思惑
アドリアンside
僕は、帝都アマドールにいるラルムを、一緒に連れて帰ってくる事が出来なかったことを、本気で悔やんでいた。
無理にでも、ラルムを抱えて…一緒に連れてくればよかったのだ。しかし、そこまでの時間がなかった……いや、僕が…一瞬、躊躇したからだと思う。
ラルムを迎えに行けば彼女が喜んで僕の腕の中に飛び込んで来る…とまではさすがに思ってはいなかったが、あそこまで…ラルムが僕を見て戸惑うとは、正直…ショックを受けなかったと言えば…嘘になる。
あの後、レオナルシス様がおそらく…ラルムを見つけたことで、ラルムのいたブラッセリー一帯にレオナルシス様お得意のシールドが張られたのだろう。そのために、エスパー アランの力を借りて、ラルムの様子を探ることすら出来なくなった。実際に、会いに行きたい気持ちは募るが、ラルムから《もう少し帝都に滞在したい》とあの後すぐに便りが届いたこともあり…迎えに行きずらい現状がある。
レオナルシス様はラルムが一部…特にレオナルシス様に関する記憶を失っている状態を見て、何を思ったのか…。
まあ…シールドを張ってパワーを使う者を全て排除するところをみると、僕と同じ見守り役に回ったというところか…。しかし、ラルムの失った記憶を取り戻そうとレオナルシス様が本気になったとき…どう出てくるかは、正直…読めない。
「アドリアン様、あまりレオナルシス様を下手に刺激なさらないように…!先程も危なかったです…もし、鉢合わせというような状況になれば【火】で消されます…敵になさるには、あまりにも相手が悪るすぎます!レオナルシス様は、皇帝になられるとそのお力は倍増されます…そのうち、帝都に近いアマド火山も噴火するやもしれません…」
ラルムを連れ帰る事ができなかった後に、エスパー アランが顔色を変えてそう言った。その直後、アマド火山が小規模な噴煙を上げた。エスパー アランの語る言葉に嘘はない。
以前から宮廷内では、レオナルシス様が幼い頃から暗殺未遂事件が何度かあったと聞くが、レオナルシス様が皇帝の地位に就く前に亡き者にしようと躍起になっていた輩の気持ちが、ようやく今になって理解できた気がした。絶対的なパワーの持ち主となる皇帝陛下は…強すぎるのだ。
《レオナルシスは、火を操る化け物だ!》
タクシン様が吐き捨てるように言われていた言葉を思い出す。
ただ…それ以上に、僕にはもう1つ気になる事があった。
それは、いつかの酒宴の席でタクシン様が漏らした本音である。
《レオナルシスが力を得たら、まともには勝てない。だから、アマドーラの雫を消した方が事は早いと思っている》
マテリアス家を取り潰しただけでなく、アマドーラの雫を持つラルムの命までも奪われかねないとは…。
エスパー アランの情報によれば、タクシン様は前々から、側近の部下数名にアマドーラの雫の存在を探らせていたと言う。皇帝選出会議以降、タクシン様は何処かに姿を消しているが、もし、ラルムの存在が知られたら…その命は確実に狙われる事になる。
戴冠式の前日の朝に、帝都にいる部下からの一報が届いた。
「戴冠式の祝賀会にラルム様が出席されるようです」
その報告を受けた時…僕の中で何かが弾けとんだ…!
―ラルムは渡さない…!!
これ以上、ラルムをレオナルシス様に近づけたくはない。しかし、引かれ合うように近づいてしまうというのならば、僕はどこまでも…それを断ち切ろうと思った。
「エスパー アランを呼んでくれ!」
僕はアランにルシアの邸宅に保管していたラルムのティアラを物体移動してもらうと、早速、レオナルシス様に手紙を書いた。
なぜ…ラルムの記憶を消さなければならなかたったのか、昔に遡る事実を含めて、貴方の【火】に問題があると強調した。また、貴方のせいでラルムの命が狙われているとも…。戴冠式の早朝に、敢えてティアラと一緒にアマドール宮殿に書簡を送りつけたのだ。
《レオナルシス様、貴方はラルムを幸せにすることは出来ない。それどころか、ラルムを命の危険にさらしている。それでも貴方は平気なのか…》と。
これは、僕の賭けだ。
こんな手紙を送りつけたところで、レオナルシス様が簡単にラルムを諦める事はないと思うが…きっと何処かに綻びは生まれるはずだ。自分の存在がラルムを危険にさらしているのだ。直ぐにではないにしても…ラルムを手離してくれる事に賭けたい。
僕はこの頃、随分と身体が疲れやすくなっていた。実は、前回の帝都への瞬間移動の後もかなりしんどかった。この事は周りにはまだ気づかれてはいないと思う。肺の病が再発したのでなければいいが…一瞬の不安が頭をよぎる。それよりもラルムとの結婚に障害がなくなった今、早く事を進めてしまいたい想いが先に立つ。
―レオナルシス様は…どう出るか?
ラルム…君がかつてのように、僕の傍に寄り添ってくれるまで…僕は倒れるわけにはいかない。そう考える僕を…君は自分勝手だと思うかい?
いつだって君は…僕の笑顔であり、幸せであり、生きる希望だったんだ。その事を君は…知っていた? だから僕は、君の記憶を消したことを悔やんだりはしない。
必ず…君を取り戻してみせる。




