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作者: 黒とんぼ

現代。

ぶざまな音を轟かせながら。大きなトラックが遠くの方で動き出したようだ。

小さな町から遠く離れた。山の中にある豪華な豪邸。町の人々は、そんな山の中に屋敷などあることも知らず。平穏に暮らしていた。

黒い装飾が施された門を潜ると。整備されたレンガの道。草花。

庭には大きなガラスの温室。

案内された屋敷に入る前に。温室へと向かわせてもらう。


水々しい芝生が黄緑の綺麗を際立たせていた。

温室の隅には黒の花や。青の花。紫の花。落ち着いた花々。

中央には_____沈黙のガラスの中。

少女が横たわっていた。

目を閉じて。微かな息をしているのが。口の近くにある。萌えている草の振動から分かる。

彼女にまとっていた白いドレスは金の刺繍が施されていた。

美しく___________まるで触れたら壊れそうな少女。

沈黙は守られながら。

綺麗なスッとした瞑られた瞳から一滴の水滴が落ちた。


本人の案内で書斎に入った。

「どうしてですか。」

と、今先ごろ見てきた彼女を見て青年はドアが閉まるのを背後で感じた後。言った。落ち着いた声だった。

夫人は青年の瞳を見て。何の問題か了解した。

「彼女は危険だからだよ。佳君。知らないとは言わせない。君が来たのはその理由ではない。さあ、あの女の事は忘れなさい。」

夫人の顔は無表情だった。まるで同じ事を言うように。

「彼女に近づくなよ。」

わたしは声を後にして庭へ出た。

屋敷の扉を開けると。窓から見えていた陽が一段と憎く。もどかしく照っていた。

「彼女が可哀想だ……彼女が…」

わたしは温室に行った。

扉のない透けたガラスから見える風景。

そこには、いつも通り。白い少女が横たわっていた。

モゾッ

彼女の身体が動いた。音に気づいたのか。顔をむくりと上げて。私を凝視する。


沈黙は破れた__________


ガラスには特殊な装飾が施されている

………魔封じの印……睡魔の印。

神から聞き知った特別の彼女のための檻。

「あなたは誰?」

白い彼女は細目で眠そうに問いた。

「……佳」

青年は彼女の瞳を見つめた。

「あなたは何を知りたいの」

彼女は空をボーと見つめて。また問いた。

「君は出たくないのか」

フフッ

と目を閉じて。鼻で笑った。

「面白いわね。人間は。ラミアよ。わたしを知らないなんて言わせないわ。」


ラミア……神の一族だった彼女。彼女は今でこそ少女の姿をしているが、それは魔力が封じられているから。

人間の文明がまだ幼い頃。

ラミアは傲っていた。一族の中でも一位。二位を争う美女だった。

「わたしは誰よりも美しいわ。」

彼女の言葉はいつもソレだった。

美の魔に囚われていた。

神の王はソレを堕落とみなした。

彼女は不眠の魔獣の呪いをかけられて。天界から追放された。

「どうして。どうして。わたしは誰?」

彼女は化け物になっても意識はあった。しかし記憶も薄れ、呪いからの死への執着が身をまとった。

神の王の命に苛立った神の一族の一人は。眠りの檻に閉じ込めて。何とか人似た形を心を戻そうとした。

けれど……正しいのか。檻の彼女は生きた死体だった。魔力は呪いから湧き出てくる。ただいたずらに時間のみが進み。彼女は檻の中で止まったまま。

「わたしは君を助けたい。」

青年の瞳には微かな濁りがあった。

「……」

少女は目を曇らせた。

「可哀想なのは________あなた」


睡魔の印_______


効いたのだろう。

彼女は顔を伏し。また微かな息を続けた。


今日も彼女の眠り。小さな町から、時たま聞こえてくる日常は続く_______そう願う。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初と最後にラミアの話とは正反対な街の平穏な感じが来ているのが良いですね。 主人公とラミアのなんともやるせないやりとりがあるけど、 街はいつもどおりの日常なんだなぁ、という感じが。 [気に…
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