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アマドーラ帝国の雫  作者: emily
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離宮のフェスティバル7

 再び…レオナルシスside



 ラルムと口づけを交わしたのは…つい先ほどのことだ。その甘美な余韻を、私はまだ手離せないでいる。

 柔らかで華奢な身体は、少し力を加えれば折れてしまうと思うほど細く頼りない。それでも…より愛しさは増して彼女を我が腕の中から離したくはなかった。

 今はまた、向かいのテーブル席に座る美しいラルムの姿を心ゆくまで堪能したいと視線を向ける。

 ―いつの間にか…ラルムを近くに感じることが私の喜びとなっている。


 ラルムの艶やかなゴールドの髪にもひけをとらない彼女の頭上に輝くティアラは、帝都で300年以上続くカーラ アルカサンドラ家御用達の宝石商に一年をかけて作らせたものだ。

 近く出逢うであろう…【アマドーラの雫】を持つ娘のためにカーラ家独自のデザインにした。

 カーラ家以外の者がこのデザインを使うことは一般的に許されていないためか、ルシアの離宮では秘かにラルムのティアラが皆の注目を集めている事を私はこの晩餐会の席で知った。

 ラルムにも、時が来たら…ティアラの事を伝えよう。


 今日の晩餐会は皇太子である私と縁が深く、特に信用がおける身内の者ばかりだった事から、ラルムをデビューさせるには絶好の機会だと思った。特にその事を喜んでくれたのは、祖母であるサマトラ家のスルベラだ。

 最愛の母、マリオンを失った後も陰ながら私を支えてくれたのは強くて優しい祖母である。

「アマドーラの雫を持つ運命の娘と会って頂きたい…」私が晩餐会の直前に、そう告げると、祖母は大変喜んでくれた。

「レオナルシス様…私はこの日をずっとマリオンの分まで首を長くして…待っておりました」

 その目にはうっすらと涙さえ浮かべていた。

 今はその祖母の元で、愉しそうに話をするラルムの姿を見て、ずっと【無】としてきた自分の冷めた心が…温かく満たされていくのを感じていた。


 その姿に安心して、ほんの少しラルムから目を離した隙に彼女の姿が見えなくなった。

 身内の席ということもあり、特にシールドは張っていなかった。

 この時の自分の判断ミスと油断が、後で我が身が斬られる以上の苦しみをもたらすことになる。


 ラルムは城の中を知らない。もしかして迷っているのか?そう思った時である。


 《―助けて……レオ !!》


 ―ラルムっ!?


 今まで、アマドーラの雫がなければ、私の思念はラルムに伝わっても彼女の思いは読み取ることが出来なかった。


 ―ラルム !?…どこだっ!


 私は冷静な判断を失い…咄嗟に席を立った。


 自分の直ぐそばに顔色を変えて、執事のモルトが駆け寄るのも視界に入ってはいなかった。


「レオナルシス様…皇帝陛下が危篤でございます。直ぐにアマドールへ帝都へお帰り下さいますように !!」

 ―父上が……。


「わかった…直ぐに戻る準備をしてくれ。船はワープ《時空を越える》させる。愛馬シンシアは置いていく」


「はい…承知いたしました。そのように準備いたします。ラルム様は…いかがされましょう?」


 ―ラルムっ!!


「しばし…待て」


 私は一瞬でラルムの姿を捉える場所へ瞬間移動した。


 そこで……ラルムを背後に庇って、我が従兄弟であるタクシンと向き合う男性貴族の姿を目にした。タクシンがいる以上、慎重に事を進めなければならない。


 そして、それ以上に私はラルムに対する独占欲に駆られ、ラルムを庇う男に対して赤い火を吹く感情が徐々に腹の底から沸き上がるのを感じていた。

 このままでは、この離宮一帯を炎で焼きつくしてしまいそうだと思った瞬間、男の思いに触れて……私は愕然となる。


 その男は…命懸けでラルムを庇おうとしていた。

 その想いは、ここで初めてラルムに会い騎士道を発揮したと言うような軽いものではない。私の知らないラルムとの長き時間を共有している波長は…苦しい程に切なさを帯びていた。


 タクシンの側近が、従兄弟に伝えた内容は分かっている。

 ―我が父である皇帝陛下の危篤についてであろう。

 タクシンは今は亡き父の弟であるマトラス カザル アルカサンドラの長男である。カザル家は代々帝国全体の財政を取り仕切っていた。しかし、早くに叔父が亡くなってからはタクシンの独裁的金融支配の色が増して、経済発展する一方、何かと素行の悪さが目立っていた。時には自分の気に入らない貴族や、財界人に多額の税金をかけて潰すこともあると聞く。

 マテリアス家もまたしかり…。

 恐らく、タクシンの策略と見て間違いないであろう。

 またタクシンには汚職の件をはじめ、数えきれない程の余罪がある。それでも、我が父が奴を見逃しているのは…。


 私は近く皇帝選出の場でタクシンと対峙することになるだろう。いよいよ決着をつける時がくる。その後には、必ずやマテリアス家を復興させ、ラルムに本来の場所を取り戻さなければ。


 タクシンがその場を去った後も、私は…その場を動けないでいた。


「レオナルシス様、準備が整いました」


 近くでモルトの告げる声。


「―あの…男を知っているか ?」


「…おそらく、スモン家のアドリアン様でいらっしゃるとお見受けいたします」


 ―スモン家のアドリアン。


 ―エスパー アランの雇い主か。


 ラルムと接する男を…私は今すぐに焼き殺す事もできる。だが先ずは、ラルムを我が腕に…。次の瞬間!




 《―結婚しよう》

 ラルムと向かい合った男から伝わる強烈な波動に打ちのめされそうになる。


 ――― 結婚、だ、と……!?



「レオナルシス様…そろそろお時間でございます」



 突然の出来事に戸惑っているのか、呆然と相手を見上げているラルムの姿。


 ―ラルムの気持ちは……!?


 私はラルムの気持ちを確かめる術を知らない。その現実を突き付けられ、一気に高ぶっていた感情が冷却されていく…。

 ここで、強引に私の元に瞬間移動で引き寄せれば、ラルムはどうする… !?

 ―もし、ラルムがあの男を愛していたら。


 私は直ぐに…ラルムを引き寄せることも立ち去ることも出来ない戸惑いに一瞬目を閉じた。


 ―そして、私は自分の立場を思い出す。

 ―私には今、ラルムをこの腕に奪い返し抱き留る前に……やらねばならぬ事がある。


 幼き頃より身に付いた習慣…窮地にあるときほど冷静沈着に思考を働かす己の性が、この時ほど、わが身を二分する程に苦しいと感じたことはなかった。

 私も、あの貴族の男のように…全てを投げ出すことができるのなら…。今、この場で堂々とラルムに結婚を申仕込み、この腕に抱きしめることができるのなら…私は何も惜しくはないであろうに…。



 ―ラルム……。


 身を斬られるよりも、ラルムを奪われることの方が遥かに辛いことをこの時、私は…初めて自覚した。


 ―ラルム…。


 私は自分の想いを断ち切るように…帝都アマドールへと向かうべくその場に背を向ける。


 ― ラルム。

 ―行かないでほしいと言ったら…笑われるか。


 ―ラルム、誰よりも君を…愛している。

 ―ラルム、私は君のためにも…次期皇帝に即位すると誓おう。そして、必ず迎えに行く!




















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