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お茶と団子と右アッパー!

「それにしてもいかるんはすごいなあ。左之や一だけじゃなく、まさかバーサーカー化した総司にまで勝ってしまうとは。いつか私とも手合せを願いたいものだね!」


「いや……それはちょっと……」


 茶屋で団子の串を咥えながら勇がそんな事を斑鳩に言う。


 どうやら色々な噂を聞いてしまっているらしい。


 赤い布のかかった椅子に湯呑と団子の皿が置かれていて、斑鳩の正面には勇と歳三が座っている。


「つれないなぁ! いいじゃないか! 私だって結構腕に覚えはあるんだ。いかるんとだっていい勝負ができる自信はあるんだぞ」


 すっかり定着してしまった『いかるん』という呼び名に苦笑しながらも、斑鳩は両手を前に掲げて左右に振った。


「いやいや。そもそも俺は戦うのが好きなわけじゃないんで。最近は総司に付き合うだけで手一杯ですし!」


 総司の話によると勇もかなりの使い手であるらしい。


 元々は試衛館道場で天然理心流という剣術を教えていたらしく、総司も歳三達もその流派を根幹とした剣術を身に付けている。


 その流派の師範だというのだから、それはもうとんでもない腕前であることは言うまでもない。


「勇。あんまり無理を言うもんじゃない。ただでさえ斑鳩には総司のことを任せているんだ。この上勇とまで戦ってしまったら身が持たないだろ」


「トシはすぐそうやっていかるんを庇うんだな~。もしかして、お年頃?」


「………………」


 からかうような勇の口調に、歳三の眉がピクリと跳ね上がる。


 そして右手が懐に入る。


「うわわわ! 冗談冗談! だから懐に手を入れるのはやめよう! な!?」


「………………」


 たとえ局長が相手であろうとツッコミに容赦がない歳三であった。


 放っておけばいつもの投擲用短刀が取り出されたに違いない。


「これでもそれなりの利用価値はあるんだ。今潰されるのは困る」


「待て待て待て待て! その言い方は俺が悲しい! すごく悲しいぞ! なんだよ利用価値って!」


「役に立っているという意味だが?」


「だったら最初からそう言えよ! 利用価値ってすっげー聞こえが悪いぞ!」


「わざとだがな」


「確信犯!」


 悪意たっぷりの笑みを浮かべる歳三に対して、がっくりとうなだれる斑鳩。


 扱いが酷いのは相変わらずだが、歳三がこんな風に悪戯心を発揮するのは自分だけだという事も知っている。


 なので実際のところ、そこまで悪い気はしていない斑鳩なのだった。


「相変わらず仲がいいなあ、君たちは」


 そんな二人のやり取りを微笑ましそうに見守る勇。


「気のせいだ」


「俺が一方的に虐められてるんだ」


 答えたのは二人同時だった。


「………………」


「………………」


 歳三と斑鳩の間に火花が散る。


「誰が虐めてるって?」


「それで虐めてないつもりなら相当にタチの悪いドSってことになるぞ」


「………………」


 むう、と黙り込んでしまう歳三。


 それなりに自覚はあるらしい。


 自覚があればいいってものでもないとは思うが。


「まあまあ。これでトシは甘えてるつもりなんだよきっと。どーんと受け止めてやるのが男の甲斐性ってもんだろ?」


「なっ……!」


 勇の暴言にお茶を吹き出しかける歳三。


 それはとんでもない言いがかりをつけられたからではなく、図星だったからでもない。


 その言葉によって、自分は斑鳩に甘えていたのだということを自覚させられてしまったからだ。


「な、なななな……!」


「トシ?」


 真っ赤になって『ななな』を繰り返す歳三の顔を、不思議そうに斑鳩が覗き込む。


「おーい。大丈夫かぁ~?」


「っ! だあああっっ!!」


「ぐはっ!?」


 心配している斑鳩の顎に歳三の右アッパーが命中した。


 二十センチほど浮き上がってから倒れ込む斑鳩。


「な、何すんだよ!」


 心配して覗き込んだのにいきなり顎を殴られれば斑鳩でなくとも怒るだろう。


「む、いや……その……いきなり変な顔が前にあったからびっくりして……」


「変な顔!?」


 言いわけしていても斑鳩への酷い扱いは忘れない歳三だった。


「まあまあ。ちょっと乱暴かもしれないがこれはこれでひねくれた愛情表現ってことで大目に見てやってくれ。トシだってこういうのは初めての経験だからどうしていいか分からないだろうし」


「い、勇!」


「おっと。ぶん殴られないうちに私も逃げるかな。じゃああとはよろしくやってくれ~」


 勇に掴みかかろうとした歳三の手をひょいとかわして、そのまま代金を置いて立ち去ってしまう。


 あとに残されたのは振り上げた拳のぶつける先をなくした歳三と、殴られ損じゃないかと首をかしげる斑鳩だけだった。


「………………」


「……トシ?」


 いまだに動揺から回復できない歳三は斑鳩を無視して団子をひたすら食べている。


 もくもくもくもくもくもく。


 一本、二本、三本、四本、五本…………


 十本目あたりに差し掛かったところで、さすがの斑鳩も止めに入った。


「それくらいにしとけよ。太るぞ」


「……何か言ったか?」


「……ごめんなさい」


 半眼で睨まれた斑鳩は素直に謝るしかなかった。


 こうなったらもう、歳三の気が済むまで黙って見守るしかなかった。



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