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ロリ萌えバーサーカー!

「はじめちゃん! そろそろ見回りの時間だよ~!」


「……ああ」


 やってきたのは一番組長沖田総司だった。


 ショートヘアのハチマキ姿で、くりくりした瞳をこちらに向けてくる。


「あれ? いっきーだ!」


「よ、よお。総司だっけ?」


「そうだよ~! 覚えててくれたんだぁ」


 嬉しそうに斑鳩へと抱きつく総司。


「?」


 よく分からないまま総司を受け止める斑鳩。


「総司。あまりそいつに近づくな」


 そんな総司を見て不快そうに窘める一。 


「え~? なんで? いっきーいい人だよ。ちゃんとぼくの名前覚えててくれたし」


 斑鳩の首にぶらさがりながら言い返す総司。


 その様は甘えてくる子供そのものだった。


 見た目も随分と若く見えるし、本当にまだ子供なのかもしれない。


「ちなみに総司って今いくつなんだ?」


 なんとなく興味本位で聞いてみた。


「十四だよ~」


「十四!?」


「うん」


 信じられない、という表情で総司を見る斑鳩。


 もちろん外見は年相応というか、まんま子供だ。


 だが仮にも組長、つまり幹部をこんな子供にやらせているのは一体どういう了見なのか。


 新撰組の組長を務めるということは、殺し合いの世界に足を踏み入れているということだ。


 こんな小さな女の子が、自ら先陣を切って敵を殺す立場にあるということだ。


「あ~! その目! ぼくが子どもだからって馬鹿にしてるでしょ!?」


「い、いや……そういう訳じゃないんだが……」


 馬鹿にしているのではなく不憫に思っていただけなのだが、まだ若い総司にはそれが馬鹿にされたと感じてしまったらしい。


「ぼくはこれでもとっても強いんだからね!」


 斑鳩から降りてえっへんと無い胸を張る総司。


「そうなんだ」


「そうなのだ~!」


 とてもそうは見えないが、本人がそう言うのならきっとそうなのだろう。それにあの歳三が組長に据えているのだから実力者であることは間違いないと思う。


「そういえばいっきーとはじめちゃんはここで何してたの?」


「あ~、いや、その……」


 無邪気な瞳で見上げてくる総司に対して、訓練もどきの殺し合いみたいなものを繰り広げていたとは言いづらい斑鳩だった。


「ただの訓練だ」


「………………」


 しかし一はそれを訓練と言い切った。


 何一つ悪びれることなく、真っ先に急所を狙って斑鳩を亡き者にしようとしたことなどまるでなかったかのような自然さで。


「え? はじめちゃんいっきーと遊んでたの? いいなあいいなあ!」


「遊んでねえっ!」


 あれを遊んでいたといわれるのは甚だ心外な斑鳩だった。


「いっきー。ぼくとも遊んで!」


「は?」


「ずるいずるいずるいずるい! この前はさのっちと遊んで今度ははじめちゃんとじゃん! ぼくとも遊んでくれなきゃ不公平だよ!」


「……さのっち?」


 どうやら左之助の事らしいが、あまりにも合わない呼び名に若干顔を引きつらせる斑鳩だった。


「……見回りの時間だろう?」


 一が口を挟むが、総司はほほを膨らませたままだ。


「やだやだ! まだ時間あるもん! 遊ぼうよいっきー!」


「いや……俺は……」


 遊んでいたわけではないと主張したいのだが、総司の無邪気な上目遣いの瞳がそれを邪魔してしまう。


「殺すつもりでかかってもいいらしいぞ、総司」


「うわ! ここでそういう事を言うかこいつは!」


 無口キャラ設定はどうした!?


 口を開けば物騒なことしか言わない設定なのか!?


「ほんと!?」


 ぱあっと顔を輝かせる総司。


「ちょっと待て! 殺すつもりでいいと言われて喜ぶな!」


「いっきー強いってさのっち言ってたし、じゃあ手加減抜きでいいよね!?」


「よくねえ!」


「いっくよ~!」


「くんな!」


 斑鳩がとめる間もなく、総司は腰に差した剣を抜いて向かってくる。


「うわあっ! だからやめろって!」


 とっさに総司の剣を受け止める斑鳩。


「うわあ! すごい! ぼくの剣を片手で受け止めるなんてとっしーといさみゃー以外じゃ初めてだよ!」


 攻撃を防がれたにもかかわらず、うれしそうに表情を輝かせる総司。


 それは新しい遊び相手を見つけた子供そのものの表情だった。


「剣振り回しながら喜ぶな! つーかいさみゃーって誰だ!?」


 まさか近藤局長のことではあるまいな!? などと冷や汗を流しながらも、確かにあの猫馬鹿にはぴったりな呼び方かもしれないと納得してみたりもする。


「じゃあこっちはどーかな~?」


 総司はいったん斑鳩から離れて刺突の構えを取る。


「いっ!?」


「せーのっ!」


 総司はそのまま三段突きを繰り出してきた。


 三回、突きを繰り出しているにも関わらずすべて同時に出されたようにしか見えなかった。


「!!」


 短刀では捌ききれないと判断した斑鳩はギリギリで突きを避け切ってから、総司の懐に入り込んでそのまま小柄な体を蹴り上げた。


「くはっ!」


 重力に逆らって蹴り上げられた総司の体は、いったん宙を舞ってから地面に叩き付けられた。


「ぐあ……すまん。つい手加減できなかった……」


 蹴り上げてからしまったと後悔した斑鳩は総司に駆け寄る。


「………………」


 総司はうつぶせに倒れたまま、ピクリとも動かない。


「総司? おい、大丈夫か?」


 気絶させてしまっただろうか、と心配になって総司に触れようとするが、


「っ!?」


 強烈な悪寒を感じて慌ててその手を引っ込める。


「正しい判断だ」


 後ろから冷静な一の声が聞こえる。


 正しい判断とはいったいどういう意味なのか。


 その意味を考える前に、体で理解する。


「くっ!」


 倒れたまま横一線に薙ぎ払われた剣を後方に飛ぶことで避け、短刀を両手に構える。


 斑鳩の戦闘本能が全力で対処しろと訴えてくる。


「………………」


 総司は何もしゃべらないまま、どこか恍惚とした表情で向かってくる。


 さっきまでの無邪気な子供ではなく、誰彼構わず攻撃しまくる狂戦士のごとく。

 

「おい! 総司!?」


 繰り出される剣戟を必死で捌きながら、総司に呼びかける。しかし総司は何の反応もしない。ひたすらに攻撃を繰り返す。まるでそれしか知らない殺人機械のように。


 さらには剣だけでなく体術まで駆使して攻撃してくる。


「くっ!」


 強い。


 自分の体の使い方を熟知している。


 かろうじて防げているのは試行して体を動かしているからではなく、無意識で攻撃しているからだろう。


 人間ではなくケモノの動き。


 少なくとも今の総司は正気じゃない。


 しかしだからこそ防ぐことが出来ている。


 一手先二手先を読むことができる。


 この調子で攻撃を防いで、隙を見て今度こそ総司を気絶させる。


 そう決めて総司の動きを凝視していると、


「……って、待て待て! それはいくらなんでもまずい!」


 総司の体が赤い光を帯びたかと思うと、耳と尻尾が生えた。


 天牙の民としての本性。


 全力を出せる本来の姿。


「アハハハハハハハハハハハハ!!」


「うわあ……言葉が通じる状態じゃねえ……」


 さてどうするか。


 攻撃力は先ほどと比べ物にならないほど上がっている。


 剣戟を受け止める腕が、回数を重ねるたびに痺れてきている。


 このままではいずれ限界が来てしまう。


「っ! しまった!」


 総司の剣を両手の短刀で防いでいる状態で、鳩尾への蹴りが繰り出された。


「ぐっ……はっ……!!」


 朝に食べたものを吐き出しそうになりながら、歯を食いしばってこらえる。


「くっそ……っ!」


 総司の剣を力ずくで叩き落としてから、気絶させようと首の背後を狙う。


 しかしそのまま体を反転させた総司の裏拳が斑鳩の脇腹・・に入る。


「あ……ぐ……!!」


 耐えられない痛みではない。


 しかしよりにもよって脇腹というのが不味い。


 攻撃を受けた斑鳩の核石が、自らの身を守るべく本人の意志を無視して発動する。


「やば……」


 頭部と臀部に違和感を憶えたときにはすでに遅かった。


「………………」


「………………」


「………………」


 核石の力を受けて総司も落ち着きを取り戻したのか、唖然とした瞳で斑鳩を見ている。


 正確には斑鳩の耳と尻尾を。


 様子見に徹していた一も信じられない、というような目を斑鳩に向けている。


 そして二人の視線を釘づけにしてしまった張本人は、


「あ、あはは……あはははは……」


 とりあえず気休め程度に両手で頭部の耳を隠してみるのだが、もちろんそんなことで誤魔化せるような問題でもなかった。


 いかにしてこの気まずい空気&激まずい状況を打破するか。


 滝のような冷や汗を流しつづけながら、斑鳩は考え続ける。


 しかし考える必要はなかった。


 いや、なくなった・・・・・と言うべきか。


「ひっ……!」


「う……!!」


 斑鳩の前で震え上がる総司と一の姿を見た瞬間に、状況がすべて理解できてしまった。


「あー……すまん……」


 背後から感じるとてつもない威圧感。


 それは紛れもなく新撰組鬼副長、土方歳三のものだった。


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