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天牙の混血 01

「………………」


「………………」


「………………」


 歳三の執務室で三人そろって正座をさせられている斑鳩達。


 左から総司、一、斑鳩の並びだ。


 それぞれに鬼副長の強烈な鉄拳制裁を食らった後なので、その表情は苦痛に耐えるものになっている。


「うにゅ~……」


 総司はたんこぶの出来た頭部を押さえながら涙目でうなっている。


「………………」


 一はそもそも歳三に制裁を食らったという事実そのものがショックだったらしく、痛みに耐える以上に精神的に凹んでいるようだ。


「あはは……はは……」


 そして斑鳩は乾いた笑いを浮かべている。


 鉄拳制裁そのものは普段の過激ツッコミで慣れているので大したことないのだが、如何せん三人の正面に仁王立ちしている歳三の姿が怖すぎる。


「いやさ……ほら、不可抗力、みたいな?」


 とりあえずそんな風に言い訳をしてみるのだが、歳三の表情は眉一つ動かないままだ。


 動かざること鬼の如し、みたいな。


「………………」


 そんな斑鳩達を見て歳三は盛大なため息をつく。


「まあバレてしまったものは仕方がない。もちろんこの件は他言無用だ。分かるな?」


 歳三は総司と一を見据えながら言う。


「それは、もちろん分かっています」


 一は歳三の顔を見上げて頷いた。余計な事情を詮索しないのはさすがだ。


「うう~。内緒なのはいいけど訳が分からないよ~。なんでいっきーがあんなことになってるの? 男の天牙の民なんて聞いたことないよ」


 そしてそのあたりの空気を読まない総司だけが不満そうに頬を膨らませる。


「いや、それはさ……」


 総司の疑問に斑鳩が答えようとするのだが、


「うがっ!」


 その前に歳三の踵が斑鳩の頭部に直撃した。


「ぐおおおお……」


 手加減抜きの踵落としだったため、さすがの斑鳩も畳の上で悶絶している。今にも転がりだしそうなくらいの悶絶具合だ。


「詳しい事情は話せない。ただ一つ言えることは斑鳩は人間と天牙の民との混血だ。だから男として生まれる場合もあるという事だ」


「混血……」


 一が斑鳩を見つめながら呟く。


 人間との交わりが禁じられていることは、若い世代の一でも知っている。


 つまりは過去にその禁を破った同胞がいるということだ。


 しかし歳三よりも若い世代、つまりは勇以外の組長たちはその事実を知らない。


 この西本巌寺内で芹沢鶫の罪を知る人間は、今となっては近藤勇と土方歳三、そして山崎烝のみだ。


 長老衆は狼奉山にこもったままなので、斑鳩の存在が漏れる心配はない。


 一や総司達若い世代は、自分たちをかつて率いてくれた芹沢鴨が混血だったことすら知らないままだ。


「とにかく、私が斑鳩をここに置いているのはそういう事情だ。混血とはいえ同胞を見捨てることはできない。それは天牙の民として最低限守るべき不文律だと思っている」


 本当は仲間である以上に鴨との約束があるからなのだが、そこまでの事情を話すわけにもいかないし、話す気もない。


 鴨との約束は歳三にとって本当に大切なものだから。


 彼女を救えなかった歳三が命に代えても守ると誓ったものだから。


「とにかく、斑鳩は今後こいつらの訓練に付き合うことは禁止する」


「え~っ!!??」


 真っ先に不満を現したのはもちろん総司の方だった。


 斑鳩とのやりとりがよっぽど刺激的だったのだろう。


 十四歳という若さで組長を務めるだけあって、総司は新撰組内で天才剣士などと呼ばれている。


 沖田総司を正面から敗北させられるのは新撰組の中でも土方歳三のみだ。


 その歳三ですら二年後には自分を追い抜くだろうという確信がある。


「特に! 総司との訓練は絶対に禁止だ」


「がーんっ!!」


 さらに自分にだけ釘を刺された総司は顎が外れそうなほどに大口てショックの度合いを示してきた。


「なんで!? なんでぼくだけ!?」


 再び涙目になって歳三に訴える総司。


 その反応を見て歳三の眉がぴくりと跳ね上がる。


 うわ、やべえなこれ! と斑鳩が察した時には既に遅かった。


 歳三はすばやく総司の後ろに回り込んで両の拳で小さな頭を挟み込んだ。


「んぎゃ!?」


 そのまま圧力をかけてぐりぐりと動かしていく。


 いわゆるウメボシというやつだ。


「お・ま・え・が! 暴走するたびにこいつの正体がバレたらたまったもんじゃないんだよ!!」


 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり!


「あいたたたた!! とっしー! 痛い痛い痛い痛いいーたーいーっ!!」


 涙目というよりも、すでに号泣しながらやめてくれるように訴える総司。


 しかし歳三のぐりぐりは止まらない。


 むしろその圧力を増していく。


「あうううう!! いたいたいたいたいたたたたたーーーーっ!! ごめんなさいごめんなさいごーめーんーなーさーいー!! もう許してえぇぇぇぇっ!!!!」


 訴えが懇願に変わったころ、ようやく歳三は総司の頭から両拳を離した。


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