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アマドーラ帝国の雫  作者: emily
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ある夜のこと

 私がアマドール宮殿に滞在して一週間が過ぎた。

 ホーンの泉のブラッセリーには、しばらくアマドール宮殿に滞在すること、短い間ではあったけれど見ず知らずの私を温かく迎えて下さったことへの感謝と中途半端に仕事を休んでしまったことへの謝罪の気持ちを綴った。私の事情を察したレオが、王室縁の品物を添えるように手配してくれたらしい。その後、使いの者がブラッセリーから私の荷物一式を持ち帰ったと聞いた時はあまりのレオの手際の良さに驚かされた。反面、少し寂しさを感じたことはそっと胸の内におさめた。

「ラルムには…しばらく後宮で暮らしてほしい。だから君の荷物は私が全て引き上げさせた。またいつかブラッセリーには世話になった礼を言いに顔を出そう」

 いつもレオの配慮には心から感謝している。

 でも…もし今後レオがこの間の祝賀会でエスコートをしていたお妃候補の女性達を後宮に迎い入れる事になったら…私は退かなくてはいけない。それくらいの分別はまだ私の中にちゃんと残しておかなければ…と思う。

 この帝都に来る前に町娘のラルム フローディアは新たな人生を歩みだそう…そう決めていたのだから。


 戴冠式を終えたレオは早朝から夜遅くまで多忙な日々を送っていた。それでも時間を見つけては私の元に来てくれて、ランチかディナーのどちからは必ず共に過ごしてくれるのだった。レオに時間があるときはその後も二人で語り合いながらお互いの想いを深めていた。

 そんなある夜の事だった。

 今日は朝から夜までレオが一度も戻らなかった。私は不安と心配で眠れずに寝衣に着替えてからも部屋のカウチで本を開いていた。


 ―ギギィィ

 静かに部屋の扉が開けられた。薄暗い部屋の白い壁にランプの光に照されて待ちに待っていた人の影が浮かび上がる。


「レオ…忙しいのにこちらに来て大丈夫なの?」

 今日は一日中、上院貴族会議が続いていたとアンから状況は聞かされていた。《遅くなりそうだから私が戻らなくても…ラルムは先に寝るように》と夕方レオからの伝言も受け取っていた。私は手元の本を閉じて部屋に入ってきたレオを見上げた。


「ラルム、まだ起きていたのか…伝言も渡したというのに。しかし私も寝る前に君の顔を見たいと思って来てしまった。そのように心配せずとも大丈夫だ。私は君が側にいると思えばあまり忙しさも気にならない」

「…そうなの?でもちょっと心配で…」

 レオが私の横に腰を降ろす。寝衣に着替えていることもあって少し緊張してしまう。

 レオは自然に私の身体を自分の腕の中に引き寄せて…軽く私の頬にキスをした。

「ラルム、今日は寂しい想いをさせた…」

 レオの腕の中にいると私はすべてのストレスを消去することができるようだ。私は頭を軽く左右に降った。

 レオはフッと一瞬笑みを浮かべると、私の両肩に手を添えて身体を少し離してから改めて私の顔を覗き込むように視線を合わせた。


「…ただもう少し政務が落ち着かないとアマドーラの雫を取りにルルドまで行くのは難しい。それまではこの後宮で待ってもらう事になるが…ラルム、我慢できるか?」


 レオが忙しい中にも、私の様子を気にかけて訪室してくれた事に嬉しさを感じる。しかし同時に何も彼の役に立てない不甲斐なさに私は胸が締め付けられるようだった。


「ねぇ…レオ、我慢ができない訳では無いけれど…私が先にルルドの森にアマドーラの雫を取りに戻るのはだめかしら?一度行ったことがあるしミラもいるから大丈夫よ…」

 出来れば忙しいレオの手をこれ以上煩わせたくはなかった。

「…すまない、ラルム。君は私のせいで命を狙われる危険があるのだ。たとえ何人も供の者を付けたとしても私は君を手離す事は出来ない」

 静かに私に言い聞かせるように語るレオの言葉に私はしぶしぶ…頷いた。

「そうなの…心配性の皇帝陛下ね…」

 レオは無言で笑顔を浮かべる。

「今度アマドーラの雫を手にしたら、ラルム…君にマテリアス家の家名を取り戻す」

「えっ…」

「そうすれば君は正式にラルム マテリアス家の息女として生活を送れるようになる。それから、私は君に頼み事をする…」

「レオが…私に頼み事を?」

「そうだ…まだ内密にしておくが、私はその時を心待ちにしている。そしてラルム、君が了承してくれたら…」

 レオの碧色の瞳に熱が宿る。

 レオは私の腕を静かに引き寄せて再び私を自分の腕の中に閉じ込めた。そしていつものように、口づけを交わす。

「君は私のものとなる…」

 レオの唇が私の首筋を伝い…寝衣の胸元にまで落ちてくる。しかし、レオはそれ以上求めてはこない。

 私の緊張が高まるのを知ってか知らずか…熱い口づけを終えるとレオは私を再び強く抱き締めてから、そのまま私の身体を抱き上げてベッドまで運ぶと…そっと横たえた。

「ずっと朝までラルムを抱き締めて眠る事ができるまで…あと少しの辛抱だ」

 悪戯に輝くレオの瞳が…一瞬にして私に魔法をかける。

 もしレオと結ばれる日が来たら…それはどんなに素敵な事だろう。

 レオは最後に私の額に軽くキスを落とす。

「おやすみ…ラルム」

「…おやすみなさい。レオ」

 私はベッドから遠ざかるレオの姿を見届けると、ゆっくりと目を閉じて深い眠りに落ちていった…。





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