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布団の中からこんにちわ(´∀`)

 歳三は結局次の日まで斑鳩が運び込んだ宿場で過ごした。


 斑鳩の気遣いを無駄にするのもどうかと思ったし、何よりもまともに動けないほど消耗していたからここで休んでいく以外の選択肢がなかったのだ。


 大人しく宿の人間が強いてくれた布団に入って眠りについたのだが……


「………………」


「………………」


 朝目覚めると、同じ布団の中に見知らぬ男がいた。


「よっ! お目覚めか?」


 同じ布団の中で歳三に腕枕をしつつ、空いている方の手をあいさつ代わりに立てる。


「〇×△◆★~~~~~~っっっ!!!!????」


 歳三は慌てて布団から飛び出て、そのまま壁際まで後ずさった。


「ありゃりゃ……? ちょっと脅かそうとしただけなんだけど、刺激が強すぎたかにゃあ?」


 布団の中にいたのは坂本龍馬だった。


 いつの間にか歳三の布団の中に忍び込んでいたのだ。


「あ……あ……な……なな……!?」


 歳三は龍馬を指さしながらぶるぶると震えている。


「あ~。大丈夫ぜよ。心配しなくとも手は出しちょらん。ワシはこれでも奥さん一筋じゃけんの~」


「………………」


 奥さん一筋な男が未婚の女性の布団の中に入り込んで、あまつさえ腕枕までしているというのはいかがなものだろう?


 服が乱れていないことを確認して、確かに手は出されていないようだと安心する歳三。


 胸元を押さえながら安堵する歳三を見て龍馬も苦笑する。


「ふうん。殿さまの慰み者っちゅう立場の割には意外と純情なおなごじゃのう。こりゃあ悪い事したかもしれんぜよ」


「………………」


「名乗るのが遅れたぜよ。ワシは……」


「坂本竜馬、だろう?」


 龍馬が名乗る前に歳三がその正体を見破った。


 龍馬がわずかに驚いた表情を見せるが、すぐにニヤリと口元を釣り上げる。


「さすがに知っていたか。まあ山崎烝を使えば難しい事でもないからにゃあ」


 斑鳩が初めて鴨と接触したあの日から、歳三は可能な限り烝を斑鳩に付けている。


 斑鳩に気付かれないように尾行させ、斑鳩に接触してくる人間を逐一報告させていたのだ。


 だから坂本竜馬の事も高杉晋作の事も知っている。


 断片的な情報からいくつか推測できることもある。


 だからこそ歳三には謎だった。


 今、このタイミングで坂本竜馬が自分に接触してくることの意味を量りかねている。


「私に何の用だ? まさか今更宣戦布告に来たわけでもあるまい?」


「そうだと言ったら?」


「………………」


 歳三は畳の上に置いていた刀に手をかける。


「まあまあ、そう喧嘩腰になるもんじゃないぜよ。ワシはただ土方さんと話をしにきたぜよ」


「話を……?」


「そうぜよ。ワシの大切な二人が一番大切にしとるんがおんしじゃからのぅ。ワシとしては一度くらい腹を割って話してみたい相手ぜよ」


「大切な二人というのは、鴨と斑鳩のことか」


「その通りぜよ。おんしにはもうおおよその推測はついてるんじゃないのか? ワシの正体について」


「……推測の域を出ない。まだ確信には至っていない」


「言ってみるぜよ。採点しちゃるけん」


 射抜くような視線を送る龍馬に対して、歳三はまっすぐに睨み返した。


 そして挑むように返答する。


「かつて斑鳩が所属していた『組織』の関係者。恐らくはかなり高い地位にいるはずだ。そして過去に芹沢鶫と交わった人間、つまりはあの二人の父親だろう?」


「……九十点ってところぜよ」


「……残りの十点は?」


「かなり高い位置にいるって部分ぜよ。ワシは軌兵隊の創設者で頭ぜよ。かなり高い位置っちゅうよりはてっぺんにおる」


「………………」


 歳三は警戒を解かない。


 刀から手を離さないし、龍馬の一挙一動にいつでも対応できるように身構えている。


「斑鳩とは入れ違いになったみたいぜよ。顔くらいは合わせておきたかったのににゃあ」


「斑鳩はもう、私のところには帰ってこない」


「知っちゅう。あの子はおんしとは正反対の道を選んだっちゅうことぜよ」


「………………」


 歳三の警戒などまるで気にせず、龍馬は近くに会った肘置きを引き寄せてから、その場に胡坐をかく。


 しばらく居座る気のようだ。


「なあ土方さん。ワシに何か言いたいことはないか?」


「言いたいこと……?」


「訊きたいこと、でもいいぜよ」


「……?」


 龍馬の真意がつかめずに首をかしげる歳三。


「だからそんなに警戒せんでほしいぜよ。ワシはただ本当におんしと話がしたいだけなんじゃ」


「だから、なんで……」


「ん~? なんでって言われてもにゃあ。おんしのことが知りたいからとしか言いようがない。もちろんこれは軌兵隊の長としてじゃなくあの二人の父親としての行動ぜよ」


「……そう言われると、拒絶しづらいものがあるな」


 歳三は困ったような表情になる。


 そういう言葉を使われると邪険にしづらくなるのだ。


「ははは。おんしは優しい奴ぜよ」


「一応『鬼副長』で通ってるんだが」


「それはただのポーズじゃろ? 誠意に対して誠意で応えようとしてくれる奴は間違いなく優しい奴ぜよ」


「………………」


「なるほどにゃあ。あの子らがおんしに惹かれた理由がなんとなく分かってきたぜよ」


「?」


「おんしは何だか『ほっとけん』感じがする。危なっかしゅうて、守ってやらなければならんような気持ちにさせられる。根っこにあるものはひどく真っ直ぐで純粋なのに、現実に対処するために強固な殻で自らを覆っているっちゅうところか」


 ふむふむと納得したようにうなずく龍馬を前にして、歳三はひどく居心地が悪い気分になった。


 自分の弱い部分を見抜かれている痛みよりも、そこに抗いがたい温かみを感じてしまうのだ。


 まるで歳三を労わるような空気が、確かにそこにある。


 それが、歳三には辛かった。


 敵対するはずの相手にそういう対応をされると、歳三はどうしていいか分からなくなるのだ。


「よし。気が変わったぜよ」


「?」


「訊かれたことだけにしか答えてやるつもりはなかったが、ワシの方から教えちゃる」


 龍馬はそこから立ち上がって壁際で刀を手にしたままの歳三に近づく。


 そして歳三の顎をかるく指で引き揚げて、その顔を近づけた。


 唇が重なるギリギリのところで、龍馬は口元を釣り上げる。


「天牙の民が松平容保から狙われた本当の理由を、ワシが教えちゃる」


「なんだと……?」


「まさか本当に『化け物だから』っちゅう理由だけであんな大規模な殲滅行動を起こされたって本気で思っちょるんか? それはさすがに被害妄想激しすぎぜよ」


「………………」


「人間以上の力を持つ化け物だとしても、力を押さえた状態なら見た目は普通の人間と変わらんし、こうやって話もできる。圧倒的な戦力差っちゅう抑止力が働いている以上、自軍の消耗覚悟で戦を仕掛けるほどの理由にはならんぜよ」


「それは……」


 確かに三年前の戦は天牙の民が圧倒的に不利だったが、それでも人間側の死者もかなり出たはずなのだ。


 人間と天牙の民ではそもそも地力が違う。


 数の差はあっても力を開放すればたった一人でも一騎当千の力を持っているのだ。


 だから戦を仕掛けるにはそれ相応の覚悟が必要になる。


 人間には極力関わろうとしなかった天牙の民に対して命がけの戦を仕掛ける理由はいったいなんだったのだろうか。


 化け物だから、という理由は確かにあったのだろう。


 戦の最中にも兵士はそれ口にしていたし、それは確かに表向きの理由ではあったのだ。


 だったらその裏側は?


 もっともらしい理由に隠された本当の理由とは?


「天牙の民が滅びなければならなかったその理由は、この世界そのものの為ぜよ」


「え……?」


 龍馬が口にした本当の理由は、歳三たちの存在理由そのものを根底から否定するものだった。 

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