過去篇03 二人の夢
「一つ、提案があるんだけど」
全ての話を聞き終えたトシが、私に寄りかかりながらそう言った。
「提案?」
「うん。私は鴨のことも、他のみんなのことも好きだから。だから鴨には私たちと敵対して欲しくないんだ」
「……それは」
「分かってるよ。長老衆に関しては仕方ない。それは止めない。でもみんなを巻き込むことはしないでほしい」
「最初から巻き込むつもりなんてないさ。長老衆を殺したら、私はここから去るつもりだ」
そして今度こそ兄さんを捜しに行く。
何に縛られることなく、自分自身のための願いを叶えるために。
「だから、ここにいてくれないかな」
「?」
「鴨が自分の復讐を果たした後も、ここにいて欲しい」
「トシ?」
「その時までに、私がきっと天牙の民を変えてみせるから」
「え……?」
「人間と交わることを禁止なんてしない。鴨やお兄さんみたいな混血の子供がもっともっと増えても構わないように。私が内側から変えてみせるから」
「………………」
トシは今、自分がどれだけ無謀なことを言っているのか気付いているだろうか?
いや。気付いているだろう。
そこまで頭の悪い子ではない。
それがどれだけ困難なことか、ちゃんと理解した上で口にしている。
「きっと時間はかかると思う。だけど何もしないよりはずっといい。少なくとも若い世代なら変えていける余地はある。理由も分からないような決まり事なんて、こっちからぶち壊してやる!」
「……勇ましいなぁ、トシ」
その先に待ち受ける困難と苦悩をきちんと見据えた上で、夢と希望をまっすぐに語れる者はそう多くない。
トシはその少ない存在の一人なのだろうか。
彼女を見ていると、本当にそうなるかもしれないと思えてくるから不思議だ。
「私が天牙の民を変えて、人間も混血も分け隔て無く暮らせる世界になれたら、そうしたら鴨は私たちとお兄さんとも、ここで一緒に暮らせるんだよ」
「兄さんと……?」
「そう。みんな一緒に!」
「………………」
「鴨は大切なものを失ったんだから、これ以上自分から何かを捨てたら駄目なんだよ」
その瞳はとても澄んでいて。
「ちゃんと自分で幸せになろうとしなくちゃ駄目なんだよ」
その言葉はどこまでも光を目指している。
「私、頑張るから。鴨がここで幸せになれるように、笑顔でいられるように頑張るから! だから一緒にいよう!」
「まったく……」
その言葉にほだされた訳ではないけれど、それでもトシを信じてみたくなったことは確かだった。
「わっ……」
くしゃくしゃとトシの頭を撫でてやりながら、私は苦笑した。
それは嬉しさからのものなのか、それとも込み上げてくるものを誤魔化すためなのか、自分でもよく分からなかった。
「そうだな。私と兄さんと、そしてトシが一緒にいられるのなら、それはきっと私にとって素晴らしい世界になるだろう」
「鴨!」
「他の奴にはそこまで執着はないんだけど、トシと離れるのだけは寂しいな。だから、私もトシの夢を手伝うよ」
「ほんと!?」
「ああ。だからこれは『私たちの夢』だ」
「うん! うん! うんうん!!」
トシはこれまでで一番嬉しいものに出会ったかのような表情で何度も何度も頷いてくれた。
この瞬間から、土方歳三は私にとってかけがえのない友人になった。
決して長くはなかった私の生涯の中で、幸せと安らぎを感じさせてくれたとても大切な存在に。




