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気持ちの名前

「耐える事しか出来なかったあの時間の中で、トシだけが私の安らぎだった。トシが……彼女がいてくれたからこそ、私は私を見失わずに済んだの」


 昔語りをいったん中断した鴨は、歳三のまっすぐな笑顔と言葉を思い出しながら微笑んだ。


 鴨の話を聞いていた斑鳩もつられて微笑む。


 自分の知っている歳三との違い。


 それでも根本のところだけは変わらない。


 変わったものと変わらないもの。


 それが今の土方歳三を形作っている。


 それを知るのがうれしくもあり、悔しくもある。


 鴨の事も歳三の事も、知れば知るほど、自分は二人の一番大切な時に何も知らずにいたのだと思い知らされるから。


「俺は逆かな。あいつがいたからこそ、俺は俺になれたんだと思う」


 その代わりというわけではないけれど、自分にとっての歳三がどんな存在なのかを鴨に伝えたいと思った。


 歳三との出会いが斑鳩にとってかけがえのないもので、歳三との時間が今の斑鳩を形作ってくれたことを。


「私たちやっぱり似てるのかな。同じ人に惹かれて、変えてもらって、今の自分がある」


「いや。そういう訳でもないだろ。あいつを大切に思ってる奴はたくさんいる。あいつを特別に感じているのは俺たちだけじゃないさ」


「……そうね。トシは、そういう存在だわ。それが寂しくないと言えば嘘になるけど、でもそういうトシに惹かれたんだから、仕方ないわよね」


「そうだな」


 その昔、まっすぐに光を目指していた女の子。


 今は大切な仲間を守るために戦い続ける彼女。


 目指す場所は変わらないのに、決定的に違ってしまったものがある。 


 それは、目指すその先に自分の幸せを求める事。


 彼女は仲間の幸せを願い、仲間の未来を想ってはいるけれど、そこに自分の幸せと未来は含まれていない。


 自分の全てを賭けて何かを守るということは、そういうことなのだ。


「トシが俺を変えてくれたように、いつか俺がトシに気づかせてやりたいんだ。もっと自分の幸せを欲しがってもいいんだって」


 本当は少しだけ違う。


 気づかせてやりたいのではなく、気づいてほしいだけなのだ。


 ここに自分がいることを。


 彼女の受け止める覚悟で隣に立っている存在があることを。


「俺、あいつが好きだよ」


 その言葉は自分でも驚くほど簡単に出てきた。


 斑鳩の心を占める一番大きな存在。


 彼女を想うだけでこんなにも心が安らぐ。


 今だ感情が未発達な斑鳩でもはっきりと分かる気持ちの名前。


 そう、これは『愛情』なのだ。

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