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父と息子

 斑鳩を抱えたまま、まるで重さなど感じていないかのように軽快に屋根の上を飛び移っていく龍馬。


 龍馬に抱えられたまま、斑鳩は意識が飛びそうになるのを必死で繋ぎ止める。


 今意識を失ったら命が危うい。


 それが分かっているからこそ痛覚をより鮮明に自覚する。


 痛みがある限り意識は繋ぎ止められるから。


「ぐっ……!」


 しかし痛みそのものが伝えてくるダメージは確実に蓄積していく。


 斑鳩自身も限界が近い。


「大丈夫か? もう少しだけ我慢してくれ」


「だい……じょうぶ……ではあるけど……」


「じゃったらよかった」


「龍馬さん……さっきの話……」


 斑鳩はずっと気になっていたことを口にした。


 龍馬が斑鳩を助ける時に言った『息子』という言葉。


 それは……


「あ~……それはまあ、後で話すっちゃ。今はとにかく傷の手当てが先決じゃき」


「………………」


 それもそうだと納得した斑鳩は大人しく龍馬に抱えられたまま移動した。



 移動したのだが……


「って、何でこんな場所で落ち着くんだよ!?」


 辿り着いたのはいわゆる娼館だった。


 あちこちからいかがわしい声が聞こえてきたりするので、斑鳩としては実に居心地が悪かった。


「何を言っちゅう。こういう場所やきこそ一時的に隠れ潜むにゃもってこいやか」


「うう……」


 それは理解できなくもないけど……と唸る斑鳩。


 確かに隠れ潜む場所としては実に都合が良い。


 詮索されることもないし、金次第では協力もしてもらえる。


 更に言えばこういう場所でしか手に入らない情報というのもある。


 それは理解しているのだが……やはり居心地は悪い。


「ひとまず応急処置しやーせんとな。服脱ぎ」


「ああ……」


 斑鳩は言われるままに服を脱ぐ。


 龍馬は予め館の人間に頼んでおいた針と糸を台から手に取って、傷口を素早く縫い合わせていく。


 無駄のない動きで包帯を巻き終わるまで十分と掛からなかった。


 随分と手慣れているので斑鳩の方がびっくりしている。


「ほい、お終い!」


 包帯を軽く結んでから龍馬は斑鳩に上着を着せてやる。


「……どうも」


 斑鳩は龍馬に礼を言ってから、それから切り出す。


「それで、さっきの話だけど……」


「ああ。斑鳩ワシの息子っちゅう話か。もちろん事実じゃき」


「………………」


 斑鳩は龍馬をまじまじと見つめる。


 斑鳩の父親ということは鴨の父親でもあるということだ。


 しかし自分にも鴨にも、どちらにもあまり似ていないように思う。


「まずは何から話せばいいかにゃあ。こういう組み立ては苦手じゃき、斑鳩が質問してくれ。ワシがそれに答えるき」


「……じゃあ、母さんのこととか」


「鶫のこと?」


「俺、母さんのことも、あんたのことも何も知らないし。今の状況もまるで分からない。だから最初から順を追って状況を掴みたいんだ」


「……なるほどにゃあ。分かったが。最初から全部話しちゃる」


 龍馬は肩を竦めてから、斑鳩に笑いかけた。


 そこにあるのは深い慈しみ。


 紛れもなく、父親としての顔だった。


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