体術でGO!
……最近、トシの様子がおかしい。
斑鳩はいつも通りに総司の剣戟を受け流しながら、そんなことを考える。
最初の方は苦戦していたのだが、何回か戦ううちに攻撃のパターンがある程度読めてきたので今はそれほどでもない。
総司の戦い方は相手の出方を窺って攻撃を組み立てるのではなく、自分の好みと気分で攻撃してくるので比較的読みやすいのだ。
もちろん、それでも初見の相手なら十分脅威だろうし、戦い慣れている斑鳩でも油断すれば命が危うい。
天才剣士の名は伊達ではないのだった。
しかもパターン化されている攻撃そのものの速度と鋭さが前よりも増してきているので、うっかり油断もできない。
本来ならば考え事をしながらするようなことではないのだが、どうしても考えてしまう。
最近の歳三はどこかおかしい。
仕事はきちんとしているし、指示も正確なので気づいている者は少ないかもしれないが、とにかく様子が変なのだ。
少し手が空くとすぐにぼーっとなるし、顔色が悪いときもある。
そういう時は休むように忠告するのだが、歳三は聞いてくれない。
気力で何とかなることに関しては本当に気力で何とかしてしまうので、斑鳩としてもあまり強くは言えない。
しかも無理をするな、というようなことを言うとものすごい眼で睨んでくるのだ。
敵を睨む時ですらあそこまで剣呑な目つきにはならないのではないだろうか……などと睨まれた斑鳩は震え上がったものだ。
(心配するなって言う方が無理だしなぁ……)
総司の得意技である三段突きを二本の短刀で食い込ませるように崩してから、斑鳩はため息をつく。
何かを隠しているというのは感じているのだが、斑鳩自身も歳三に隠していることがあるので強く出れない。
そして歳三は斑鳩の隠し事に気付いている。
斑鳩が問い詰めれば、歳三は斑鳩の隠していることも暴こうとしてくるだろう。
(それは、かなり困るし……)
「いっきーっ!」
「っ!」
総司の声で我に返る。
体勢を崩した総司がそれを利用して刀を切り返してきたのだ。
いつもとは違う予定外の攻撃に先読みが外れる。
「くっ!」
すでに首元まで迫っている刺突を受け流すことは無理だと判断した斑鳩は迷わず短刀を手放し、そのまま総司へと更に踏み込んだ。
「!?」
一瞬の事だった。
いきなり斑鳩の手が胸元に伸びてきたかと思ったら、次の瞬間には自分が宙を舞っていた。
「………………」
投げられたのだと気づくのに数秒の時間を要した。
「ほへ?」
地面に転がったままぽかんとしている総司。
「すまん! 咄嗟の事で手加減できなかった。頭とか打ってないか?」
投げ飛ばした側の斑鳩は総司に駆け寄ってから助け起こす。
「それは大丈夫だけど、今のなに?」
「何って、普通の投げ技なんだけど」
「………………」
「悪かったな。ちょっと考え事してたもんでさ」
「……ていうか考え事してても相手出来るくらい実力に開きがあるっていう事実に凹むよ」
「あ~……別に総司が弱いってわけじゃないからさ」
「俺が強すぎるだけだって?」
「そんなことは言ってねえ」
「むー」
そんなことは言っていなくともこの状況ではそう思われても仕方がなかった。
「だからさ、総司の攻撃は素直だから読みやすいんだよ。初見の相手ならともかく俺はほとんど毎日総司と戦ってるからな。いい加減パターンの先読みが出来てきてるだけだ」
「戦えば戦うほど読まれちゃうって事?」
「まあ……そうかな」
「どうすればいい?」
「え?」
「どうすれば読まれにくくなる?」
「………………」
総司の強くなることに対する貪欲さは一種危ういものがある。
強くなるために努力する。
その事自体は正しい。
しかし速くて鋭い刀ほど、いざという時にはひどく脆い。
このままいくと総司はいつか折れてしまうのではないだろうかと心配になる。
「まあ、あれだな。まずは攻撃のバリエーションを増やすことだな」
幼い天才に斑鳩がしてやれることは、あまりに少ない。
だからこそ少ない中でも出来るだけの事をしてやりたいと思う。
「バリエーション?」
「剣技の方はほぼ完璧なんだ。ここはちょっと頭を切り替えて体術とか覚えてみないか?」
「体術……」
総司はいまいちぴんとこないようだった。
刀を己の体の一部として使い慣れている分、逆に刀を持たないことに対する不安が大きいのだろう。
バーサーカー化している時は体術も駆使してくるのだが、アレは理性ではなく本能からの行動なので体術というよりは獣の動きなのだ。
「別に刀を捨てろと言ってるわけじゃない。たとえば体術を身に付ければさっきみたいに咄嗟の危機にも対応できる手段が増えてくるんだ」
「あ、それいい! ボクもいっきー投げ飛ばしたい!」
「……別に投げ飛ばすのが目的で教えたいわけじゃないんだが」
「教えていっきー! ボク体術頑張って覚えるよ!」
「了解だ総司。大丈夫。総司ならすぐに覚えるよ」
「うん!」
こうして、総司は新たに体術を学ぶことになった。
「あ、とっしーだ」
少し離れた廊下側に歳三の姿が見えた。
「………………」
周りに誰もいないせいか、気が抜けているのだろう。
いつも以上にぼんやりと歩いている。
「……とっしー、最近ちょっと元気ないよね」
総司が歳三を見ながらそう言った。
「やっぱり分かるか?」
「うん。だって最近のとっしーってばちょっと優しいんだもん」
「………………」
判断の基準がそれなのか……
鬼副長が優しいのは異常事態、というのが総司の認識らしい。
「……まあ、ある意味正しい認識なんだろうけど」
角を折れたところで歳三の姿が見えなくなる。
斑鳩は歳三が見えなくなってもその場所から視線を外せなかった。
「行ってきなよ、いっきー」
「へ?」
「とっしーが心配なんでしょ? ボクのことはもういいから今日はとっしーについててあげて」
「総司……」
斑鳩ま迷わなかった。
そのまま踵を返して歳三が歩いて行った方へと向かう。
「総司! 体術はまた今度な!」
「うん! 頑張って投げ飛ばす!」
「………………」
だから投げ飛ばすのが主目的じゃないんだってば……というツッコミは後回しにして、斑鳩は歳三を追いかけていった。




