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アマドーラ帝国の雫  作者: emily
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ラルムの記憶2

 私はゆっくりと目を開けた…。

 暖かい陽射しに包まれて、近くに水を感じる。

 小鳥の囀ずる声が…直ぐ近くで聞こえている。

 ―ここは…ルルド?

 いいえ…違う。だって、こんなにも…アドリアンを近くに感じるから。

 私は、ベッドから漂うアドリアンの香りを感じつつ…今、自分が何処にいるのかを覚った。


「お目覚めでございますか…」


 近くに控えていたメイドが、声をかける。


「…あの…私は…」


「4日間、離宮から戻られて眠っていらっしゃいました」


「4日間…」


 まだ頭が働かない…。離宮、アドリアン、私は何をしていたのだろう。


「今、アドリアン様を呼んで参ります …」


 メイドが慌てたように…部屋を出ていった。


 ―なぜ…私はアドリアンの自室に寝ているのか?

 はっきりと思い出すには…少し時間がかかりそうだ。



「ラルム…!?」

 ドアが開くと同時に、アドリアンが駆け寄ってきた。

 ずいぶんと疲れた表情をしていて…ちょっと驚いてしまう。


「…アドリアン、どうしたの?なんだか、とても疲れた表情をしているわ…」


「ラルム…君が急に倒れて、僕に心配をかけるからだよ」


 いつもと変わらないアドリアンの優しい笑顔に…安心する。


「ごめんなさい…アドリアン」


 アドリアンは、そっと身を屈めると私の額にキスを落とした。


「…ちょっと!! アドリアン!」


 私は恥ずかしさのあまり…アドリアンをにらむように見返した。


「ずっと看病してたんだ…これくらいはご褒美をもらわないとね」


 ―ああ…そうだったのね。


「…アドリアン、ありがとう」

 それでも恥ずかしさは消えずに…私の声は小さくなった。


「ヒーラーマタリが、君の熱を下げてくれたんだよ…3日間、本当に辛そうだった…」


「…私、全然記憶がなくてごめんなさい。でも…今はとてもいい気分よ。…いろいろご迷惑を…」


「ラルム…謝らないで。僕はもう、君を離さないと決めたんだから」


「…えっ?」


 頭が混乱して、まだはっきりと働かない…。


「…ごめん。まだゆっくり休んで…僕が焦り過ぎたんだ。今、メイドに何か口当たりのいい食事を持って来させるから、ちょっと待ってて」

 アドリアンは急に表情を曇らせると、私の手に軽くキスをして、部屋を出ていった。





 午後になると、私はベッドから起き上がれるようになったので、部屋をアドリアンの自室から客室に変えてもらい…正直、ほっとした。

 アドリアンはお昼過ぎから、急用で出かけていた。

「アドリアン様が三日間、付きっきりで看病されたんですよ…」

 私の部屋に、お茶を運んでくれたメイドが寝込んでいた時の状況を色々と聞かせてくれた。

 私はアドリアンと離宮の前夜祭に参加していて急に気を失い倒れたという。でも…なぜか…何かが足りないように感じてしまう。

 その何かは…全く検討もつかないのだが…忘れたくない大事なものを失ったような気がして…落ち着かないのはなぜだろう。


「そう言えば…明日はいよいよ、離宮のフェスティバルの最終日ですわ。アドリアン様はアリス様を離宮の舞踏会にエスコートされることになっていますけれど…す、すみません私ったら……失礼します」


 そこまで言うと、メイドは慌てたように…部屋から出ていってしまった。

 ―アリス…。そうだった…アドリアンには、アリスがいた。私がこんな風に、アドリアンの世話になっていることをアリスが知ったら大変だ。

 ―私…早くここを出なければ。


 夜遅くになって、アドリアンが屋敷に戻ったようだ。少し、屋敷内が騒がしい気がしてラルムはうっすらと目を覚ました。


 薄暗いランプの明かりに、人影が写し出された…もしかして…アドリアン?


 漂う香りと足音が、アドリアンだと告げていた。

「ごめんよ…ラルムを起こすつもりはなかったんだ。ただ…部屋から君の姿が消えていたから、ちょっと焦った…寝顔だけでも…と思った」

 アドリアンの支度は、帰って来て直ぐにここに来たのだとわかるものだ。…恐らく私が自室に居ないことで…アドリアンに心配をかけてしまったのだと思った。

「…アドリアン、お帰りなさい。部屋は、私の希望で変えて頂いたの…ごめんなさい」


「君が部屋にいないと分かった瞬間、僕は気が狂いそうだったんだ…。何処にも行かないと、約束してラルム。僕から勝手に離れないと」

 こんなにも…切なそうに、私の目を見つめるアドリアンを今まで見たことがあっただろうか…。

 アドリアンの片手が伸びてきて…私の左の頬に優しく添えられた。

 ―手袋を外したばかりのアドリアンの右手はとても暖かい…でも私は、これ以上アドリアンに甘えてはいけないのだ。

「…分かったわアドリアン。でも私…体調が戻ったら、隣の自分の家に帰ります」


「ダメだ !!」

 直ぐにアドリアンに拒否されて…私は少し驚いた。

「えっ…?」

 アドリアンの鋭い口調が…いつもの優しい声に戻った。

「…ダメだよラルム。暫くは安静が必要だし、先ほど皇帝陛下が崩御されたから、ルシア のフェスティバルも中止になる。後、一ヶ月は世の中の時が止まるからね…その間は我が家に居てほしい…色々と物騒な時だから」


「…皇帝陛下が亡くなられた…の?」


「…ああ」


 アドリアンは出来るだけラルムに、アルカサンドラ王家に関する情報を入れたくはなかった。

「明日の朝には帝都に出発しなければならないが…ラルム、僕を待っていてくれるよね…」

「明日の朝なの…?」

「…ああ、本当は今夜発つ予定だったけど、ラルムに逢いに戻ってきたんだよ」

 ―優しく微笑みを浮かべるアドリアンの表情に、どこか…哀しみを感じるのは、私の思い込みだろうか。

「―そんなに、私を甘やかさないでアドリアン。明日の朝が早いなら、早く休まないと身体に障るわ」


「わかった…ラルムがそう言うなら、休むことにするよ。だから、わざわざ帰ってきた僕におやすみのキスをして」


 ―なんだか…アドリアンが今までのアドリアンではないような気がする。アリスのこともあるし…この複雑な思いを、私はどう扱えばいいのだろう。


 私はそっとベッドから体を起こすと、アドリアンの右手をとって軽く唇を当てた。

「…おやすみなさい、アドリアン」


 アドリアンは咄嗟に、私の身体に腕を回すと…しっかりと抱き寄せた。

「…ああ、ラルム少しでいいから、このままでいてほしい」


 ―私は、この抱き寄せられた感覚を…覚えている。少しの間…こうしてほしいと、誰かに言われて…。


 私の右頬に自然と一筋の涙が伝う…。

 ―どうしちゃったのかしら…私。

「今回は…消えないでくれて、嬉しいよラルム」

 名残惜しそうに、アドリアンが体を離す。

「これ以上は何もしないから…安心して」

 アドリアンは私の右頬に軽くキスをすると、そう言って私の涙を拭ってくれた。

 その後、私はいつの間にか…意識を手離してしまった。

 朝起きると…既にアドリアンは帝都へと出発した後で…私はなぜだか落ち着かない思いを抱えていた。

 ―帝都、アマドール、アルカサンドラ王家、…私は…何か忘れている?

 意識がないときにずっと私を呼んでくれていたのは、アドリアンのはずなのに…

 ―この胸騒ぎは何だろう。












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