毎度おなじみの国会中継。今も昔も春の風物詩(←?)
SNSや会員制動画視聴サイトでも人気のコンテンツだ。
カメラがズームし、質問者を映す。
『質問に立つは、『公民党』鈴木美江さんです』
アナウンサーの声にかぶせ、委員長が仕切る。
自主党の関連質問が終わり、続いては政権連立与党の公民党だ。
「以上で、田中吉郎君の関連質問を終わります。この際鈴木美江君より関連質問があります。田中君の持ち時間の範囲内でこれを許します」
「委員長」
「鈴木君」
与党席から拍手が巻き起こる。
「公民党の鈴木です。委員会の皆様、本日はこのような質問の機会を賜りありがとうございます。さっそく総理にお伺いいたします。わが国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増すなか、異世界との安全保障分野における協力はますます重要なものとなります。異世界との外交について総理の方針をお聞かせください」
男が手を挙げる。彼の名は……
【 内閣総理大臣 大泉進太郎 】
総理は答弁を始める。
「委員から非常に重要なご指摘がありました。わが国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増し……」
その男、歳は48。総理にしては随分と若い。なにげに戦後日本史上最年少首相である。
爽やかで切れ味鋭い弁舌やカリスマ的オーラが国民の人気を博し、今の地位に登り詰めた。
答弁を続ける大泉。
分かりやすい言葉で、異世界との共同安全保障が何たるか説明していた。これには質問に立った委員も頷いていた。
大泉が答弁を終えると、今度は関係閣僚にバトンタッチする。
「戸村異世界担当大臣」
髪をひとつに結んだ若い女が指名されると、手を挙げ前に出る。
字幕が出る。
【 内閣府特命担当大臣(異世界担当) 戸村美香 】
こちらもまた史上最年少大臣であったりする。31歳。社会的にはまだまだ若手とされる年齢だろう。
諸事情で衆議院議員1期目にして防衛省政務官に就任、異世界転移に巻き込まれた政府高官のひとり(もうひとりは義父の戸村自衛艦隊司令官)であるからして、異世界担当大臣就任を打診された。出産など様々な出来事があったものの、国務大臣を務める美香である。
ちなみに……
美香の補佐役に、同級生であった和田部舞が外務副大臣 兼 内閣府副大臣(異世界担当)として着任しているのは何の因果であろうか。
戦後日本最年少総理や最年少大臣の誕生。変化する政治の世界。
若者たちが紡ぐ新たな日本政治。
彼らを待ち受けるものとは。
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赤い椅子が円を囲むように置かれ、壁面や天井には華美な装飾が並ぶ高級な一室。
異世界《方舟》の『閣議室』である。
宰相を始めとする重臣たちの仕事場のひとつだ。
内閣を構成する様々な重臣の顔ぶれ。男性はもちろん多いが、種族が多種多様であったりする。精霊族に魔族、そして……
なかなかにハンサムな老紳士が入室してくる。
どうやら彼らの上司、つまり宰相らしい。種族は……
「おはよう」日本語の挨拶がかけられる。つまり……日本人だ。
一体誰なのだろう?
「「おはようございます」」
皆も立ち上がり、挨拶を述べた。
老紳士は着席して閣議室を見渡す。
「では、始めるか」
「はい、戸村閣下」
なんと、戸村幸一その人であった。
現在の肩書きは【 宰相 】である。
テキトーに選んではいない。《方舟》において正当な手続きを経て任命された。つまり、議会の首班指名で多くの信任票を獲得し、女王からの任命を受けたのだ。
「では軍務大臣、後はお願いする」
今回は外交・安全保障分野での会合だ。
「わかった戸村殿……」
閣僚らの手元に資料書類が造成される……
魔法とは便利なものだ。
配られた書類。
そこには横書きの欧州風文字と明朝体の日本語が並ぶ。
そして衝撃の文字列。
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【北朝鮮に対する拉致被害者奪還作戦要綱】
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