仲間探し?
デュエル…決闘とも言われるもの。「リンク・ザ・ワールド」におけるデュエルは、技量が同じくらいのプレイヤー同士が勝負事や、優劣を決める時によく用いられる方法だ。まぁ、要するに、プレイヤー同士による直接的な戦いってことだ。
でも「リンク・ザ・ワールド」は、ダメージが百分の一で現実に還元されてしまう。何もないまま、デュエルなんかしたら傷害罪に問われてしまう。
ということで、デュエルをする際にはまず、システムメニューからデュエルの欄を開き、相手にデュエルを申し込むメッセージを送り、同意してもらう必要がある。同意すると、HPバーの下にHPバーと同じ長さのデュエルバーが表示される。デュエル時の攻撃はこのデュエルバーを削っていくことになる訳だ。
デュエルには三つのモードがある。一つは半損決着式、要するにデュエルバーが半分以下になったほうの負けってやつ。一つは全損決着式、デュエルバーが全部削れたほうの負けってやつ。最後の一つが累積決着型、こいつは自分の総HPの半分のダメージを先に相手に与えた方の勝ちってやつ。まぁ一時的にでも戦闘不能状態にさせた時も勝ちだけど。
基本的に、半損決着や全損決着は技量が同等の相手とのデュエルによく使われるもので、累積決着は技量にかなりの差がある場合によく使われる方法だ。
その他はモンスター相手の戦闘と変わりないから、スキルなども普通に使うことが出来る。
対人戦闘用にスキル構成を変えて、デュエルすることも可能だ。メインメニューのホロウィンドウを呼び出して、そこからステータス画面に移動し、スキル構成でデュエル時の所を変更するとすればいい。俺自身、デュエル用にスキル構成を変更している。モンスター相手だと速度よりも威力を重視するが、プレイヤー相手だと長く決闘を続けていると攻撃が読まれてしまう。それを防ぐために、出が速くなるオリジナルアシストスキル(OAS)を使っている。両方とも大して変えていないけどな。
スキル変更の画面にはスキルスロットというものが、最低九マスある。そこに様々なスキルをはめ込んで自分だけの構成を作って戦闘に臨むんだな。OASも、モーションアシストスキル(MAS)も、戦闘中常時発動する戦闘時自動回復スキルなども全部一マスのスロットに入れていくから、最低でも九個のスキルを選択することが出来る。俺の構成は、基本は片手剣系斬撃スキル・片手剣系刺突スキル・短剣系斬撃スキル・短剣系刺突スキル・体術系打撃スキル・体術系投げ技スキル・投擲系投剣スキル・索敵スキル・戦闘時自動回復スキル・高速機動スキル・OAS三種って具合だな。
何故最低十三個もスキルを選べるのかって?いい質問だね。スキルスロットはプレイヤー自身のレベルが10上がるごとに一個増えるようになっているんだな。要するに、ばんばん戦ってレベルを上げればどんどん強くなっていくというわけだ。ん?プレイヤー自身のレベル以外のレベルが存在するのかって?あんまり俺のしゃべることを増やさないでおくれよ…
レベルには、プレイヤー自身のレベル、モンスターを倒したりクエストを成功したりした際に手に入る経験値によって上がっていくレベルと、スキルの使用によって上がっていくスキルレベルがある。スキルレベルは10000まであるらしいが、スキルレベルが上がると新たなスキルがアンロックされたりスキルによる補助効果が高くなったりする。プレイヤーレベルの上限はまだわからないが100以上はあると言われている。なにしろ、世界最高ランクのプレイヤーでもまだ60台前半なのだから。因みに俺は現在、48Lvであり、そこそこの高レベルでもある。
よし、ここまで説明頑張った俺。水崎守こと俺が、何故ここまでこのゲームの説明に力を入れていたかというと、単純に言って現実逃避だ。
新しく開始される大規模イベントクエスト「ReBuild」のメンバー集めをしようとしてきた矢先に声をかけてきた、幼馴染の羽賀内楓。一瞬目を奪われるほど美しく成長した彼女にパーティーメンバーになるための条件として提示されたのが決闘をして勝利することだったのだ。
今となっては、ほとんど関わることの無い同年代、しかもかなりの美少女を前にして俺がそんなのは無理だなどと言えるはずもなく、かといって例えゲームの中であっても女子相手に本気を出して戦闘を繰り広げるということを、俺の紳士精神が許すはずもなく、さぁどうしようかということだ。
「準備は良い?私の方はいつでも行けるよ?」
地味にプレッシャーがかけられている気がする。気のせいだろうけど。
「よし、じゃあ始めるか。」
俺はそう言って装備ウィンドウを閉じた。俺のいつもの戦闘スタイルである両腰には短剣と長剣の間ほどの短めの片手用直剣、背中には刃渡り80~90cm程のショートソードを差し、防具の類は強いて言えば上に着ているベージュ色の革のロングコートと、背中の剣を差す用の剣帯の胸が当たるところについているほんの少しの金属板くらいという攻撃オンリーであることが一目瞭然の状態で楓の前へと移動した。
「ふふっ。守君は、相変わらず攻撃オンリーな戦い方なんだね。あのころからちっとも変ってないなぁ。」
ん?俺はこのゲームで楓と会うのは初めてなはずなんだが…
「幼稚園くらいの頃かな。近所の子供たちと一緒にチャンバラをした時も同じように棒を持って、相手が叩く前に相手を叩いてよく泣かせてたよ?」
なんだそれ、初めて聞いたぞ。
「たまに相手の子の棒が当たった時は、すっごい大きい痣になってたっけ。」
全然ダメじゃん、昔の俺。
「それじゃ名乗るよ、ランクAA+羽賀内 楓、プレイヤー水崎 守に挑戦します。」
あぁ、そうだった。決闘するときには、プレイヤー序列によって決まるランクってものと、プレイヤー名を名乗らなければならなかったっけ。
プレイヤー序列が19782位である俺のランクは、確かAA+だったな。
あをれ?楓も今ランクがAA+って言ってたような…気にしないでおこう。
「ランクAA+水崎 守、挑戦を受けます。」
互いに名乗ったところで、HPバーの下にデュエルバーが表示され、挑戦された側である俺の前にオプション設定用のホロウィンドウが表示された。
「設定はどうする?」
「時間、無いんでしょ?半損決着でいいよ。」
「分かった。」
半損決着式を選択し、ホロウィンドウを閉じるとカウントダウンが始まり、十五秒後に決闘開始となる。
楓は表情を引き締め、左足を前に出し、左手でダガーを前に突き出すように構え、右手で背中のロングソードを抜き放ち右肩に担ぐようにして構えていた。
俺は右足を後ろに引き、楓を正面に見据えたまま両腕を体の前でゆるく構えた。
楓は、武器で構えなかった俺を一瞬驚いたような表情で見たが、すぐに元の如く引き締まった表情になった。
カウントダウンが終わり、開始の合図が出されるとともに俺は楓の方へと駆け出した。楓はそれに応じるように、左足を踏み込みダガーを突き出してきた。
俺と楓の間は、まだ数mはあったからその動きは牽制の様なものだと思う。突き出したダガーを引き戻すと同時に勢いよく右足を前に出し、その動きに乗せるようにしてロングソードをこちらへ振ってきた。
俺は、姿勢を低くして突っ込み楓の両足の間に右足を入れ、右手で右腕を掴み投げるような体勢になると、
「OAS1 発動」
そう呟いた。さっき金色の狼たちに囲まれた時にも使った本来は背中の片手剣を抜き打ち切りするときに使うOAS。でもそれは、体の動きを補助するだけのものだから、体勢さえ同じならどんな武器を使おうと同じ動きを補助してくれるのでこの場合楓が超高速で一本背負いを決められるのに近い形になる。(一本背負いとは微妙に、いやかなり違うけど。)結果楓が何が起きたかを理解する前に、地面に叩き付けられて一時的な麻痺状態になった。決闘時の麻痺状態は、戦闘不能とみなされる、よってこの勝負は俺の勝ちになるはずだ。
「はぁ~…私の負けかぁ…うん!じゃあパーティーメンバーになってあげよう。」
楓は、目の前の勝負結果を表示したホロウィンドウを閉じながらそう言った。
「よっしゃ。」
ここで新たなパーティーメンバーを見つけられたのは、今回のイベント関連で一番のドロップと言えるのではないだろうか、そういっても問題ないような気がする。
「ところでさ、学君?さっきなんで剣を抜かなかったの?手合せした感じだと、普通に剣を使っても多分勝ったと思うんだけど。」
うん、女の子を相手に剣を抜くのは俺の流儀に反するから?いやいやいや、そんなこと言ってどうすんのさ。俺でもドン引きするぞ、それは。
「まあ、俺にとって剣は…」
「斬るべきものを斬る時にしか抜きたくないんだ、だろ。いつまで待たせてくれんだ、お前は。」
ん?俺の言うべきセリフを抜群のタイミングで奪ってくれたのは、どこの三笠君でしょうか。
振り返ると予想通り、いや予想と寸分違わず俺の元クラスメートにして切れない腐った縁のおかげさまで恐らく来年もクラスメートになるであろう三笠学が大きな戦斧をかついで立っていた。
「なんでここに居るんだよ、お前が。」
俺がそういうと、
「今何時だと思ってんだお前は。二時半に集合の約束だっただろうが。三時だぞ、今。」
「それでわざわざ、マップ上からパーティーメンバーである俺の位置を探してここまで来て文句を言いに来たのか?個人情報保護法に引っかかって捕まるぞお前。」
「うるせぇ、そんな罪状あるわけないだろ、お前なんかに。」
「そんで、話ってのは今度開始される大規模イベントクエスト『ReBuild』の参加に必要なパーティーメンバーのことだろ。」
「そこまで分かっているなら話は早い。まず大前提として、お前はこのクエストに参加するのか?」
「当たり前だろ。」
「それならいいんだが、それからが問題だ。俺等のパーティーに加わってくれそうな人に心当たりはあるか?」
「いや、あるも何もそこの子が入ってくれるってよ。」
そのタイミングで今まで俺達のやりとりを、無言で聞いていた楓が口を開いた。
「初めまして。羽賀内 楓です。微力ながら力を尽くさせていただきます。」
あまりにも可憐な楓の自己紹介を受けた学は、当然俺のように対女子会話の少ない奴なので圧倒的経験値不足から、
「ど、ども。み、水崎君のクラスメート兼パーティーメンバーの、三笠 学です。」
やはり噛んでしまうのであった。というか、そこで噛まれるとミミズ裂き君に聞こえてしまいそうで怖いぞ。なんだ、俺。
「守君とは幼馴染の様なものです。守君が転校するまでずっと、お隣さんだったんですよ。守君と同級生ってことは、来年度から先輩になりますね。よろしくお願いします、三笠先輩。」
「よ、よろしくお願いします。羽賀内後輩さん。」
ダメだこの子…日本語がおかしくなってきている。
「そんなに畏まらなくても…私の方が年下なんですから。」
「まあ、そんなこといっても多分しばらくこの異常動作続けると思うよ。ほっといてやれ。」
さすがにこの流れを止めないと、カオスなことになってしまう。
「ふぅ、びっくりした。息子にいきなり結婚します宣言された父親の気持ちが分かった気がするぞ。」
なんかよく分からないこと言い始めた。
「いいからお前落ち着け。」
「落ち着いているぞ。話を戻そう。ここまで話を進めておいてなんだが、今回のクエストはなんかおかしい気がする。」
「お前がおかしいぞ。で、具体的にどこがおかしいと感じたんだ?」
「この『リンク・ザ・ワールド』は、正式サービスが始まってからすでに五年は経過している。確か、俺らは小6の時からプレイし始めたけど、そのときでサービス開始から二年経っていたはずだ。それなのに、三周年記念や五周年記念といった記念イベントは行われていなかったはずだ。」
話が長い…要するにこいつの言いたいことは、
「いままで、記念日に対してなんら関心が無かった運営がどうしてこの全人類移住二十五周年のタイミングに合わせて大規模イベントクエストなんかを行うんだ?って話だろ。」
「なんで俺の言いたいことが分かったんだ?まぁいいや。そう、そういうことだ。あと一つ気になっているところは、クエスト名は『ReBuild』直訳すると再建するみたいな意味なんだが、いったい何を再建するんだろうな。」
それは、俺が暗に感じていたものでもあった。いったい何を再建するのか?それと全人類移住二十五周年という出来事はどう結び付くのか、付かないのか。
この男は、そういう違和感も敏感に感じ取るタイプの奴だ。少し心に留めておかなければならないかもな。
「ま、そんなこと言ったって参加しないという選択肢は俺の中には無いから関係ないんだけどな。」
少しシリアスになった空気を持ち前の人懐こい笑顔で吹き飛ばし、
「お前もビビんなよ!」
バシッと俺の肩を叩いてきた。
「よし、じゃあパーティーメンバーも揃ったことだしエントリーしに行きますか。」
三笠がそう言ったとき、あぁ…う~ん…という声が聞こえ、
「守君、一つお願い良いかな?」
楓が少し困ったように微笑み話しかけてきた。
「どうした?」
「実はね、私もパーティー組んでた子がいるんだけど、その子もこのパーティーに入れてもらってもいいかな?」
「ん?良いんじゃないか?人が多くて困ることは無い訳だし。その子さえ良ければ。」
「ホント?良かったぁ。じゃあ始まりの街で待ち合わせるようにメッセージ送っとくね。」
そう言うとホロウインドウを開きメッセンジャーを起動させると短い文を打ち込み送信した。
街の中心部には地面から一段高くなっている円形の台座、街と街をつなげるための装置である「シティーリンク」が設置されている。ここに乗っていきたい街の名を告げるとそこに転移される仕組みとなっている。
「転移、始まりの街へ」
そこから俺たちは東アジアエリア1の始まりの街へと転移した。
「なぁ、楓。お前のパーティーメンバーってのは誰なんだ?」
「え~っと…あれ?おかしいな…結構目立つ子なんだけど。」
各地のエリアとも行き来することが出来ることから、始まりの街は第三十五街の十倍ほどの人口密度だったが、その中でも一際人口の密度が濃いところがあった。
「あ、いたいた!あそこにいました。」
そういって楓が指差したのは、その殺人的なまでに人口密度が高いところだった。
「お~い、由希ちゃん!」
楓の呼びかけに答える声は聞こえなかったが、その人口ブラックホールの中心点だったと思わしき少女が、周りの人々を弾き飛ばしながら出てきた。
「いいかげん、ちゃん付けで呼ぶのはやめてって言ってるでしょ。こんなところで大声で呼ばれたらさすがに恥ずかしいって。」
そう言いながら俺らの目の前に現れたのは、腰に薄青く輝くレイピアの一種であるフランベルジュを差し、楓と同じような白銀の軽鎧に身を包んだ美少女だった。
「それで、この方たちが楓が言っていたパーティーメンバーになる人なの?。」
すっと少女は瞳を細めこちらを見てきた。
「そうだよ。こっちが三笠 学君。それでこっちが水崎 守君。」
「ふーん。私は神名木由希、よろしく。」
少女は簡潔に自己紹介を済ませるといきなり爆弾発言をし始めた。
「この人たち、本当に戦えるの?なんか見たところパッとしないんだけれど…」
ヒドイ…本当にひどい。確かに見た目はパッとしないはずだ。今の俺の見た目はテスト前のダルさと午後の眠気とがミックスされ最高に微妙な表情をしているうえに、装備しているものも質素な革コート、地味な剣、籠手のような小盾(両手)のみだからな!
それでも言いようってものがあるような…
「ま、いいわ。技量は一回パーティーを組んで戦いに行ってからでも遅くないしね。それまで保留にしておくわ。まずは、パーティーの申請をしに行きましょ。」
なんだろう…すぐに彼女のペースになってしまった。
でも確かに、申請には行くべきだろう。シティーリンクの前も申請を目指す人たちで混み合ってきた。
そのまま何事もなく申請は終わり、俺たちは互いの連絡先を交換しその日は解散した。
プレクエストは明日、定期テストの初日である。この時僕たちはこのクエストの意味をまだ知らなかった。
また本編に入れなかった…そろそろ本編に入りたいな…
書く暇があったりなかったりで超っ不定期投稿となりますがよろしくお願いします。(感想とかくれても良いんだよ)