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放たれた刺客

 歳三は歩きながら考え込んでいた。


 自分が斑鳩に対して時々酷い態度をとっているのは自覚している。


 それは決して悪意からではなく、悪戯心のようなものであることも。


 今までは新撰組副長として、天牙の民を守る立場として、歳三はひたすらにやってきた。


 だからふざけるとか、からかうとかいう事を他人に対してしてこなかったのだ。


 しようとも思わなかった。


 斑鳩と出会ってから初めてそういう事をした。


 無意識からの行動だった。


 そうしなければならない、といういつもの行動とは程遠い、そうしたら面白そうだ、そうすればどういう反応を見せてくれるだろう、という自らの欲求から出た行動。


 それは甘えたい、という事なのだろうか。


 斑鳩なら何を言っても許してくれる。


 斑鳩になら何をしても大丈夫。


 信頼と、甘え。


 そういうものを歳三は斑鳩に対して持ち始めている。


「あー……それは、まずい気がするなぁ……」


 自覚してしまえば認めるしかないのだが、そのまま流されるのは良しとしない歳三だった。


 彼女には仲間を守る義務がある。


 自分の欲求ばかりを優先する訳にはいかないのだ。


 しかし無意識のうちに斑鳩に甘えていたことを自覚した歳三は、同時に流されてしまえば歯止めがきかないことも分かってしまう。


 仲間の事よりも斑鳩の事を優先するようになってしまう。


「それは、駄目だ……」


 自らを戒めるように呟く。


 歳三は決めているのだ。


 自分の全てを費やしてでも大切な仲間を守り抜くと。


 だから今、自分の中に生じた気持ちに傾くわけにはいかないのだ。


「………………大丈夫」


 大丈夫、大丈夫、と自らに言い聞かせる。


「トシ? おーい……」


 さっきから一人でぶつぶつ言っている歳三の後ろから斑鳩がついてきている。


 いくら斑鳩が呼びかけても歳三は答えない。


 無視している訳ではなく、自分の世界に没頭してしまって気づいていないのだ。


「………………むう」


 こういう時は何を言っても無駄なので、斑鳩は仕方なく歳三の後ろをついていく。


 そのうち元に戻ってくれるだろう。


 小姓らしく黙って後ろをついていけばいい。


 そう思っていると、


「っ!!」


「!!」


 先に気付いたのは斑鳩だった。


 歳三に注意を呼びかける前に首に巻いていた長布を手に取り、目の前で広げる。


 それと同時に一本の矢が斑鳩達に襲い掛かる。


 矢は長布を貫通せずに、そのまま弾かれて地面に落ちる。


 斑鳩の長布は特別製で、刃物も弓矢も通さない。


 試したことはないが、もしかしたら魔法だって防げるかもしれない。


 地面に落ちた矢には目もくれずに、斑鳩は矢を放たれた方向、歳三を狙った奴を探す。


 一本向こうの通りにある屋根から黒い影が素早く立ち去るのが見えた。


「トシはそこにいろ!」


「ちょっと待て斑鳩! 一人で深追いするな!」


 歳三の制止も聞かず、斑鳩は刺客を追いかけてその場から走り去ってしまった。


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