父と娘
ここから週一連載になります。
すみませんです。
やっぱり色々並行していると無理がきますねぇ~。
月曜日に更新予定ですのでよろしくお願いします。
転移呪符を使用した鴨は、そのまま軌兵隊の本拠地・天音の里まで転移していた。
里の中でも一番眺めのいい丘の上に座標を絞ったのだが、
「え!?」
「うおわっ!?」
その場所に、坂本竜馬が立っていた。
結果として、鴨は龍馬を踏みつぶす形で着地することになる。
「わあ! ご、ごめんなさい父さま! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫かと訊く前にまず降りて欲しいぜよ~……」
鴨に潰された龍馬が情けない声で抗議する。
「あ、ごめんなさい」
言われて、鴨も慌てて龍馬の上からどいた。
「ふぃ~。酷い目にあったぜよ」
「と、父さまがこんなところにいるから悪いのよ!」
「いきなり降ってきて言うセリフじゃないぜよ」
「だって私ここからの眺めが好きだもの」
「ワシだって好きぜよ」
「………………」
「………………」
二人は睨み合ったまま沈黙する。
やがて二人そろってため息をついて苦笑した。
「斑鳩に会ってきたのか?」
先に切り出したのは、龍馬のほうだった。
鴨がわざわざ新撰組時代の羽織を着て会いに行く相手といえば、芹沢鴨か土方歳三しかいない。
しかし鴨はもう自分から歳三に会いに行くことはないだろうと龍馬は確信している。
その命とともに捨て去った過去。
もう一度得られた限られた時間を斑鳩のために使うと決めた以上、その過去は振り返らない。
捨てたものをもう一度拾うことは、鴨には出来ないのだ。
それが出来るのは生きている者だけだから。
「ええ。兄さんに会って、話をしてきたわ」
「……ワシのことは話してないだろうな?」
「父さまが軌兵隊の盟主で晋作さんが翁の正体だってこと以外はとくに」
「……まあ、それくらいなら」
本当はその事もまだ黙っていてほしかった龍馬だったが、それはそれで仕方ないと諦める。
「父さまは自分で伝えたいんでしょ? 坂本竜馬が私達の父親だってことは」
「まあ、な」
ポリポリと頬を掻く龍馬。
「それはワシが自分で伝えなければならないことぜよ」
「そうね。私もそう思う」
坂本竜馬。
かつて芹沢鶫と交わった人間。
鴨と斑鳩の父親。
殺される寸前だった斑鳩を密かに救い出し、その後軌兵隊を作り上げた男。
「……斑鳩は、元気そうだったか?」
「元気そうっていうか、エロ化してたわ……」
「………………」
げんなりとした顔でそう言った鴨を見て、龍馬はきょとんとなった。
そして数秒後、
「ははははは! エロいのか! 結構結構! 健全な青少年らしくなってるぜよ!」
心底愉快そうに大笑いしたのだ。
「わ、笑い事じゃないわよう! 人の胸からはしばらく手を離さないし。私の身体の事話しても胸さえ揉めるならノープロブレムとか言っちゃうし! こっちにいた頃はもっとクールで素敵な性格だったのに何であんな風になっちゃったのかしら……」
「いやいや。あれはあれで問題があったし、きちんとした自己が形成されつつあるのはいい事ぜよ。誰の影響かは知らんけど感謝したいものぜよ」
「……それは多分、トシだと思うわ」
「土方歳三?」
「ええ。兄さんを変えられるのはきっと、トシだけだと思うから」
「ふうん……」
「で、でもトシはあれで堅物なところがあるし、自分から兄さんにエロ影響を与えるような感じにも見えないし……でもトシ以外には考えられないし……」
斑鳩にエロ影響を与えたのは歳三だと確信しながらも、歳三の人格を熟知している鴨はその事実に対する謎が深まるばかりだ。
鴨は知る由もない事だが、斑鳩にエロ影響を与えたのは歳三の人格そのものではなく、歳三の不注意による尻尾の顕現なのだった。
あの尻尾とそれに触れた時の反応により、斑鳩の中のエロ本能が刺激されてしまい、今のエロ化斑鳩が出来上がってしまったのだ。
龍馬は一人唸り続ける鴨を眺めながら、歳三への興味を募らせた。
会ったことはないが名前だけは知っている。
娘にとっては大切な友達であり、息子にとっては恐らく……
「会ってみたいにゃあ。土方さんにも」
「父さま?」
「土方歳三。今現在実質的に新撰組を、そして天牙の民を動かしているのは彼女じゃろう? これから本格的に彼女たちと敵対する前に、素の彼女と話してみたいぜよ」
「………………」
「鴨。ワシらはここまで来た。試行錯誤しながら、時には諦めそうになりながらも、ようやくここまでたどり着いたぜよ」
「分かってるわ」
「だから、ここで立ち止まることは許されないぜよ。理想郷を信じて散っていった子たちのためにも、今まさに理想郷の為に戦っている子たちのためにも」
「分かってるってば」
「だから、ワシらの障害になると確信したら、彼女を斬るぜよ」
「………………」
その言葉に、鴨は表情を曇らせる。
覚悟はしていたけれど、割り切ることまでは出来ていない。
そんな鴨を見て龍馬はくしゃくしゃと頭を撫でた。
「そんな顔せんでほしいぜよ。味方に出来るようなら、引き込もうとも考えちょる」
「無理よ。トシは絶対に仲間を裏切らない」
そんなことをするくらいなら迷わずに死を選ぶのが土方歳三なのだと、鴨は誰よりも知っている。
「……そうか。まあそれなら仕方ないぜよ」
「ええ……」
「辛いか?」
龍馬が労わるように問いかけると、鴨はうつむいたまま首を横に振った。
「傷つく資格、ないもの」
「意地っ張り」
「………………」
「そういうところも鶫に似てると思うと、文句も言い辛いぜよ」
「………………」
龍馬と鶫は丘の上から天音の里を眺めつつ、それぞれに覚悟を決めていた。
娘の大切な人を手にかける覚悟。
そして父親の手によって親友を失う覚悟。
星空の下、悲しいほどに救われない決意と想いだけがそこにあった。




