他人が入る隙間は無いよみたいな。
「月、お昼食べよ」
ニコニコしながら幼馴染みの香田絵美はもう一人の幼馴染み、伊咲月を昼食に誘う。もう見慣れた風景だ。
「あ、・・うん」
少しだけ男の方がこちらを伺った気がするが、そんなの無視して私は自分の弁当を広げる。そんな日常の一コマ。
「いいなー、幼馴染みって」
そんな言葉が教室で発せられた。私は無視して黙々と弁当を食べ進める。気にしない気にしない。
「小さい頃から仲良いんだよ、あの二人。羨ましいよねー」
「ねー」
・・・気にしない、気にしない。
「・・・あ。でももう一人いたわ」
「何がー?」
「月くんと絵美の、幼馴染み」
・・・・・気にしない、私は気にしない。
「宮峰さんだよ。ほら、あそこで一人でお弁当食べてる。眼鏡の!」
「へー・・。でもあれじゃ二人からもはぶられるよねー」
あはははは、はは、・・・はあ。
「昔は仲良かったんだよーだ」
何となく呟く。声になってない声で。
昔は絵美よりも眼鏡のこの私、宮峰葉の方が月くんとは仲が良かった気がする。いや、そう思っているのは私だけかな。私が月くんにべったりだっただけかもしれない。
でも、いつのまにか。
気づいたら一人で帰ってたり、お昼ご飯食べてたり、・・・・二人が、凄い綺麗に成長していたり。
ああ、これはもう私は一緒につるむとか無理だなって直感した。ビビッときたよ。
ほら、私眼鏡だし。地味で、あんなに光った二人にずかずか入るほど間抜けでもなかった。
「・・・・慣れってすごーい」
は。独り言が若干大きめだった。近くにいた人がこっち見てる。嫌だ、ハズカシイ。
だから苦笑いを返した。引かれた。当たり前か。
そんなふうに、二人が愛を育んで私はクラスで孤立していく。
もう、慣れたけどね。ホント、慣れって素晴らしいね。
全然悲しくない。
「ねえねえ、月。リンゴいる?うさぎー」
「ううん。絵美が食べなよ」
「リンゴきらーい。ママが勝手に入れた。」
なんでリンゴ嫌いなの。とゆうか勝手に入れたとか知らない。食べろよ。
そう思ったけど、決して口にはしない。面倒くさいから。
「ごちそうさま」
「えー、月早い。待ってて」
「うん」
絵美は食べるのが遅い。他のことも遅い。あと煩い。
それに、俺と葉を離した張本人。だから嫌い。
男子が可愛い可愛い言ってるこの甘ったるい笑顔も、しゃべり方も、吐き気がする。
葉の方が何倍も、何千倍も良い。とゆうか、比べるとかない。
「もう食べた?」
「もう少し!」
・・・早く食えよ。
ここにいるのが、葉だったら良かった。
いつの間にか、俺の隣にいるのはこいつになってた。
昔から仲良かったのは葉なのに、こいつになってた。
葉は俺を避けてるし、この前俺のこと伊咲くんって呼んでた。
全部全部、こいつのせいだ。
「あ。俺用事あったんだ」
思いだしたかのように言う。もちろん嘘だけど。
「ごめん。先に教室戻る」
「えーっ!」
それからはもう絵美の声なんて聞こえない。もう我慢の限界だ。
葉の所へ早足で進む。
「・・・っくしゅ」
くしゃみが出た。風邪かな。
なんか難しいこと考えてたからかも。私にシリアスは無理か。平凡が良い。
まあ、今まで通り最低限で関わっていけばその平凡は保たれるんじゃないか。そりゃまあ少しは寂しいとかも・・・、思ったりなんかして・・。
絵美って可愛いからな。そりゃあっちに行くよね。
・・・は。なんか乙女だ、私。
昔私が月くんのことを好きだったのはもう私の中では黒歴史だったりする。考えるのも恥ずかしい。忘れたい。切実に。
「・・・もう一生地味な眼鏡で良い」
過去なんて知るか。幼馴染み何それ美味しいの?
「はふう・・」
私は机に顔を突っ伏し、溜息を吐く。なんか疲れた。
私の幼馴染みだった彼は、キラキラしすぎて眩しいです神様。
クラスで孤立・・・。それ位が私にはちょうど良いかも。ありがとう神様。いるか分かんないけど。
ほら、人間関係とかってムズカシイし。冷めてるって思うけど・・・さ。面倒くさいじゃん、はっきり言って。うん。
すでに先程のクラスの女子達の話題は、好きなアイドルグループの話題になっていた。きっとそんなもの何じゃないだろうか。過去なんて関係ない。今が大事だ。
あそこで集団で話をしている女子達を見て、あの中で一体どれくらいの人間が話をみんなと合わせるために頑張っているのだろうとか考える。あの苦笑いで返事をしている平松さんが怪しい。
大変だな。他人事だよ当たり前でしょ。
「・・・はあ」
私もあの幼馴染み達から逃げてるだけだし、人のこと言えないか。
それは突然だった。本当に唐突に。
「しわ、寄ってるよ」
トン、と私の眉間に細い指を置き、そう言った。
「え、・・・なんで、」
月くんが、私の机の前にいた。いつからいたんだ。考え事をしていたから全く気がつかなかった。
「え、絵美は・・?」
「あんなの知らない。メンドクサイ」
そう彼が言った。周りは騒然。だって、仲の良い彼女(ではないが)の事をこの男は『面倒くさい』と言ったのだから。
「・・なに、喧嘩したの?」
だからって、元幼馴染みの私の元に来ないで欲しい。
「喧嘩なんてしてない。とゆうか、みんなが勝手に仲良いとか思ってるだけじゃん」
少しふてくされたように彼が言った。・・・・仲良いじゃん。
「俺は葉が好きなんだよ。今も昔も」
「・・・は?」
あまりにもあっさり言うモンだから、聞き逃すところだった。いや、これは聞き逃した方が良かったのか。
「・・・なに、言ってんの」
本当にやめて欲しい。私の黒歴史が浮かび上がってくる。きっと喧嘩してるだけだよね。うん。
「そう言うのは、絵美に言ってあげなよ」
「なんで?俺は葉が好きなんだよ?」
好き好き連発すんな。
「好きだよ、葉」
耳元で囁く。ぴく、と反応した。恥ずかしい。
ざわざわ。
みんなの視線がこちらを見ていることが分かる。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!!
「や、めて・・。絵美が・・、伊咲くん!」
「また伊咲くんって言った」
それを合図にがっと腕を掴まれ、私はそのまま月くんに引っ張られる感じに連行される。
あ、予鈴が鳴った。授業に遅れる。
なんだこれ。またクラスで孤立する第一歩を踏んでしまった。バッドエンドに一直線だ。
連れてこられたのは空き教室。ありがちだ。
「・・・伊咲くん。ホントに怒るよ」
「怒りたいのはこっちだよ」
月くんの声は低かった。知らない人だ。
「何だよ急に俺の所に来なくなるしいつの間にか名字呼びになってるし俺を避けるし!」
「・・え、と」
思考が追いつかない。あれ、何で私が責められる感じになってるんだろ・・・。
「だから、」
そう言って月くんはにっこり笑って
「これからは名前で呼んで。避けないで。楽しいこといっぱいしよう」
・・・あれ。拒否権がないのか、これ。
「・・・絵美は」
そうだよ。絵美はどうするんだ。
「知らない」
「は?なにいって・・」
言い終わる前に視界が真っ黒になった。
月くんに抱きしめられてる。少し苦しい。
「ちょ・・・っ」
「可愛い、葉。大好き。愛してる。」
そんな言葉に免疫があるはずもない私は、衝動的に顔を紅くする。
「可愛い可愛い可愛い」
ぎゅう、とさらにきつく抱きしめられる。少し痛い。
でも、これを手放したいとは思わなかった。私もたいがい頭がおかしいのかもしれない。
「ずっと一緒。葉もでしょ・・・?」
甘く低い声が、私の鼓膜を揺さぶる。
「・・・」
月くんはこの無言を私も同じ想いととったらしい。いっこうに抱きしめる力を緩める気配がない。
・・・確かに、嫌いじゃないけど・・。
_また色々と面倒くさいことになりそうだなあ。
私は月くんの腕の中で、ニコニコと笑う絵美を思い浮かべながらそんなことを思った。