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ある愛の詩〜河童の〜

作者:ミカ=エル
これは現在の一級や二級と付けられている河川が未だなんの区分けも整備もされておらず自然そのままの姿を見せつけていた頃の話。


とある川の上流域に位置する村で1つの問題が起きていた。

村人「河童なんかすぐに殺しちまえばいいんだ」
1人が言うと
「そうだそうだ!下流ではだいぶ悪さ働いてるって話だよ」
「だいぶ悪さをしてるって話しか聞かないぞ。すぐに処分しちまおう」
「見逃して悪さされても嫌だよ。さっさとやっちまわないかい」
「なんで捕まえた!なんでやっちまわなかったのかい」
などという声が聞こえ。

それらが一旦収まると
「河童ちゅうんは川の神様の使いだとか眷属だとかいう話も聞かれるぞ。殺さずに逃がしてやるべきじゃないだか」
「そうだぁ。下手に命奪っで恨み買ってもまずいんでないが?」
「河童って普通は群れで居るもんでねえが?ごいづ殺しぢまっで良いんだが」
などという声が立つ。

「村長〜!!どうすんだあ?」
口々に言い合っていた村の衆の目がやがて1人の老人、その村の村長に向いた。

「だめぇ〜!!」
すると村長の方、ではなく河童の側に立ち女の子が叫んだ

「ゆい?」「ゆいちゃん?」「ゆいちゃん」

村長「これ、ゆい。村の衆の話し合いの邪魔をするでない」

ゆい「いや!河童さんかわいそうだもん!きゅうり食べたくて畑に入ってただけじゃない!」

村人「いや、畑に入ってきゅうり喰って荒らしてたんだがらさ。始末するべきさ」
村人「そうだ。畑荒らしは処分されねば」

村人「害獣は殺さなければ、な?」

ゆい「いや!だってわたしだっておじさんが食べて良いよって言うから時々畑から黙って食べてるし!おじさんやおじいちゃんだってそうじゃない!なんで河童さんはいけないの?」
大人達を真っ直ぐ見据えて言う。

「いや、それは余所者と言うか河童だから」
「余所者と村人は違うさぁ」
「なんで河童にまでくれてやらにゃぁならないんだぁ?」

村人たちは口々に反対意見や文句を言う。

ゆい「うぅぅぅ河童さん、可哀想だもん」
だめ、可哀想、を繰り返して河童の前で頭を振りながら村人を阻むゆいに周囲の大人たちは顔を見合わせる。

村人たちがまた村長を見、ゆいを見、また村長に顔を戻しとやっているうちに
「許してくんろ。もうおら、悪さしないだ。
この子に誓うだよ」

「・・・・」

「かっ・・河童が喋った!?」
ゆい「河童さん!」
「か?」

河童「むしろ河童だから喋るだよ。これでも水の神の眷属だぁ。」

「堕ちたんだろうが?悪さばかりしてる奴等に神様どうのこうの、というのは言っで欲しくないだな」
河童が少し威張って反発すると更に増して村人が反発する。

ゆい「河童さんいじめちゃやだ!」

うううむ、と村人達は唸る。

村長「ゆいや、もしこの河童がまた悪さをしたらなんとする?」

ゆい「もう悪いことなんかしないもん!」

河童「ああ!この湖太郎の名にかけて違うだ!」

村長「!ほう。名を名乗るか。その意味は和紙も知ってるおるぞ。河童よ、その子に全てを委ねるか」

河童の湖太郎「あぁ。んだ。おらはこの子に受けた恩は忘れね。この恩は絶対だ」

ゆい「河童さん?」

村長「皆の者。この河童、湖太郎は命を我らに、このゆいに預けた。ここは信じ今回の事は許そうではないか。」

村人「だ、だが俺の畑は」

村長「ふむ。だが三太。ゆいも言うておったが全滅したわけではなくましてや他の村の者にもある程度自由に食わせておったのだろ?違うか?」

村人・三太「う、うむ。」

村長「であれば今回は。今回だけだ。見逃してやれ」

湖太郎「きゅうり一本くれさえすれば田畑に水流したり水の量を調節したりしてやるだ。」

村人達「おおぅ」「水引はありがたいべさ」「田畑の手伝いになるならそれで許してやればいいべさ」

ゆい「河童さんすごい?」

湖太郎「おらだちはすごいだよ」
笑って言う。

村長「まぁだが無罪放免というわけにもいくまい。しばらくは村の田畑を手伝ってもらおうかの」

村人「村長!?村に河童を引き入れるだが?」
「そんな」「河童が村に?」「河童を村に?」

村長「三太の田畑を主に手伝って貰うことにする。三太もそれでよかろ?」

三太「・・・・」
むしろ厄介事を押し付けられた感じのした三太は苦い顔をするしかなかった。

そして翌昼過ぎからゆいが河原に河童の湖太郎を呼びに行くようになり。
村で村人に混じって田畑の石拾いや草むしりなどをする河童の姿を見かけるようになる。

湖太郎「村長さ。3日後に降る雨はかなりきつくなりそうだ。んだで水門や水路の確認と川の土手の補強はしといたほうが良いかもしんね。」

村長「おお、そうか!知らせてくれてありがとう」

最初は人とは違う、悪さをする、良い噂がない、といったことで敬遠していた村人たちであったが数ヶ月もすればもうすっかり村の一員であった。

ゆい「きゃっきゃっ」

湖太郎「ゆい、待つだよ〜」

中でもやはり、ゆいとの関係は特別なものであった。

ゆいを中心に人ではないモノが人との距離を縮めていく。
それに反して一族の河童からは
「湖太郎は人間に魂を売った愚か者」
「距離を置くべき者同士の関係を崩す奴」
「一族の恥さらし」
などと言われて段々と身の置き場を無くしていった。

村人たち「いやぁ、湖太郎のおかげか今年は水不足にも悩まされずに助かっただなぁ」
「ほんになぁ。湖太郎様々だぁ」

春夏の大雨、冬春の乾燥や霜、湖太郎のおかげでこの村は大変助かっていた。

そんな日が続き1年と少し経ったある夏の日。

河童の仲間「おい、湖太郎。今度来る嵐は大き過ぎてどうにもならん。儂等も里に避難じゃ。お前も来いよな」

湖太郎「今度のは川に居られない程そんなデカイだか。村の衆は大丈夫だか」

仲間「お前がいっでるあそこかぁ?あそこは河原から近い。土手がまだまだ低い。あれは無理じゃないか?」

仲間「今度のはほんどにデガイでな。良い機会でねが。こっちさ居ろ」

仲間「悪いごだ言わね。そうしろ」

湖太郎「・・・んだが・・・」

最近疎遠とも言える仲間達にそういって気遣われ湖太郎は嬉しく思う。
そして半面仲良く、本当に仲良くなったと思う村をなんとかできないかと悩む。
悩みながらも時間は進む。

その二日後。すでに雨は降り始めていた。
湖太郎「村長さ!今度の嵐はまずいだよ!村の衆避難させるわけにはいがねが?」

村長「そんな大きな嵐になるのか?湖太郎達の力でなんともならんのか?」
村長も本当に仲良くなったと思っていた。
そう、村を見捨てるような事は無いだろう、と計算するくらいには。

湖太郎「今度のは無理だ。河童達も川から避難して里に引っ込む事を決めただ。どうしようもね。」
しかし村長の誤算は仲良くなっているのは河童、という集団ではなく湖太郎一人だけだということだった。

村長「河童達はこの村を捨てるのか」
だから村長は悔しげに、憎しげにそう口にした。

湖太郎「村長?本当に今度のは無理だよ。村の衆を早目に避難させて欲しいだよ」

村長「・・・分かった。考える」

湖太郎「頼むだ」

それでも湖太郎は村の為に少しでも出来る事はないかと村側の川底を掘ってみたり土を運んで少しでも土手を高く出来ないかと動き始める。

ゆい「湖太郎!遊ぼうっ?」

湖太郎「嵐が過ぎるまでは駄目だぁ。我慢してくれろ。ゆいも大雨になったらすぐにお山の方、高い所に逃げるだよ」
湖太郎は直接の命の恩人であるゆいよりも村を、村の衆の為に行動していた。

ゆい「ぶぅ、昨日も遊んでないしつまんなーい」

湖太郎「はは。嵐が過ぎて晴れたらまた思い切り遊ぼうな。またな」

ゆい「ぶぅ」

そんな事を二日程続けた日。
ついに嵐になり始めた。

村長「まずいな。水嵩が増すのが思ったより早いでねえか?」

ゆいの母親「誰か!ゆいを見なかっただか!ゆいが朝から居ないんだ!」

村人「朝一には河原で遊んでいたぞ」

村人「昼過ぎは見てないな」

三太「そういえばきゅうりを何本か取っていったな」

母親「きゅうりを?」

村人「村長!湖太郎だ!湖太郎は?今日、湖太郎はどうしてる?」

村長「湖太郎なら朝から川を入って今日も色々と作業してくれてるが」

村人「んじゃぁ違うだか」

村長「とりあえず誰か!まずは川を見て来い!水嵩もな!手が空いてる者は避難の準備だ!おそらく大洪水になる!」

村人「「応さ!」」

母親「あ、あたしはどうするだ、どうすれば。」

村長「大丈夫だ。きっとなんとかなる。なんとかする。だからゆいの分も含めて逃げる用意を」

母親「わかっただ。よろしく頼むよ」

村長「・・・湖太郎と共におれば良いが」

と、そこへ先程走って河原へ向かった男衆が慌てて戻ってくる。

村人「村長!駄目だ!まずいだ!すぐに避難を!上の橋が流されて来た!」

村長「!!もうか!!」

村人「村の衆を集めよう」

村人「湖太郎は泥だらけで土手を嵩上げしてくれていたがゆいは見つからんかった。湖太郎も知らんそうだ」

村人「お、湖太郎だ」

湖太郎「村長さ!!」
走り寄ってくる。

湖太郎「やっぱり無理だ!!もう、すぐにでも土手を崩しながら水が溢れるだよ!!早ぐ逃げるべさ!」
自分は水の中でなんとでもなる、と言いながら村の衆を逃がそうとする。

村長「湖太郎、ゆいを見なかったか?ゆいが、ゆいの姿がいつからか見当たらんのだ」
村長が湖太郎に静かに問いかける。

湖太郎「いんや、さっぎも聞いただがやっぱり居ないだか。・・・・犬とか鶏とかと遊んでいるのは?」

村人「ないだよ。きゅうりを何本か取って持っていったらしいが」

村人「どこ行っただか」

村人「きゅうりなんて河童の湖太郎にあげたり一緒に食べるだけだろうに」

湖太郎「まさか!!」

村長「湖太郎!何か思いついたのか?」

湖太郎「まさか、だども。他の河童に会いに行った、とか。探しに行った、とか」

村の衆「「!!」」

村長「まさか、な」

「いんや、あるかもしんねぇぞ!」
「最近湖太郎とも遊べてなかったしな」
「湖太郎と遊びたそうにしてたからなぁ」
「河童かぁ」
「あり得るな」
村の衆が口々に言って騒ぎ出す。

村長「湖太郎。良いか?」
と、村長が真剣な顔で。しかもどこか冷たさを感じる顔で湖太郎に問う。

湖太郎「んだ。おらのせいでもあるかもしれん。甘んじて受けるだ」
湖太郎も神妙な顔つきで返す。

村長「では人の村の村長の権限を持ってお前、河童の湖太郎に名前の力にて命じる。湖太郎よ、ゆいを探し出し無事に村に返せ。返すまでは村への立ち入りを禁じる。」

村人「村長、それは!」「それはあまりにも!」

湖太郎「わかっただ。河童の湖太郎、名前に於いて命じに応じるだよ」

村長「すまんな、頼む」

湖太郎「まかせておくだ。必ずゆいは探し出す!」
言うとすごい速さで駆けていく。

村長「頼むぞ」

村の衆「今更名前で縛って命じるなんて」
三太「湖太郎、かんばってくれよ」

考える事は皆同じであった。
ゆいはもちろん、湖太郎も「無事で村に帰って来い」、と。

湖太郎にはきゅうり、河童、という手掛かりで向かう先は一箇所しかなかった。
流されて来た橋が架かっていた場所より少し上流に行った所にある淀みである。

葦が繁ったそこは湖太郎の一族である河童の遊び場であった。

湖太郎「ゆい〜!!」
「ゆい〜居るがぁ〜!!」
〜〜〜

そこへ向かいながら、陸を駆けながらゆいの名前を叫ぶ。
まだ土手は崩れていないがもうすでに水が溢れてきていた。

「ゆい〜〜!!」

〜〜っ!〜!〜っ!

聞こえた。

最悪なことに川の中から。

「どこだぁ〜!!ゆい〜っ!」

〜っ!こたろ〜っ!

居た。

葦に掴まって流されまいとしているが顔が時々水に襲われている。

「待っでろ!!」
恐らく時間がない。
ゆいにも川にも。

上流からの赤土で濁流と化した川に走ってきた勢いのまま飛び込む!

「待ってろ、待っでろ、ゆい」

が。

ゆいが掴まっていられずに流されてしまう。

「ゆい〜っ!!」

濁流に呑まれる2人だが、なんとか顔を出す。

湖太郎「ゆいっ!ゆいっ!大丈夫だか!」

ゆい「湖太郎ちゃんっ!」
抱きついてくるゆい。

ゆい「怖い!怖い!怖かっだ!こたろ〜ぢゃ〜ん」

湖太郎「大丈夫だ、ゆい。助げるがら。なんどしでも」
おらの足はもう駄目だけども。
手も分からんけども。

ただただ流されていく。

そして何かが聞こえ始める。

村長「湖太郎〜っ!ゆい〜っ!」
母親「ゆい〜っ」

遠くの土手にまさかの村長とゆいの母親、そして何人かの男衆が見えた。

力を振り絞る湖太郎。

湖太郎「ゆいばここだぁ〜っ!!受け止めでくんろ〜っ!」
〜〜

聞こえた、かどうかは分からない。
勝負は一瞬。
まだ土手は崩れていない。
水嵩も心持ち余裕があるようにも見える。
村側に少しでも近付こうとする。

湖太郎「ゆいばここだぁ〜っ!頼んだだよ〜〜っ!」
言って村の衆が居る方へゆいを放る。
名前の力が多少発揮されたのか。
それとも化生としての力か。
ちゃんと岸まで届く。

しかして湖太郎はそれを確認する事なくそのまま流れに呑まれていく。




二日後。
ゆいの母親「ゆいっ!本当に良かっだな。助かっただよっ」
村には気を失っていたゆいが目を覚まし、それを抱き締めて喜んでいる母親の姿と知らせを聞いて小躍りしている村の衆が見て取れた。

村長「ゆい、良かっだな。良かっだ。・・・湖太郎、すまん」




ゆいが村で目を覚ます約1日前。

下流の、もう河口が見える地域にて。

「おい、ありゃなんだ?何か流れてるぞ!」

「なんだあれ?」
「嫌だ。人?」

「なんだありゃ?」
「大水に巻き込まれたんだろうねぇ」
「巻き込まれたんだろうねぇ、可哀想に」

そこにはうつ伏せで流れてくる河童の死体が。

「おい?ありゃ河童でねぇか?」
「河童ぁ?」

誰かが言うと人が集まりだした。

「河童だ!」
「本当に河童だ!」
「死んでるのか?」
「溺れたのか?」
「河童が?」
「河童がぁ?」

はっはっは。

「人じゃなくて良かったな!」
「河童が溺れたのか」
「河童でも溺れることなんてあるんだなぁ」
「河童も水に流される、か」
「河童の水流れ、かぁ」

大水の被害にあったとはいえ、よく見ればその河童の足が擦り切れていたり曲がっていたりといった異常に気が付けただろうが、誰もが川で流された河童などにそこまでの興味は向かなかった。

「河童の川流れ」

その河口域でのちょっとした騒ぎをゆいの村の衆が聞いたのはゆいが目を覚ますほんの数時間前であった。

幸いにも村は多少水に浸かったが規模の割に被害は少なかった。
それは土手が崩れたのがかなり上流のほうだけで湖太郎が補強してくれた村に近い面は崩れる事なく耐え切ったという事。
そこを川が落ち着くまで村の衆一丸となって死守した事。
嵐が来る前に。早目に避難する態勢が整っていたという事、などが挙げられる。
だが、やはり湖太郎という河童の手柄であろう。

ゆいには湖太郎の詳細を語る事はせずに村では河童である湖太郎を丁重に祀り、そこでは「河童が人間にそこまでの事をしてくれた」という感謝の意味で「河童の川流れ」という言葉を言い伝えたという。


〜終〜
お読みいただきありがとうございます☆

久しぶりの短編、妖怪ものでしたがいかがでしたでしょうか?

何か心に残るものがあったなら幸いです☆

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