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胸さえ揉めればノープロブレム!

「………………」


 斑鳩はいまだに鴨の左胸に触れている。


 その感触を、鼓動を、体温を感じ取ろうとするように。


「……兄さん。そろそろ胸から手を離してくれないかしら?」


「ああ、悪い」


「ひゃうっ!?」


 斑鳩は鴨の胸から手を離す前に一回だけ揉んだ。


 鴨はびくっとなって一歩だけ斑鳩から後ずさる。


「なななな何するの兄さん!?」


「いやあ。俺としたことが女性の胸に触っておいて揉むのを忘れていたから」


「忘れていいから。それは忘れていい事柄だから!」


「結構でかいよな、お前」


「に、兄さんが……兄さんがエロ化してる……いったい誰の影響なの……?」


 軌兵隊にいた頃の斑鳩とは全く違う中身に戸惑いながらも、兄を変な方向に変えてしまった見知らぬ誰かを恨みつくす鴨。


「誰の影響ってわけじゃないけど、俺だって一応男だし。女に興味がないってほど枯れてるつもりはないぞ」


「うううう……だからって妹の胸まで揉むことないじゃない……」


 正論なようでいて何かが違うような気がするのだが、とりあえず自分の胸を防御する事しか出来ずにいる鴨だった。


「まああれだ。生きていても死んでいても胸が揉めるならそこに大きな違いなんてないんじゃないか?」


「違う! それ絶対違う! 全然いい事言ってないから!」


「駄目か?」


「駄目!」


 兄と妹の不毛な言い争いだった。


 しかし重苦しい空気だけは吹き飛んでしまったようで、どこか影を帯びていた鴨の表情も少しばかり明るさを取り戻していた。


「ありがとう、兄さん」


「ん?」


「半分は、私を元気づけようとしてくれたんでしょう?」


「いや……その……」


「……あとの半分は自分の欲求かもしれないけど」


「……分かってるじゃん」


「………………」


 本当に半分だけだろうか、と疑問に思う鴨だった。


 そこは敢えて考えないようにして、鴨は斑鳩から背を向ける。


「ねえ、兄さん。私、兄さんに話したいことがあるの。聞いてくれる?」


「鴨が俺に話したいことなら、なんだって聞いてやるよ」


 痛みに耐えるような表情で斑鳩振り返った鴨は、その涼風を呼び込んでくれるような言葉に思わず口元を緩めた。

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