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炎の出逢い 02

「はっ……はっ……!」


 歳三は響都の街を走る。


 ここまで大きな区画をこんな短時間で火の海にするという事は、下手人は複数。そして同一組織。任務に忠実で連携が取れているのは間違いない。


 なので歳三はまず違和感のある気配と臭いを捜していた。響都の華やかな雰囲気にそぐわない、異端の臭い。闇に生きる、闇の中でこそ生きられる、自分たちと同じ存在を。



「っ!」


 数百メートル先から剣戟の音が届いた。


 普通の人間には聞こえるはずのない、かすかな音。


 だが天牙てんがの民という、人間とは違う種族である歳三には、確かにその音が届いた。


 火の海の中での剣戟。間違いなく敵と戦っている音だ。戦っているのが左之助と一なのか、それとも他の響都守護職の剣士なのかどうかは分からない。

 

 だが歳三の仕事が下手人の捕獲もしくは殺害である以上、無視するわけにはいかない。


 歳三は走る速度を更に上げて、剣戟の現場へと向かった。



左之さの! はじめ!」


 現場に向かった歳三が目にしたのは、やはり原田左之助はらださのすけ斉藤一さいとうはじめだった。


 二人は黒装束の敵と戦っている。


「土方さん!」


 長槍で黒装束二人を弾き飛ばした大柄な女性、原田左之助は、歳三の姿を見るなり表情を明るくした。


「………………」


 左之助とは対照的な小柄な少女である一の方も、黒装束一人を刀で抑えつつ蹴り飛ばしてから歳三の方を見て頷いた。


 黒装束の敵はざっと十人はいた。その程度の人数ならば左之助と一の二人ならどうという事もないはずだが、苦戦しているところを見ると、やはり一人一人が大した手練れらしい。歳三自身も黒装束から感じる威圧感で、強さの程を感じ取る。


「二人とも無事で何よりだ!」


 そして考えるよりも先に刀を抜いて動いた。


 神速一刀。


 左之助達の視界からあっという間に消えたかと思うと、歳三は黒装束の一人を斬り伏せていた。あっさりと仲間をやられた黒装束達は、それでも取り乱さず、瞬時に最善の行動を取った。残りの九人で歳三へと斬りかかったのだ。


 円で囲む様に九方からの刺突。


 逃げ道はなく、どこを防いでも必ず誰かの刀が歳三を貫く。


「甘いっ!」


 しかし歳三は真上に跳躍することで刃を逃れた。そのまま懐から短刀を二本取り出し、黒装束二人の喉元へと投擲する。着地と同時に勢いよく振り返り襲いかかる四本の刀を力業だけで弾き飛ばした。その内の二人は大振りの刃を腹に受けて倒れる。


 完璧だが単純な連携。わずかな乱れが大きな隙に繋がる。


 数秒で半数近く減らされた黒装束達はさすがに動揺しているらしく、歳三から逃げるように後ずさっている。もちろんそんな隙を歳三が逃すはずもなく、そのまま流れる様な動きで三人を絶命させる。


「土方さん、やっぱりすごいな……」


 すっかり見せ場を奪われた左之助は長槍を構えたまま、唖然とする。歳三の強さは知っていても、改めて目にするとやはり驚きの方が大きくなってしまう。


「………………」


 一も剣を構えたままこくりと頷く。必要なこと以外は滅多に喋らない少女だ。しかしその内心ではきっと歳三を讃えているに違いない。新撰組の中でも特に歳三に敬意を払っているのがこの斉藤一なのだ。


 二人とも歳三に加勢しなければならないことは分かっているのだが、下手に手を出せば歳三の剣の巻き添えになってしまうので、大人しくするしかなかった。


「せめて逃げ道を塞ぐくらいの役には立たないとな。加勢に来てくれた土方さんに申し訳ない」


「………………」


 黒装束達は劣勢を悟って撤退の空気になっている。残り三人。バラバラに逃げられたら歳三一人では追い切れない。左之助達が苦戦していたのはもちろん、一人一人が手練れだったせいもあるのだが、手練れの上に一対多数だったのが大きい。


 残りの黒装束は三人。こちらも三人。ならば一人たりとも逃してはならない。


 左之助と一は左右に広がっている黒装束達を逃がさない様に囲んだ。


 最低でも一人は生かして捕えたいところだ。


 これだけの事を響都守護職の警戒を出し抜いて成し遂げてしまうような組織なのだから、断じて放置はできない。


 二人は殺す。そして残り一人は生け捕りに。そう決意して三人が包囲を狭めていくと、


「土方さん!」


 燃え上がる建物の上、炎の向こうから新たな黒装束が歳三に襲い掛かってきた。真っ先に気付いた一が歳三に危機を知らせるべく声を張り上げる。


「くっ、このっ!」


 炎の向こうから現れた黒装束の短刀をかろうじて受けながら、歳三は冷や汗を流す。


 まったく気配を感じなかった。たまたま視認で気づいた一の声がなければ、深手を負っていたところだろう。


「…………」


 新手の黒装束は右手の短刀のみで歳三を抑え込んでいる。純粋な力のみで、新撰組随一の使い手である歳三を。


「土方さん!」


「来るな! 私なら大丈夫だ! それよりも残りの奴らを逃がさないようにしろ!」


 咄嗟に加勢に入ろうとした左之助たちを牽制し、歳三は黒装束の剣を弾く。そして今度は自分の番だとばかりに攻め込んだ。


 不意を突かれたとは言え、歳三も剣士としては超一流だ。本気で攻めに回れば倒せない敵など滅多にいない。


 舞うような美しい剣戟を繰り広げる歳三。無駄な動きを一切しないからこその美しさ。相手を屠ることのみを、相手を追い詰めることのみを追求した剣技がそこにはあった。


「…………」


 歳三の剣技に黒装束が若干押されている。だが、それでも決定打にはならない。


「…………」


 歳三の刀を受け流しながら、黒装束は仲間に三本のくないを投げつけた。


 そのくないにはそれぞれ呪符が巻きつけてあった。


「っ! まずい! 左之、一! そこから離れろ!」


 呪符の正体を看破した歳三が、左之助と一に退避命令を出す。残りの黒装束を追い詰めていた左之助と一は、瞬時に反応して後方へと跳んだ。


 次の瞬間、二人がいた場所を含めた黒装束たちの周り青白い光で包まれ、そのまま消失した。


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