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天牙の混血 02

「よ……容赦ねぇ……」


 その様子を震えながら見つめる斑鳩。


「………………」


 一も苦りきった表情で総司を見ている。


「いいか、総司。お前は確かに天才だがまだまだ子供であることに変わりはない。少し気分が高揚しただけであのバーサーカーぶりだ。今回は斑鳩だったからよかったようなものの、ほかの奴なら間違いなく殺していたぞ。実戦以外での真剣の使用はなるべく控えろ」


「って、俺はいいのかよ!」


 さりげに自分の扱いが酷いことに気付いた斑鳩は反射的に抗議してしまっていた。


「斑鳩は自業自得だ。前に言ったはずだぞ、組長達には極力関わるなと」


「う……」


 じろりとひと睨みされただけで縮んでしまう斑鳩。


 このあたりが戦闘能力以外での明確な力関係を示している。


「じゃ、じゃあ木刀ならいい!? 木刀でならいっきーと試合してもいい!?」


「いや、だから木刀であっても総司が本気になれば、斑鳩はうっかり天牙の民の姿を開放しかねないからまずいんだ。今回だって場所があそこでなければ人間たちにまでその姿を見られていたかもしれないんだぞ」


「う……それは、反省してるけど……」


「猛省しろ」


「あうう……」


 さらに泣き出してしまった総司を見て、さすがの歳三も表情を和らげてからその頭を撫でた。


「総司。お前は確かに強い。だがそれはまだ危うい強さだ。今のお前は自分の力を使いこなせていない。ただ力に振り回されているだけだ。だからこそ、きちんと自分の強さを自覚して、自制しなければならない。そうでなければいつかきっと、斬りたくないものまで斬ってしまうことになる」


「とっしー……」


「私の言っていることが分かるか?」


「ごめん。まだよく分かんない。手加減しろってこと?」


「……まあ、今はまだその理解でいい」


 子供にはまだ難しい話だったらしく、総司は困惑顔で首をかしげている。


 歳三としてもこんな子供を戦場に出していることに対して罪悪感がないわけではない。


 本来ならばまだ、刀の切れ味も、血の匂いも、殺人の意味も知らずに済むはずの年齢なのだ。


 総司が一定のテンションを超えるとバーサーカー化してしまうのはある種の精神防御だと歳三は思っている。


 そんな風にしてしまったのは自分のせいだとも思っている。


 もう、無邪気な子供に戻してやる事は出来ない。


 それでも、出来るだけ笑っていて欲しいと願うことは許されるだろうか。


 幸せでいて欲しいと望むことは傲慢だろうか。


 歳三は総司に対して、常にそんなことを思っている。


「とっしー。ごめんなさい。でもね、ぼくは強くなりたいよ。もっともっと強くなりたい。とっしーがぼくの事を心配してくれてるのはなんとなく分かるけど、でもいつか強くなって心配かけたくないって思ってるんだ」


「ああ。分かってる」


「だからね、木刀で、誰もいない場所でならいっきーと戦ってもいい? ぼくはいっきーと戦ったらもっともっと強くなれる気がするんだ」


「………………」


 それは多分、正解だ。


 新撰組の中で総司と拮抗する実力の持ち主は、近藤勇と土方歳三、そして斑鳩しかいない。


 しかし勇と歳三は気軽に訓練に付き合えるほど暇ではない。


 だからといって自分よりも弱い相手に手加減しながら戦っているのでは総司の成長は見込めない。


 総司は自分なりに答えを見つけようとしている。


 強くなりたい。


 それは歳三が望んだ強さではないのかもしれない。


 それでもいつか自分でたどり着くのだと信じることができる。


 道は一つではないのだから。


「……斑鳩」


「?」


 歳三はある種の期待を込めて斑鳩を振り返った。


「斑鳩は、どうなんだ?」


「え?」


「総司とこれから先も戦いたいか?」


「う……」


 そう問われると斑鳩としては顔をしかめるしかなくなる。


 斑鳩の戦闘能力は一流だが、斑鳩自身は別段戦いが好きという訳ではない。


 斑鳩にとっての戦闘能力は生きるための手段であり、生き残るための技術だ。


 木刀相手とはいえ一歩間違えば命を落としかねないような訓練を定期的にと言われると、さすがに尻込みしてしまうのは責められることではないだろう。


「正直、遠慮したい。でもトシが命令するならやる」


「いや……さすがに強制は出来ない。本当に命がけになるだろうからな」


 強制するなら従う、とでも思われたのだろう。


 そんな歳三を見て斑鳩が苦笑した。


「そうじゃなくってさ。頼ってくれるなら、応えたいって意味だよ」


「………………」


 斑鳩は自分がどれだけ無力な存在なのか、ちゃんと自覚している。


 自分が土方歳三の力になれることなど、ほとんどないのだと理解している。


 だからこそ歳三が自分を頼ってくれるのなら、たとえ命がけであろうと応えたいと思っている。


 歳三が願う総司の未来。


 その成長の手助けをしたいと。


「……頼めるか?」


「頼まれた!」


 何を期待されているのかを悟った歳三は、若干上目づかいでそんな風に言った。


 その効果は覿面だったようで、斑鳩は満面の笑顔で答えた。


「わーい! これからよろしくね、いっきー!」


 自分の要求が通った途端、総司は斑鳩に飛びついた。


「うわあっ!」


 いきなりの体当たりに総司の体重を支えきれずに、そのまま畳に倒れ込んでしまう。


 傍から見ると総司が斑鳩を押し倒しているという、ロリ攻め的な光景になってしまっているのがなんとも素敵な感じだった。


 その後、一と歳三に引きはがされた総司は、女の子が軽々しく男に抱きつくものじゃない、などという恥じらいとかその辺りの事を一時間ほどたっぷりと説教されてしまうのだった。


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