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アマドーラ帝国の雫  作者: emily
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アマドーラの雫2

 ラルムがミラの家から女学院に戻って2日が経った。今日は午後からお茶会が開催されている。


 ラルムの目の前にはアリス モンダールが立っていた。


「ラルム、お誕生日休暇はどこに行っていたの?…私はスモン家の舞踏会に呼ばれていたのたけど…貴方が行方不明だったとか…それは本当?」

 スモン家を強調したアリスの言葉にラルムは思わず視線を上げた。一瞬、ルルドでの出来事を思い出し、緊張感が高まった。しかし、その事には一切触れずに言葉を選んでこたえる。

「知り合いのもとでゆっくりしていたので…」

 出生の秘密、アマドーラの雫の存在については周囲に悟られないようにしなければならない。貴女の命にも関わりかねないから…とミラからもきつく言われている。

 また、同じ理由でラルムの誕生石である本物のアマドーラの雫はミラの家に置いてきた。だから今、ラルムの胸に光るネックレスのストーンはレプリカである。

「アリス、わざわざ気にして頂いて…ありがとう」

 そう答えてから…ラルムはあることに気づいてしまった。

 ―なぜ、アリスは私がこの地からいなくかったことを知っているのだろう…。

 ―それほど、アドリアンとアリスの距離は近くなって情報を共有していると言うこと…?

 説明のつかないモヤモヤした感情に支配されないように…ラルムは正当な理由を思い出そうとした。

 ―アリスはアドリアンの許嫁。

 ―こうなる事は…分かっていたはず。



「いい気なものね…アドリアン様の幼馴染みだからといってあまりあの方に迷惑をかけないで頂きたいわ。」

 ラルムの返答にアリスは沸き上がる苛立ちを隠せなかった。

 スモン家の超能力者であるアランの部下から苦労して聞き出した情報はどうやら本当であったらしい。

 アリスは鋭い視線をラルムに向けた。


 《アドリアン様が寝食を忘れてラルムという娘を探している》

 舞踏会の前日に耳にした戯れ言。

 何故そこまでして、ラルムを探すのか。

 ―幼馴染みだからに決まっているじゃない。

 アリスは何度も自分に言い聞かせていた。


 そして迎えた舞踏会当日。

 そこには、今までアリスが一度も見たことのない、何かを思い詰めたような暗く冷たい表情のアドリアン様がいた。

 私とダンスを踊っていた時も…アドリアン様の視線は常に何処か遠くをみていた。

 私ではない誰かをみている…?

 いいえ…そんなはずはない。

 ラルムの事を考えているとは限らないし、お仕事が忙しいからきっとアドリアン様は疲れていらっしゃるのよ。

 アリスは必死にそう思い込もうとしていた。しかし、今は自分自身に、無性に腹が立っていた。そして目の前で切なそうに、そう…あの舞踏会でのアドリアン様のように悲しい微笑みをつくろうと努力しているラルムの姿に、更に強い怒りを覚えた。


 ―まさか…アドリアン様はラルムを愛してる!?

 思い当たった真実にアリスは動揺した。

 早く、早くお父様にアドリアン様との婚約の発表を進めてもらわなければ!

 アリスの怒りは焦りに変わっていた。


「…アド、アドリアン様は最高よね。ぶ、舞踏会のエスコートも最高だった…」

 アリスはラルムを見る事もなく視線を下げたままに言葉を続けた。

「…今週末に離宮で行われるフェスティバル、私を許嫁として、エ、エスコートして下さる事になっていているの!私達は婚約するから当然だけど…本当に楽しみ」

 言いたい事を早口で告げると、アリスは踵を返して早足で自分の席に戻っていった。


 ラルムは急に表情が暗くなったアリスの様子に違和感を感じたが、それでも彼女を見つめていた。

 ―このひとがアドリアンの運命の相手なのだ…私ではない。

 ―落ち込んではダメ…。

 ―分かっていた事なのだから。

 それでも、アリスから告げられた言葉の一つ一つが、ラルムの心に痛く刺さった。

 ―幸せなアリス。

 その横でいつものように優しい笑みを浮かべて立つアドリアンの姿を想像して、ラルムは一瞬、目を伏せた。

 ―その時はちゃんと祝福しなければ

 ―アドリアン…おめでとうって

 ラルムは込み上げてくる悲しみを静かに呑み込んだ。



 ルルドの森でミラが話してくれた事実は、ラルムの今までの生活を根底から覆すものであった。

 【アマドーラの雫】伝説のストーンが私の誕生石であるという事実に加えて、それが運命の人に感応するという衝撃。

 あの日出会った帝都アマドールの騎士が、私の運命の鍵を握るということ?

 本当に…?


 ―近いうちにまた会おう


 結局、ミラには話さなかったけれど、何故かそう告げた彼を思い出すと、胸がざわついた。


 私はアドリアンのことが好きなのに…アマドーラの雫は彼を拒否をした。

 そして彼の隣には今、アリスがいる。

 ―この現実と向き合う覚悟をしなくては…。


 ―アマドーラの騎士が運命の相手なら、それもいいのかもしれない…。

 今週末のフェスティバル、もう一度あの騎士に会えたらいいのに…。そう考えたが、胸元のネックレスの存在を思いだす。

 ―やっぱりそれは無理なこと…。

 だって私はアマドーラの雫をミラの元に、いいえ…ルルドの森に封印してきたのだから。


「ラルム、アマドーラの雫はルルドの森に在るときは本来の効果を全く発揮しないのよ。だからどんなに強い相手がパワーをもってしても貴女とストーンを探す事はできないの。でも一歩、森の外に出たら直ぐにその存在は分かってしまうのよ。」


 ミラの言葉を思い出す。


 だから私はアマドーラの雫をルルドの森に置いてきた。

 そして、誕生石を手離したもうひとつの理由…それは、マテリアス家が取り潰されなくてはならなかった、その真実を突き止めること。


 その全てが明らかになるまで、私はアマドーラの雫を、私の運命を、封印すると誓ったのだ。



 きっとあの騎士はアマドーラの雫を頼りに私の前に現れたはず。

 だとしたら…しばらく彼と会うことは難しいかもしれない。

 ラルムはそっとレプリカのネックレスを握りしめた。


 ―いったい全てを失って…私はこれから何処にたどり着くというのだろう。


 アマドーラの雫がアルカサンドラ家の者に感応したという事実は、この時ラルムはまだ知らなかった。


 ルルドのミラもマテリアス家を滅ぼしたアルカサンドラ王家が、運命の相手と共通していることを既に理解していた。しかし、ルルドの森と別れを惜しみ、更にはアマドーラの雫にアドリアンを拒否され、衝撃的な自分のヒストリーを必死に受け入れようとしているラルムに、これ以上その事実を告げる事はできなかった。





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