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恋敵は実の妹?

「………………」


 鴨の最期を聞いた斑鳩はなんとも複雑な顔でうなだれていた。


「……あのさ、もしかしなくても、鴨って俺の恋敵だったりしねえ?」


 そして第一声がそれだった。


「っ!」


 龍馬はきょとんとした表情になって、それからすぐに噴き出した。


「ははっ! そうか! そういうことになるかもにゃあっ!」


 悲しむでもなく、悔しがるでもなく、ただそんな風に首を傾げる斑鳩を薄情だとは思わない。


 斑鳩は斑鳩で、鴨の意思を尊重しているのだ。


 後悔はしていない。


 だから、斑鳩が鴨の死を悔やんでも仕方がない。


 そう、考えているのだろう。


「まあ妹が恋敵っていうのはなかなか張り合いがあっていいんじゃないかえ?」


「うーん。複雑だ。トシを渡したくないけど、妹を押しのけてまで独占するのも兄として情けないしなぁ」


 本気でぼやく斑鳩に、龍馬はまた笑う。


「いやあ、お前は大物じゃ」


 嬉しそうに斑鳩の頭を軽く叩く龍馬。


 目一杯称賛しているつもりらしい。


「分かった。俺は鴨の邪魔はしない。鴨が天牙の民に復讐したいっていうんなら、好きにさせるさ。トシの意志には反するかもしれないけど、俺に阻む権利はない」


「そうしてくれると助かる。あの子に残された時間は、決して多くない」


「……鴨にかけられた屍術っていうのは、本当に晋作さんにしか扱えないものなのか?」


 訊くべきではないと分かっていても、言わずにはいられなかった。


 屍術で活かされている死者。


 動いて、喋って、そこにいる。


 だけど、決して生きている訳じゃない。


 それでも、そこにいる。


 触れられるし、抱き合えるし、想いを伝えられる。


「腕のいい魔法師なら、晋作ほどでないにしても同じ術は行使できるじゃろう。じゃけんどそんなことに意味はないぜよ。あの子は死者じゃき。目的を果たしたら、本来の死者へと戻る。屍術を行使できる条件にもいくつか制約があるらしくてな。その一つが『ここにいたい』っちゅう未練じゃ。鴨が復讐を果たせば、それはなくなる」


「そんな事はないだろ。俺やトシのそばにいたいとも思ってくれているはずだ。それは立派な『未練』じゃないのか?」


 縋るように問いかけた斑鳩に対して、龍馬は暗い表情のまま首を横に振る。


「屍術は本来外法じゃき。外道の術にはそれに伴う制約がある。未練っちゅうても『負』に属するものであることが第一条件じゃ。復讐・怨念・殺意。そういう世界に害なす闇に属する未練こそが、この世界に留まらせることが出来る。今の鴨は復讐のためにこの世界に繋ぎ止められている。復讐だからこそここにいられる。誰かの側にいたいという『正』に属する未練では、屍術は成立しない」


「そんな……」


 芹沢鴨にはどうやっても未来がない。


 一度は死んでいるから、生者としての未来は訪れない。


 それが解っていても、諦めることは難しい。


 ここにいて、ふれあえて、手が届くのに。


 目の前でいつか、消えてしまう。


 失う未来が確定している。


「じゃあ、復讐が終わったら、鴨は本当に消えてしまうんだな。元の死者に、戻るんだな……」


「ああ……」


 消え入りそうな声で質問する斑鳩に、龍馬もまた絞りだすような声で答える。


「この先どうするのか、どうしたいのか。それは斑鳩に任せるき。今回は本当にただの例外じゃ。ワシらは刻が来たら動き出す。その時までは斑鳩に対して手出しをする気はない」


「その刻が来たら?」


「土方歳三から力ずくで斑鳩を奪い取る。斑鳩が土方さんを選んだとしても、ワシも他のみんなも、これまでやってきたことを無駄には出来ん。みんなは新しい居場所のため、そしてワシはワシに残されたたった一人の家族に安らげる場所を与えるため。じゃき、もう後には退けんのじゃ」


「……どうあっても?」


「どうあっても」


「俺の意志を無視しても?」


「斑鳩の意志を無視してでも、ワシの意志を押し通す」


「つまり」


「勝った方が我を通すちゅうことじゃ」


 龍馬が斑鳩に対して不敵に笑いかける。


 誰よりも心強い味方であると同時に、誰よりも手強い敵になってしまった父親に対して、斑鳩もまた不敵な笑みを返す。


「いいね、分かり易い。親父が勝ったら俺も大人しく従おう。お互いに譲れない意志をぶつけ合うんだから、決着がついた暁には勝者の意思を尊重する」


「決まりじゃ」


 斑鳩と龍馬は拳をぶつけ合う。


 それは、誓い。


 そして、約束。


 交わることの出来ない親子は、そうやって別れた。



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